swordian saga   作:佐谷莢

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 ダリルシェイド~ジルクリスト邸。
 ヒューゴさんの怒りが大爆発です。こっぴどく怒られます。
 わぁい、ひゅーごさんこわーい(笑)おこなの? 激おこなの? 



第三十八夜——垣間見える本性

 

 

 

 

 

 

 

 

 リオンと共に、三人をヒューゴ氏の屋敷へ連れていく。

 その最中、それまで沈黙を貫き通していたシャルティエがぽつりと呟いた。

 

『フィオレ、なんか妙に親しげだよね』

『は?』

『だから、そいつらとさ。さっきの命乞いといい、今だって最短距離じゃなくてさ、わざわざ大通り歩いて観光案内っぽいことしてるしさぁ……』

 

 確かにその通りだが、何故彼はこんな妙に湿った声なのだろうか。

 そこで、ソーディアンマスター二人が反応した。

 

「この声って、あの時も聞こえた……」

「あのガキが提げてるソーディアン? 何独りでブツブツ呟いてんのよ」

『そーか、君らには聞こえるんだ。僕はソーディアン・シャルティエだよ。独り言なんか言ってないさ、フィオレと話していただけだよ』

 

 シャルティエの言葉に、もちろん二人はそろって首を傾げている。

 

「フィオレさんと? けど、何も言ってなかったような……」

『フィオレ、普通に話してくれない? この連中が納得できるように』

「別にかまいませんけど、それがどうかしましたか?」

 

 彼らからすればまったく脈絡のない言葉なのだが、もちろんシャルティエにとってはそうではない。

 

『坊ちゃんや僕と扱いが違うから、どういうことかなって。少なくともそいつらよりは、僕らの方が付き合い長いはずなのにぃ……』

「シャル。情けないことを堂々と抜かすな。フィオレが誰と親しげだろうが、僕たちの知ったことじゃないだろうが」

『だって坊ちゃん、僕は寂しいですよ! 今まで誰にでもそっけない態度だったからそういう性格なのかと思っていたら、ちょっと見ない間にあいつらとふっつーに打ち解けてるし! だったら常日頃からやーらかい印象のフィオレがいい!』

 

 ……これは、嫉妬のようなもの、という解釈で構わないだろうか。

 苦笑いを隠さずに、フィオレは飄々と答えた。

 

「つり橋効果ってやつですよ」

『へ?』

「男女二人がよく揺れるつり橋を一緒に渡ると、恋愛感情が芽生えやすくなるというやつか。何の関係があるんだ?」

「私は魔物に占領されて墜ちゆく飛行竜からスタンと協力して、命がけの脱出を果たしました。そしてルーティやマリーとは、直接対決をしています。異常事態を共にしているから、それだけ打ち解けるのも早いんですよ」

 

 我ながらわかりやすい説明だとフィオレはこっそり自画自賛しているが、シャルティエの追求は止まらない。

 

『坊ちゃんとだって直接対決してるじゃん。契約前にも、契約中でも……』

「契約中はあくまで修練です。契約前のあれは単なる諍いでしょう。ついでにリオンは社交性が低いので、一般人と同じように考えるのは間違っていると思います」

「……おい」

 

 リオンの不満そうな突っ込みは気にしない。

 幸い、リオンのことはシャルティエが一番よくわかっているらしく、それに関しての異論はなかった。

 それがリオンの機嫌急降下に拍車をかけている。

 

「まったく、無事に帰ってきたかと思えば、相変わらず口の減らない……」

 

 自覚はしているのか、くってかかることはせず口の中でぶつくさ呟くばかりだが。

 

「リオン。まさか心配してくれたんですか?」

「誰がお前のことなんか! ただ、その……知らせを聞いてマリアンが、心配していたから……」

「そうですよね。私がいなくなれば小うるさい指南役がいなくなって清々したでしょうに、お気の毒です。マリアンには後で謝っておきましょう。シャルティエも、心配かけてごめんなさい……いいえ。心配してくれてありがとう。次があったら、もう少し上手くやりますね」

『次なんて無くていいよ、もう……』

 

 そうこうしているうちに、一同はジルクリスト邸へと到着した。

 

「ふわ~、でっかいなー……」

「さっすがオベロン社総帥、いいところに住んでるわねえ」

 

 スタンは大口を開けて屋敷の全貌を視界に収めようとし、ルーティは周囲が閑静な高級住宅地であることを見抜いて皮肉気に口元を歪めている。

 それを見て、フィオレはまたもや既視感に駆られた。

 ルーティのその様子は、今違う屋敷の小型犬を撫でようとしたマリーの注意をするリオンがよく浮かべるものと酷似しているのだ。

 世の中には同じ顔の人間が三人はいるという。その類ということで、いいのだろうか。

 気を取り直し、フィオレは門番に近寄ると事情を話した。

 幸いヒューゴ氏から連絡はいっているらしく、あっさりとスタンたちの同行は許される。

 先頭を切って玄関を開いたリオンの第一声は、どこか苛立っているような声音だった。

 

「マリアン!」

 

 二度三度と呼ぶが、姿はおろか返事もない。

 

