swordian saga   作:佐谷莢

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 カルバレイス、カルビオラ到着。
 見知らぬ少年を助けて、神殿に探りを入れて、占い師の言葉に腹を立てて。



第五十一夜——零れた本音と占い師の言葉

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の昼、一同は何事もなくカルビオラに到着した。

 地図からして砂漠のど真ん中であることを覚悟していたが、オアシスを切り開いてコミュニティを作り、そのまま時代の流れに沿って街へと移行した印象が強い。

 豊かな水源に、ちらほら見受ける緑の気配。大通りの向こうにでんと構えるは、寺院を思わせる大きな建物だった。

 

「あれがカルビオラの神殿か?」

「周囲の建物と建築様式が明らかに異なっています。断言はできませんが、おそらくは」

「にしても、あれが立派なせいで周りの建物がえらいショボく見えるわね。まあ、もともとそうだけど」

 

 マリーの質問に答えつつ、ルーティの感想を聞いて小さく肘でつつく。

 どんな感想を抱こうと彼女の勝手だが、もう少し声のトーンを落としてほしい。

 

「とにかく、行ってみればわかりますよ」

「待て。そんなことをすれば、追っ手の存在をわざわざ教えてやるようなものだ」

 

 セインガルド港での手法を繰り返そうとしてだろう。さっそく神殿へ行こうとしたスタンを、リオンがいさめた。

 

「じゃあどうするんだよ」

「何のためにフィリアを連れてきたと思ってるんだ。巡礼者だと思わせて、神像だと思われている積荷のこと、お前の上司だったグレバムのことをそれとなく聞き出してこい」

 

 もともと、彼の中でフィリアの役割はそれでしかなかったのだろう。よどみなくリオンは彼女にそう命じた。

 しかし。

 

「一人で行かせる気かよ! 本当にグレバムが潜伏してたら、危ないじゃないか!」

「そうよ。いくらクレメンテがついてるからって、有無を言わさずとっ捕まったらたまったもんじゃないわ」

 

 フィリアの身を案じる二人がブーイングを放つ。

 当の本人は何を言うでもなく勃発した争いに双方をなだめようとおろおろしており、マリーは傍観どころか我関せずとカルビオラの街並みを物珍しげに見回している。

 リオンはリオンで逆らわれたことに対し、今にも額冠操作盤を取り出さん勢いで額に青筋を浮かべていた。

 とりあえず、敵方の総大将であろうその名を怒鳴るのはやめてほしい、スタン。

 さてどうやって仲裁したものかと口を開こうとして、噤む。ふと、子供の甲高い声が聞こえたような気がしたのだ。

 

「フィオレもそう思うでしょ……って、ちょっとどこ行くのよ!」

 

 ルーティの言葉を尻目に、フィオレは唐突に走り出した。

 先ほど見かけた水源のほとり、小さな人影と異形の何かを風精の視界を通して発見したからである。

 何事かと思ったのだろう。後ろこそ振り返っていないが、一同は争いを中断して追いかけてきた様子だった。砂を蹴る音が人数分聞いて取れる。

 カルビオラの街を囲う塀の一部が壊れており、街に入る際見た水源のほとりと繋がっている。

 その先に、少年と……少年に迫る魔物の姿があった。

 少年は、自分より小さいとはいえ魔物相手に罵詈雑言をふるっている。しかし、効果はないようだ。

 本来知能を持たない、動物の形をした魔物は、それでも雰囲気から自分の悪口を言われていることがわかったらしい。じりじりっ、と少年に詰め寄っていく。

 その光景を見て、我先に駆け出したのはスタンだった。

 

「何してるんだ。危ないじゃないか!」

「……邪魔しないでよ!」

 

 その声に、僅かな喜色を浮かべた少年だったが、スタンの様子からして他国人であることを見破ったらしい。顔をしかめて、ぷいとそっぽを向いた。

 

「街は俺様が守るんだい! ヨソモノの力なんて借りれるもんか!」

「……なんか、むかつくガキね」

 

