swordian saga   作:佐谷莢

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 続々・ノイシュタット。デートイベント補完計画なので、悔いなし。


第六十五夜——ぽっかりと空いたスキマ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コングマンに武装船団壊滅を協力させたくだりは知っていても、それ以前の確執を彼女は知らない。

 闘技場から積極的に引き上げようとするフィリアに首を傾げつつも、イレーヌは次なる目的地、咲き誇る桜も見事な公園へと一同を案内した。

 かつてノイシュタットの異常さを鮮烈に教えてくれた中央公園。

 ここは成り行きでコングマンと対峙するために訪れていたが、その際は桜の状態に気を回していられなかった。

 初めて訪れた時は六分咲き程度だった桜は、今や見事な満開の時期を迎えている。

 イレーヌが貸してくれた日傘を手に、フィオレは一人、公園を歩いていた。現在仲間達は、イレーヌ手製の菓子を配り終えて集まった孤児達と鬼ごっこを興じている。

 イレーヌによって目的のわからないドレスアップを強いられているフィオレは、加われないことをいいことに個別行動をとっていた。

 

「……ふう」

 

 それにしても、桜を──花を、これほどゆったりとした気分で眺めるのは久しぶりだ。

 手元に小さな感触を感じて日傘をくるりと回し、樹上から花びらと共に落ちてきた毛虫を払う。

 元は人の寄り付かない荒れ果てた荒野だったフィッツガルド。セインガルド王国によって資材発掘が提唱され、結果として「豊かな」と形容される街が出来上がった。

 しかし、富める者はますます富み、貧した者は堕ちていく。実情はそれだけでしかない国は、これから先どこへ向かっていくのだろうか。

 地面に落ちて、毛虫は桜の花びらの中で身をくねらせている。その姿はどことなく現在ノイシュタットで暮らしている人々を思い起こさせた。

 この桜は、セインガルドから寄贈されたものだという。

 桜に住み着いて毛虫は高みに存在するが──成長するノイシュタットに便乗するように上流階級の人間達も肥え太った。

 落ちてしまえばこんなにもちっぽけな存在は、咲き誇る桜に寄生して、真下を通る人間を脅かす。

 ちょうどフィオレが、日傘を使っているように。

 桜がもしも倒れたら、毛虫もすべて落ちるのだろうなとフィオレがくだらないことを考えているうちに桜の並木道を通り過ぎ、海に面した展望台へと出た。

 無人というわけではなく、数人の市民と思われる人々がちらほら見受けられる。

 潮風を感じながらゆったりと眺望を楽しんでいたフィオレは、ふと耳に入ってきた高音が気になった。

 

「あなた、旅の人かしら?」

「よかったら、案内しましょうか? ノイシュタットはいいところですよ」

 

 姉妹、だろうか。

 顔立ちがそこはかとなく似ている、上級階級と思われる女性二人組が、小柄な人影に声をかけている。

 艶やかな黒髪を短く整え、朱鷺色のマントが潮風を受けて揺れている。後姿はそれだけだったが、ちらりと見えた露草色を基調とする制服には見飽きるほどに覚えがあった。

 声をかける気はなかったが、どうなるのか興味がある。

 正確には、彼がいかにして彼女らを退けるか、あるいは開き直って社会勉強を始めるのか。

 目立たぬようすすっと、近くのベンチへ行って腰掛ける。すでに会話が盗み聞ける距離、どのような結果になろうときっと見物だろう。

 海を眺めるフリをして、日傘の影から彼を見やった。

 すると。

 

「……人探しをしていただけだ。邪魔をした」

 

 何のためなのか周囲を見回したらしいリオンと、ばっちり眼が合う。

 急いで逸らしても、もう遅い。リオンは彼女達から早足で離れ、まっすぐにフィオレの元へとやってきた。

 

「何か御用で? というか、子供たちと遊んでいたのでは?」

「菓子を配る手伝いはしたんだ。それ以上付き合ってられるか」

「……逃げてきたんですか。根性のないこと」

「うるさい」

 

