swordian saga   作:佐谷莢

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 続・ダリルシェイドin王城中庭。腕試しは続きます。
 平和ボケ中(偏見)の軍人なんぞに遅れを取ってたまるかと、内心で勢い込んでいますが、はてさて。


第二十夜——エンカウント、スペシャルエンカウント!

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まあいい。許可しよう」

 

 苦虫を噛み潰したかのような国王の許可を受け、ルウェイン、アスクスを除いた七将軍がフィオレと対峙する。

 彼らにとっては、侮られたという印象なのだろう。しかし当のフィオレに、そういった他意はない。

 単純な話、一対一でずるずると続けられては、フィオレの体力が続かないだけである。

 この後はおそらく、大将軍との試合が控えているのだ。彼の体捌きだけきちんとは見ていないフィオレにしてみれば、無駄な体力は使わず、なるべく万全の状態で挑みたい。

 アスクスをあれだけ簡単に撃破できたのには、当然理由がある。

 演習場で戦い方を見たというのが一番大きいが、このところ平和だから……すなわち将軍たちが実戦に出るような非常事態がない。

 こと戦闘に対して勘が鈍っている、なまっている状態だからあそこまで簡単だったのではないかと考えている。

 その点に関しては、他の将軍とて同じだ。個々のクセはあっても、差異はない。問題は、大将軍と誉れ高いフィンレイ将軍だ。大将軍と言われるくらいなのだから、一筋縄ではいかないだろう。

 ともかく、彼のもとへたどり着くには、この五人をまず撃破せねばならない。

 その上で、確認するべき事柄があった。モップの長柄をその場に落とし、視線を動かす。

 その先にいるのは──

 

「その前に、ミライナ将軍にお尋ねしたいことがあります」

「……私に?」

 

 いきなり名指しされ、困惑する彼女にかまうことなく。フィオレは無手を示してずんずんと歩み寄った。

 

「はい。とても重要なことなんです、正直にお答えいただきたいのですが」

 

 彼女の眼前に立ち、「失礼」と一言声をかけてその耳元で質問事項を囁く。

 その瞬間、ミライナ将軍は柳眉を逆立て、頬を真っ赤に染めてフィオレを怒鳴りつけた。

 

「ぶ、無礼者! 私を侮辱するか!」

「私は大真面目です。答えないことを答えと受け取ってもよろしいですか?」

「そんなわけがなかろう!」

 

 憤然と肩をそびやかす将軍の答えに満足したらしく、フィオレはきびすを返してモップを落とした位置まで戻っていく。

 長柄を拾い上げる彼女に、リーン将軍が興味津々、声をかけた。

 

「一体何を聞いたんだい?」

「ああ、それは「言わなくてよろしい! そなたも女なら恥じらいを知れ!」

「……ミライナ将軍のご意向に従います」

 

 答えようとして、噛みつくように怒鳴るミライナ将軍の言葉にかき消される。

 澄ました顔でしれっと黙秘を告げれば、リーン将軍は「ちぇ」とさして残念でもなさそうな顔で引き抜いた剣を構えた。

 

「でもさあ、聞かれた内容によっては相手の出方がわかるじゃないか。わざと卑猥な質問してミライナちゃんを集中させまいと……」

「私はお腹の中に誰かいないか尋ねただけです」

 

 問答無用の殺し合いならともかく、ただの腕試しで胎児を害するのはいただけない。

 単なるフィオレの杞憂で終わったからよかった。遠慮をする必要はない。

 

「では、各々準備はよろしいな? ──始め」

「はぁっ!」

 

 号令が出された途端、ミライナ将軍は鋭い気合と共に細剣(レイピア)を繰り出した。

 彼女は瞬発力に秀でているという。確かに、それさえ見切られなければ先手を取って攻め込むことができるのだから、今この場においても生かさない手はないだろう。

 だが。

 鋭い音を立てて、細剣の切っ先が長柄の金具──モップの留め金で弾かれた。

 瞬発力ならばフィオレとて自信がある。それに伴う動体視力も、咄嗟の判断も。

 でなければ、リオンの剣技を片手であしらうなど、できることではない。

 

「くっ──」

 

 遅い。

 慌てて引こうとするミライナ将軍に合わせて一歩踏み込み、真ん中を掴んだモップの長柄を旋回させ、すり抜け様、後頭部に一撃見舞う。

 瞬発力というか、この場合は機先を制するやり方か。そういった戦法を得意とする者はえてして打たれ弱いものだが、彼女も例には漏れていないらしい。

 声も無く昏倒したミライナ将軍を省みることなく、左右同時攻撃を仕掛けてきたアシュレイ、リーン両将軍の両脇をくぐるように駆け抜けることで回避した。

 紫電や懐刀ならともかく、モップの木製長柄で真剣の一撃は受けられない。

 後ろに控えていたイスアード将軍が、驚愕に目を見開いているのがわかる。速度を緩めぬまま接敵し、右袈裟に打ちかかると見せかけて、左下からはね上げた。

 その際は、持ち手を長柄の真ん中から少しずらすことを忘れてはいけない。でなければ、一撃に十分な威力が備わらないのだ。持ち手を長柄の真ん中に持つ意味はもちろん、重力分散による速度強化にある。

