swordian saga   作:佐谷莢

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 ジェノス~ハーメンツ。
 ルーティとマリー、そしてアトワイトを加えて。
 短いながらも、楽しい楽しい「四人+二本」旅の、始まりです。


第三十五夜——旅は徒然、一期と一会

 

 

 

 

 

 

「ねえ、取り込み中で悪いんだけど……」

 

 ディムロスがスタンをマスターと定めた理由について、何か両者の了解に齟齬があったらしい。

 ジト目でディムロスを睨むスタンに、ルーティはなだめるかのように声をかけた。

 

「なんだよ!」

「あたしたちと手を組まない?」

 

 不意にそう切り出されて、スタンは「え?」と目を丸くしている。

 目的地を告げたにもかかわらず、そんな風に切り出され、フィオレは不快感を隠さず口出しした。

 

「先ほど、私たちはダリルシェイドに行く用事がある、とお話したはずですが」

「わかってるわよ。だけど、その後のこととかは別に予定ないでしょ? 旅は道連れ世は情け、って言うじゃない。マリーもそう思うでしょ?」

「確かにな。一人よりも二人、二人よりも四人。旅は大勢のほうが楽しいぞ」

 

 そんな、大量に酒が入っている人に言われても。

 この提案に対してなら、フィオレの心は決まっている。

 

「今は長期契約中ですので、私はご辞退申し上げます。スタン、あなたはどうしますか?」

 

 一応ここは、ディムロスとスタンが別々になることを想定して答えさせたほうがいいだろう。

 ソーディアンマスターだからといって即兵士になることができるわけではない。

 しかし。

 

「どうする? ディムロス」

 

 彼は何故か、ディムロスに意見を求めていた。

 当然のように、彼は困ったような返事を寄越している。

 

『どうすると言われてもな……』

 

 そこへ。柔らかだが、けして甘ったるくはない女声が聞こえた。

 

『ディムロスがいてくれれば、心強いと思うわ』

 

 ソーディアン・アトワイト……投影された人格の名は確か、アトワイト・エックス。

 天地戦争時代は女性ながら衛生兵長を担っていた人物で、当時地上軍最高幹部の一員だったラヴィル・クレメンテの主治医でもあったという。

 彼女のソーディアンチーム参入は高齢だったクレメンテの目付け役として認められたものであるらしく、唯一晶術での治癒や援護を可能とするらしい。

 そしてこれは俗説だが、地上軍中将だったディムロス・ティンバーとは恋仲であったという。

 それがソーディアンに人格を投射した当時なのか、あるいは激戦の最中に生まれたものなのかはわからないが、まあこれはどうでもいいだろう。

 本当の問題は、新たなソーディアン発見でも、新たなソーディアンマスター発見でもない。

 戦後、使い道がなくなったということで封印されたはずのソーディアンが意識を回復させ、ひとところに集まろうとしている。

 この現象こそ、何かの予兆ではと危惧するべきだ。

 ともあれ、ディムロスの消極的な肯定でスタンの心は決まったらしい。

 

「わかった、手を組もう。ただし、悪事に手を貸すつもりはないよ」

「あったりまえじゃない! 捕まるようなことを、あたしがするとでも思ってるの?」

 

 喜色満面のルーティだったが、スタンは疑わしげに彼女を見やるばかりだ。

 直後、彼はフィオレの顔色を伺うようにおずおずと尋ねた。

 

「……えっと、かまいませんよね?」

「ダリルシェイドでの私の用事が済めば、どうぞご随意に」

「ごず……?」

『好きにしろ、という意味だ。フィオレ、わかっていてスタンを混乱させるようなことを言うな』

「それは申し訳ありませんでした。少しでも彼の知識が増えればいい、と思ったまでですが」

『む。確かに、その通りだ……』

 

 答えて、ルーティの顔を見てから、しまった、と思う。

 後々のことを考えれば、聞こえないフリをしていたほうがよかったかもしれない。

 

「ちょっと! あんたもソーディアンの声が聞こえるの!?」

「ええ。まあ。一応」

 

 顎を落とさんばかりのルーティを見ないようにしながら、未だにスタンの持つアトワイトに挨拶をする。

 彼女は戸惑いながらも、周囲から寄せられる視線に気付いてコホン、と咳をした。

 

