swordian saga   作:佐谷莢

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 ノイシュタットin倉庫。リオンがバティスタ拷問中now。
 家畜の悲鳴だって聞いていて気分のいいものじゃないのに、それが人間のものだったら尚更。精神汚染度半端なく高いです。
 ゲームがゲームなら、毎ターンSANチェック入りますね。


第六十一夜——逃亡者の行く先は~月夜、ぼっちのさみしい逃避行

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男の悶絶する声が木霊し、髪や人体の焦げる悪臭が倉庫内に漂い始める。

 やはり、イレーヌの家の一室を借りなくてよかった。あれだけ広い邸宅なら防音仕様の部屋のひとつやふたつ、あるだろうが、この悪臭だけはどうにもならないだろう。

 

「ぐぉぉぉぉぉ!」

「どうだ、吐く気になったか?」

「さ、さぁ、な……うぐぅぅ……」

 

 実際に行っていることは尋ねること、操作盤の単純操作しかないが、特殊な性癖を持たない人間に人の悲鳴や苦しむ様を見せられ続けるのは、予想以上に精神をすり減らす。

 当初こそ平然とした風を装って尋問していたリオンだったが、ここへきてすでに声色は、飽きにも似た疲労が漂っていた。

 

「我慢は身のためにならないぞ」

「知らないものは、知らな……ぐわぁぁぁ」

 

 一応緩急はつけているが、すべて同じ電撃の苦しみだ。バティスタ自身も、明らかにその痛みに慣れ始めている。

 さてそろそろかなと、フィオレはリオンの傍へと歩み寄った。

 

『フィオレ?』

 

 リオンが持つ操作盤に手を伸ばして、最大出力を設定する。額冠(ティアラ)はそのまま、操作盤の出力命令に応じた。

 

「ぐわあああっ!」

 

 そのままバタンとぶっ倒れるバティスタを見届け、操作盤の電源を落とす。

 当然彼は、振り払うようにしながらフィオレの行いを批判した。

 

「何をする!」

「これ以上続けたら壊れます」

 

 何が、とはあえて言わない。

 バティスタ本人もそうだが、それまで気になるから、という理由でその場に残ったフィリアも、聞きがたい悲鳴と耐えがたい悪臭によって意識を飛ばしている。

 何より、その様を直視し続けたリオンの精神も、確実に汚染されているだろう。

 

「そろそろ、同じことの繰り返しはやめましょう」

「だが……!」

「こちらに提案があります。まずは、外へ出ましょうか」

 

 フィリアを残し、リオンの腕を引いて倉庫を出る。無論、バティスタが確実に失神していることを確信してのことだ。

 倉庫の外へと出て、肺の空気を入れ替えるように深呼吸を繰り返す。リオンもまた一息ついて、じろりとフィオレを睨んだ。

 

「それで、提案とは何だ。くだらない内容なら、尋問を再開するぞ。今叩き起こせば意識が朦朧としているはずだから、大分吐きやすくなってるはずだ」

「仮にバティスタがグレバムの居場所を吐いたとしましょう。私たちはその場所へ向かうとして、バティスタはどうしますか?」

 

 尋問によって軽い興奮状態に陥っているのだろうか。

 鼻息荒く尋問の再開を主張するリオンに、フィオレはこれまでの懸念を告げた。

 

「イレーヌの部下を借りて、セインガルドへ連行……」

「あまり確実な方法ではありませんね。バティスタがここまで電撃に耐えることを考えると、あの額冠は護送中あまり役に立たないかもしれません」

『でも連れて行くわけにはいかないし、用済みだから殺すっていうのはフィリアから確実に反発がくる。じゃあ、どうするのさ?』

 

 考えていなかったのか、本気でそう思っていたのか。それはわからないが、少なくともシャルティエは、妥協してでもリオンの意見で押し通すつもりだったらしい。

 

「それはですね……」

 

 ほんの僅かに身をかがめ、リオンの耳元に囁きかけようとしたところ。彼は蜂を振り払う勢いで飛びのいた。

 

「?」

「な、なんだ。普通に話せ」

「誰が聞いているかもわからないのに、迂闊な真似はしませんよ」

 

