swordian saga   作:佐谷莢

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 アクアヴェイル近辺海~シデン領土砂浜。
 原作中(PS版)ではスタンが単身海へ飛び込み、犬掻きっぽい泳ぎでシデン領入りしていますが、金属鎧を着けて泳げるわけがない(ファンタジーに突っ込み禁止)
 そんなわけでフィオレに奮闘してもらいました。虎の子の宝石を使い、更にへとへとになりながら、どうにかシデン領入り。



アクアヴェイル不法入国編
第六十八夜——海中移動~実は生涯、二回目の


 

 

 

 

 

 

 

 

 船員の連絡を受けて、一同が甲板へとたどり着く。そこでは、フィオレがイレーヌと話をしていた。

 遠くにそびえるはアクアヴェイル諸島の陸地だろう。

 ここがどの辺りになるのか、それを話しているのだろうか。

 

「フィオレさん。ここってアクアヴェイルのどの辺りになるんですか?」

「さあ」

 

 しかし、そんな彼らの予想は木っ端微塵に砕かれた。

 実に無責任な返事をするフィオレは、手元に地図帳を携えている。その中の一頁を開いて、イレーヌに中身を見せた。

 

「今、どの辺りですか?」

「えーと……ここね」

 

 彼女が指差したのは、アクアヴェイルにいくつもある諸島のひとつ、比較的大きな領土である。

 地図上に書かれた領土の名は……

 

「シデン領……」

「知っているんですの?」

「いいえ。ですが、聞き覚えがあるんです」

 

 よもや記憶が戻りつつあるのかと、声を弾ませるフィリアには申し訳ないのだが。

 

「この刀の銘と同じなんですよね。ここの領主の持ち物とかではなければいいのですが」

 

 それを聞いてフィリアはがっくりしているものの、フィオレにとっては重大な問題だ。

 もしもこの出自不明の刀がこの領主家のものであったとしたら、返還はもちろんのこと、泥棒呼ばわりされる危険性があるのだ。

 そもそもこの国の人々から目をつけられる要素は歓迎できない。

 そのため。

 

「みだりに人前で抜かないほうがよさそうですね……そんなわけなので、街中での騒ぎは避けましょうか」

「当たり前だろうが、そんなこと!」

 

 緻密な装飾が施されているとはいえ、遠目には黒ずんだ鞘だ。

 街中ではカモフラージュを考えないわけではないが、今はまだ海上真っ只中。直後魔物に襲われない可能性がないわけではない。

 今はカモフラージュの方法でも考えておくことにする。

 そうこうしているうちに陸地の影がどんどん濃くなり、ついには甲板上での視認が可能となった。

 そして、徐々にレンズエンジンの騒音が小さくなっていく。ある地点まで来たときピタリと停止した。

 船長からの報告を受けたイレーヌがすまなさそうに、しかし反論を許さぬ態度で告げる。

 

「悪いけど、送れるのはここまでよ。今のところ海軍らしい船影はないけど、私達も早く離れないといけないから……」

 

 言いにくそうにしているが、早く行ってくれということだろう。それならばと、フィオレは懐を探り始めた。

 

「無理を言って済まなかった。気をつけて帰れよ」

「みんなも、どうか無事で……」

「ありがとうございました」

 

 口々に一同が礼を言う中、フィオレが取り出したのは海の色に輝く輝石──アクアサファイヤだ。

 アクアリムスの力を借りての海中移動は初めてのこと。いくら以前、ウンディーネの力を借りての経験があるとはいえ、こんな大人数での移動もまた初めてなのだ。

 

『アクアリムス。海を通じて、私達を陸へ連れて行ってください』

『かまいませんが、この人数ですとそれなりの消耗が予想されます。その石で、晶力を補うおつもりですか』

『その通りです。不都合がありますか?』

『いいえ。では……』

 

 手甲の下で、レンズが瑠璃色に輝く。フィオレの手の中で、輝石は音も無く崩れ落ちた。

 直後、燐光を放つ陣がフィオレを中心に展開される。

 

「こ、これは……」

「ここまでご足労さまでした、イレーヌ女史。お元気で」

 

 一同に集まるよう伝えて、彼らが怖々と譜陣に足を乗せたことを確かめるとアクアリムスに語りかけた。

 

『行きます』

 

