swordian saga   作:佐谷莢

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 ノイシュタットにて。風呂イベントはスルーして、スタンといちゃこら(ver.2)した後にいよいよ海へと繰り出します。
 いよいよあの人の再登場が近づいてきたわけですが……はてさて。


第五十七夜——望まなかった再会・起

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 半ば強制的に食わされたアイスキャンデー「桜味」を食べ終え、フィリアに預けていた諸々を返してもらい、一同は再びレンブラント邸へと向かった。

 すでにイレーヌの使いによって事情を知っている家政婦(メイド)によって室内に通され、客間へ案内される。

 彼女の話によれば、まだ準備完了の報告は来ていないとのこと。

 そこで、ルーティが一同を労うために茶の準備を始めた家政婦(メイド)に声をかけた。

 

「あのさ、お風呂借りれない? せっかく時間が余ったんだし、たまにはのんびりお湯に浸かりたいんだけど」

「かしこまりました。少々、お待ちくださいませ」

 

 流石は貴族邸宅を守るハウスキーパーである。ルーティの注文に顔色ひとつ変えることなく、もう一人の家政婦(メイド)に茶の用意を任せてさっさと退室していった。

 嬉々としてマリーを風呂に誘うルーティは至極嬉しそうで、やはり女の子なのだなあと思わせる。スタンも同じような感想を抱いたのか、意外そうにルーティを眺めていた。

 しかし。

 

「いや。私は遠慮しておこう」

 

 マリーに素っ気なく断られ、彼女はたちまち頬を膨らませた。

 

「なによ……あんた付き合い悪いわね。じゃあフィオ「やめときます。人の家のお風呂で血流良くなって流血沙汰なんて洒落になりませんし、それにこれから消耗品の買出しに行きますので」

 

 理路整然と理由を説明されて、それもそっかとルーティは納得している。しかし何より、フィオレには他人の前で裸になぞなれない理由があった。

 眼帯をつけて防水布を手に巻き風呂に入ろうものなら、彼女に何をされることやら。どさくさにまぎれて奪い取られたらと思うと、後始末を考えるだに面倒くさい。

 現に。

 

「ちょっと残念。その眼帯の下、どうなってるのか見たかったのに」

 

 などと悪戯っぽく言われても、曖昧に流すしかない。

 これから風呂に入る際はこれまで以上の警戒が必要なようだ。そして当然、彼女も誘われた。

 

「フィリアは、入るわよね!」

「え、あの……」

 

 否、強制された。

 

「わ、わたくしもちょっと……そうですわ、フィオレさんのお手伝いを」

「フィオレ、リオンを荷物持ちに連れてけば大丈夫よね? 決まり決まり! さあ、行きましょ!」

 

 折り良くあるいは悪く、先ほどの家政婦(メイド)が湯浴みの支度ができたと報告に来る。上機嫌のルーティに連れられて、二人は客間から出て行こうとした。

 そこへ。

 

「そうだ、ちょっとスタン!」

「なんだよ」

「覗くんじゃないわよ」

「だ、誰が覗くか!」

 

 風呂場の場所も知らないのにどうやって覗けというのか。そういえば何かの物語に「覗き英雄」とかいう女性の天敵みたいな英雄がいたっけな、などということを思い出す。

 スタンはそんな初歩的なことにも気付かず、顔を赤くしていた。二人を見送り、出された茶を申し訳程度に口つけて、立ち上がる。

 

「それでは私、ちょっと買出しに行ってきますね」

「……僕を荷物もちに連れて行く気か?」

「あれはその場の勢いだと思います。どのみち、買出しに上司をつき合わせる気にはなれませんね」

 

 口には出さないが、正直リオンと一緒にお買い物なんて嫌だ。

 きびすを返して行こうとした矢先、何故かスタンが挙手をした。

 

「あ、じゃあ俺、手伝いましょうか?」

「そうですか? では、手分けしていきましょう」

 

