※チャネリングとは、常識的な通信手段では情報をやりとりできないような相手(何か高次の霊的存在・神・死者(霊界人)・宇宙人・未来人など)とコミュニケーションをすることである。
と、ウィキペディア先生はおっしゃっておりますが、原作ではその名を冠するアイテムがあり、装備させると(通常は1Pキャラクターのみ操作可能なのですが)装備キャラクターの操作が可能となる代物です。
オリジナルキャラクターは前作「The abyss of despair」五十五唱辺りから酷似した現象を起こし始めたため、今作ではこのように絡めてみました。
「うん、わからん」という方は「主人公であるオリキャラは、声帯を使用せずにソーディアンやその他人外に話しかけられる」と認識してくださいませ。
眼を白黒させて、フィオレの背中を見送ったリオンはシャルティエに視線をやった。
「……シャル。あいつに何を言ったんだ?」
『僕から見て、どうして坊ちゃんがフィオレにいきなり頭を下げたのかという推測です。推測だとは言わなかったんですけど、やっぱりバレちゃったみたいですね』
フィオレに言われた言葉を、心のうちで繰り返し、要約を試みる。
シャルティエの言葉は信じていない、ということ。覚悟しろ、ということ。準備ができたら中庭に出ろ、ということ。
フィオレの言うような、戦闘用に特別装備する武具も防具も何もないリオンは、シャルティエを剣帯に下げ、中庭に向かった。
『あ、そういえばですね。念話のことちょこっと聞きだせましたよ』
「! 本当か!?」
すれ違った
そんなことにすら気付かず、リオンは足を動かしながらも、詳細を語るようせがんだ。
『とは言っても、単なるさわりだけでしたけどね。念話というのは、チャネリング現象のことだ、と言っていました。精神同士を特殊な方法で接続し、精神感応の応用のような形で意思を交わらせることが可能になる……と言うのが彼女の弁です』
「チャネリングというのは?」
『僕が知っている限り、チャネリングっていうのはアイテムの一種です。装備者を意のままに操るとかいうものなんですけど、ひょっとしたら、それにちなんだ名前がつけられているのかもしれませんね』
「全然関係ないように思えるが……」
『それがですね。そのチャネリング現象の真骨頂は精神を交えた相手の目を借りる……相手が見ているものも自分で見れるようになったり、果ては相手の体を動かしたり、というものらしいんです』
聞けば聞くだけ、わけのわからない話である。しかし、ひとつ気がかりなことがあった。
「シャルがあいつと念話できるということは、チャネリング現象とかいうものが発生しているということになるな。シャルは大丈夫なのか? あいつに操られたりなんてことは……」
『何言ってるんですか。僕は自力で動ける身じゃないんですよ? それに、フィオレにそれができるとも限らないし』
「そうか……それで、どうやってそんな現象を起こしているんだ?」
『さあ、そればっかりは。念話とは何なのか、を教えてもらっただけですし』
「……そうか」
頼りない返答を聞き。リオンはがっくりと肩を落とした。
主の明らかな落胆を見て取って、シャルティエは慌ててフォローに走っている。
『あああっ、坊ちゃん元気出して! これから聞いていけばいいんですよ、これから!』
──二人の会話から察する通り、リオンは念話の習得を切望していた。彼個人としては、剣を教えてもらうよりそちらを優先してほしいくらいである。
シャルティエと声に出して言葉を交わさざるを得ないリオンは、それなりに人目を気にしているのかもしれない。
中庭に通じる扉から外へ出て、フィオレの姿を探す。彼女は、簡単に見つかった。なぜか芝生に座り込み、腕を組んで唸っている。
その後姿に近寄ろうとして、リオンの脳裏にシャルティエの囁きが響いた。
『ね、坊ちゃん。ちょっと脅かしてみませ──』
「先ほどのことといい、今といい。思った以上にふざけた性格をしているんですね。シャルティエ」
リオンにしか聞こえない程度の囁きを聞かれ、シャルティエは『ぎくぅ!』とわざとらしく心情を声にしている。
その声はどこか凄みを帯びていて、怒っているようにも感じ取れた。
「リオン」
その声音で名を呼ばれ、彼は多少声を震わせながらも返事をしている。
「な、なんだ」
「今から打ちかかります。避けないで、シャルティエで防御してください」