 再び近寄ろうとするも、彼は警戒心もあらわにフィオレを近づけさせようとはしない。その様子はどこか、女性恐怖症であった彼を彷彿とさせた。

 

『では、シャルティエ。伝えてください』

『えー、面倒くさくない、それ?』

「……シャルを使うな、早く話せ」

 

 シャルティエを間に入れようかと企むも、まず張本人が面倒臭がっている。さてどうしたものかと沈黙したフィオレは、ふとあるものの存在を思い出した。

 それは、常に自分の指に装着してある銀環の存在である。

 これをリオンに身につけさせて念話を使えば、念話での意思疎通が可能となるのでは……

 ただ、フィオレの身につけている銀環を使うとなると、フィオレ自身チャネリングを発生させるのに一苦労しそうである。

 

「仕方ないですねえ……」

 

 腰の小袋を探って、あるものをつまみ出す。フィオレの指にひっかかっているのは、わずかに石竹色がかった銀環だった。

 地金には繊細な彫刻が施され、三日月型の台座を満月にせんとはめ込まれた緋い石が澄んだ輝きを静かに放っている。

 ──そう。銀環は、フィオレが現在身につけているものと同じ造詣だった。

 違うのは、地金に珍しい銀を用い、はめ込まれた石が同種の色違いということだけ。

 この指環もまた赤の他人同士で、チャネリングの使用を可能とすることだ。同時に、この指環をしている者同士は特殊な措置を経ずして、相互のチャネリングを可能とする。

 おもむろにリオンの手を取り、その細い指に銀環を滑り込ませた。

 

「これは、あのときの……!?」

『バティスタはともかく、フィリアや第三者が聞いている可能性が否定できません。少しの間だけですから、我慢してください』

 

 慣れない感覚により発生した頭痛にか、眉を歪ませるリオンの手を掴んだままようやっと、提案を話す。

 

『バティスタの処遇ですが、これ以上尋問を試みても不毛です。うまいこと発信機つきの額冠(ティアラ)を身につけさせたのですから、これを違う意味で活用しましょう。バティスタを逃がし、泳がせるのです』

「!」

 

 どうやら通じてはいるらしく、リオンがはっとしたように顔を上げる。それにフィオレは、小さく頷いた。

 

『今夜いっぱい、私はこの倉庫に張り付いていましょう。バティスタには自力で脱出したと錯覚させます。逃亡したバティスタはレーダーで悠々追跡すればいい。何か異論はありますか』

 

 リオンの指から銀環を抜き取り、首を傾げて見せる。最後の問いに対してだろう。リオンは肯定した。

 

「……そう、だな。わかった。お前の提案を採用する。ついては……それを寄越せ」

 

 リオンが指すのは、フィオレが回収した銀環である。

 それは何故かと問えば、彼は限りなく視線をそらしながらぼそぼそと呟いた。

 

「それがあれば……不測の事態に、連携が取りやすいだろう」

「今夜の件でしたら、心配は要りません。こちらで対処しておきますので、リオン様はお休みください。ちなみに」

 

 まだ何かを言い募ろうとするリオンに、にっこり笑ってクギを刺す。

 

「声無き声を聞くことはできるようですが、自分の意思を伝えるのはまた別です。そんなわけで貸与はしません。譲渡も無理です。今は囁かれるのが嫌だということで使いましたが、今後よほどのことのことがなければ使いませんからね」

 

 名残惜しげに、リオンはフィリアの手元を見ている。珍しく物欲をあらわにしたリオンを思ってか、シャルティエが横槍を入れてきた。

 

『えーっ、それはないよ。せっかくぼっちゃんが珍しくおねだりしたんだから、ほだされてくれてもいいじゃない』

「駄目ですよ。そんなのただの甘やかしではありませんか」

『うー……それじゃあ、交換条件は? 例えば坊ちゃんから借りができたら、とか一本取ったら、とか』

 

 食い下がるシャルティエの熱意に、普段なら戒めるリオンは何の反応もしていない。おそらくフィオレの肯定を待っているのだろう。

 その素直でない様子をついうっかり愛でそうになりながら、フィオレは小さく苦笑した。

 

