swordian saga   作:佐谷莢

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 ストレイライズ神殿~ダリルシェイド手前。
 フィリアを仲間に加えて、まずは神の眼紛失の報告を行うべく、ダリルシェイドを目指します。
※フィリアは、今の時点ではパーティ入り(戦闘参加)せず、同行者という形です。


第四十二夜——二度目の旅立ち

 

 

 

 

 

 

 

 

 神の眼は奪われ、大司教マートンは殺害されていた。

 王命を受けている彼らには、まずはこの事実を国王へ報告する義務がある。

 それでも、神殿で行うべきことは多い。

 

「旅支度をしてきてください。その間に、こっちはやることをやっておきますから」

 

 生存者の確認から亡骸の回収・弔いに、神殿内に入り込んだ魔物の排除。

 それらを行う間フィリアには出立準備を急がせ、フィオレは亡骸の回収班に加わっていた。とはいえど、そのまま回収できるような亡骸など無きに等しい。

 魔物に食い荒らされていることもさながら、遺体は何日も放置されていたのだ。

 リネン室から大量のシーツをかっぱらい、それで亡骸を包んでひとところに集めるよう指示をする。普段それを使っている神殿関係者からは大ブーイングが放たれたが、知ったことではなかった。

 折りよく、ダリルシェイドを出る前に軍部で申請しておいた救援隊が到着する。

 その隊長に事情を話し、残っていた仕事の引継ぎを終えて、フィオレたちは神殿前の門扉に集合した。

 

「さて、長い付き合いになると思いますので紹介でもしておきましょうか。こちらはストレイライズ神殿司祭、フィリアです。神殿付近で倒れていた私を保護し、色々面倒を見てくれた恩人でもあります」

「フィリア・フィリスです。どうかよろしくお願いします」

 

 時間が惜しいので歩きながらの会話である。

 そのまま、フィオレは一同の紹介を続けていた。

 

「黒髪で目つきが悪いのがリオン様、私の上司で正真正銘のセインガルド王国客員剣士です。小さいとか面と向かって言うと怒りますからご注意を。あと普段冷静ぶってるくせに結構短気なので、おちょくったりしないほうがいいと思います。その腰に下がっているのがソーディアン・シャルティエですね」

「これが、ソーディアンなのですか……」

 

 紹介文句がお気に召さなかったのか、リオンは半眼でフィオレを見ている。

 構うことなく、フィオレは続けた。

 

「黒髪で露出過多なのがルーティ、筋金入りの守銭奴です。小銭を落としたら回収は不可能だと思ってください。所持するのはソーディアン・アトワイト。我慢できないような怪我を負った際は彼女に申告してください。アトワイトは治癒を得意としていますから……有償か無償かはわかりかねます」

「ちょっと、筋金入りの守銭奴って……」

「違うんですか?」

『まったくもってその通りよ。とってもたくましい子に育ってくれたわ』

「ええ、ええ、どうせあたしはがめつい女。なんか文句ある?」

「いえ別に。吝嗇は美徳です」

 

 やはり紹介文句を気に入らなかったルーティが噛み付いてくるものの、特に謝る理由はない。

 彼女は自他共に認める「筋金入り」の守銭奴である。

 

「続けますよ。金髪の戦士風はスタンです。基本的にはいい人なんですが、どこか抜けているところがあるのは否めません。リオンいわくトリ頭なんだそうです。あと、ド田舎のご出身だそうで。彼の腰にさがっているのがソーディアン・ディムロス。つい最近までセインガルド王国が認める国宝でした」

「フィオレさん、抜けているって……」

 

 スタンもまた文句があるらしいが、フィオレは彼女の可愛らしい勘違いに気を取られていた。

 

「こ、国宝! スタンさんは間が抜けてド田舎出身ですのに、国宝を貸与されるほどの方なのですか?」

「いえ、ディムロスが彼をマスターと認め、事態が事態だから貸与が許されています。戦闘中、いきなり炎が発生したら彼の仕業ですので、いちいち騒がないでくださいね」

 

 最後に、フィオレはマリーの紹介を始めた。

 散々けなされた三人は、果たして彼女がどのような紹介をするのかを注目している。

 