 スタンと連れ立って、レンブラント邸を出る。

 買出しリストを見て主に港で購入するもの、街中で購入するものを分けて書き出し、別行動に移った。

 港にて、船乗り用の干し肉や干し魚等の保存食の購入をしていた際、波止場でイレーヌの姿をちらりと見受ける。おそらく船長との交渉をしているのだろう。

 これは早々にお呼びがかかりそうだと買い物を済ませて、スタンの行った店へと向かうと、そこではスタンが片手に買い物袋、片手にリストを持って唸っている最中だった。

 

「スタン?」

「あ、フィオレさん。買い物終わりました?」

「ええ。どうかしたんですか?」

「一通り買ったんですけど、リストのここ」

 

 何が気になっているのか、彼の持つリストを覗き込む。

 彼にはもともとの買出しリストを渡してあり、港で買うものはすでに棒線で消してある。彼が指しているのは、棒線を引いてあるものだった。

 

「どうしてむしくいリンゴなんて、わざわざ買ってくるのかなって……」

「普通のリンゴ買うより安上がりだからです」

 

 驚くスタンに、市場における事情を語る。とはいえど、これはフィオレの想像でしかないものだが。

「むしくいリンゴは2G、普通のリンゴは30G。大きさは変わらないしちょっと穴が空いてるだけで十分の一以下なんです。消費者って見た目をすごく重視しますから。それで捨てるのはもったいない、けど身内だけでは処理できないから格安で売ってるんですよ」

「ルーティが喜びそうですね」

 

 疑問の解けたスタンと共に、残っている買い物を終わらせる。

 出ようとしたところで、フィオレは建物内にある違う店に目を向けた。目に留めたのは、SPバーガーと題して売られている軽食である。

 コングマンと不慮の決闘をしたせいなのか、フィオレの腹具合はそれなりに空いていた。

 しかし、港で見た光景もある。早めに帰ったほうがよかろうと、フィオレは自分の都合を後回しにしようとした。

 そこへ。

 

「フィオレさん、お腹空いたんですか?」

「まあ少し。でもそろそろ、船の準備もできている頃でしょうから」

 

 回れ右をしようとするフィオレに、スタンは少し考えるような素振りを見せてから彼女を引き止めた。

 

「ちょっと待ってて下さい」

 

 言うなり、SPバーガーの店舗に近づいて何事かを言う。彼は瞬く間にふたつの包みを手に入れて戻ってきた。

 

「道草がダメなら、食べながら戻りましょうよ。俺も腹減ったし、腹が減っては戦もできない、ってね」

 

 食べ歩きは苦手なので、やめておこうと思ったのだが……ここでそれを言っても無粋なだけだ。ありがたく、スタンの心意気を頂戴する。

 少しペースを落としながらも腹を満たして、互いの口の周りを確認し汚れを指摘しあった。そして、レンブラント邸へ戻る。

 風呂へ行っていた二人も客間へ戻ってきており、そこはかとなく血色が良い。

 

「お帰りー。こっちはいいお湯だったわよ」

「そうですか。今夜が楽しみです」

 

 買ってきた消耗品を道具袋に補充しつつ、フィリアが淹れてくれた茶をすする。そこへ。

 

「失礼致します。イレーヌ様より、港に来られたしとのことです」

「よし。行くぞ!」

 

 家政婦(メイド)の報告に、これまでシャルティエを手入れしていたリオンが立ち上がる。

 和気あいあいとおしゃべりに興じていた一同も、その言葉に顔を引き締めて頷きあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意気揚々と、フィオレも先ほどやってきた港にたどり着く。

 人の行き交う港を過ぎて波止場へと到着し、先ほどイレーヌを見た場所へやってくると、彼女は船長と思しき人間と何らかを話し合っていた。

 

「イレーヌ!」

 

 リオンの呼びかけに彼女はすんなり応じ、それまで話していた人物のもとを離れて一同のもとへと歩み寄ってきた。

 