 すくいあげるように放った一撃は、イスアード将軍の右手首に直撃し、彼は小さく呻いて得物を取り落とした。

 今度こそ右袈裟の一撃が将軍の首筋に叩き込まれ、あえなく彼もその場に伏している。

 ヒューゥ、と軽い口笛が飛んだ。

 

「やるねえ、お嬢ちゃん!」

「お褒めの言葉とお受け取りしましょう」

 

 真後ろからきた囃子声に惑わされず、その場から離脱して初めて己の背後だった場所を見る。

 気配の在り様そのまま、二人はそれぞれ正反対の位置へ移動していた。

 あのままフィオレがリーン将軍の言葉だけに反応していたら、背後から一発入れられていたに違いない。

 

「覚悟!」

 

 フィオレが動くのをやめて戦場を見渡した途端、ドライデン将軍が横合いから切りかかってくる。それを避けたフィオレは、しばしその場所で回避に徹した。

 逃げようと思えば逃げられるが、それでは鬼ごっこが続くだけ。あまり体力を無駄にしたくないフィオレにとって、この状況における最良の戦法は……同士討ちを狙うことだ。

 足を止めてドライデンの攻撃から、のらくらと逃げるフィオレに気付かれぬようにか、将軍二人はじりじりと間合いを詰めてくる。

 一応フィオレの死角にいるのだが、気配を消していないので、あまり意味は無い。むしろ、罠に誘うにはちょうどいい。

 

「俺は左から行くぜ」

「僕は右から……」

 

 そんな会話まで丸聞こえである。

 二人が中庭の芝生を蹴って、フィオレに仕掛けようとした、そのとき。

 それまで一貫してドライデン将軍の剣から逃げていたフィオレは、一瞬の隙をついてその背中へと回り込んだ。

 

「な!?」

「うお、じいさん避けろ!」

「危ない!」

 

 残念なことにドライデンは回避に成功しており、同士討ちで彼がリタイアすることはなかった。しかし、好機であることには変わらない。

 そのまま突っ込んできた二人のうち、より体勢が崩れていたリーン将軍の脳天に、大上段からの振り下ろしを見舞う。

 木っ端が頭蓋を殴打する、鈍い音が響いた。

 

「ガッ!」

 

 直撃を受けて芝生に沈むリーン将軍を踏み越え、そのままアシュレイ将軍に接敵。勢いを殺さず、刺突の連打を将軍に浴びせる。

 

「うくっ……」

 

 不意のことで受け損ね、一打がまともに入ったところで手首を打ち払った。アシュレイの剣がすっぽ抜け、高々と宙を舞う。

 剣が滞空している最中に、がらあきの鳩尾へ長柄の先端を容赦なく押し込まれ、彼も戦闘不能の憂き目となった。

 まるで降参するかのように、弾かれたアシュレイの剣は芝生に突き立つことなく、転がっている。

 残るはただ一人。

 フィオレの視線の先には、ドライデン将軍が覚悟を決めたような目で、彼女を睨み返している。

 しばしの睨み合い、互いに足を踏み出しかねて──ほぼ同時に、相手に向かって走り出した。

 

「ぬおぉっ!」

 

 剣を振りかぶられる。角度からして、肩口に切りかかるようなその一撃。

 その所作を見て、フィオレは剣の間合いぎりぎりで停止した。

 

「なっ!?」

 

 盛大に剣が空振ったところで、悠々と顎を打ち抜く。

 奇しくもアスクスと同じ形で倒れたドライデン将軍を見下ろし、フィオレは初めて深呼吸をした。

 

「そっ、そこまで!」

 

 死屍累々と倒れている七将軍の面々に、控えていた救護兵が駆け寄っていく。

 急に聴覚が戻ってきたかのように、手合わせの見物人──謁見の間にいた側近たちはもとより、通りがかった文官や貴族たちまでいる──が聞き取りにくいざわめきを発する中で、ただ一人ヒューゴ・ジルクリストが大仰な拍手をしてみせた。

 

「いかがですかな、陛下? これにて、彼女の実力は証明されたように思いますが……」

「まだ私との手合わせが残っているはずだが」

 

 今の今まで沈黙を保ち、王の傍に控えていた男が進み出る。

 七将軍たちが白を基調とした軍服を揃いでまとっているのに対し、彼は露草色に金地で縁取られた軍服を……

 

「ん?」

 

 どこかで見たようなコントラストに、首を傾げてふと視界に入ってきたリオンを見やる。

 デザインこそ違えど、二人は同じ色合いの装束に身を包んでいたことが判明した。

 いくらなんでも、大将軍と客員剣士が同じ立場ではなかろうが、同じくらい特殊な階級なのだろうと推測できる。

 

「……なんだ、人をじろじろ見て」

「いえ、別に。失礼いたしました」

 

 気を取り直して、手にしていた長柄を無造作に放り出した。

 芝生の片隅に転がるそれを拾い上げ、リオンはいぶかしげにフィオレを見やっている。

 