「ま、まあ、ダリルシェイドまでよろしくね、フィオレ。さて、そうと決まったらこれからのことなんだけど……」

 

 話を聞けば、彼女たちはハーメンツに用事があるらしい。

 ジェノスからダリルシェイドへ直接向かうにはそれなりの距離につき、道中補給や休憩を兼ねて寄ろうと思っていた村だった。

 

「通り道にあるんだし、寄ったってかまわないわよね?」

「はい。用事があるというのなら、休憩を兼ねて寄りましょう。ハーメンツで補給を済ませれば、それからの行程がぐっと楽になりますし」

「決まり! それじゃあ、あたしは今夜の宿をとってくるわ。フィオレは……」

 

 その前に、スタンに頼んだ部屋の確認をしておく。

 彼によれば、個室が取れなかったためツインの部屋を二つ、借りてきたらしい。

 

「じゃ、あたしたちの部屋を確保してこようかしら」

 

 そう言って、ルーティはアトワイトを回収した後に母屋である宿屋へと向かっていった。

 道中アトワイトとなんやかや話していたが、害はないだろう……多分。

 残されたマリーはというと、ジェノスの地酒「呉越同舟」を堪能している。

 

「と、ところでマリーさんはどうして、冒険の旅に出たんですか?」

 

 沈黙が苦手なのか、スタンがとってつけたように尋ねた。

 対して、マリーは軽く首をひねっている。否……傾げている。

 

「私か? 私は……思い出せないのだ」

 

 思い出せない。

 その一言に、フィオレは条件反射的に自分がそうだと言い張っている言い訳を思い出した。

 すなわち、それは、本物の。

 

「え?」

「覚えていないのだ。私には、ルーティと会ってからの記憶がすべてだ」

「それってば、記憶喪失ってヤツじゃあ……何か手がかりはないんですか?」

 

 重ねて尋ねられ、彼女は短剣を手に取った。

 シルフィスティアの視界を通じ、初めてマリーを見たときは腰の辺りに下げていた、あの短剣である。

 

「これが誰のもので、なぜ私が持っていたのかは知らない……だが気がつくと、私はこの剣を持っていた。唯一の手がかりなんだ」

 

 いつしか真剣な眼差しで短剣を見つめているマリーに罪悪感を覚えたのか、スタンは軽く頭を下げた。

 

「すみません、なんか変なこと聞いちゃったみたいで……」

「気にするな。記憶がないというのも、案外楽しいものだぞ。何しろ、見るもの聞くものすべてが新鮮なのだからな」

 

 しかしマリーは破顔しながらも、彼の心情を察してかフォローに回っている。

 そのまま談笑を続ける二人を眺めつつ、フィオレはマリーの言葉を反芻していた。

 確かに、一般常識を含む一切合財の情報がなければ見るもの聞くもの触れるもの、すべてがただ新鮮に感じられるだろう。

 その都度襲いかかってくる、不安をものともせずにいられれば。

 何も知らないという点に関しては、フィオレもまた記憶喪失と変わらなかった。

 今はともかく、あの瞬間は。

 マリーもまた、ルーティと出会い、今の自分があるからこそ、言えることなのではないかと思う。

 

「スタンも一度、なってみたらわかるぞ」

「いや、それは遠慮しておきます……」

「あはは、それが賢明だな」

 

 そこへ、ルーティがアトワイトを伴って戻ってきた。

 

「いかがでしたか?」

「ダメ、もう満室だからーって断られたわ。フィオレ、悪いけどスタンと相部屋になってくれない?」

 

 そんなルーティの申し出に、スタンは真っ赤になってあたふたしている。

 見ていて面白いが、放っておいても話は進まない。

 

「え、え、でも」

「スタン。あなたは自分の我侭で女の子に野宿させるつもりですか」

「いや、だったら俺が外で……」

「で、凍死するんですか?」

 

 そんな問答が二言三言続き、最終的にスタンはフィオレと相部屋で一夜を過ごすことを承知している。

「ただし」とフィオレは念押しをした。

 

