swordian saga   作:佐谷莢

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 続・ノイシュタット。
 闘技場チャンピオン相手にストリートファイトを敢行。
 別名馬鹿をやっている回。よくよく考えてみると非常に無謀なことしてますね。
 フィリアに対する愛(like)の成せる業か!? (イヤイヤイヤ


第五十六夜——桜の舞い散る下で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日常茶飯事と化していたじゃれあいの末、うっかり関わってしまった筋肉達磨はフィリアにフォーリンラブ。しかし、当の本人に応じる気配はまったくないようだ。

 しかし振るとなると、いくらフィオレが何かを言ったところで聞き流される可能性が高い。

 もしもフィオレが男であればフィリアの恋人のフリをして撃退するところだが、コングマンに女だと認識されている以上、不可能だ。いや不可能ではないが、鼻で笑われるだけな気がする。いくらなんでもフィリアのファーストキスかもしれない唇を奪う気にはなれない。

 スタンにそんな器用な真似ができるとも思わないし、リオンはアテにならない。

 というわけで。

 

「フィリア。ちょっと黙っててくださいね」

 

 耳元でこそっと囁き、さりげなく位置を移動。コングマンや取り巻きからフィリアの口元が隠れる角度に、フィオレが立つ。

 そして、フィオレの長い一芝居が始まった。

 

「フィリア、あのコングマンてチャンピオン、どう思います?」

【汗臭い筋肉達磨だと思いますわ】

「えっ!?」

 

 最近使うことのなかった声帯模写でフィリアの声を盗み取れば、もちろんフィリアは驚愕した。

 しー、と仕草だけでフィリアを黙らせ、次なる台詞を口にする。

 

「私も同意見です。じゃあ、付き合うなんて嫌ですよね?」

【絶対にお断りです。そもそもわたくしは神にすべてを捧げていますの。いわば神の妻ですわ。俗世の汗臭い男なんて、考えたこともありません】

「フィ、フィオレさん。女神アタモニは、そこまで戒律に厳しい教えでは……」

「そもそも女神なら妻にはなれないんじゃ……」

 

 そういえばそうだった。しかし、言ってしまったものはしょうがない。くるりときびすを返して、フィオレは締めくくった。

 

「だ、そうです。潔く諦めなさい」

「ふざけたことを抜かすんじゃねえ! どーみても、テメエが言わせてるんだろうが!」

 

 正確にはフィオレが一人芝居をしているだけで、言わせた覚えはない。まあ、似たようなものだが。

 

「なら、どうすれば納得するんですか?」

「まずはおめえがフィリアさんから離れることだ」

「それはできません。フィリアに何をするつもりですか」

「おめえこそ、フィリアさんのなんだ? 人の恋路にしゃしゃり出てくるんじゃねえ!」

 

 正論だ。

 それもそうだと思いつつ、フィリアに目を向ける。

 しかし彼女は、涙目でふるふると首を振るばかりだ。挙句、フィオレの袖を掴んで離さない。

 

「仕方がありませんね……何を言っても無駄のようですので、撃退します。異論があるなら何とか言ってごらんなさい」

「俺様に喧嘩を売るとは、いい度胸だと褒めてやろう。だが俺様は、女を殴る拳は持ち合わせていな……「逃げるのですか、チャンピオン?」

 

 ぴくり、とコングマンの眉が動く。

 やはり、この手の相手にそういった単語は禁句らしい。だがフィオレとて、聞き分けの悪くて往生際の悪い人間は好かない。

 加えてフィリアにこともあるにつき、敵と見なして対処することはすでに決めていた。

 

「そりゃ、女に負けたなんて恥晒し以外の何者でもないでしょうね。それじゃあ戦うことすらできないわけだ」

「なら俺様の闘技場で……」

「ほほう。闘技場なら勝てるんですか? あ、そうか。あそこはあなたの独壇場ですから、舞台に何か仕掛けてあって、あなたが必ず勝てるよう仕向けてあるんですね。じゃあ、往来じゃ戦えませんねー」

 

 自分で言っていてとんでもない理屈だと思うが、相手を怒らせる──冷静さをなくすための手段だ。

 案の定コングマンは、それまでとは明らかに違う怒りの表情を浮かべた。

 