 そのまま、どっかとベンチに座り込む。そして一息つく少年に内心で呆れながら、実際に手伝ったことは評価した。

 水平線の向こうに、どこぞの大陸かあるいは島か、とにかく陸地の稜線が見える。波は少し高いようだが、雲がちらほら見える程度のいい天気だった。

 ……こんなにも平和で、穏やかで、貴重な時間。

 隣の少年に少し申し訳なく思う。彼の隣に座るのが、彼が想いを寄せる女性であればよかったのだが。

 こんな風に思うことも、彼は余計なおせっかいだと、きっと憤慨するだろう。

 しかし、思うだけなら自由だ。

 フィオレには、大切なものはない。

 護らなければならないのは、誰かではなくて、契約。それだけでなくてはいけない。

 ここで生まれていないフィオレに、ここで死ぬ資格などないのだから。

 

 ──還ったところで、どうするのだろう。

 

 意図的に考えないようにしていた、契約を果たしたその先。考えてしまえば、思考の渦に巻き込まれて、浮上できなくなる。

 それがわかっていて尚。ぽっかりと空いた時間はフィオレを、不安の座礁へ導いた。

 

 かつての主に会う? 

 ──刻まれていた忠誠の譜陣は失われて、彼を主と認識することもできないのに。

 

 母を殺した男を殺す? 

 ──そんなことをしても、母は戻ってこないのに。

 

 遺してきた肉親に──そんな者はどこにもいない。

 フィオレンシア・ネビリムには。

 血が繋がっているのは、戦争勃発時、開戦直後に殺された父。

 教え子に殺された──否。『教え子が起こした不幸な事故に巻き込まれて』命を落とした母だけ。

 愛した男を、捜す? 

 ──どこにいるのかも、生きているかさえ、わからないのに。

 捜す手段はある。

 しかし、夫と定めた男を理由あってとはいえ、自ら離縁を迫ったというのに。幾度となく刃を向けたのに。

 捜して、再会して、どうするのだろうか。

 流れた時間は巻き戻せない。

 今更、あの場所で、何をしようというのだろうか……

 

「おい」

 

 水平線を眺めて思索にふけっていたフィオレは、真横の不機嫌そうな声音で我に返った。

 見やれば、リオンがやはり不機嫌そうな顔でフィオレの顔を見やっていた。

 

「何か?」

「何をボンヤリしてるんだ。黙り込んで」

「考え事をしているだけです」

 

 その言葉にリオンが何も反応しなかったため、そのまま会話は終了する。

 否、反応しなかったのは言葉だけだ。よくよく見ればリオンは、水平線を見やったかと思うと周辺を見回し、ちらりとフィオレを見やる。

 何かを言い出したいような、そうでもないような。とにかくフィオレを置いてイレーヌの元へ戻る気はない様子である。

 

「リオン」

「な、なんだ」

「トイレを我慢するのはよくないですよ」

 

 とりあえず生理現象の否を確かめてみると、どうやら外れたようだ。彼は顔を真っ赤にして怒鳴った。

 

「なんでそうなるんだ!」

「先ほどからモジモジしている様子でしたので。違うのなら、謝ります」

 

 その一言で、自分の落ち着かない様子を知られたと自覚したのだろう。彼は小さく息をついて話しかけてきた。

 

「昨夜の、ことなんだが」

「はい」

 

 赤くなった顔は未だにそのままだが、怒っているわけではなさそうだ。この様子だと、僅かにでも記憶に残っているのかもしれない。

 

「……僕は、何を言った?」

「そんなのシャルティエに尋ねればいいでしょう。そんな恥ずかしそうに私から聞き出さなくても」

「真面目に答えないんだ、あいつは。だから、確認のために……」

 

 やれやれと嘆息を零しつつも、フィオレは昨夜の経緯を辿った。とはいえど詳細は語らない。何があったのかを淡々と語る。

 

「以上です。前後不覚に陥っていたのですから、気を病む必要はありませんよ」

「……ほうっておいてくれ」

 

 頭を抱えて己の膝に顔を埋めるリオンのダメージは、フィオレが思う以上に大きそうだ。髪の隙間から覗く耳は、これ以上ないほど血が集まっている。

 

「そうですか。では、私はそろそろ皆のところへ戻りますので」

「おい」

 

 ほうっておいてくれ、と言ったり、従おうとすると阻んできたり。知ってはいたがとんだ天邪鬼っぷりである。

 通常ならそのまま一人になることを望んだだろうが、今しがたの出来事──逆ナンされかけたのだから仕方がないかもしれない。

 だが、本気で戻るつもりだったフィオレは状況の膠着をよしとはしなかった。

 

「リオン」

「……わかった」

 