「私に痴漢を働こうものなら、手足をもいで鼓膜破って目玉くりぬいて声帯切ったあと、丸刈りにして豚小屋で暮らしてもらいますんで」

「……それ、大昔のえっぐい処刑方法じゃない……」

 

 ──そして、何事もなく一夜が明けたわけだが。

 フィオレが起き上がり、軽く湯浴みをし、支度を整えても、スタンが眼を醒ますことはなかった。トーン宅でもそうだったが、どうやら彼はひどい低血圧であるらしい。

 あの時は無理やり起こさず自然に起きてくるのを待ったが、同行者がいる現在、今回はそうもいかない。

 さてどうやって起こしたものかと考えていると、扉が叩かれた。

 返事をして開けば、そこには準備を整えたルーティとマリーが立っている。

 

「おはようございます」

「なんだ、起きてるじゃない。なかなか来なかったけど、どうしたの?」

「……スタンが起きなくて」

 

 二人を通し、現場を見てもらう。

 女性二人が入室しても、スタンはいまだに夢の中だった。

 ひとしきりルーティが彼の名を叫ぶようにして呼ぶものの、まったく目覚める気配がない。

 マリーが呼んでもそれは同じで、ルーティは腹に据えかねている。

 

「あっきれた! あんた、寝起きが最低ね!」

「……へ、何……」

「いーから起きなさいって言ってるの!」

 

 耳元で喚くルーティの声も、あまり効果がないらしい。

 見かねたフィオレは、おもむろに窓を開くと積もっていた雪を一掴み取った。

 そして、寝ぼけ眼で怒鳴るルーティに生返事をしているスタンの首筋に、素早く押し付ける。

 

「……うひゃああっ!」

 

 これは効果があったらしく、彼は速やかに目を醒ました。

 

「おはようございます、スタン」

「あ、お、おはよございます……」

「おはよございます、じゃないわよ! さっさと支度なさいっ!」

「あれ、なんでルーティがここに……部屋は別だったよな」

 

 ──すったもんだの挙句。

 どうにか出発可能となった一同は、一路セインガルド側の門へと歩いていった。

 ここでフィオレが、正規の通行証でないループタイを三人に見せることをためらい、通行証を忘れたふりをする一場面もあったが……些細なことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばしして。

 一同は何事もなかったように、ハーメンツへとたどり着いていた。

 道中、フィオレと相部屋になったスタンをルーティが冷やかしたことから始まり、出身地の話になってスタンが田舎者認定を受けるなど、様々な事柄が発生している。

 その最中、ふとフィオレはハーメンツでの目的を尋ねた。

 

「時に、ハーメンツへはどんな用事で向かわれるのですか?」

「ちょっとね。とある遺跡で回収してきたブツを、依頼人に渡すの」

 

 ……とある遺跡というのは、彼女がスタンと知り合ったであろう、あの遺跡のことだろうか。

 あの遺跡を兵士が巡回していたことはかなり気になるのだが……現時点でどうにかできることではない。

 それよりも、ハーメンツでそんな好事家といえば、フィオレには一人しか心当たりがなかった。

 

「……それはもしや、ウォルトという人物ではありませんか」

「あら、当たり。もしかして、あいつの依頼とか請けたことある?」

「ありませんが、その筋では有名な方ですから」

 

 この頃、フィオレの意図的な受け答えにより、ルーティに旅の何でも屋か何かと思わせることに成功していた。

 とはいえど、けして嘘はついていない。

 それよりか、彼女がウォルトの依頼を請けていたとは……これは少々まずい。

 以前彼は、レンズハンターくずれを利用して国の管理する遺跡から奉納されていた宝を盗んだのではないか、という嫌疑がかかったことがある。

 その時は、自分はレンズハンターに珍しい骨董品を買わないか、と持ちかけられただけだと言い逃れたのだが、その際フィオレは上司と共に顔を見せてしまっている。

 故に、ルーティたちに同行して彼と顔を合わせれば、色々厄介なことになることが目に見えていた。

 

「それでは、いってらっしゃい。私は宿を取って待機しています」

「そう? じゃ、行ってくるわ。よろしく~」

 

