swordian saga   作:佐谷莢

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 ストレイライズ神殿到達。
 久々の神殿ですが、それどころではありません。
 移動中もそうでしたが、着いてからもかなり暴走気味です。
 フィリアの安否や、如何に。


第四十一夜——彼女の行方~彼女の焦燥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巡礼者たちも神殿関係者も使う道を行き、神殿前へと到達する。

 見下ろした際と同じく、神殿は静かだった。否、静か過ぎた。

 

「妙だな……」

「あんたもそう思う?」

「どのへんが?」

「静かすぎる」

「そうね、人の気配が感じられないわ」

『もうみんな、死んでいるのかもしれないな……』

「行きましょう」

 

 考えたくもない言葉がディムロスから発せられ、それを振り切るようにフィオレは歩き始めた。

 

「ディムロス、なんてこと言うんだよ!」

「それを調べに来たんだろう。それと、あまりフィオレを刺激するようなことを言うな。こっちにとばっちりが来るんだからな」

 

 敷地内にある建物も、好き勝手を抜かす仲間達も無視して、一直線に神殿へと向かう。

 常ならば両脇に僧兵が常駐している出入り口をくぐり、エントランスを見渡した。

 物言わぬ骸がゴロゴロ……していたわけではない。ただ人がいないだけで、無造作に破壊されているような様子もない。

 見知った荘厳さと、見知らぬ無人の気配が、同居している。

 気味の悪さにフィオレが眉をしかめていると。

 

「フィオレさん!」

 

 スタンたちが追いついてきた。

 

「感傷にひたるのは勝手だが、独断行動を取るんじゃない」

「そうですよ。何があったのかもわからないのに、危険じゃないですか」

「──すみません」

 

 棒読みになっているのをわかっていて、フィオレは彼らに背を向けた。

 注意をされて拗ねているわけでもなければ、膨れているわけでもない。

 唐突に、どこか扉を叩くような音がしたのだ。

 

「誰かいませんか……?」

 

 気のせいではない証拠として、そんな呟きが聞こえる。

 更に神が何たら言っているが、それはどうでもいい。

 しかしこのようなことをのたまうということは、聖職者である可能性が高かった。

 

「おい、言ってるそばから貴様という奴は……!」

「──その声、アイルツ司教ですか」

 

 エントランス上部、主に神殿関係者が使う、知識の塔への通用口。

 階段を登って声をかければ、扉の向こうにいると思われる相手は驚きに声を跳ね上げた。

 

「誰かいるのですか!? 私は確かに、アイルツと申しますが……」

「ご無沙汰しております、フィオレです。数ヶ月前、神殿に世話になっていた」

「フィオレさん!? どうしてここに……」

 

 それを説明すれば、また無駄に時間が経過する。

 まずは扉を開けるよう指摘するも、どうやら立てこもっているわけではないらしい。

 

『結界が張られているな』

 

 ディムロスの言葉に従って見回せば、確かに扉の周囲には奇妙な儀式道具めいたものが宙を浮いている。

 

『これは……大昔に使われていた代物ね』

『どこかにある結界石を壊さなきゃだめだよ』

 

 ソーディアンズはそう言うものの、少しでも時間のロスを省きたい。

 どこかにあるものを探して広い神殿内をうろうろするなどと、そんなことをしていられる気持ちの余裕は今のフィオレにはなかった。

 

「ちょっと下がっていてください」

「おい、何をするつもりだ。シャルの言うとおり、結界石とやらを……」

 

 リオンの言葉など一切聞かず、フィオレはすでに集中を始めている。

 果たしてこの世界に、第零音素(ベースフォニム)が存在するかはわからない。

 それでも、試さずにはいられなかった。

 

「奏でられし音素よ。紡がれし元素よ。穢れた魂を浄化し、万象への帰属を赦さん──」

 

 結界装置と思わしき物体に向けた手の中に、仄かな輝きが灯る。

 そのことにより、ある事実を知ったフィオレだったが、動揺する素振りは見せずに術を編み上げた。

 発生した譜陣がフィオレ──術者本人と、対象の儀式道具の真下に出現する。

 

「ディスラプトーム!」

 

 光を宿した手を、足元の譜陣へと押し付けた瞬間。

 譜陣は眩い輝きを放ち、誰もの視覚を奪い去った。

 

「うわっ」

「きゃあっ!」

『おい、今度は何を……』

 