 促され、不承不承立ち上がる。しかし何を思ったのか、続いて立ち上がったフィオレの手を取り、彼はそのまま歩き始めた。

 その様子に、いぶかしがらないフィオレではない。

 この年頃……というか、この少年がお手々繋いで誰かと歩くなど、性格からして考えられないことである。

 

「あのう、この手はなんですか」

「こうでもしないと、また僕が声をかけられるだろうが」

 

 実に恥ずかしそうにしているものの、彼の示す先には先ほど彼に声をかけていた姉妹らしき二人が未だにこちらを見ている。

 わざわざ手を繋がずとも、女連れの男に粉をかけるなど、よほど肝の据わった女しかしないと思うが……それにしても足運びが速い。

 

「リオン、もう少しゆっくり歩いてくれませんか」

「うるさい、黙って歩け」

「踵だけ高い靴、慣れてないんですよ。だから……っと」

 

 がくん、と足元がおぼつかなくなり、その手を振り解いてバランスを保つ。見れば、細いヒールの先が石畳の隙間に食い込んでいた。

 

「面倒な靴だな……」

「同意見です。よいしょ」

 

 抜けないヒールを、一度脱いでから引き抜きにかかる。裾を引いてタイツに包まれた足を石畳に置き、ハイヒールを掴んだフィオレはふと上を見上げた。

 熱視線を感じると思ったら、それまでフィオレの手を引くように歩いていたリオンが、吸い寄せられたように視線をある一点へ張りつけている。

 

「リオン?」

「……!」

 

 声をかけられて、ようやく彼は視線をそらした。挙動不審にもほどがあるのだが、真っ赤に染めた頬はどこまでも初々しい。

 

『坊ちゃん……オトナになられて』

「どういう意味だ!」

 

 思わず、といった調子で零れたシャルティエの言葉は、看過できなかったらしい。しかしシャルティエが謝罪を口にすることはなかった。

 

『いいんですか? 坊ちゃんが今どこを見てたのか、フィオレに言っちゃっても?』

「うぐ……」

「大体予想つきますけどね」

 

 今しがたフィオレは、ヒールを抜くためにしゃがみこんだのだ。胸元が大きく開いたドレスだから、上から見下ろせば当然胸の谷間がしっかり見えたことだろう。

 とはいえ、リオンに……子供に見られたところで何とも思わない。

 無事にハイヒールを回収し、リオンと連れ立って一同が子供達と戯れているであろうアイスキャンデーの店舗前へ移動する。

 ところが、店舗前では。

 

「ト、トンガリ頭ぁ!?」

「スタン君、挑発に乗っちゃだめよ」

 

 スタンとコングマンが対峙し、スタンの後ろにはイレーヌがおり、彼をなだめている。フィリアはその傍で、ルーティとマリーは孤児達と共に事の成り行きを見守っていた。

 ただ事でないことだけは、間違いなさそうだ。

 

「どうかしたんですか?」

 

 一瞬即発の空気の中、フィオレはその中へとずんずん割り込んでいった。一応、一番近くにおり尚且つ理路整然と話してくれそうなイレーヌに話しかける。

 

「ああ、フィオレちゃん。リオン君も」

「何故コングマンがこんなところにいる? まさか闘技場でフィリアを見つけて追ってきたのか」

「その、ちょっとね……」

 

 歯切れの悪いイレーヌではラチがあかなそうだと見切りをつけて、フィオレは当の本人に尋ねてみることにした。

 イレーヌの傍を通り過ぎ、スタンの横へと移動する。何をするつもりなのかと問いたげなフィリアの視線に答えることなく、フィオレはまずドレスをつまんで一礼した。

 

「先の討伐においては助力くださり、感謝しております。そして本日、チャンピオン防衛のお祝いを申し上げましょう。……で、どうしてスタンを挑発してるんです?」

 

 考えてみれば、先日船を下りてからフィオレ自身の言葉で礼を言っていなかった。

 かなりおざなりになってしまったものの謝礼と祝福を前座に、本題へと入る。

 いきなりそんなことを言われて、コングマンはぎょろりとした目を瞬かせた。しかし、すぐに何のことなのか思い当たったようである。

 