「来たわね。呼び出しておいて、悪いのだけれど……」

「何か問題でもあるのか」

 

 イレーヌの表情は憂いが目立ち、その物言いもどことなく歯切れが悪い。何かトラブル発生かと尋ねるリオンに、彼女は言いにくそうにそれを告げた。

 

「船長が作戦に、どうしても同意してくれないの。正規の軍人が討伐するならともかく、客員剣士なんて軍人もどきの子供たちにそんなことができるものか、って……そんなことするなら闘技場チャンピオンを連れてこいなんて、無茶なことを」

 

 軍人もどきの子供たち、というくだりで、リオンの額に四つ角が浮かぶ。

 彼の堪忍袋が久々に切れそうになっていたため押し留めて、フィオレは自分で船長との交渉に向かおうとした。

 その時。

 

「チャンピオンのお通りだ! 全員ちゅうもーく!」

 

 どこかで聞いたような口上と共に、港に筋骨粒々の巨漢が姿を現した。どうやらこれは日常茶飯事とは違うらしく、港にたむろしていた人間たちは一様に唖然とした表情を浮かべて彼を見ている。

 一瞬にして注目の的となったマイティ・コングマンは何故か一直線に波止場へとやってきた。

 とりあえず、その威風堂々とした姿に怯んだフィリアを背中に隠す。

 そのまま一同のことになど気付かずに行水でも始めてくれればよかったのだが、世の中都合よく運ぶ事柄などは少ない。

 

「ぃよう! また会ったな、フィリアさんとその付き人娘!」

「……フィオレと申します。何か御用ですか?」

 

 何の皮肉だと思いきや、そういえば名乗ってなかったなあと思い出す。

 フィリアを背後にかばいつつ半眼でそれを問えば、彼は無意味なポージングを始めた。

 

「なーに、フィリアさんが困ってると聞きつけてなあ。いてもたってもいられず、はせ参じたわけだ」

「……ははぁん」

 

 とりあえず、フィリアが個人的に困りだしたのはコングマンが現われてからのことなのだが、その言い草でピンとくる。

 くるりときびすを返して、フィオレが向かったのはそれまでイレーヌと話をしていた船長だった。慌てたのはフィリアで、ちょこちょことフィオレの後をついてくる。

 やっと邪魔者がいなくなったということで喜色を浮かべていたコングマンは、彼女に話しかけようとしてか、そのままついてきた。

 

「それで、この筋肉達磨にいくら渡されたんです?」

「な、とんでもない! 私はただ、搭乗する戦闘員たちの詳細が先ほどチャンピオンといさかいを起こした一行とよく似ていたから知り合いに相談したんだ。多分そこからチャンピオンに話が流れたんじゃないかと……」

 

 どんな言い訳を聞かされようと、怪しいことこの上ない。

 フィオレから半眼の視線を向けられようと頑張っていた船長だったが、話の終わる頃には尻すぼみとなり、最後にはようやく本音を語った。

 

「……私は、マイティ・コングマンのファンなんだ。これまでチャンピオンとしての彼に群がる女など彼自身が払いのけてきたが、ようやくチャンピオン自身が女性に興味を……長年一人身だった彼にそろそろ潤いのある生活もいかがだろうかというところで、何なんだね君は。人の恋路に口出しする前に、自分はどうなんだ」

『むう……そこなタコ助に関する部分はおいといてじゃ。人の恋路に水差す奴は、馬に蹴られるのがオチじゃと昔から有名じゃぞ、フィオレ』

「超巨大なお世話です。その恋路とやらが一方通行なのだとしたら、実質的な危害が及ぶ前に力になるのが、友人として正しいあり方だと私は信じています」

 

 失礼なその言葉に、腹立ちをぐっと抑えて冷静に対処する。

 傍らでフィリアが「フィオレさん……」と胸打たれたように手を組み合わせているが、応ずるにあたらない。

 なぜなら、今すぐ彼女が嫌がるであろうことをしなければいけないからだ。

 