「なんだと!? おめえ、それ以上抜かしてみろ。女だからといって容赦はしねえぞ!」

「初めから手加減して下さいなんて頼んでません。言ってもわからない、引き際も知らない、紳士から程遠く道程臭い野蛮人め。遠慮なくかかってきなさい」

 

 これ以上ない挑発に、コングマンは言葉もなく戦闘体勢に入っている。

 さあここで、ガス抜きをする必要がある。

 

「あー、でもー、こんな往来で喧嘩をしては他人に迷惑です。だからといって闘技場なんて行くこともできませんから、そこの公園に移動しましょう」

 

 小競り合いを起こすきっかけも作った、アイスキャンデーの屋台が出ている公園へと場所を移動する。

 

「フィ、フィオレさん。本当にあの大男と戦う気ですか!?」

「ええもちろん」

「だったら俺が代わりに……!」

「お気持ちだけ頂きましょう。私が売った喧嘩の尻拭いなんか、死んでもさせません。スタンはこれで、ルーティたちにあれを買ってあげてくださいね」

 

 止めようとするスタンにはガルドを握らせて、ルーティたちにこっそり件の氷菓子を買うなら今だとそそのかして。フィオレは、憤然とやる気十分のコングマンと対峙した。

 

「どうやら武器をお持ちでない様子で。私も刃物は使わないことにします。その代わり、私が勝ったらフィリアに付きまとうのをやめること」

「フィオレさん!?」

 

 フィリアの悲鳴じみた制止を聞かず、フィオレはボレロを脱いだ。そこに仕込んだ暗器、懐の短刀、更に腰から紫電を外してすべてフィリアに預ける。

 

「それで俺様が気圧されるとでも……!」

「行きますよ?」

 

 こんな馬鹿馬鹿しい戦いに長々と時間を使うつもりはない。すぐに終わらせるつもりだった。

 助走抜きの接敵にコングマンが構えるよりも早く、手前で急制動をかけてその背後へ回りこむ。

 そして、全力で膝裏を蹴った。

 

「ぐわっ!」

 

 どんな巨木であろうとも、根っこを傷つけられればひとたまりもない。

 たまらずぶっ倒れるコングマンの背中に乗り──背中に飛び乗った瞬間から怖気が止まらない。

 癒える気配もない厄介な異性恐怖症に辟易しながら、それでも試みた裸締めを、早々に諦めた。予想以上に彼の首は太く、腕を巻きつけるのは困難だと判断したためだ。

 代わり、手拭を取り出してその首にくるっ、と巻きつけた。一気に首を絞めて、失神させようと企んだのである。

 無論、大人しくそうなってくれる相手ではない。

 

「このっ!」

 

 巻きつけた時点で起き上がろうとし、その手が手拭にかかるよりも早く力一杯締め上げる。この時点でコングマンの取り巻きたちからブーイングが飛んでいるが、刃物を使わないだけ勘弁してほしい。

 やがてコングマンが立ち上がり、フィオレはこれ幸いと手拭を握りしめたまま、背中側へぶら下がった。

 無論手拭はコングマンの首にかかったまま。彼はフィオレの体重分、首だけで手拭の圧力に耐えなければならない。

 これならすぐに落ちるだろうと思っていたフィオレだったが、何の弾みか手から力が抜ける。

 

「ぬおっ!」

「おっと」

 

 尻から地面に降りそうになって、慌てて足から着地する。振り向けばそこには、手拭を思い切りブン投げてバランスを崩しているチャンピオンの姿があった。

 もしあのままぶらさがっていたら、手拭ごと投げ飛ばされていただろうか。

 とにかく相手はまた体勢を崩しているのだ。つけこまない手はない。

 

「烈破掌!」

 

 圧縮された闘気が技主の意により暴発、相手を吹き飛ばす技は見事に功を奏した。

 体勢の崩れかあるいはもとより回避が苦手なのか、まともに受けたコングマンの巨体は弧を描いて地面にへばりつく。

 頭を振りつつ起き上がるコングマンを見て、フィオレの脳裏にある技が浮かんだ。

 今こそ、あの技の使い時かもしれない──! 