「フィリアさんの傍に余計なのがいねえと思ったら、いやがったのか。田舎娘が一丁前に着飾りやがって、誰だかわからなかったぜ」

「私が勝ったら、フィリアにつきまとうなと告げたはずです。ノイシュタットのチャンピオンは、約束すら守れない男なのですか?」

「残念ながら今回はフィリアさんに愛を囁きに来たわけじゃねえ。チャンピオン防衛戦勝利のパレードで練り歩いていたら、とんでもねえもんを見ちまってな」

 

 鋭いコングマンの視線の先には、スタン、そしてイレーヌがいる。もしかしたらフィリアも含まれているのかと、フィオレは口を開いた。

 

「スタンがフィリアといちゃつき始めたんですか?」

「ち、違います! そんなことしてませんわ!」

「そうですよ、なんでそうなるんですか!」

「この男がつっかかってくるような場面なんて、それくらいしか思いつかなくて」

 

 一番ありえそうな、偶然でも発生すればそう見えるような場面を目撃したのかと思えば、そうではないらしい。

 コングマンは真面目な表情を崩そうとしなかった。

 

「んなことがあれば、挑発なんざすることなくトンガリ頭に決闘を申し込むだけだぜ。俺が見たのは、イレーヌ・レンブラントがそこのガキ共に菓子を撒いてたんだよ」

「そうですね。配っていましたね。それに何の問題が?」

「問題大有りだ。ふざけるのも大概にしやがれ」

 

 反吐が出ると言わんばかりに地面へ唾を吐く。

 それを見てフィリアが顔をしかめたことを、おそらく彼は知らないだろう。

 

「元はといえばテメエらがノイシュタットを荒らし、そのあおりをくってこういったガキ共が何十人とでてきちまったんだ。今度は偽善者ぶって施しか? 金持ちの道楽に付き合わされる身にもなれってんだ」

「……ようは、金持ちの施しを見て腹が立ったと。そういうことでいいですかね」

「おうよ」

 

 なるほど。イレーヌが何も言い返さないのも頷ける。大方、それで調子に乗ったコングマンをいさめようとスタンが割り込み、先ほどの展開へと繋がってくるのだろう。

 気持ちがわからないわけではないが……

 ふと、ルーティやマリーのいる方角を見る。そこでは、年齢も性別も判然としない幼い子供達が彼女らから片時も離れずじっとしていた。

 中には不安そうにマリーに抱きつく子供もいる。

 

「あなたの憤りがわからないわけではありません。確かに彼女がしていることは金持ちの施しでしょう。でも、それの何がいけないのですか?」

「何がいけない、だぁ? てめえこそ寝ぼけたこと抜かしてんじゃねえよ!」

「あなたから見れば不愉快な光景なんでしょうね。でもイレーヌ女史は、施しだの偽善だの、そう罵られることを覚悟で孤児達に自分なりの支援をしている」

 

 そうでなければ手間隙かけて手製の菓子を作ったり、彼らと仲良くなったりはしないだろう。その前に子供たちから敬遠される。大人が思うよりも子供は動物に近いのだ。

 下心を持つ大人に食べ物を恵んでもらえる、それだけの理由で懐く子供はいない。媚を売る子供ならいるだろうが。

 

「やらない善よりやる偽善、と言う格言があります。例え行為そのものは偽善であろうと、子供達は嬉しそうに笑ってくれました。彼女が作ったお菓子を美味しいって。それを偽善だから、という理由で妨げる権利があなたにあるのですか?」

 

 一方的にまくし立てられ、形勢が逆転する。

 狙っていた通り、やはり口上でのやりとりまではチャンピオンではない彼は、脂汗を浮かべてしどろもどろと反論に出た。

 

「て、手製だろうと何だろうと、孤児に、食い物をばら撒いてる時点で……」

「なら、あなたは何をしたのですか? 闘技場で活躍し、その姿を見せることでノイシュタットの人々に勇気と感動を与えると評判のマイティ・コングマン。あなたは彼女の、いいえ、他人のことをとやかく言えるほど立派なことをしたのですか?」

 

 ──実のところ、フィオレはこの問いに対してコングマンは肯定していいと思っている。

 どれだけいけ好かない男でも、様々な覇者が集う闘技場の頂点を君臨し続けるというのは、八百長でもしていない限り並大抵のことではない。

 イレーヌに噛み付いてみせたように上流階級を目の敵とし、時折街中に現われては孤児たちを鼓舞してみせるなど、彼にしかできないことは十分に実行していると思う。

 しかしそれを己の口から言うのは抵抗があるのか、コングマンは口を開こうとしない。それを見かねたらしい取り巻きの一人が、彼の前へと飛び出してきた。

 

