swordian saga   作:佐谷莢

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 舞台は移り変わり、ノイシュタットからアクアヴェイルへと旅立ちます。
 フィオレはともかくとしてリオンは、国家として認定された客員剣士=有名。
 ということでフィオレと共にお色直し。
 前作「The abyss of despair」で着ていた代物を着てもらいます。


第六十六夜——十分な休息の後に~出陣のお時間でござる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一日は、通常と同じく過ぎ去っていく。

 夕方、一同が引き上げる頃。操作盤のレーダーはバティスタがアクアヴェイルへ上陸したことを告げた。

 

「約束だ。イレーヌ、船を出してくれ」

「わかったわ。けれど、出発は明日の朝でいいでしょう? しばらくは船旅を強いられるんだから、ぎりぎりまで休んでいて」

 

 夜中の出港が不可能ではないらしいが、イレーヌの厚意によって一同はレンブラント邸にて歓待を受けた。

 そして、翌日のこと。

 

「さあ船長、出港して頂戴!」

「何から何までありがとうございました。ところで降りなくていいんですか?」

 

 港へ集まった一同が首尾よく船へ乗り込み、イレーヌが出港を命じる。

 ところが彼女は一同と共に乗船したまま、碇がゆっくりと持ち上げられた。

 

「ええ、最後まで見送りたいの。それにこの船、この間導入したばかりの最新型でね? 一度乗り心地を試しておきたかったのよ」

 

 もっともらしく言っているが、事実か否かは判断しかねる。

 ただし前半は事実であるらしく、最新型のレンズエンジンを備えているのだろう。それほど風が強いわけでもないのに、船はすいすいと、波をかき分けるかのように進んでいく。

 これならば、地図上の距離から図って五日は必要であろう行程を、丸二日程度に短縮できそうだ。

 それなら、するべきこともさっさと済ませておくべきだろう。まずはリオンのことだ。

 船内を歩き回り、休憩室でミントティーを嗜んでいたリオンを見つけて話しかける。

 

「なんだ?」

「突然ですが、お召替えを要求します」

『着替えしろって? なんでまた』

「それ、セインガルド王国客員剣士の制服でしょう。アクアヴェイルの人間は知らないでしょうが、状況が状況です。その格好でこちらの動きが捕捉されてもつまらない」

 

 アクアヴェイルが特殊な風土のもと、セインガルドなどとは一風変わった文化であることはリオンも知っていたのだろう。

 ならどうするのか、と言わんばかりのリオンを、フィオレは寝室用にとあてがわれた船室へ連れてきた。そして荷袋から、とあるひふく一式を取り出す。

 イレーヌの趣味に付き合った際、彼女からプレゼントされたもの──ではない。

 本当は新品のあちらがいいだろうが、どう見てもあれは女物だった。美少年で在るが故に女性に間違われる、それをけして喜ばない少年にそんなものを渡せば激怒しかねない。

 そこで。

 

「着古しで申し訳ありませんが、こちらを」

 

 フィオレと名乗るより以前に身につけていた、黒の上衣袴を取り出す。

 たっぷりとした袖が特徴的な上衣と、裾が広がっている袴──リオンにしてみれば特殊な形のズボンを渡され、彼はあからさまに困惑した。

 

「……どうやって着るんだ?」

「私が着せますから、下着残してそれ脱いでください」

 

 少年が服を脱ぐ様に興味は無い。くるり、と後ろを向く。

 布擦れが聞こえないということは、戸惑っているのだろう。フィオレはそのままの姿勢で、言った。

 

「建国式典の夜を覚えていますか? 今更あなたの薄着姿見ても、何も思いませんから」

 

 トラウマを刺激することになるかもしれない。そうは思ったが、ここで時間を無駄にするつもりもなかった。

 やがて、服を脱ぐ際発生する独特の布擦れが聞こえてくる。

 それがやんだ頃を見計らって振り向けば、つつがなく準備は完了していた。

 あまりリオンを見ないようにしながら、衣装をリオンに着させていく。身ごろの位置を合わせて布紐で固定、袴に足を通させて帯紐を締めると、彼は微妙そうな顔つきで訴えた。

 

「……腹が苦しい上にスースーする」

「後で着方をお教えしますから、ご自分で調整してください。ちゃんと着るとこんな感じになります」

『わ、坊ちゃんカッコイイ!』

「……馬鹿にしてるのか、シャル?」

「いやいや。流石元がいいだけあって、似合いますね」

 

 見目に関してなら、まったく問題ない。あとは悪目立ちしないかどうかだが、客員剣士の制服のままよりはマシなはずだ。

 

「で、着方なんですけどね」

「な……ま、待て! 何をするつもりだ」

「あなたにこういった代物の着方を説明するんです」

 

 突如として慌てふためくリオンを前に、構わず制服を脱ぐ。そして今度こそイレーヌの贈り物を取り出し、自分で着ることによって着方を説明した。

 当然のことながら、下着の類は見られても平気な部類を身につけてある。

 安心したように一息つくリオンに対し、シャルティエはブーイングを放った。

 

『ちょっとー。なんで僕にだけちゃんと目隠しするのさー』

『その質問ですべてに答えがつくと思いませんか?』

 

 現在寝台に立てかけられているシャルティエにリオンのマントがかけられている。上着を脱ぐ前、目隠しをしたのだ。

 文句のつきないシャルティエを放って、着方の実演をする。

 脱いで着る、その繰り返しによって自力で着られるようにしてから、フィオレは彼を甲板へと誘った。

 