「それはさておき、おとりの船の出港に関しては、ここにチャンピオンがいるのですから出していただけますね」

「えっ!?」

「それはまったくかまわない。ただし、チャンピオンの乗船が条件だ。チャンピオンなら、たとえ武装船団が現われたとしてもきっと、守ってくれるからな」

 

 これには閉口して、リオンを招き寄せる。更にイレーヌも呼んで協議をした結果、コングマンにも事情を明かして助っ人として雇うことにした。

 報酬は、船に乗っている間フィリアと共にいられること。

 ただし彼女が望んだ場合は、第三者とも四六時中顔をつき合わせていなければならない。無論、フィリアはフィオレの傍を離れようとしなかった。

 そのため。

 

「潮風で髪の毛がべたべたしますわ……」

「やあ、それは大変ですねフィリアさん。何なら、俺様がその美しい髪を梳かして差し上げ「頭がまぶしいくせに乙女の髪を扱うなんて、無茶な申し出をしてきますね」

 

 フィオレが海上の監視を行う間も、二人はセットでくっついてくる。定期的にマストに登っては降りてくるを繰り返していたフィオレは、再び甲板に降り立った。

 

「おい、俺様とフィリアさんの愛の語らいに横槍入れてくるんじゃねえ」

「それのどこが愛の語らいなのですか。寝言はお眠りになってからどうぞ」

「はん。自分に縁がないから邪魔をする気か? もてない女はつれぇなあ!」

「なるほど。あなたは今までそうやって、他人の恋路をことごとく潰してきたんですね」

 

 自分に都合が悪いからといってそういった邪推をするのは、自分も同じようなことをしていると告白しているようなものだ。

 そんな疲れる会話を繰り返していた時。遠くで、何かが爆発する音が聞こえた。

 気付いた様子もなくうだうだ抜かすコングマンを無視して、甲板の先端へと駆け寄る。海上を見渡せば、近辺の海面に何かが飛び込んだような水柱が立ち上がった。

 これは──

 

「どうやらおいでになられたようですね。フィリア、皆に警告をお願いします!」

「は、はい!」

「フィリアさん、お供します!」

 

 純白の神官服姿と、むさ苦しい筋肉の塊が甲板から姿を消す。

 襲撃の気配に船員たちが色めき立つ中、フィオレはシルフィスティアに視界の拝借を頼んでいた。

 空気とは裏腹に穏やかな潮風に、視界を同調させる。少し視野を広げて全方位を見やれば……見つけた。

 武装船団と思われるは、計四隻。進行方向から来た船は、少しずつ進行位置を変えてきている。移動しようとする位置を予想すると……二隻はそのまま、残る一隻ずつはおとり船の左右から挟みこむような形で近寄ろうとしているのがわかった。

 となればまずは、敵船自体の無力化が先である。

 まずは宣戦布告とばかりに一発打ち込んできたらしく、続く砲撃はない。だが、おそらくすべての船に砲撃等の装備が積まれていることだろう。

 なら話は簡単だ。搭載されている火薬が濡れたら、それらは使い物にならない。

 舳先へ立ち上がり、両手を真下の海へかざす。集うの気配を感じ取りながら、フィオレは詠唱を始めた。

 

「穢れなき海原の乙女よ。そなたの清らかなる歌をもて、我が敵を水底へ沈めん──」

 

 フィオレの足元に譜陣が輝くが、周囲に変化はない。普段ならば幻想の海原が召喚されるところ、ここはすでに海だった。

 更に、フィオレは未だ視界を風に委ねたまま。術者が発動場所をやっとこさ認識できる程度なのだが、遠隔操作による譜術発動は、これまでフィオレが試してみたいと願っていたことだった。

 怪しむ人間が間近にいない今、試さない手はない。

 

「セイネレウス・タイダルウェイブ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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