 咄嗟に目をかばえなかった約二名が悲鳴を上げるものの、効果範囲が狭く限定されていたためなのか、輝きはすぐに消滅している。

 視界が晴れたそのとき、フィオレを除いた一同は驚きに目を見張った。

 不気味な髑髏が、それを護るよう浮遊していた球体が、扉の直前を陣取っていた魔法陣が、消失している。

 

『……結界が、消失しているわ。まるで初めから何も、なかったみたい……』

『フィオレ、今のは初めて見たよ! ほんとに君の手品って、一体……!』

「失礼します」

 

 思った以上に平気な身体を動かし、スタスタと扉に近寄って取っ手に手をかけた。

 開いた扉の先には、荒々しく開かれた扉にか、それともフィオレ自身にか。とにかく驚いた顔をしたアイルツ司教が立っている。

 他にも数名の、神殿関係者と思しき人間が不安そうな顔でこちらを見つめているものの、フィオレが最も見たかった顔はない。

 フィオレが内心で落胆している間に、リオンはアイルツ司教に話しかけていた。

 

「司教か。大司教のマートンはどうした?」

「マートン様は……大司祭グレバムの造反により、命を落とされた……」

「で、例のものはどこにあるの?」

 

 アイルツは苦渋に満ちた表情と声音でそれを伝えるも、ルーティはまったく空気を読んでいない。

 司教は突然切り替えられた話題に、目を点にしている。

 

「は? なんですって?」

「ルーティ。それなら私が知っていますから、聞き出さなくとも結構です」

 

 ならば早く確かめに行こう、とせかすルーティをなだめて、フィオレは混乱しているアイルツに頭を下げた。

 

「突然の訪問と、仲間の無礼をお許しください。私たちはセインガルド国王の勅命を受け、神殿にて発生した異変の調査に参りました。それを踏まえてお話いただきたいのですが……フィリアは、今どこに?」

 

 その名を出した途端、アイルツ司教の顔色が変わる。

 あまりいい報告は聞けないとの推測はできたが、それだけでは諦める気にはなれなかった。

 が、しかし。

 

「……フィリアなら、この騒ぎが起きる少し前に、グレバム様に呼ばれて大聖堂へ行ったのを見たわ」

 

 答えたのは知識の塔一階の司書を務める女性神官である。

 フィオレもその顔には覚えがあった。

 ──何せ彼女はフィリアの同期であり、若くして司祭の地位に立つフィリアに何かと陰口を叩いていた人間達の一人だったから。

 

「その直後よ。いきなり神殿に魔物が溢れて、その騒ぎでマートン様は……! フィリアは普段、グレバム様に何かと目にかけられていたから「フィリアがいないからって好き勝手抜かさないでください。司祭が大司祭に近しいのは当たり前のことではありませんか、平神官と違って」

「な、何ですって!」

「何か違うことでも? ともあれ、情報提供ありがとうございます」

「何よ、フィリアの金魚のフンだったくせに! 何を偉そうに……!」

 

 彼女の言っていることが本当だとすれば大事である。

 いくらでも浮かんでくる仮定をすべて振り払い、何か喚いている司書を完全に無視して、フィオレはくるりときびすを返した。

 

「行きましょう」

「ま、待ってください!」

 

 アイルツ司教の制止など聞かず、有無を言わさぬ勢いで知識の塔から出て行く。

 しかし、彼はフィオレの腕を掴んで立ち止まらせた。無論のこと、それを許せるフィオレではない。

 無言のまま荒々しく振り払い、一同に困惑を与えてから平静を装って何用かと尋ねた。

 

「まさか、ご神体のところへ行くつもりでは」

「そこ以外のどこに行けと言うのです」

「しかし……」

「神殿に異変があった時点で、あれに異常がないかを調べるのは当たり前のことでしょう。そしてフィリアが連れて行かれているんです。というか、それを知っていて今の今まで放置していたあなたを軽蔑します」

 

 もしも知らなかったというのなら、彼は司書に何故それを言わなかったのか、小一時間は問い詰めていることだろう。

 それ以上アイルツに取り合うことなく、大聖堂へと足を向けた。

 途中、結界石とやらを探せば見つけていたであろう神官の骸が転がっているのを何度となく発見する。いずれも神殿内を闊歩していた魔物に食い荒らされており、死因もわからない悲惨な状態となっていた。

 その中には当然、フィオレも覚えている人間たちだったものも含まれている。

 ──フィリアも、そうなっているのかもしれない。

 彼女はフィオレと共にご神体に至るまでの道を発見している。そこに目をつけられ、案内させられたのではないか、とフィオレは検討をつけていた。

 嫌な想像を振り払うように、行く手を阻む魔物を斬り捨てては進む。

 