「ね、マリアンて誰? あいつの恋人?」

「ここの家政婦(メイド)長のことです」

 

 興味津々で、しかしこっそりと尋ねてきたルーティに小さく答える。

 と、リオンはここでマリアンを呼び出すことは諦めたらしい。

 

「いないのか?」

 

 確認するように言い、エントランスを歩き始める。

 その後に続いて二階へ続く階段を歩ききったところで、レンブラント老を見つけた。

 

「レンブラント爺か。マリアン、いやヒューゴ様はどこにおられる?」

「おや、坊ちゃん、いらっしゃい」

 

 ……部外者がいるというのに、この呼び方はいかがなものかと思う。

 いらっしゃい、という言い方でかろうじて誤魔化しているが、いい加減名前で呼ぶクセをつけたらいかがか。

 リオンもまた、その呼び名に憤慨している。しかし、理由は違うものだ。

 

「その呼び方はやめろと言ったはずだぞ」

「ヒューゴ様は書斎の方におられますぞ」

 

 しかし彼は一向に気にしていない。

 そのやりとりが引き金となり、これまで笑いをこらえていたルーティはあっさりと吹き出してしまった。

 

「アハハハ~、坊ちゃん、だって!」

 

 もちろん癇癪を起こした彼は、なんとヒューゴ氏から預かっていた額冠(ティアラ)操作盤の電源に触れている。

 しかし今ルーティが立っているのは階段だ。

 こんなところで電撃を食らおうものなら……

 

「きゃぁっ!?」

 

 咄嗟に手を伸ばしてルーティの腕を掴む。

 失念していたわけではないが、ルーティは現在感電中だ。

 そしてフィオレの手袋は、防水できても絶縁体仕様ではなかった。

 よって。

 

「んぎゅっ!?」

 

 勝手に悲鳴が喉の奥から飛び出し、身体が硬直する。

 しかしながらそのために、ルーティが階段から転げ落ちることはなかった。

 

「口の利き方には気をつけろ!」

「……リオン。多分それは、あなたの鬱憤を晴らす道具ではないと思いますよ……」

 

 静電気で逆立ったような気がする髪を軽く撫でつけ、ルーティの腕を引いて立ち上がる。

 彼はまったく悪びれる様子はない。

 

「罪人をかばうような真似なんかするから、そういう目に遭うんだ」

「……知らない人は幸せですね。ちょっと、羨ましいです」

 

 ついしみじみと、そんなことを呟いた。

 こういうとき、知らないことがどれだけ幸せなのかを思い知らされる。

 たとえば電撃を受けたことに対する苦痛。たとえば階段から転げ落ちた際の危険。

 経験であれ知識であれ、知らなければ注意を払うことも難しい。

 リオンがムッとしているのをわかっていて、フィオレは言葉を続けた。

 

「日頃の行いがこうだから、いつまで経っても子ども扱いがなくならないんだ、ってことをそろそろ学習してくださいませ」

「ときにフィオレンシア様。ヒューゴ様がお呼びですので、至急書斎へ向かってくださらんか」

 

 リオンを黙らせたところで、レンブラント老からそんなことを言われる。

 嫌そうな顔を隠さず、フィオレは了承を告げた。

 

「まったくだ。馬鹿をやっていないで、いくぞ」

「お待ちくだされ。ヒューゴ様はフィオレンシア様が戻り次第、一人で書斎へ来るようにとおっしゃられました。リオン様とお連れの方々は、大広間にてお待ちください」

「フィオレだけを……? 何故だ」

 

 怪訝な顔をするリオンだが、その理由まではもちろん知らないレンブラント老は首を傾げるばかりだ。

 

「普通に考えれば、謁見の間でのことでしょうね。勝手なことばかりしたから、さぞやお怒りになられていることでしょう」

「え……そうなんですか!? すいません、俺たちのせいで……」

「私が勝手にしたことです。謝罪は結構ですよ」

「自業自得だろう。精々叱られてこい」

 

 痺れた体を軽くさすり、片手を振って独り書斎へと赴く。

 廊下を曲がり、少し歩いて突き当たった先にて。フィオレは扉を叩いた。

 

「フィオレです。ただいま戻りました」

 

 すぐに入るよう促され、書斎へと足を踏み入れる。

 入ってすぐの、衝立のように設置されている本棚を避けるように進んだ先、ヒューゴ氏は佇んでいた。

 ちなみに後ろを向いている。

 

「──何故、呼び出されたのかはわかるか?」

「……雇い主たるあなたの意志を確認せず、独断にて客員剣士の辞任を陛下に迫ったこと、深くお詫び申し上げます」

 

 入るよう促された時といい、今の声音といい。

 ヒューゴ氏はこれまでに見たことがないほど不機嫌だった。

 今回はフィオレの非しかないため、ここは素直に謝り倒しておくことにする。

 しかし、彼はフィオレの予想を遥かに上回る質問を繰り出してきた。

 

「それはいい。あの国王があの程度の失態で君を手放そうなどとは考えるわけがない。私が問題としているのは、その先だ」

 

