swordian saga   作:佐谷莢

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 カルバレイスに向かう最中の、船の中での出来事。

 フィリアの立ち姿では、クレメンテは常にむき出しで持ち歩いているようですが。
 実際に街中を歩くとき、常識的に考えてそりゃねーだろと考えた結果がこれです。


第四十六夜——ちくちくぬいぬい

 

 

 

 

 

 

 海竜まで戻った一同は、再び船長及び船員たちに度肝を抜かせつつも無事、シャルンホルスト号に帰還した。

 途中、海竜が何故動いているのかの説明を求めるとクレメンテいわく、「ベルナルドは素直じゃからのう」とのこと。飛行竜にルミナ=ドラコニスという名がつけられていることと同様、それも海竜の名前なのだろうか。

 更なる詳細を訊ねれば、クレメンテがこれまで収められていた施設の機材を通じて海竜のプログラムを少々いじり、送り迎えを自動操縦で行っていたらしい。更に彼は、目覚めてから動作確認をするべく、海竜を頻繁に動かしていたらしいのだ。

 とりあえず、噂の真相は突き止めた。

 

「おお、怪物が帰っていく……」

「お約束どおり、『何とか』はしました」

「感心している暇があったらカルバレイスへ急げ!」

 

 こっちの都合で寄り道したというのに、なんとご無体な。

 ストレスなのだろうか。普段より若干我侭なリオンにこっそり苦笑しながらも、フィオレはフィリアを……正確には携えられたクレメンテを見やった。

 その視線に気付いたフィリアが、何事かとフィオレを見返してくる。

 

「いくら切れ味鈍そうでヒビが入っているとはいえ刃物です。適当な鞘を拵えるまで、布か革で巻いておきましょうか」

 

 そんな提案をして、フィリアと共に船を練り歩く。

 船員たちに不必要な布か、あるいはなめし皮のようなものはないかを聞いて歩き。最終的に二人は予備の帆布を作る際、大量に余る麻のハギレを手に入れた。

 

「これをそのまま、刀身に巻きつければよいのでしょうか?」

「一応それで役割は果たしますが、咄嗟に使えませんし不恰好です。繕って装着できるようにしましょう」

 

 休憩室に裁縫道具を持ち込み、クレメンテの刀身を測って型を作る。麻布を何枚もその形に切断し縫い合わせ、更にその上から巻きつけるような形に布を縫い付けて、重厚な刃を包み込む形を目指した。

 出来上がる直前のこと。

 

「痛ッ!」

「船が揺れるから、致し方ないですね」

 

 人差し指から針を生やす、痛そうなフィリアの手を取って丁重に針を抜く。

 フィオレの所持する裁縫道具は、半年以上前に購入したものだ。頻繁に使っているため錆びなどはないが、あまり清潔ではない。

 薬箱を持参して正解だった。

 

「ふぃ、フィオレさん!?」

「はい?」

 

 フィリアの抗議も聞かないで赤くなった指先をぱくりと咥え、傷口を舌で押さえて出血を促す。

 ちゅ、と音を立てて取り出した指先をアルコールで湿らせた脱脂綿で拭い、綿紗(ガーゼ)で覆って包帯の切れ端で固定した。

 何やら真っ赤になっているフィリアには触れないで、『おお』とか『愛いのう』とか『やはりフィリアにして正解じゃ』とか独り言をぶつぶつ言っているクレメンテを仮鞘に放り込む。

 

『……のう、お嬢さんたちや。これじゃと何も見えんのだが』

 

 初めから一時的な間に合わせのつもりで、やっつけ仕事で終わらせようとした。

 つまり大雑把に作ったせいか、クレメンテは出来上がった筒状の袋にすっぽりと入り込んでいる。結果、柄の一部が顔を出しているだけだった。

 

「それは後で調整します。ところで、どうやって持ち歩きます? 腰に差したら重さで腰紐がずり落ちると思いますよ」

 