 ひらひらと手を振る彼女たちの背中を見送り、きびすを返す。

 一軒しかない宿に入って部屋を取ろうとするも、予約が入っているのであと一部屋しか貸せないらしい。仕方なく、二人部屋だというその部屋の鍵をもらい、腰を落ち着ける。

 今頃商談を行っているであろう、彼女たちの様子を探ろうかとちらりと考えたが。正直面倒くさかったので放置する。

 寝台に寝転がり、眼帯を取った。

 久々に一人になって、浮かんできたのは守護者たちのことだった。

 飛行竜をむざむざ乗っ取られたのは業腹だが、あの出来事がなければソルブライトとの契約は不可能だった。

 仮に解雇されて世界中を旅したとしても、あのようなピンポイントな山奥など、そうそう立ち寄りはしないだろう。

 これで残すは、アーステッパー、ルナシェイドの二柱となった。

 かの二柱との契約が終われば、何かが変わる。彼らの願いとやらも、きっとわかるはずだ。

 しかし、彼らはどこに聖域を持っているのだろうか。

 シルフィスティアはセインガルド領、アクアリムスは海、フランブレイブはカルバレイスだったし、ソルブライトはファンダリア領だった。

 これら聖域の場所を考えるに、彼らもまたどこかの大陸ひとつを受け持ち、守護しているのかもしれない。

 残っている大陸といえば、フィッツガルドだ。この世界にはアクアヴェイル公国という国も存在するが、大陸ではない。それでも、島国の密集地域をひとつと定めて陣取っている可能性は大だ。

 ただ、フィッツガルドはともかくアクアヴェイル公国など、セインガルドに所属する身では絶対に訪問できない。彼の国とセインガルドは、ファンダリアとは違って国交断絶状態にあるのだ。

 もし、アーステッパーとの契約に成功し、残る守護者はルナシェイドとなった場合。客員剣士を辞してでもアクアヴェイル公国へと行くべきなのだろう。

 そうする義務があるだけ、フィオレは守護者たちの世話になっている。

 

 ──ここまで考えて、ふと気付く。

 

 そういえば、現在フィオレは客員剣士を辞めさせられてもおかしくない失態を犯していた。ならばそれにかこつけて、この際すっぱり辞めるのも手かもしれない。

 これまでわかりやすい失態はなかったが、今回の大きな失態を受けてヒューゴ氏も、フィオレを手元に置いておく必要性を失うかもしれない。

 根付いた考えから、ぴょこりと芽が出る。

 初めはただの思いつきだったのが、フィオレの脳裏で立派な論理展開へと急成長を遂げた。

 ひとしきり考えをまとめて、起き上がる。

 そういえば補給を忘れていたと、フィオレは宿の外へと出た。

 現在フィオレは、一同の中で道具係を担当している。それほど急がない行程、前衛をマリーとスタンが担当するため、フィオレは必然的にしんがりを担当しているのだ。

 後方から奇襲を受けた場合を除いて、戦況を眺めているだけという位置である。

 本来はアトワイト……治癒晶術の使えるルーティが支援に回るところ、彼女は大体前衛二人が倒した魔物のレンズを拾っているため、とっさの回復をフィオレが請け負っているのだ。

 特に文句はない。むしろ、楽をさせてもらっている。

 小さな雑貨屋をめぐり、彼女らから預かる道具の不足分を買い足して広場へと出ると。

 

「フィオレ!」

 

 通りの向こうから、満面の笑顔でやってくるルーティと普段と同じように見えるマリー。

 そして何があったのか、微妙な顔をしているスタンが現われた。

 

「その様子ですと、うまくいったようですね」

「ええ、大成功よ! それでね、なんか部屋を予約してくれてたみたいなの」

「やっぱり。予約で埋まっているから、一部屋しか貸せないって言われました」

「そうなの? なら心配いらないわ。ここの部屋は全部ツインだから、今日はスタンと相部屋しなくて済むわよ」

 

 今にもスキップを始めそうなルーティが、ホクホク笑顔で宿へと向かう。

 それに続くマリーを見送って、フィオレはスタンに向き直った。

 

「……何か、ひと悶着ありましたね?」

「ひと悶着なんてもんじゃありませんでしたよ……」

 

 宿へ向かう道すがら、スタンの話を聞く。

 ウォルトの住まいはフィオレも知っての通り、ハーメンツの村を見渡せるような小高い丘の上にあった。

 そこへ訪問したところ、不法侵入者と間違われて彼の護衛に一発殴られたのだという。

 スタンが。

 