言うが否や──フィオレは立ち上がると同時にリオンへ殴りかかった。素手ではなく、長柄の何かを振り回しての攻撃である。
七将軍、及びフィンレイとの手合わせで何とか彼女の動きを目で追うことができたリオンは、がむしゃらにシャルティエを引き抜いた。
何かと、シャルティエの刃が激しく噛み合う──
かと思いきや。
何やら爽快な音を立てて、衝撃はいずこへと消えていった。
「……やはり駄目みたいですね」
眼前には、得物を振り下ろした姿勢のままのフィオレがいる。
彼女が眼を向けているのは、半ばから切断された竹であった。
そして初めて、リオンは彼女の背後に散らばっているものを目にしている。
『ってこれ、フィオレ。僕の代わりに竹箒を分解しちゃったの?』
「シャルの代わり?」
『あ、その。えーと……』
「先ほどふざけたことをのたまってくれたので、脅かしてみただけです。あなたとの修練用に、殴ったところで問題なさそうなものを試してみましたが……流石に植物で、天下のソーディアンと渡り合うのは無謀でしたね」
嘆息しながらも、フィオレはリオンとすれ違った。
リオンが視線を追った先で、彼女は警棒並みの長さになった竹の棒を回収している。
「稽古用の得物については熟慮しておくことにして。今回は、あなたの回避・防御能力がどの程度のものなのかを調べてみたく思います。今から私が仕掛けますから、応戦するなり、回避するなり、防御するなり、お好きにどうぞ。ただし、紫電で──真剣で斬りかかりますから、死なないよう注意してくださいね」
一応私はシャルティエ自身を狙いますが、という補足も忘れていない。
リオンが承諾したのを受けて、フィオレは腰の紫電を引き抜いた。
その銘にちなんだと思われる淡紫が、対峙する二人をも魅了する。
『ねえフィオレ、この刀すごく綺麗だよね。もともと持ってたの?』
「ご安心を。あなたも十分綺麗ですよ。これは神殿で、流れの商人から購入したものです」
刀が閃き、正眼に構えられた。リオンが構えたのを十分確認し、フィオレは軽く足を踏み出している。
「参ります」
シャルティエよりも遥かに華奢な刃が、リオンの手元へと吸い込まれていく──
「……やる気、あります?」
心底呆れ返った。そんな心情を隠そうともしない、苛立ちさえ含んだ声がリオンの鼓膜に突き刺さる。
刃を交わした、その直後。交わしたままの姿勢から微動だにせず、フィオレはひとつだけさらした眼でリオンを見やっていた。もはや睨みすらしていない。
フィオレの握る紫電はリオンの眼前に張り付いており、対してリオンが握っていたはずのシャルティエは、どこにもない。
たった一合、刃をかみ合わせたと思った次の瞬間、なんとリオンはシャルティエを手放してしまったのだ。
今やシャルティエは、中庭を囲う雑林のどこかに転がっているか、あるいは幹や根元に突き刺さっていることだろう。
一方でリオンは、紫電を眼前に突きつけられ硬直していた。先ほどまでシャルティエを握っていた手を、無意識にか片一方の手でかばっている。
フィオレの眼から逃げるように視線をそらしたリオンから、紫電を下げた。
弾かれたように身を引くリオンに、顎をしゃくってシャルティエを取ってくるよう指示する。
素直に愛剣を探しに行ったリオンの背中を見送って、フィオレは長いため息をついた。
──想像以上に筋力が低い。
まずは全力をもって一撃を振るい、彼がどう反応するのか、小手調べ的な意味合いを込めていたわけなのだが。まあ反応できたことは評価しよう。
曲がりなりにも今現在のフィオレが全力を出し切った一撃だ。当然それなりに速度も、重さも乗せてある。
彼の身体能力ではおそらく回避はできまいと思っていたが、やはり回避ではなく防御を選んでいた。
回避しようと思ったが間に合わなかった、というマヌケな結果にならなかった、このことも評価はするべきだ。
しかし、受けきれず衝撃を流すこともできず、得物を弾き飛ばされたというのは……あまりに情けなくはないだろうか。
確かに彼の腕は細い。手の大きさも、お世辞にも大きいとはいえない。
まだまだ成長しきっていないのだから、当たり前ではあるが……以前教えた少年はそんなことがなかっただけに、フィオレは自分でも気づかぬほど戸惑っていた。
やがて、シャルティエを手にしたリオンがフィオレのもとへと戻ってくる。