 しかも、フィリアがもともと身につけていた腰紐は装飾用のもので、無理やり剣を手挟んだら破損する恐れがある。両手で持ち歩く、というのは論外だ。

 協議の結果、ショルダーバックのように肩にかけることにして、負担がかからないよう幅広の肩紐を作り、フィリアの身長に合わせた。

 あらかじめ肩の辺りで調節できるよう肩紐は長めに作成し、実際にフィリアが立って本人がちょうどいいと思う位置で結ぶ。

 

「こんなもんですかね。実際に歩き回ったら不都合が出ると思いますが、ちゃんとした鞘を手に入れるまでの辛抱です。カルバレイスで時間を見つけて、新調しましょう」

「わたくしは、このままでもいいと思いますが……」

「ンな不恰好な状態で歩き回ったらソーディアンが泣きますよ。抜剣するたびにほつれる鞘なんて」

 

 内側をなめし皮や蝋で補強しているのならともかく、外側も中身も重ねて縫い合わせただけの麻布だ。抜くどころか持ち歩くだけで、ソーディアン自体の重さにより破れていくことだろう。

 一度フィリアにクレメンテを支えてもらい、コアクリスタルが露出するよう鞘の長さを調節する。

 

「こんなんでいかがでしょう」

『うむ、苦しゅうない。にしてもお前さん、器用じゃの』

「淑女のたしなみです」

 

 実のところ欠片もそんな自覚はないが、過去への追求をはぐらかすにはかなり有効な方便だ。少なくとも、フィオレはそう思っているから多用している。

 

「とりあえず、カルバレイスに着くまでに武器を持ち歩くことに慣れておいてください。本当は抜剣や晶術の練習もしておいてほしいところですが、後者はともかく前者はそれをするだけで急ごしらえのそれが壊れます。くれぐれも、そっと取り出してくださいね」

「はい、わかりましたわ」

「あとは知識ですね。晶術を使うことに関しては、経験からしてスタンよりはルーティやリオンに聞いたほうが効率的かと」

 

 手元を動かしながらそんなアドバイスをしていると、噂をすれば影。それまで各々行動していたであろう面々が、休憩室へと集まってきた。

 時間帯からして、夕餉のためだろう。

 

「へぇー、これをあのハギレで作ったんですか。凄いなあ」

「で、あんたは何をやってるの?」

 

 分厚い布の袋に包まれたクレメンテを取って眺め回すスタンをさておき、ルーティが言うのは肩紐を手にしきりに手元を動かすフィオレである。

 

「このままではあんまりにも無骨なので、せめて彩りをと」

 

 言いながらも手を動かし、全体を見回して糸を切り、結ぶ。スタンからクレメンテ入りの鞘を受け取り、再び肩紐を取り付けた。

 そして判明したその図柄に、マリーがほう、と声をあげる。

 

「刺繍か。これは蔦、かな?」

「正解です。あんまり見られるものではありませんが、すぐ廃棄するものなら別にいいかと」

 

 出来上がったのは、フィリアの神官服の裾に描かれたものを参考にした図柄である。こちらもやっつけにつき、下絵も刺繍もあまりいい出来ではない。遠くから薄目で見れば、見られないこともないかもしれないが。

 

「そんなことありません。何から何まで、ありがとうございます」

「私にしてもらったことを考えれば、些細なことです」

 

 散乱した小道具を裁縫箱へ片付けつつ、さらりと返せば、それに興味を持ったのは不恰好な麻布製の鞘に包まれたクレメンテだった。

 

『んん? してもらったこととな?』

「フィオレさんは、わたくしがこれまで住んでいた神殿の近くでお倒れになっていたのですよ。その後記憶喪失だと判明しましたので神殿で保護したところ、親しくなりまして」

『ほぉ、記憶喪失。ほおー』

「……なんですか、その含みのある言い方」

 

 あまりにもわざとらしい感想に、ついつい噛み付いてしまう。予想通り、彼は飄々と返してきた。

 