「ひぃっ!」

 

 結局ついてきたらしいアイルツが残骸を、斬り捨てられた魔物を見て悲鳴を上げているようだが、気にしない。そんな余裕はない。

 たどり着いた大聖堂は、特に何の変化もなかった。どこか破壊されているわけでも、ご神体に通じる地下道が開いているわけでもない。

 

「ほら、何もないでしょう。ですから……」

「実物を確認しないことには何ともいえません」

 

 どう見ても行き止まりでしかない大聖堂を見回して首を傾げているルーティらを尻目に、あの時偶然近づいた祭壇まで進む。

 自分が寄りかかった場所を思い出して、調べてみると。押し込むような形の突起がひとつ、ぽつんと存在している。

 迷うことなくそれを押し込んだ、その時。

 

「ああっ、罰当たりな!」

「な、なんだ!?」

 

 あの時と同じような地響きが起こり、床が動いてぽっかりと地下道の入り口が姿を現す。

 身を翻して階段を下り、薄暗い地下道を通り抜けて二つ並んだ扉の前に到達した。

 ──以前は大聖堂に近づくだけで反応したのに、ここへ至っても手甲のレンズの反応はない。怖々と扉を開けた先に、かつてフィオレの見た光景は存在しなかった。

 台座は部屋の壁もろとも半壊しており、水路によって周囲にたゆたっていた水は床に伝ってダダ漏れしている。

 残されているものといえば、台座から少し離れた場所に、等身大の石像がぽつんと立っているだけだった。

 

「そんな、ばかな……」

 

 アイルツはただ呆然と台座を眺め、他のメンバーもどうやら神の眼がなくなっているらしい、という事実に気付き始める。

 そんな中、フィオレは一人、黙して石像に歩み寄った。

 もともと置かれていたものかもしれない。しかしこの、特徴的なおさげ髪は見覚えがありすぎた。

 

「フィリア……?」

「なんですって!」

 

 その出来栄えときたら、まるで生きているかのよう。

 特定の魔物が持つ石化の視線に魅入られたのだろうとわかっていながら、その精緻な彫刻にフィオレが思わずその名を呼ぶと、アイルツもまたすっ飛んできた。

 仲間たちも、またぞろ集まってくる。

 

「例の知り合いか?」

「……生きているのなら」

 

 石化は、命を永遠に保持しておく手段にはならない。ある一定の時を過ぎてしまうと、石化は本物の石像を作ってしまう。その時は、状態異常を快癒するパナシーアボトルを使っても石化は解けない。

 そして、神殿の異変が発生してから今日までの経過時間を考えると……彼女の生存は、絶望的だった。

 

「……どいてろ。パナシーアボトルを使う」

 

 リオンもそれを予想しているのだろうか。躊躇しているフィオレを押し退けて、パナシーアボトルを取り出す。

 しかし、それが使用されても。

 フィリアの様子は、なんら変わることはなかった。

 

「……」

「フィオレさん……」

「確か、あの神官は敵の仲間だと言っていたな。仲間割れでもしたというのか……?」

 

 呆然とフィリアを……石像を見つめるフィオレとアイルツを尻目に、リオンは独自の推察を語っている。

 

「ねえアトワイト、どうにかならないの?」

『……確かに私にプログラムされた晶術の中には、石化を解除するものもあるわ。だけど、今のあなたに扱えるほど簡単なものではないし、使ったところで、完全な石像を元の人間には戻せないの……』

「そんな……」

 

 その瞬間、フィオレの中で何かが切れた。

 

「……認めない」

「え?」

「冗談じゃねーよ、クソッタレが! ふざけた真似しやがって!」

「ふぃ、フィオレさん!?」

 

 勢いよくその場に膝をつき、壊れた水路から床に零れる水に両手を押し付ける。

 ──これまでフィオレ自身の力、後付された身体強化の刺青の力を使っても、どうしても発動させられなかった術がある。

 かつてはフィオレが存在していたオールドラント。

 世界を構成していた、第一から第七の音素(フォニム)に基づく意識集合体達。その一柱、第四音素意識集合体ウンディーネより賜った、あらゆる状態異常を快癒する術だ。

 如何なる術であれ、道理に従わず無理やり起動させれば、身体を構成する音素(フォニム)と元素のバランスが崩れて、肉体は自壊し精神は崩壊する。

 しかしそれは、オールドラントにいた頃の話。

 世界の理もよくわからない、自分の存在さえもがあやふやなこの状態で、使えばどうなるのか。まったく検討はついていなかった。

 それでも、ためらうことはとうに意識から飛んでいる。

 彼女を助けたい。彼女が息をしてくれれば、また笑ってくれればそれでいい! 