「馬の尻尾みたいな髪形の大柄な女性はマリーです。やや好戦的なきらいがあります。料理の腕前が玄人級で、彼女とは安心して、楽しいお酒が飲めます。記憶喪失らしいので、好奇心旺盛な面があるようですね」

「マリーさんも記憶喪失なんですか!」

「ああ。よろしくな、フィリア」

「なんでマリーだけマトモなのよ……」

 

 そんなことを言われても、フィオレの認識がこうである以上、賛美することもけなすこともない。

 

「最後になりましたが、改めて。フィオレンシア・ネビリムと申します。現在はオベロン社総帥、ヒューゴ・ジルクリスト氏に雇われの身ですね。少し前まで客員剣士見習いでしたが、今はクビになるかならないかで揉めています」

「オベロン社の……?」

 

 神殿を出てから何があったのか、尋ねるフィリアにそれを答えようとして。

 脳裏の声に邪魔をされた。

 

『ねえフィオレ。どーして僕の紹介が名前だけなのさ。アトワイトもディムロスも、特徴とか紹介してるのに……』

「フィオレさん、どうかしましたか?」

「いえ、ソーディアン・シャルティエに紹介についてのクレームを頂きまして……えーと、フィリア。リオン様がいきなり小型のピコピコハンマーを発生させたり、大地から土塊が飛んできても、それはシャルティエの仕業ですから」

 

 シャルティエは満足そうに口を閉ざすものの、フィリアは頭上にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げている。

 それも束の間、彼女は目を見開いてクエスチョンをエクスクラメーションに変えていた。

 

「ソーディアンが意志持つ魔剣という伝説は、事実だったのですね!」

「いえ、魔剣かどうかは存じ上げませんが」

「では、神の眼にも自我がある、というのは本当なのでしょうか?」

 

 どこの文献から仕入れてきた情報なのだろうか。

 ソーディアンの声を聴くことはできないらしいフィリアが手近なソーディアン──アトワイトに向かって話しかけている。

 

『神の眼が自我を……? 聞いたことはないわね』

 

 その言葉に、ディムロスもシャルティエも同意を重ねた。

 彼らが知らないのか、それともそれが事実なのか。

 

「ソーディアンたちは知らないと言っています。でも、私もそれはないと思いたいですよ」

「どうしてですか?」

「もしも、神の眼に自我があるとしたら。今回の騒ぎは神の眼も承諾してのことになります。グレバムが何を企んでいるのか知りませんが、ろくでもないことだけは確かでしょう。それに神の眼が賛同したなどとは、考えたくありません」

 

 神の眼が『彼女』の本体だと仮定した場合、その説は正しいということの証明になるのだが。

 そういったことを考えると、間違っていてほしい。

 何となく沈んだ話になってしまったことに気付いて、フィオレは話題を修正した。

 神殿を出てからのことをつらつらと話しつつ、旅慣れないフィリアを気遣ってアルメイダに寄りながら、ダリルシェイドへと向かう。

 

「おい、もう少し早く歩けないのか」

「す、すみませ……「いいですよもっと早く歩いても。あなたが彼女を背負ってくださるというのならね」

 

 旅することに慣れていない人間の同道が、どれだけ一同の足を鈍らせるか。それはフィオレとて重々承知している。

 更に、行きの道はフィオレが先行していたのでほとんど足を止めることなく進んでいたが、フィリアの同道によりフィオレは責任もって、彼女の護衛を引き受けた。

 そのため道中の交戦はスタンたちが受け持つことになり、必然的に交戦の時間も長くなっている。

 

「痛ててて……」

「行く時、フィオレに頼りすぎたわね。もうちょっと楽に戻れるかと思ってたけど」

 

 突貫したスタンの傷を癒しながらも、ルーティが小さく弱音を零した。

 その光景を見据えてフィリアが唇を噛んでいるのに気付かぬフリをしつつ、周囲の警戒に専念する。

 やがて、明日はダリルシェイドにたどり着けるだろうと見据えた野営の場にて。フィリアはとある願いを申し出た。

 

「あの……わたくしにも、戦わせていただけませんか?」

 

 ──果たすべき役割の違いはあれど、目の前に傷つく人間を見ながら、のうのうと護られるだけに満足しない。

 彼女がそんな誠実な人柄であることは、フィオレがよく知っていた。そうでなければたとえ命の恩人であっても、彼女に対してこれだけ入れ込むほどの好意は持たなかっただろう。