 とはいえ、これがカルバレイスに住まう子供の本音だろう。やはり親から受けた影響というのは、計り知れない。

 どうでもいいが、魔物を前にしてそっぽを向くのは危ない……と思っていた矢先に、その心配は現実のものとなった。

 そんなことを言っている場合じゃないと、スタンは子供を避難させようとして、少年はそれに力の限り抵抗している。

 その間、魔物が空気を読むはずもなく。

 互いしか見ていなかった二人に、魔物──シースラッグなるなめくじ型の魔物、そしてカトルフィッシュなる空中を漂うイカのような魔物が襲いかかった。

 

「さがりなさい!」

 

 咄嗟にその間に割り込み、紫電を一閃する。

 小さいからといって油断すると酸の塊を吐いてくるシースラッグの一刀両断は成功するものの、紫電は一振りの刀でしかない。二体の、サイズが違う魔物を一度に倒すのは無理だった。

 シースラッグに構っている隙に、ゲソに似た触手がフィオレの腕に絡みつく。瞬く間に噛みつかれ、血潮が吹き出すのを感じながら本体に刃をつきたてた。

 

「フィオレさん! 大丈夫ですか!?」

「何をしているんだ。馬鹿者」

 

 動脈をやられたらしく、傷口の大きさにしては出血が止まる気配はない。

 素早く血止めをしてから、フィオレは少年を見やった。

 

「な、なんだよ! あんなの俺様一人で全部倒せたもん!」

「その様子からして、お怪我はなさそうですね」

 

 妙に顔色が青いことから出血でもしているのかと思ったら、そうではないらしい。それなら心配することは何もなかった。

 少年は何を言われたのかを把握し損ねた様子である。一瞬遅れて、答えは返ってきた。

 

「な……何言ってるんだよ。あんたは怪我したじゃないか」

「街を守るために、一人で魔物に立ち向かったんですよね。だったら、ヨソモノがどうなったところであなたの知ったことではないでしょう」

「……そっ、その通りだよ! 余計なことするなよな、ばーか!」

 

 その場から脱兎の勢いで立ち去った少年を見送るでもなく、ただ言葉をなくして少年を追いかけようとするフィリアをいさめる。

 

「フィリア、子供は素直な生き物です。大人になったらそうではいられないのですから、今のうちくらい好きにさせてあげなさい」

「ですが……なんて礼儀のなっていない……!」

「文化の違いでしょう」

 

 フィオレはそれ以上、少年に関心を寄せることはなかった。寄せるだけ無駄だとわかっているあたり、白状なものである。

 

「ルーティ、早くフィオレの治療を」

「わかってるわよ。だからマリー、レンズ拾っといてね」

 

 流石に自分で拾うことはしないが、それでも拾わせるあたりが彼女らしい。アトワイトを引き抜いたルーティが、手馴れた様子で集中を始める。

 

『癒しの光よ、ここに集え』

「ファーストエイド!」

 

 アトワイトのコアクリスタルが煌き、患部は光に包まれて瞬く間に完治した。

 水源に腕を沈めて血糊を流し、水滴を拭き取って元通り袖を直す。左腕でなかったことが不幸中の幸いだ。

 

「チェリクといい、今といい。お前が子供好きだなんて知らなかったな」

「いえ、どちらかといえばお子様は苦手です」

『じゃあなんで助けたのさ? 見ず知らずの、礼儀知らずの子供でしょ。ほっといたって……』

『魔物に食い荒らされた骸を見たくないからですよ。胸糞悪い。あと「子供が不審死を遂げていたら、まず疑われるのは魔物かヨソモノでしょう。厄介ごとの種は潰しておきませんと」

 

 皮肉のような揶揄を吐くリオンにはそれらしいこと言って誤魔化し、念話の声を──零れた本音を聞きつけたソーディアンたちは沈黙を余儀なくさせ。

 フィオレは話を元に戻した。

 