 

「空破特攻弾!」

 

 疾走で接敵、絶妙のタイミングで地を蹴り、起き上がろうとしているためにちょうどいい位置にあった顎めがけてヘッドバッド……頭突きを敢行した。

 頭蓋骨が顎にぶち当たり、目の奥に火花が散ったかと思うと衝撃、のちに鈍痛がやってくる。とっさに距離を取るのが精一杯で、コングマンが健在なのかも伺えない。

 他人の技なんて見よう見まねでパクるもんじゃないと思い知ったフィオレがしばらく立てずにいると、足音が近寄ってきた。

 軽い足音にして後ろからなので、コングマンではないだろう。予想通り、のろのろ顔を上げるとそこにはフィリアが立っていた。

 何故かその顔色は、蒼白になっている。

 

「だ、大丈夫ですかフィオレさん!?」

「……」

 

 雨でも降ってきたのだろうか、額にかかる髪が濡れているような気がした。とりあえずコングマンはどうなったのだろうと見やる。

 彼は大の字になってぶっ倒れており、取り巻きによって介抱されている真っ最中であった。

 

「戦闘不能……私の勝ちでいいですね」

「まずは治療が先です! ルーティさん!」

「そうよ、何呑気なこと言ってんの。あんた今血まみれなのよ?」

 

 言われて額に手をやれば、フィリアから「患部に触れるな」と怒られるも出血を確認する。

 顎に強い衝撃を与えると脳が揺さぶられ、人間は失神するようにできていることから比較的頑丈な頭蓋骨で殴ってみたのだが……あまり効率的でないことはわかった。

 やがて、取り巻き立ちの介抱によってチャンピオンは目を覚ましたらしく、巨体がむっくり起き上がっている。

 

「あ!」

「すぐに戻ってまいりますから」

 

 ルーティの治療から抜け出して、フィオレはコングマンのもとへと歩み寄った。

 取り巻きたちからの敵意に満ちた視線など気にせず、いぶかしげにフィオレを見るコングマンに一礼する。

 フィオレとしては、コングマン本人との禍根が絶てればそれでいい。

 

「流石チャンピオンですね。初めのアレに耐えるとは、思いもよりませんでした」

 

 これはフィオレによる、正直な感想である。あのような戦いにも柔軟に対応してきたことは、評価しなければならない。

 もちろん、相手が嫌味に思わないよう言葉に気をつけて。

 

「何の根拠もなく、闘技場での戦いを八百長呼ばわりしてごめんなさい。また今度、そうでないことの確かめに参りますね。それでは」

「……おめえ、見かけによらず熱い女だな。フィリアさんを見習って、もう少しおしとやかになったらどうだ?」

 

 負け惜しみか本音なのか、よく知らないコングマンの声音から読み取ることはできない。フィオレは苦笑して、前者の解釈を取らせてもらった。

 

「私がおしとやかになったら、誰も護れませんから。しつこく付きまとう男を、仲間に近づけさせないことも、ね」

「……おめえはいい女だなあ。俺様のタイプじゃあねえが」

「大変に光栄なことです。それでは」

 

 落ちていた手拭を拾い、額を押さえてきびすを返す。

 ルーティやソーディアンたちからは「無意味だった」と愚痴られ、スタンやフィリアからはもう二度としないでくれとたしなめられ、マリーには「やはりフィオレは強いな」と上機嫌に言われ、更にリオンからは淡々と「時間の無駄だったな」の一言でばっさり切り捨てられる。

 額の皮膚は薄いため破れやすく、すなわち傷口も開きやすい。アトワイトの治癒晶術で完全に癒してもらってフィオレだったが、安静にしたほうがいいとのフィリアの主張により強引にベンチに座らせられ、アイスキャンデーを食べさせられた。身体を、血流を冷やすことで治りかけの皮膚に負担を与えないがどうのこうの言っていたが……

 最後の一口を食べようとして、桜味のアイスキャンデーに花びらがつく。そのまま口に含んで、フィオレは思い切り咀嚼した。

 頭にきぃん、と頭痛が走る。

 

「……あイテテテ」

「だ、大丈夫ですか? ルーティ、もう一回ファーストエイド……」

「いやそっちじゃなくてですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






※文中の誤字は故意です。ツッコミは受け付けておりません(笑)
「空破特攻弾」本来の使用者はTales of The abyss アニス・タトリン(トクナガ)です。
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