 もちろん、一同は困惑を覚えている。

 

「戦わせてくれって……フィオレから聞いたけど、あんたそんな経験ないんでしょ?」

「それはそうなのですが、わたくしだけフィオレさんに護られて、皆さんに負担がかかるのは耐えられません。積極的に戦えなくとも、せめて自分の身は自分で守りたいんです」

 

 スタンがなだめても、マリーが説得にあたっても、彼女は頑として譲らない。リオンはといえば、責任を取れといわんばかりにフィオレに視線を送っている。

 一方フィオレは、荷袋を漁って小さなフラスコを取り出していた。

 

「フィリア、これを」

「これは……?」

 

 手渡されたフィリアの手の中で、フラスコに収められた正体不明の液体はゆらゆらと揺れている。

 

「どうしても戦うと、あるいは自分の身は自分で守ると言い張るなら、そこの茂みに思い切り投げつけてください。間違っても取り落とさないでくださいね」

 

 有無を言わさぬフィオレに気圧され、フィリアは言われたとおり、思い切り振りかぶってフラスコを投げつけた。

 ──予期していたことだが、あんまり飛距離は伸びていない。

 フィリアが体勢を崩しながらもフラスコを投げた直後、彼女をかばいながら一同にも下がらせる。

 茂みに着弾し、フラスコが割れて中身がぶちまげられた、途端。

 

 ドンッ! 

 

「きゃっ!」

 

 轟音、吹き付ける風が圧力となって吹きつける。

 顔を上げれば、フラスコを投げつけた茂みは炭の欠片だけが残り、大地もろとも吹き飛ばしていた。

 もしもこれを生物に投げつければ、一瞬にして命を奪えるだろう。

 

『ななななな、何今のー!』

「フィオレさん、今のって……」

「ヒドラジンと硝酸……いえ、劇薬同士を混合して生成してみた液状の爆薬です。思ったよりちょっと威力が小さめですが、自衛には丁度いいでしょう。威嚇にもなりますし」

「威力が、小さめ?」

「あれのどこがよ!?」

「私の想定よりは小さかったというだけです」

「すごい爆発だったな。巻き込まれたら、ただではすまないだろう」

 

 ただ混乱するシャルティエやあまりの威力に引いているスタン、驚きのあまりフィオレにくってかかるルーティに対し、マリーは茂みと、爆発の衝撃でコルクの破片だけ残ったフラスコのなれの果てを見ていた。

 そして、フィオレはどこか脅えたように茂みを見つめるフィリアを諭している。

 

「自衛するということは、相手を傷つけないことにはなりません。相手を傷つけるなら、自分も傷つくことを想定しないといけないし、それは当然殺し合いに発展することです」

「……!」

「殺す覚悟と殺される覚悟のお話は長くなるので今は割愛します。その覚悟があったところで、交戦技術を持たないあなたが本当に戦うのだとしたら、私ではこれくらいしか思いつきません。お望みなら生成方法をご教授しますが、やめた方がいいと思います」

「で、でも……」

「気持ちを察しないわけではありませんが、人には向き不向きがあるんです。下手に怪我をされても、ルーティとアトワイトの負担が増えます。わかってください」

 

 重ねてそれを言われ、フィリアは不承不承ながら頷いた。

 最後まで口出ししなかったリオンは、嘆息気味にフィオレを見やる。

 

「妥当な判断だな。てっきり本気で護身術でも仕込むかと思っていたが」

「それもいいですね。検討しましょう」

 

 ただし、彼女の身体能力を考慮するなら、本当に基本的なことしか教えられないだろうが。

 爆破されたと称するにふさわしい茂みを見入るフィリアに声をかけ、まずは筋力を測ろうと腕相撲(アームレスリング)を申し込んだ。

 おっとりと応じたフィリアではあったが……この後、フィオレは思わぬ驚愕に襲われることになる。

 

「フィオレさんて、腕相撲弱いんですね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけですよね。

殴るなら殴られる覚悟を。
罵るなら罵られる覚悟を。
殺すなら殺される覚悟を。

当たり前のことです。やられて困ることは自発的にするもんじゃない。
やられそうになったら、やっちまえばいいんじゃないですかね。
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