「さて。神殿での聞き込みに関してですが、私もフィリアが巡礼者のフリして尋ねたほうがいいと思います。でも、単独行動は誰であれ危険なので、私たちは入り口で待機していましょう。怪しまれたら、フィリアに雇われた護衛として振る舞うことにして」

 

 少し考えれば誰でも考え付くことなのだが、昨夜のやりとりがリオンの思考を未だに沸騰させているのだろうか。

 そうだとしたら、すまないことをしたかもしれない。

 そんなこんなで、一同を納得させて神殿へと赴く。エントランスより奥へ行く通路に立ちはだかる僧兵と思しき門番二人に、フィリアはごく自然に話しかけた。

 

「すみません、わたくしはセインガルドから巡礼に参りました司祭です。いくつかお聞きしたいことがあるのですが」

「これはこれは司祭様。遠路はるばるご苦労様です」

 

 僧兵は、神殿の階級からすれば神官と同じ位置である。

 格上のフィリアが懇切丁寧に尋ねてくるのを好ましく思ったのか、門番はにこやかに応じてくれた。

 

「こちらの神殿に神像が運ばれたとお聞きしましたが、ご存知ですか?」

「いやー、デマを聞かされたのでしょう。そのような話は聞いたこともありません」

 

 門番の言葉に、フィリアはただ「わかりました」と頷いている。

 

「では、グレバムはこの神殿を訪ねませんでしたか?」

「いやー、大司祭様なんか来てないですな」

「……そうですか、それは残念です」

 

 それ以上食い下がることなく、フィリアは神殿に背を向けた。すたすたと、一同のもとに帰ってきて開口一番、口にする。

 

「怪しいですわ」

「えっ?」

「わたくしはグレバムとしか言っていません。なのに、あの男はグレバムが大司祭であることを知っていましたもの」

 

 と、フィリアは言うが、いまいち通じていない。

 その証拠にスタンの表情はいぶかしげなまま。ルーティもまた、疑問を口にしている。

 

「大司祭の名前くらい、知っててもおかしくないんじゃないの?」

「まったく、無知な女だな。大司教や司教じゃないんだ。他の神殿の連中が、たかだか大司祭の名前なんか知っているものか」

 

 などとリオンは言ってルーティをムッとさせているが、考えてみれば一般人がそんなことを知っているわけがない。

 

「神殿での階級は、上から順に大司教、司教、大司祭、司祭、神官です。大司教や司教は限られた人間にしか与えられない称号ですので数が少なく、一神殿の中では代表格と言っても過言ではありません。ただ、司教と大司祭の隔たりはかなり広いので、ぶっちゃけた話大司祭なんていくらでもいるんですよ」

「へぇ~、フィリアは司祭だから……神官よりは偉いんだね」

「さっすがフィオレ。馬鹿にするだけで自分の常識でしか話をしない誰かさんとは大違いね」

 

 嫌味のお返しか、ルーティは殊更嫌みったらしく当てつけている。

 額に青筋を浮かべて再び操作盤を取り出そうとしたリオンをなだめて、フィオレは脱線した話を修正した。

 

「まあ、じゃれあうのは後にしてもらうとしてですね」

「「誰がじゃれあって……!」」

「連中がグレバムと何らかの関わりがあるのは間違いなさそうです」

「だったら、あいつらを問い詰めれば……」

「無駄だな。所詮奴らは雑魚に過ぎん」

 

 気を取り直したリオンに、フィオレもまた頷く。

 

「僧兵は神官と同じ階級です。多分上からそういった通達がなされているのでしょうね」

「なら、夜中に忍び込んでみるってのはどうかしら?」

 

 閃いた、とばかりに提案したルーティの意見に、反対する人間はいない。

 ただし。

 

「こそ泥じみた真似をするのは業腹だが、仕方がない。あくまで神の眼探索が目的だ。余計なことはするなよ」

「何よそれ。まるであたしがこそ泥みたいじゃない!」

 