『いやあ。浮世離れしとるようには見えたが、記憶喪失とな。それにしては随分、儂のことに熟知しておったのう』

「そりゃもう、何か手がかりはないかと文献を片っ端から読み漁りましたので。おかげで役に立たない雑学も色々仕入れました」

『……ほほう』

 

 今、僅かに沈黙があったような。発見当時のことといい、今の言動といい、追求はしたいが、フィオレとて埃を叩けばいくらでも出てくる身だ。表立っての追求は難しい。

 そんなことを思いつつ、リオンたちの到着を待って、夕餉兼フィリアとクレメンテ参戦を祝う乾杯が行われた。

 最も、明日にはカルバレイスに到着するということで、それは慎ましやかに終わったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜。

 割り当てられた船室のひとつ、フィリアと相部屋で休んでいたフィオレは、ふと聞こえてきた会話に何気なく耳を傾けた。

 

【……ときに、クレメンテ。あなたはフィオレのことを気にしていたが、何か心当たりでもあるのか】

 

 声音と口調からして、ディムロスのものである。

 そして耳鳴りがするこれはどうやら、ソーディアン同士のみで行う相互通信であるらしい。

 同じ船に搭乗している程度ならば、ある程度距離があっても可能だということなのだろうか。

 

【まあ、のう。お主がそれを気にするということは、あのお嬢さんに対して思うことがあるんじゃな?】

 

 自分の名が出された時点で、まどろんでいたフィオレの意識は完全に覚醒した。同時に、水を向けてくれたディムロスに深い感謝を捧げている。

 この二人の会話に、もれなく他のソーディアンたちも加わってきた。

 

【何なに? フィオレがどうしたって?】

【彼女に関しては、私も不思議な現象を目撃しています】

【何があったのかの?】

 

 クレメンテの問いに、二人は一瞬の沈黙をおいてそれぞれの体験を語っている。

 

【チャネリング現象を、何らかの補助を使って故意に起こしていることもあるが、何より私の晶力を搾取して、プログラムされていない晶術に似た現象を起こしたことがある。無論何だったのかを問い詰めたのだが、手品の一言ではぐらかされてな……】

【それは私も同じです。それと、彼女は巷で「隻眼の歌姫」と呼ばれているのだけれど、幾度も奇跡に近い現象を起こしているわ】

 

 自業自得であることは確かだが、そこまでして起こりうるすべての現象を解明したいか、ソーディアン諸君。

 フィオレとて同じことをされたら疑問を抱くに決まっている。しかし、フィオレすらも完全には把握していない要素もあるのだ。それを抜いても、すべてを話すことなどできなかっただろう。

 

【奇跡、とな?】

【歌で怪我を治したり、眠らせたりとかでしょ? 僕が知る限りではドラゴンと戦ったときに高密度の雷を発生させたり、ドラゴンのブレスから味方を護るバリアーみたいなのを展開したりとかもある。全部手品で誤魔化されたけどね】

 

 シャルティエから詳細を聞いていたクレメンテは、すべてを聞き終えてふむ、と呟いた。

 

【やはりか……まあ、それも仕方あるまいて】

【何故だ】

 

 それについてはディムロスに同意する。何故フィオレの事情など一切知りえないはずの彼が、そんな風に思うのか。

 その問いに、クレメンテは思いもかけない一言を一同に発信している。

 

【先に告げておこう。あ奴の起こす事柄に対し、いちいち言及するでない】

 

 無論のこと、彼らは反発した。

 

【どうして。確かに無理やり問い詰めたところで、意味ないだろうけど……】

【クレメンテは、彼女の正体について心当たりがあるのですか?】

【それはお主らも知ることと同じじゃ。それ以外は何もない。そして、おそらくは無関係じゃて】

 