 

「命よ、あるべきままに。常なる流れ、健やかたらんことを──!」

 

 左手の甲に張り付いたレンズに、十分すぎるほどの第四音素(フォースフォニム)が宿る。

 立ち上がり、フィオレは祈るような想いで、まるですがるかのように手をかざした。

 両の手のひらから、頼りないほど仄かで、柔らかな光が零れてフィリアを包む。

 光が当たるその場所から、彼女を覆い尽くしていた灰色の外殻は徐々に消滅した。

 しかし。

 

「……っ」

 

 使えたことには驚いたが、やはりフィオレ自身も無事には済まなかった。

 神経をむき出しにされて撫で回されているような、寒気を覚えるような痛みがじんわりと現われ始めている。

 その痛みがピークに達し、指先にぬるりとした感触を覚えた時。

 懐かしい声が、金切り声で再生された。

 

「いけません、大司祭様! それに触れては──!」

「フィリア!」

 

 アイルツが彼女に駆け寄ったのをいいことに、強烈なめまいを自覚して立っていられなくなったフィオレがその場に崩れ落ちる。

 それを支えてくれたのは、スタンだった。

 

「しっかりしてください。あの子、助かりましたよ!」

「……よかった」

 

 小さく息をつき、スタンに礼を言ってから自分の力で立ち上がる。

 記憶が混同しているのか、混乱しているフィリアをアイルツが落ち着かせている間に、ルーティがやってきた。

 

「あんた、一体何したのよ。手が血だらけじゃない」

「ちょっと無茶をしただけですよ。指先の毛細血管がいくつか、破裂したようです」

『それはちょっと無茶、じゃないわ! 毛細血管の破裂なんて、よほど身体に負荷のかかるようなことをしない限りありえないわよ』

 

 ソーディアンとマスターともども、ブチブチ言いながら治癒晶術を行使している。

 治療を終え、少し気力を回復させたフィオレは、改めてフィリアに話しかけた。

 彼女はリオンから尋問されているものの、未だに落ち着きを取り戻していない。

 

「たっ、大変なんですっ! でも、まさか、大司祭様に限ってそんな……ああ、なんという事を……」

「いいかげんにしろ! お前の長話に付き合っている暇はない!」

「落ち着いてくださいリオン様。威圧してどうするんですか」

 

 額に四つ角を刻んで怒鳴るリオンをなだめて、フィリアと視線を合わせた。

 途端、フィリアのつぶらな瞳がまん丸に見開かれる。

 

「フィオレ……さん!?」

「はい。ご無沙汰しております、フィリア」

 

 積もる話は置いといて、とにかく何があったのかを──彼女の上司である大司祭が何をしたのかを尋ねた。

 

「この部屋に安置されていた、ご神体を──いいえ、神の眼を持ち出したのです!」

「何っ!」

『神の眼を持ち去っただと!』

『そんな、まさか……』

 

 ──結局、そういうことなのか。

 彼女の証言とアイルツの証言を照らし合わせて、この度の騒ぎはグレバムとかいう人間の所業になる。

 

『神の眼を取り返すんだ。あれは人間の手に委ねるべきものではない』

「取り返せって言われたって、そもそも、その神の眼ってのは一体、何なんだよ?」

『神の眼はな、この世界を滅ぼしかねないだけの力を秘めた巨大レンズなのだ!』

「世界が滅ぶって? そんな、おおげさな……」

『かつて、この世界はその神の眼の力によって滅亡の危機に直面したのだ』

『この辺境の神殿の地下に封印されていた物を……まさか、奪われるなんて……』

 

 神の眼が持ち去られたと聞き、ディムロスもアトワイトも一刻も早く取り戻すよう主張している。

 しかし、そんな主張をせずとも、この事態を看過しておくわけには行かない人間がここにいた。

 

「案ずるな。このままグレバムとか言う奴の勝手にはさせない!」

 

 任務が絡んでいるからだろうか。

 珍しくリオンは語気を荒げてソーディアンたちの不安を払拭している。

 