 ……気のせいだろうか。

 どこか、普段のヒューゴ氏とは声が違うような気がする。

 ここで初めて、彼はフィオレと向き直った。

 

「もしも私が神殿行きを考えていなかった場合、君は客員剣士を辞め……私と交わした契約を破棄してでも、目的を達するつもりだったのか?」

 

 窓から差し込む逆光のせいで表情はわからない。

 ……気のせいだろうか。

 ヒューゴ氏の瞳が、金色に輝いたような気がしたのは。

 

「長期休暇を申請するか、それが認められないのであれば、破棄を要求するつもりではありました」

 

 ヒューゴ氏の意図がいまいち読めず、事実を告げる。

 すると。

 

「ふざけるな!」

 

 叩きつけられるような怒声が木霊したかと思うと、フィオレは身体が宙に浮くのを感じた。

 ──否、違う。

 反応できないほど素早くヒューゴ氏に胸倉を掴まれ、背後の本棚に押し付けられたのだ。

 肺に急な圧迫がかかったせいで息がつまる。

 側頭部に鈍い衝撃を覚えたかと思うと、フィオレは無様に書斎の床へと倒れこんだ。

 とはいえ、総帥の書斎には上等な絨毯が敷かれている。

 自分がされたことと同様に、絨毯の毛足の長さに驚いていると、ループタイを引っ張られて顔を上げさせられる。

 今この場でようやく、フィオレはループタイを外すのを忘れていたことに気づいた。

 

「契約の破棄など断じて許さん! 二度とそんなことを考えるな」

 

 いくら凄まれても、未来は誰にもわからない。

 故に、安易には頷けない。

 

「聞いているのかっ!?」

 

 血走った眼、怒りのためか真っ赤に染まった顔色、口角から泡を飛ばす勢いでまくしたてるその傍で、衝撃でバランスをくずした本棚から書物が派手に飛び出していく。

 直後、物音を聞きつけたのだろう。

 バタバタと廊下を走る音がして、ノックもなしに扉が開いた。

 

「大丈夫ですか!? 何かあっ……」

「この馬鹿者、いきなり開けるんじゃ……」

 

 ──競争における脚力はスタンのほうが上らしい。

 飛び込んできたスタン、それをいさめるリオンの声が止まる。

 本棚は派手に倒れて書物が散乱し、総帥は尋常とは程遠い様子で倒れたフィオレの顔を上げさせ、凄んでいるのだ。

 絶句するな、というほうが無茶な話である。

 ともあれ、このままでいいわけがない。

 少し遅れて二つの足音が止まった瞬間、フィオレはヒューゴ氏に掴まれているループタイを短刀で切断した。

 

「え……えっと」

「お話は済みましたね? それでは、私は報告書を仕上げますので、また後ほど」

 

 床に転がるループタイだったものをそのまま、足早に書斎を後にする。

 今頃誰もがバツの悪い思いをしているだろうが、知ったことではない。

 それよりも、フィオレの頭の中は今しがたの出来事に囚われていた。

 

(……いってて)

 

 受身を取り損ね、まともに打ち付けてしまった身体をさする。

 ルーティを通して電撃を浴びた直後で、身体は確かに麻痺気味だった。

 それでも、若い頃考古学に勤しんでいたがどうだか知らないが、男性とはいえど一般人に掴みかかられて避けられないというのは、恥以外何者でもない。

 真相を知れば、間違いなくリオンは馬鹿にするだろう。

 それはいい。よくはないが、実害はない。

 それよりも、問題はヒューゴ氏だ。

 あの変貌ぶり、マリアンに続いて彼にも二重人格の疑いがでてきた、ということなのか。

 これまで、常識的に考えればフィオレは彼を怒らせるような真似をいくつもしでかしている。雇われた当初から長居をするつもりなどさらさらなかったから、早いうちから彼に嫌われるよう心がけてきのだ。

 その真意を気取られぬよう、契約破棄のことに関しては一切触れてこなかったが……まさか、あれほどの過剰反応を見せるとは。

 あの形相の変わりようを思い出すと、あの瞬間だけ別人と入れ替わっていたと考えたほうがまだ納得できる。

 

「まさか──ね」

 

 そんな馬鹿馬鹿しい、妄想にも等しい推測を払いのけて、先ほどから鈍痛の走る側頭部を撫でる。そこは指で触れてわかる程度に膨れていた。髪に隠れて詳細はわからないが、おそらく出血はしていない。

 私室へと戻り、そしてフィオレは、引き出しを開けた。

 まずはあの、思い出すだけで憂鬱になる飛行竜での出来事を報告書にまとめなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






「おこ」→「激おこ」→「激おこぷんぷん丸」→「ムカ着火ファイアー」→「カム着火インフェルノォォォオオオウ」→「激おこスティックファイナリティぷんぷんドリーム」→「憤怒バーニングファッキンストリーム」→「大噴火レジェントサイクロンフレアァァッ」
 調べてみて初めて知りました(笑)「おこ」って、こんなに種類豊富なんですね。
 ヒューゴさんの中身は多分「激おこスティックファイナリティぷんぷんドリーム」状態です(笑)
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