 ひどく意味深な一言である。しかし、この一言で彼らは一様に沈黙した。

 ソーディアン一同の共通知識として、フィオレに関するかもしれない情報があったというのか。

 それにしては、フィオレと初めて対面した彼らにそれらしい反応はなかったのだが……それだけどうでもいいことだったのかもしれない。

 

【……ならば、何をもって】

【それについてじゃが、お主ら天上王のことは覚えておるな?】

 

 その単語がクレメンテの口から出た瞬間、通信内の空気が完全に固まった。確か、その単語が示す人物の名は──

 

【忘れようにも、無理よ。天上王ミクトランのことなど】

【うーん……あれから千年くらい経ってるけど、未だにはっきり覚えてるよ。まあ、凍結されて目覚める間のことなんてほとんど覚えてないから、当たり前だけど】

【ミクトランが、どうしたというのだ。まさか彼女は、奴の】

【落ち着きなさい、ディムロスや。子孫だの血縁だの、そういう話ではない】

【ならば──】

 

 ならばなんだというのか。

 クレメンテから発されるであろう答えを望んで、フィオレが小さく唾を飲んだ、そのときのこと。

 

【うむ。捕らえた】

(へ?)

 

 そんな言葉がクレメンテから発された途端。

 抗う、という意志が発生するよりも早く、フィオレの意識は闇に呑まれた。

 

 

 

 

 フィオレの意識が深淵へと突き落とされた頃。

 突如として意味不明な発言をしたクレメンテに一同は騒然となっていた。

 

【何をなさったのですか、老?】

【なぁに。儂らの通信回線にハッキングしてきた輩がおっての。強制排除しただけじゃよ】

【ハッキング……? どうやってさ! 当時天上側にも盗聴できないよう、複雑化に複雑化を重ねていたってのに】

 

 さらりと言い切るクレメンテに、嘘だと思いたいのかシャルティエが反論する。しかし、彼の発言が覆ることはなかった。

 

【事実じゃよ。まあ、本人にはバレんようやったからな。つい寝てしまったとでも思うじゃろ】

【……ハッカーの正体は、やはりフィオレなのか?】

【やろうと思ってやったわけではなさそうじゃがな。無意識に儂らの会話を拾ってしまったんじゃろうて】

 

 どうしてこうも、次から次へと仮説が立てられるのか。それをディムロスが尋ねるよりも早く、クレメンテは説明した。

 

【おぬしらは早々に凍結されたから知らんじゃろうが、ミクトランの亡骸からは通常、人が備えるわけがない器官が発見されておる。何故あ奴がそんなものを持っていたのか、そもそも何故それが存在するかは、儂にはわからんかったが】

【……それで?】

【おそらくフィオレは、それと同じものを持っておる。本人からとフィリアから聞いた話、そしてお主らから改めて聞いた話を統合すれば、十中八九間違いない】

 

 当然のこと、ミクトランの亡骸から発見された器官の詳細についてソーディアンたちは質問している。

 そしてその詳細を聞いたとき、彼らはその衝撃にしばし、閉口していた。

 

【そんなことが……】

【下手に真相を聞きだそうとすれば、第二のミクトランが生まれかねん。フィリアの話を聞く限り、その可能性は零に等しいと思っておるがの】

【まあ、フィオレって捻じ曲がってるように見えたかと思えば結構真っ直ぐだし、真っ直ぐかと思ってみれば割と歪んでるような気がするし。可能性がないわけじゃないけど】

【シャルティエ。フォローになってないわ】

【無理に排除せんでも、今の一言で馬脚を現していたかもしれんなあ】

 

 当人がいないことをいいことに、放たれた暴言も何となく重い。

 フィオレが最も知りたかった情報は隠されたまま、夜は明けた。

 

「なんであの時寝ちゃったんだろう……!」

「ど、どうしたんですかフィオレさん! 枕に頭を埋めてバタ足の練習なんて……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




果たしてクレメンテはソーディアンズに何を語ったのか。
そしてこの辺りの伏線、回収できる日は来るのでしょうか。

……回収できるといいなあ。
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