 今度こそ腹に据えかねたルーティが声を張り上げ、じゃれあいを通り越していさかいに発展させてしまう。

 その最中で、言い出し損ねたフィリアがおずおずと挙手をした。

 

「それならわたくし、今日は神殿に泊まって参りましょうか? それなら夜中に、こっそり裏口の鍵を開けられますが……」

「心遣いは大変嬉しいのですが、虎穴に入ってそのまま虎に食べられたら眼にも当てられません。今夜に備えて宿屋で休んでおきましょう」

 

 適当なところで二人のいさかいを中断させ、地元贔屓ではない、あくまで営利目的の宿を探す。

 巡礼者は神殿で寝泊りするだろうが、巡礼者には護衛の人間がつきものだ。護衛の人間を受け入れるような宿が、きっと一軒くらいはあるはずである。

 こういった場合地元の人間に尋ねるのが一番効果的なのだが……残念なことにこの地においては、有効ではないだろう。

 ところが。

 

「すみません。この辺りに、宿屋とかってありますか?」

 

 少し眼を離した隙に、スタンは真昼間から街頭で水晶玉を覗き込んでいる女性に声をかけていた。

 おそらく占者の類だろう。女性は顔を上げて、声をかけたスタンと、そして一同をまじまじと見回している。

 

「あら……あなたたち、不思議な顔をしてるのね」

「それって外国人ってオチなんじゃ……」

「いいえ、そうじゃなくて」

 

 不覚にも、フィオレも同じことを考えていた。しかし、違うとはどういうことなのか。

 占い師というからには、やはりどうとでも意味の取れるお告げを抜かして、ガルドをせしめる腹積もりか。

 深入りさせないために、フィオレがスタンを引き戻そうと近寄った、そのとき。

 

「……あなたたちの未来に、大きな失敗と這い上がれない絶望が見えるわ……」

「!」

「どういうことだよ、それ!」

 

 どうとでもとれないどころか、そのものズバリ不幸になるでしょう、ときたか。

 普通こういった職種の人間は相手が喜ぶようなことを言って気を引くものだが、もちろんスタンは怒っている。

 本物かもしれないが……そう思わせることが目的なのかもしれない。

 

「覆いかぶさる闇は二度と拭えないわ。運命は変えられない……」

 

 おどろおどろしい声音でそれを告げられ、さしものスタンも黙り込む。そこへ。

 

「闇を拭える人間なんていません。だから人は、闇に怯えながら太陽を見て生きるんです」

「フィオレさん……」

「運命は確かに変えられません。自分で切り開かなければならないものですから。ご忠告、ありがとうございました」

 

 彼の隣に立ったフィオレは、そう告げて占い師を黙らせた。

 つもり、だったのだが。

 

「あなたは、月だわ。太陽に恋焦がれながら、それでも周囲は闇ばかり。暗黒を晴らすことは叶わず、いつまでも自分だけが輝いたまま」

「……私は人間です。あと、月の周りには星屑が輝くものですよ。ご存じないのですか?」

 

 読んだ本の受け売りなど、やはりするものではなかった。

「ソーディアンサーガ」の一節、僅かに覚えていた記述を口にしてみたのは心地よかったものの、ひどい暗喩で返されてしまっている。

 ほとんど負け惜しみでどうにかそれを言うと、フィオレは有無を言わさずスタンを引っ張った。

 

「ちなみに、他国人にも優しい宿屋はそこの角を右に曲がって真っ直ぐ行って、二つ目の角を左に曲がるとあるわよ」

「……そりゃどうも!」

 

 ほしかった情報はタダで手に入ったから、よしとする。

 こっぴどく負けたような気分に陥りつつも、フィオレはそのまま一同を促して「そこの角」を右に曲がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ゲームプレイ中にも思ったことなのですが、あの占い師、マジで何者なんでしょうか? 
ゲームスタッフの回し者だと思ったのは、私だけでいいです、はい。
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