「今度は何をするつもりだ」

「その格好でも支障なく動けるよう、肩慣らしをね」

 

 甲板上での修練など、アクアヴェイルの陸が見えない今くらいしかできない。

 もしもアクアヴェイル付近で海軍に拿捕された場合、「物見遊山気分で遠出をしていたフィッツガルドの間抜けな一般市民」を演出、その後接触してきた船を乗っ取る予定なのである。ただし、それを企むにはこちらが無力であると示さなければならないのだ。

 甲板で剣を振り回しているのが見つかったら、拿捕などされずに砲撃を受ける可能性が高い。

 最新式レンズエンジンの底力を見せてもらい、無理やり接舷を試みるのもアリだが労力は少ないに越したことはない。更に今回はイレーヌもいるのだ。大規模な争いごとは避けるべきだろう。

 抜刀から始まり、まずは準備体操にあたる剣舞から入る。

 その都度動きにくいと訴えるリオンをなだめて模擬試合を行っていると、ふらりとスタンが現われた。

 

「あ、二人ともこんなところに。イレーヌさんが探してましたよ」

「イレーヌ女史が?」

「はい。レンズエンジンの性能は十分にわかったから、今度は皆でお茶にしないか、って」

 

 全然関係ない気がするが、おそらくは彼女の暇つぶしだろう。承諾して、遅れていくよう言付けるもスタンはその場から動こうとしない。

 

「そういえば、どうしたんですか? いつもと格好が違いますけど」

「アクアヴェイル風の格好です。皆はともかく、リオンの格好は客員剣士の制服ですので、目立たないように変えてみました。私はイレーヌさんからこちらを頂きましたので、ついでに」

「へぇ~。あ、でも、アクアヴェイルはそういう格好が普通だったりするんですか? それじゃあ俺達、すごく目立つような……」

 

 無論、その辺りについては考えてある。それに、全員分の変装を考えなかったわけではない。

 だが、アクアヴェイルの服装は特殊だ。全員にそれを強いて、機動力の低下に通じるようでは眼にも当てられない。

 だから心配しなくていいと告げ、修練を中断して彼らと共に休憩室へと赴く。

 そこでは、イレーヌによって召集されたのだろう女性陣が華やかに談笑していた。

 

「あら、スタン君……まあ! リオン君、その格好って」

「こいつに無理やり着せられたんだ」

「よく似合ってるわ。にしても、よくアクアヴェイルの衣装なんてもうひとつ手に入ったわね」

 

 予想通り、イレーヌは普段とは一風違う彼を前に瞳を輝かせている。

 席を立って出で立ちの仔細を観察する彼女につられることなく、フィリアが不思議そうに首を傾げた。

 

「あの、その格好はアクアヴェイルの服装なのですか?」

「ええ、そうよ。アクアヴェイル地方独特の民族衣装。かの領地ではこの服装が普通だとされているわ」

「ということは……フィオレさん、ひょっとしてアクアヴェイルの出身ではありませんの?」

 

 何気ないフィリアの疑問を、何気なくイレーヌが答えてみせる。

 そして彼女が発した一言は、少なくともフィオレ、イレーヌ、リオンを凍りつかせた。

 ただ驚くはルーティである。

 

「ええ? いきなり何を言い出すのよ」

「だって、リオンさんが今着ているのはわたくしが初めてフィオレさんと出会ったときのお召し物ですわ。変わった衣装だからどこのご出身なのかしらと不思議に思っていましたが……」

 

 真実を聞きたいとばかりにこちらへ目を向けるフィリアには申し訳ないが、とんだ勘違いである。

 しかし。

 

「そういえばお前、これを着付けるのに随分手馴れていたな。これを着ていたということは、アクアヴェイルのどこかの領地出身かもしれないぞ」

 

 違うと断言してしまいたい。しかし、それならどこなのかという議論に発展するのは避けたい。

 そんなことを考えて次にフィオレがしたことは、おもむろに菓子を摘まむことだった。

 

「あ、美味しい」

 

 そのままもうひとつ摘まむフィオレに、イレーヌが苦笑混じりに香茶を入れて席に着くよう促す。

 話題を取り戻すためなのか口を開きかけたリオンをもイレーヌは誘い、そのまま和やかなお茶会が始まった。

 

「このナッツクッキー、美味しいですね」

「そう? 気に入ったなら、今度作り方教えてあげるわ。だから……ちゃんと帰ってきてね」

 

 そればかりは、預言(スコア)にでも頼らないとわからない。

 やがて、イレーヌが持ち込んだお菓子がなくなったことによって自然とお茶会も終わる。

 そのまま自然解散になろうとした一同を、フィオレは深呼吸をした後で呼び止めた。

 

「──ちょっと、お話があります。集まってもらえますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 




 ゲームプレイ中、驚いたのはイレーヌさん、お見送りしてくれるんですね。
 てっきりフィッツガルド港でお別れかと思っていたのですが。
 お嬢様なのに義理堅い人です。いや、お嬢様だからかな? 
 イレーヌがいないと船員達がアクアヴェイルに近づきたがらず反乱を起こし、一同は海のど真ん中に放り出されてゲームオーバーになってしまうから……と考えたのは、私だけでいいです。はい。
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