swordian saga   作:佐谷莢

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第六十七夜——秘密の暴露

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これから話すことを、イレーヌはおろか他者に聞かせるつもりは微塵にもない。

 フィオレはなんだなんだと集まった一同を、船底にある倉庫へ連れて行った。

 

「これからアクアヴェイルへ向かうにあたって、皆にお話しておきたいことがあるんです」

「どうしたのよ、改まって」

 

 そう口に出すルーティも、他の一同も、怪訝そうな風情は隠していない。リオンなどは露骨に眉を寄せている。

 大したことではないのだが、これからの同道を考えると避けては通れない。そんな気がしたのだ。

 それに、これを明かすことによって、彼らがとある勘違いをしてくれることを、密かにフィオレは期待している。

 

「アクアヴェイルへ入るにあたって、世界各国と冷戦状態であるに等しい国ですから港は使えません。アクアヴェイル出身の船員の話によると、浅瀬が多いからみだりに陸へ近寄れないし、簡易ボートは目立つから使えない。ですので、できる限りこの船に海岸線まで近寄ってもらい、泳いでたどり着かなくてはいけないそうです」

 

 未知なる国への極秘航行だけあって、船長はきちんと考えていた。

 どこからかアクアヴェイル出身の船員を調達、同乗させており、話を聞いた結果がこれだ。この船の安全も考えると、反論はしかねる。

 しかし、初めてそれを聞かされた一同は驚愕も戸惑いも隠せていなかった。

 

「お、泳ぐのですか!? わたくし、水泳はちょっと……それに、着衣水泳は下手をしたら溺れてしまうかもしれません」

「私も泳いだことはないな。鎧もつけているし」

「あ、そうか。俺泳ぐだけなら大丈夫だけど、鎧つけてたら沈むよなあ」

 

 遊撃の位置に立つルーティ、リオンはともかくとして、前衛たちのそれはどうしようもない。

 更にこれまで神殿から出たことのないフィリアは、予想通りの反応を示した。

 

「そうですか。では、ここで普段私が使う手品の種明かしをしたいと思います」

「え?」

「ところで皆は、星の守護者の存在をご存知ですか? リオンは聞いたことがあると思いますが」

 

 唐突な話の移り変わりに、ついてくる人間は少ない。話を振られたリオンが小さく嘆息する程度だ。

 

「守護者……?」

「あの与太話がどうかしたのか」

 

 そんな中、思わしげに沈黙していたフィリアが唐突に口を開いた。

 

「地水火風光闇、この星において各属性を司る存在のことですね。精霊結晶、と学者達は呼んでいますが、存在は確認されたことがないと」

「流石フィリア、ご存知でしたか。私は単純に守護者、と呼んでいますけどね」

「で、その守護者だか精霊結晶だかがどうかしたの?」

「私は彼らと、とある契約を結んでいます。だから、ソーディアンなしで様々な属性の晶術に近い手品を扱うことができるんです」

 

 さらりと明かされたその事実に、無論のこと一同は戸惑った。

 

「け、契約……?」

「ええ。なので、アクアヴェイルへ入る時にもこの手品を使います。濡れずに溺れずに確実にアクアヴェイルへ上陸できるようにしますんで、その時は慌てず騒がず、まるで当たり前であるかのように振る舞っていただきたい」

 

 以上です、と話を締めくくる。

 何とも言えない顔をしている彼らに背を向けて、フィオレは一人、出て行った。

 

「……」

 

 奇妙な沈黙が漂う。

 何を言うべきか、言わざるべきか。それを一同が考え込むよりも前に発言したのは、ソーディアンたちだった。

 

『……なるほどのう。そういうことじゃったか』

「クレメンテ?」

 

 ここへ至るまでソーディアンチーム内でフィオレのことをいぶかしんでいた面々は、解答の片鱗が見えたとばかり吐息をつく。

 

『精霊結晶が絡んでいたとはな。確かに、そうそう明かせるタネではない』

「ディムロスはその……精霊結晶ってのが何なのか、知ってるのか?」

『私自身は、今の今まで御伽噺だと信じていたな』

 

 つまり、何も知らないに等しいらしい。

 フィリアも、精霊結晶は研究対象外であったらしく、それ以上のことはまったく知らなかった。

 

『精霊結晶か……こんなことならもう少し勉強しておけばよかったな』

「シャル?」

『一応僕らの時代にも、その存在の有無が議論されたことがありました。大半の人間は信じてませんでしたし、僕も半信半疑でした。ただ、仲間の一人が言っていたんですよね。存在することよりも、存在しないことを証明するのは難しいって』

「あいつに妙な手品が使えるのは、本気でその……精霊結晶と結んだ契約の賜物だと思っているのか」

『残念ながら、それ以外に理由はつかん。逆にそれ以外の理由が提示されても、わしらは信じるより他あるまいて』

 

 詳細は一切わからないものの、とにかくヒントは得た。調べる方法が皆無ではない今、それは後々明らかになるだろう。

 と、そこへ。

 

「でも、何で今教えてくれたのかしら? こんな急に……」

『非常に考えにくいことだけれど、あなたたちを信頼している、という証かもしれないわね。あなたたちなら、笑い飛ばさず信じてくれる、って』

『今までのこと考えると、笑い飛ばすなんて恐ろしくてできたことじゃないけどね』

 

 ルーティによる疑問の提示に、アトワイトがさらっと失礼なことをいいながら、実に人情味溢れた推測を口にする。

 シャルティエがその言葉尻に乗って冗談交じりに言うも、けして外れているわけではない。

 

「でも信頼してくれるなら、眼帯の下も見てみたかったな」

 

 冗談ぽくマリーがそれを口にし、一同は苦笑を交えてちらほらと同意した。

 とにかく移動をしようと、一同は誰が言い出すでもなく船底の倉庫を出る。そのまま休憩室へ行こうとしていた一同は、船員に呼び止められた。

 

「アクアヴェイル公国の陸が見えてきました。そろそろですので、準備をお願いします」

 

 フィオレの話が正しければ、一同は簡易ボートを使うことも許されず、どうにかしてアクアヴェイルへ入ることになる。

 とにかく外を見ないことには話にならないと、彼らは一路、甲板を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

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