気まずそうに黙りこくる少年に、彼女は言葉を選びながら慎重に話しかけた。
「あなたが怒り出すことを承知でお聞きします」
「?」
「──男の子ですよね?」
『ぶっ』
シャルティエは間髪いれず、吹き出している。
無論のこと、彼は怒り狂った。
「他の何に見えるんだ!」
「いや……全力だったとはいえ、私の一撃にも耐えられないとなると、ちょっと疑ってしまって。そうですよね、喉仏ありますし」
まじまじとリオンの喉もとを見つめるフィオレの眼前で、性別を疑われた少年は怒りに顔色を真っ赤に染めている。
シャルティエは未だ、言葉を発さない。
必死になって笑いをこらえているのか、あるいは声にできないほど爆笑しているのか。
「喉仏以外は女に見えると……?」
「大丈夫、声も男の子ですよ。人間、顔かたちが整いすぎてると中性的になってしまうものです」
某若年寄の顔が思い浮かぶ。
今現在のアレを女と間違える輩はいないと思うが、幼い頃の姿は性別の区別がつかなかったと、元同僚のナルシスト偏執狂が遠まわしに言っていたような気がした。
しかし、目の前の少年もその腰にぶら下がる人格も、見当違いなことを口にしている。
「……自画自賛か?」
『フィオレ、男の子に間違えられたことあるの?』
半眼になるリオン、こちらは普通に疑問として尋ねてきたシャルティエに、フィオレは思わず苦笑した。
「私のことではありません。故意に変装したことはあっても、間違えられたという記憶はありませんし。私は喉仏なんて器官を備えておりませんし」
そんなことはさておき。
フィオレは唐突に紫電を突き出した。
「それでは緊張もほぐれたところで、先ほどの質問に答えていただきましょう。やる気、あります?」
雰囲気が豹変する。
和やかだった顔つきが瞬時にして引き締まり、フィオレはどこか冷たくリオンに尋ねた。
気圧されたように、ただ首肯するリオンを見て。嘘はないだろうと判断しておく。
この際虚実はどうでもいい。
「そうですか。では、今どうして防御したんですか?」
「……回避は、難しいと思ったから。シャルティエで、防御を……」
「──攻撃の受け流し方はご存知ですか?」
リオンは首を横に振っている。よもやとは思っていたが、やはり知らなかったらしい。
「フィンレイ将軍と私の手合わせを見ていたとは思うのですが、私は幾度かあの大剣を弾いています。それはご存知ですよね?」
思い出しながらか、リオンは間を置いて首肯した。
「私は腕力に自信がないので回避に重きを置いていますが、それでも回避が間に合わない時はどうしても防御せざるをえません。でも、ただ力任せにこの紫電の刃で相手の剣を受け止めたら、強度の問題ですぐ折れてしまいます」
陽光が紫電の刃を舐める。その様を見せながら、フィオレはシャルティエを指した。
「私はソーディアンのことをよく知りませんが、もしも特殊な金属でできていて、破損などとは無縁だったとしても。今のあなたのように弾き飛ばされてしまったら、もう無意味だと思うんです」
「……うるさい」
「そんなわけで、握力を鍛えると同時に一般的な防御方法をお教えします。あなたのそれは、我流の傾向にあるようなので」
リオンの剣技、全てが全て我流だとは思わない。剣術における基礎は出来ているようだし、そうでなければ他者に通じる我流など、考え付くはずがないのだ。
おそらく、幼少の頃はきちんとした剣術指南役をつけていたのだろう。
しかし今その指南役がいないということは、何らかの事情か、リオンのほうが強くなってしまったか。
今しがたは思い切り呆れてしまったが、全体的な評価としては、弱点が多いというだけで筋は悪くない。
いまいち磨ききれていない原石、というフィオレの見立ても、満更間違ってはいないようだ。
「では、まずは攻撃の受け流し方から──」
『ねえフィオレ』
いよいよ、本格的に指導を始めようとした矢先。シャルティエがどこか、おずおずとした様子で言葉を発した。
「何か?」
『あのさ……怒ってないの? 僕たちが、大将軍との手合わせで、不意討ち仕掛けたこと』
「ああ。あれですか」
シャルティエのおしゃべりを諫めない辺り、リオンも気にしていたのだろうか。
黙して耳をそばだてるリオンにも聞こえるよう、フィオレは肉声で返事をしていた。
己の目元を指差して。
「小さなことでいちいち怒ってばかりいると、皺ができるんですよ?」