「黙って聞いてりゃ、他所もんの分際で好き勝手抜かしやがって! チャンピオンはな……」

 

 まだ若いだろうに、コングマンとよく似た禿頭、そしてひょろりとした上半身裸。コングマンコスプレと思わしき彼がとうとうと語るチャンピオンの行いに、フィオレはひとつ頷いた。

 もとより、そう返されることを想定していたからだ。

 

「……ってなことをやっているんだからな!」

「それと同じことです。イレーヌ女史だけにできることではありませんが、彼女は自分で考えつき、個人での実行可能な支援をしているだけ。否定するだけ馬鹿らしい」

「だ、だったら……あんな豪邸売り飛ばして小さな一軒家でも買って、その差額を孤児たちの支援にあてれば」

「ではあなたは、闘技場にて入る収入の八割を孤児たちの支援に当てられるんですか? あなたが闘技場の管理者でないことと同様に、イレーヌとてレンブラント家の当主ではないんです。そんな好き勝手はできないでしょう。だから個人でできることをしているというのに」

 

 日傘をかざして、取り巻きの無茶苦茶な案を一蹴する。

 

「それで? まだ何か、おっしゃりたいことでも?」

「……っだー、やめだやめだ! ったくこれだから女はいけ好かねえ。口でまくしたてりゃあどうにかなると思いやがって!」

 

 禿頭をがりがりと掻きつつ、コングマンは口論を放棄した。これすなわち、フィオレの口上勝ちということになる。

 

「あなたに理性があってよかった。いつぶん殴られるのかとヒヤヒヤしましたよ」

「それならそれで避けて、それを免罪符に仕掛けてくるんだろうが、てめえは。まったく可愛げのねえ。その姿でおしとやかにするなら、二号にしてやるところなのによ!」

「そんなことになったら私は舌を噛みます。もしくは身投げします」

 

 すすす、とさりげなく移動し、フィオレはスタンの後ろへ隠れた。

 そんなフィオレに四つ角を浮かべつつも、コングマンはちらり、とイレーヌを見やっている。

 

「……俺様は間違ったことを言った覚えはねえ。だが、そこの田舎娘がそこまで言うくらいだ。あんたはちったあ違うんだろう。少しだけくだらない夢を見させてもらうぜ」

 

 そう言い捨てて、ノイシュタットチャンピオンは取り巻きらを引き連れて去っていった。

 誰かがほうっ、と息を吐いたのが聞こえる。

 

「喧嘩にはならずにすんだか……成長するんだな、お前も」

「コングマンが脳みそまで筋肉になってなくてよかったわね。でなきゃあんた、本当に殴られてたわよ」

「私はともかく、このドレス汚すわけにはいきませんでしたからね」

 

 リオンの嫌味を聞き流し、軽くドレスの生地を摘まんで舌を出す。

 和やかな雰囲気が戻ってくる気配を覚えながら、フィオレはこっそりとシストルを取り出した。それまでの雰囲気を払うかのように、シストルの音色が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 彼女は元の世界に還ってどうしたいのでしょうか。

 後半、施し云々は現代社会においても問題提起できます。
 よく、どこそこの恵まれない子供達、云々、ありますが、外国の問題に首突っ込むよりはまず自国のホームレス溢れる状況を何とかしたほうがいいのではないかなと。
「可哀想」と言うだけならタダです。言わないよりも言った方が、自分は満足できるでしょう。
 でも、日本にも「可哀想」といえる状況はいくらでも転がってるんですよね。
 ホームレスはおいとくとしても日本の孤児院だってスカスカじゃないし、けして裕福でもない。
 毎日何百頭の犬猫が殺処分され、古い時代の法律に振り回された犯罪被害者の涙で川どころか海ができちゃいます。
 問題はけしてそれだけじゃないんですけどね。
 個人にできることって何でしょうね。
 募金? ボランティア? それとも、事実を知ってそれを多くの他者に知ってもらうこと? 
 事実を知る人が増えれば増えるほど、それは須く「力」に繋がるでしょう。
 でも「力」は正しく振るわれるものとは限らない。
 堂々巡りです。でもそれで、世界は沢山の歯車を絡めて回っている。
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