「呼び鈴くらい鳴らしましょうよ」

「だって、ルーティが勝手にずかずか上がりこむから……」

 

 依頼自体は、スタンが見る限りあっさりと済んだらしい。

 問題は、品を受け取ったウォルトが満足して報酬を払った、そのときだった。

 

「ちょっと! たった五千ぽっちのはした金で納得するわけないでしょ!」

 

 オークションにかければ五万はくだらない、と言い放った挙句、彼女はウォルトの金庫からもう五千ガルド、引っ張り出したのだという。

 そして依頼人が宿を予約していることを知り、ありがたく使わせてもらうと意気揚々引き返し……先ほどに至るというわけだ。

 

「……それ、強盗行為と違いますか?」

「止める暇もなかったんですよ……」

「それじゃあ官憲に通報されて、逮捕されたっておかしくないですよ」

 

 他人事ながら、フィオレは彼女たちの行く末が心配になってきた。

 どんな事情があるのかなど勿論知らないが、こんな無茶を繰り返していれば断言してもいい。絶対に捕まる。

 どんなに不幸な事情があろうと、この土地が法治国家である限り、悪事を働いて許されることは少ない。

 やるとしたら、見つからないようにしなければ駄目だ。

 

「どーしようディムロス。俺、やっぱり手を組むの、断ったほうがいいかも……」

『同意だ。アトワイトが黙認しているところを見るに、何らかの事情があると見ているが……あの無茶ぶり、後悔しない程度にしっかり考えたほうがよさそうだぞ』

 

 ぼそぼそと今後を相談する二人を微笑ましく思いつつも、フィオレは宿へ行こうとした。そのとき。

 

『ところで──フィオレは確か、私をセインガルドという国に護送しなければ首が飛ぶと言っていたな。そんな重要な任務を民間人に任せるとは思えないのだが、何者だ?』

「そういえば言ってたな。えーと……確か、客員剣士、って呼ばれていたような」

 

 不意に呟かれたディムロスの言葉に、フィオレは足を止めた。

 直後答えたスタンの言葉に、ディムロスは驚いたように声を張り上げている。

 

『客員剣士だと!? あの若年でか!』

「え、でも、傭兵みたいなものなんだろ?」

『客員とは、本来招かれた者を指す。下っ端の兵士から出世したのではなく、一足飛びで特殊な地位を得たようなものだ。そして、その地位はけして低いものではない』

 

 その言葉に、スタンはまともに驚いたような顔をしてフィオレを見やった。

 

「つ、つまり……?」

『お前が仕官を望み、出世を望むなら、もっとも親しくなるべき者が今目の前にいるということだ』

「──あーあ。バレちゃいましたか」

 

 ありえなかった話ではない。

 彼には何から何まで隠していたわけではないし、むしろこれまで気付かれなかったことが奇跡のようなものだ。

 だから、フィオレは誤魔化さなかった。

 

「な、なんで隠してたんですか? ウッドロウさんたちにも、ルーティたちにも……」

「今私が、極秘の任務を請け負っているからです。客員剣士見習いといえど軍の一員、どこで恨みを買っているかわからないのに、自分の所属をぺらぺら明かせません」

 

 もっともだと思ったのか、スタンからもディムロスからも反論はない。

 そのまま畳みかけるように、フィオレは言葉を続けた。

 

「確かに私は、セインガルド軍の一員として七将軍ともお話できます。通常なら口添えも可能でしたが、飛行竜墜落のこともあって今はかなり微妙な立ち位置にいるんですよ。だから、その話は無事任務を終わらせてからにしてください。いいですね?」

「二人とも行かないのか?」

 

 スタンの返事を得るよりも前に、マリーから呼ばれ、ドキリとする。

 今の会話を、彼女は聞いていただろうか? 

 聞いていただけなら構わないが、このことをルーティに話されたら……色々とまずい事態が勃発しそうな予感がする。

 嫌な予感を覚えつつも、ハイテンションのルーティに怒鳴られ、三人は宿へと向かった。

 

「ちょっとあんたら! 早く来なさいよー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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