「だが、これでお前らが自由の身になれるのは随分先になりそうだな」

「はあ、仕方ないわね……乗りかかった船だもん」

「わかった。行こう!」

 

 続くリオンの皮肉気なもの言いだが、場合が場合だと判断しているためにルーティはため息交じりの同意を呟いている。

 マリーも特に文句はなく、スタンもまた新たなる決意を固めていた。

 何にせよ、協調性を養うのはいいことである。

 そこへ。

 

「あ、あの……」

 

 おずおずと、か細く可憐な声がした。

 一同が目を向ければ、そこには石像と化していた少女の姿がある。

 

「わたくしも、連れていってくださいませんか?」

「敵のスパイを連れて歩く趣味はない」

 

 しかし、リオンは考えるまでもなく却下を下した。

 とりあえず。

 

「スパイと決め付ける理由を述べてみてくれませんか?」

「こいつは敵の部下だったんだろう。裏切らない危険性がどこにある」

 

 彼の言っていることに矛盾はない。

 スパイと決め付けるのは早計で、正しくはスパイになる危険性がある人間、だが。

 そこでフィリアは気丈にも、尖るリオンの視線を真っ向から受けて言い募った。

 

「わたくしは大司祭様を止められなかったことに責任を感じているんです。お願いです、どうか一緒に行かせてください」

「わかりました。じゃあ、行きましょうか」

「おい、勝手に決めるんじゃない!」

 

 二つ返事で了承したフィオレに、もちろんリオンは怒っている。

 しかしフィオレとて、単なる私情でそんなことを言ったわけではない。

 

「リオン様。私はグレバムとかいう大司祭を知りません。言葉を交わすことはおろか、顔を見たこともないんです。何を言いたいのかは、わかりますよね?」

 

 つまり、この面子だけでグレバムを追うことは、不可能ではないが難しい。

 当初フィオレは似せ書きや特徴、そしておおまかな性格などを神殿関係者から聞き込んでいくつもりだった。

 しかし、グレバムが上司であったフィリアを連れて行くのであれば、影武者を掴まされることはなくなる。

 加えて性格なども多少はわかるだろうから、やりようによっては裏をかくこともできるのだ。

 対してリオンは、疑惑の目をフィオレに向けている。

 

「……お前、こいつの望みを叶えるためにでたらめを抜かしているんじゃないだろうな」

「それは違います。フィオレさんの滞在中、彼は巡礼の旅に出ておりましたから。フィオレさんは一度たりとも、大司祭とお会いしておりません」

「司教様が嘘を言っていないことは、神殿関係者から聞き込めばすぐにわかることです」

 

 しかしあっという間に言い返され、押し黙るしかない。

 その間に、フィオレはフィリアに眼を向けた。

 

「と、同行はむしろ歓迎しますけど。私たちは間違いなくグレバムと戦うことに……ひいては神の眼を巡って、殺し合いに繰り広げるやもしれません」

「!」

 

 殺し合い、と聞きつけて、フィリアは表情をはっきりと曇らせている。

 フィオレのわざとらしい言葉に、ルーティもまた同意した。

 

「そうよね……いいの? かつての上司が死ぬところ、見るかもしれないわよ」

「はい。覚悟はできております」

 

 しかし、フィリアの意志は揺るがない。

 まっすぐにルーティを見返し、しっかりと頷いて見せた。

 その眼を見て、マリーもまた頷いている。

 

「いい眼をしている。嘘やごまかしを言っている眼じゃない」

「そうね。その根性、気に入ったわ。連れて行きましょ」

 

 スタンは表立ってこそ同意をしていないが、そのひたむきな態度に惹かれてか、意見はルーティとそう変わらないらしい。

 一対多数がわかっていてか、フィオレの意見を最もだと思ったのか。

 リオンは小さくため息をついたかと思うと、おもむろにフィリアを見た。

 

「おい、グレバムの奴を大司祭と呼ぶのはやめろ」

「え?」

 

 唐突な命令にフィリアは目を丸くしているものの、彼の言葉は止まらない。

 

「あいつは僕たちの敵だ、わかったな!」

「──意訳、同行するならそれくらいは受け入れろ、ですか」

 

 同行を許してもらえたことがわかり、フィリアはホッとしたように微笑んだ。

 しかし、それならそれですることがある。

 

「さて、それではまず情報の共有からですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実際にはパナシーアボトルで何とかなっています。
ひょっとしたら石化で延命措置、コールドスリープ的なこととかできるかもですが、この作品の中でそれはできないということで。
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