「そうですね。では、リオンが私に勝ったら、ご褒美に譲渡するとの案を検討しておきましょう。最近実戦がとみに増えたから目に見えて上達はしてきましたが、まずは私の動きにしっかりついてきましょうね」

 

 旅の最中ではあるが、修練だけは欠かしていない。

 カルバレイスへ向かう折などは、二人の修練風景を見かけたスタンが「自分も混ぜてほしい」との申し出をフィオレが受け入れたりもしていた。

 もっとも、自分の扱う技を伝授するような真似はしていない。我流戦法の目立つスタンに剣術の基礎、それに基づく応用を教えるくらいだ。どうしても知りたければ欲しければ盗め、の一言で退けている。

 ならば早速、とばかりにシャルティエを構えたリオンを押し留めて、フィオレは倉庫内でくったりしていたフィリアを起こしにかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一端リオンやフィリアと共にレンブラント邸へと引き返し、身支度を整えたフィオレはこっそり舞い戻って倉庫の天井裏に潜んでいた。

 気絶していたバティスタが起き上がったのは、月が皓々と煌き始める真夜中のこと。

 雲ひとつない夜空のもと、明かり取りの窓から月光を浴びていたバティスタは、唐突にむっくりと起き上がった。しばらくぼうっとしていたものの、ブルブルッと身体を震わせる。

 

「くそ、あのガキめ。容赦ないな!」

 

 そんな悪態をついて自分の身体についた埃を落とし、脱出口はどこかにないかと探りだす。

 倉庫内をうろうろと歩いて、彼は片隅に置かれていた姿見を覗き込んだ。

 

「あーあ、せっかくの男前が台無しじゃねえか!」

 

 ──不覚にも噴き出すところだった。

 確かに髪は焦げてチリチリに、体のそこかしこの皮膚は焼け焦げているだろうが……果たしてそんなレベルの話だろうか。

 しかし。どうやらその認識は、フィオレの勘違いだったらしい。

 

「こんな髪飾り、外してやる」

 

 何と彼は、わしっとを掴んだのである。

 記憶力がないのか学習力がないのか両方ないのか、あるいは電撃の受けすぎで記憶を一部吹き飛ばしてしまったのか。

 あえなく、彼は悲鳴を上げた。

 

「のわぁ~っ!」

 

 何故だろう。電撃を流されるその姿は苦痛に満ちているのに、漫才を見ているような気分になる。

 大きな声で独り言を垂れ流しているあたりに理由があるのか。

 

「外そうとすると電撃が流れるってわけか……」

 

 彼はルーティの行動からまったく、何にも、これっぽちも学んでいなかったに違いない。

 そんな紆余曲折を経て、彼はようやくフィオレが望んだ行動を取った。

 

「くそったれがっ!!」

 

 怒りに任せて、倉庫の専用出入り口を蹴りつける。扉は抵抗するどころか、騒音と共に屋外へと転がった。

 

「お? しめた、古くて蝶番ごと吹き飛んだか」

 

 蝶番に着眼点を置いたのは褒めよう。だが、真実は違う。

 専用扉は外開きの鍵をかける種類だったため、単純に鍵をかけずにいれば怪しまれる。そこで、衝撃が加わればすぐに壊れるよう、蝶番に細工をしておいたのだ。

 むろんバティスタは、そんなことに気付いていない。彼は嬉々として、倉庫から飛び出した。

 さて、こうしてはいられない。

 ごそごそと這って、天井裏から倉庫の屋根へと出た。眼帯を外して、月光の仄明るい光源を頼りに後を尾ける。

 これでフィッツガルド内陸部に移動するようなら決戦は間近だったろうが、彼は一直線に港へと向かった。

 波止場に並ぶ船のうち、生意気にもレンズエンジンの搭載された最新型の小型船に乗り込み……操作方法がわからなかったのか、悪態をついて出てくる。

 しかし、もともとそういった知識があったのか。やはりレンズエンジンの搭載されている、最新型ではないが比較的新しい小型船に乗り込んだかと思うと、あっというまに港から離れてしまった。

 とにかくこれで、バティスタを自然に逃亡させることには成功した。

 よもやこれで囮役となったわけでもないだろう。

 任務遂行というわけで、フィオレはレンブラント邸へと戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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