「……お前、本当は長柄の武器を振り回すほうが得意なんじゃないだろうな」

 

 答えは否。フィオレは槍も棍も基本的な扱いしか知らないし、技術に至ってはさわりの部分しか会得していない。

 ──あの大将軍は他の将軍らと違って、これまでのフィオレの一挙手一投足をつぶさに観察している。フィオレが姿を見せたその時から、侮るような風情もなかった。

 長柄を使ったのは、本来フィオレが扱う剣術及び体捌きを見られたくなかったが故。

 これで条件は同じ。フィオレにも大将軍にも、優位となる条件はそれぞれが元々備えているものしかない。

 そんなことをわざわざ口にする理由も無く。

 

「扱い方を知っているだけで、得手としているわけではありません。私が本来の使い手なら、皆さんそんなものでは済みませんよ」

 

 達人であれば得物自体が比べ物にならないほどの重量と化しているし、本来の衝撃も力の上乗せの仕方も、フィオレとは比べるべくもないだろう。

 従って、打たれた場所が頭であったりした日には、よくて内部の血管が破裂、最悪頭蓋骨陥没で生きているのが難しいはずだ。武器に比べて軽いモップを用いたのは、手加減することなく、彼らに後遺症が残るようなダメージを与えないためでもあった。

 そんなことをしている間にも、救護兵によって意識を取り戻した七将軍たちが中庭の隅……王やヒューゴ氏、側近たちのいるスペースへと移動していく。

 アスクスを筆頭とするであろう、刺すような視線がフィオレに集中するものの、負け犬の遠吠えに近いそれを気にするフィオレではない。

 

「さて、準備はよろしいかな?」

 

 朗らかに、しかし好奇や戦意のない交ぜになった切れ長の瞳がフィオレを射る。

 その視線を真っ向から受けて、腰の柄に片手を添える。

 

「リオン君に言ったことが事実なら、本領発揮ということか?」

「──なんとでも」

 

 フィンレイの背負っていた大剣が引き抜かれ、よく手入れされた刃が陽光を浴び、ぎらりと輝いた。

 対してフィオレはそのまま、身動きひとつしない。

 

「では、始め!」

 

 ルウェインの力のこもった号令にあわせて、先に動いたのはフィオレだった。

 芝生上を跳ねるように、細身の体が軽やかに疾走する。

 迎え撃つフィンレイの姿は、どんどん大きくなり──

 

「ふっ!」

 

 眼前で、断頭台のごとき先端の鋭い平刃が空を切る。

 直前で大剣の間合いを読んだフィオレが回避したため、不気味に空気を切り裂く音だけが過ぎていった。

 剣が流れたその一瞬、フィンレイの懐に飛び込む。そこで初めて、フィオレは音高く抜刀した。

 本来ならばわき腹を思い切り抉ってやるところ、峰打ちにする予定である。抜刀してそのまま、峰でわき腹を薙ごうとして、フィオレの動きを察知してか、大剣が思いのほか早く戻ってきた。

 襲撃を諦め、大剣を受け流そうと紫電を手元へ引き寄せる。しかし。

 

(重い!)

 

 反撃の一打は予想よりも遥かに切れが良く、そうそう受け流すことを許してはくれなかった。

 このままだと紫電が折れる。急遽懐刀を抜き、両手で完全に大剣を防ぎきってから一足飛びに間合いから飛び出した。

 

「ほぅ。変わった剣だな、色付きか」

 

 右手に紫電、左手に懐刀。双方ともに片刃の刀に属する剣であり、ダリルシェイドの一般的な武具屋に並んでいないことは確かである。

 特に紫電は、その幻想的にして特異な淡紫の輝きが衆人環視をどよめかせた。

 

「あげませんよー?」

「将軍の名にかけて強奪はせんよ。それに、私には少し軽そうだからな。安心してくれ」

 

 軽口を叩きあい、フィオレは懐刀を収めて、再びの対峙。

 次に仕掛けてきたのはフィンレイだった。力強く芝生を踏みしめ、大剣を振りかざし向かってくる。

 どういった剣技を使うのか、どういった体捌きを得意とするのか。それがわからない以上今ここで情報を仕入れようとしても無駄だ。

 腰を落として、半身になりながら紫電を握り直す。フィオレが迎え撃つ形で、両者は交錯した。

 

「絶氷刃!」

 

 凍気を振りまく大質量の一撃が降るかと思いきやフィオレはそれを軽やかに回避し、返す刀で蜂の針のように鋭い攻撃が襲いかかろうと、フィンレイはそれを幅広の大剣で防いでしまう。

 どうにか防御の隙間を見出そうとフィオレが攻勢に出るも、フィンレイの防御は固い上に巧みで、一撃たりとも通さない。

 フィンレイもまた大剣をまるで普通の剣であるかのように操るが、フィオレの体捌きは鼠のように身軽で、到底捕らえられるものではなかった。

 火花を散らして睨み合った両者の武器は、双方が同じように普通の武器ではないせいだろう。傷ついた様子は見受けられない。

 

「おおおっ!」

「っ!」

 

 無意識の気合が零れる中、両者の拮抗は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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