 燐光を放っていた譜陣が、強い輝きを放つ。ふわ、と足が甲板から離れたかと思うと、一同は海の中へと潜った。

 

「うっわ!?」

「ちょ、ちょっと、溺れちゃう……あら?」

 

 結界によって、きちんと酸素は確保されている。しかし、このままでは確実に息苦しくなるだろう。

 結界を維持し、ゆっくりと前進させつつシルフィスティアに語りかけた。激しい頭痛に襲われるも、やめるわけにはいかない。

 空気の確保のほかに、彼女には頼みたいことがあるのだ。

 

「不思議だな。冷たいし、水の感触はあるのに、濡れてない」

「本当ですわ」

 

 水の感触を両手で確かめつつ、フィリアはすぐ傍を通過する魚群に目を奪われている。

 他の一同も、海面に近い海中の様子に気を取られていた。ただ一人と、もうひとつの人格を除いては。

 

『フィオレ、すごく顔色悪いよ。大丈夫?』

「お前の体調なんか知ったことじゃないが、沈没されても困る」

「……」

「おい」

「話しかけないで。集中が途切れる」

 

 急遽取り出したフリーズダイヤ──風の属性が封じられている透明な輝石を消費することで頭痛を緩和させ、空気の確保と周囲の様子を投射する。

 進む方向にあるのは人気のない海岸だ。魔物の気配もないことを確認したフィオレは、風の視界を操って上陸しようと目論む島を見下ろした。

 そこで、大規模な集落を発見する。セインガルドとは根本から異なるであろう建築様式の建物に、行き交う人々の服装は今のフィオレやリオンに近い。

 島国だからなのか、街中の至る所に水路が張り巡らされている。

 

「これは……シデン領か?」

 

 リオンが何か言ったようだが気にはしない。

 本来なら目蓋の裏に投影するのだが、今は海中移動中だ。目を閉じてそれにのみ集中はできなかった。

 街中を映す風の視界は、やがてこぢんまりとした港へ到達する。しかし港はひどく閑散としており、僻地の港だから、という理由では済ませられない静かさだった。

 これを不思議に思わないフィオレではない。再び風を操って、港全体を見回した。

 真昼間の港にしては波止場に船が並び過ぎているし、競りが行われている気配もない。港の片隅では破れてもいない網を広げた老人が、修理をする気配も見せず黄昏ていた。

 ここで思索を巡らせようとして、再び激痛が脳裏を侵食する。いたしかたなく、フィオレは虎の子のつもりでとっておいた蒼と透明な輝石を消費した。輝石が音も無く崩れ消滅するのと同じく、頭痛が失せる。

 同時に周囲を目視すれば、陸地はすぐそこだった。

 

「……なんか、港が機能していなかったようですね」

『もう大丈夫なの?』

 

 それまで張り詰めた表情で、汗さえ浮かべていたフィオレの変調に気付いたのだろう。

 シャルティエが気遣わしげに話しかけてくる。他一同は海中の様子に気を取られており、気付いた様子はない。

 

『あまり大丈夫ではありませんが、もうすぐです。魔物が現われなくて、幸いでした』

 

 もしも海中移動中に襲われていたら、逃げるくらいしかできなかったろうから。

 それまでシデン領を映していた投射画面を眼前の海岸に移動させ、周囲の様子を伺う。

 周囲に人の目や魔物が見受けられないことを確認して、一同を包む結界を一息に浮上させた。

 

『ありがとう、アクアリムス。シルフィスティア』

『それは構わないのですが……』

『ちゃんと休んでね? 今のでかなり消耗したでしょ』

 

 音もなく、水をかき分けて砂浜に足がつく。

 全ての負荷から解放され、体から緊張感が一斉に消えたせいなのか。フィオレは言葉もなく膝から崩れ落ちた。

 

「フィオレさん!?」

「……平気です。気が抜けただけですから」

 

 とはいえ、同時に彼らの力を借りるのはやはり無茶だったのだろうか。なかなか立ち上がれない。

 しかしそれを馬鹿正直に告げるつもりもなく、フィオレはそのまま砂浜に寝転んだ。

 

「おい、何をふざけて……」

「さーて。バティスタはどこかな、と」

 

 頭上であきれたように見下ろしてくるリオンなど、どこ吹く風で、フィオレは懐から額冠(ティアラ)操作盤を取り出した。

 レーダーを起動させると、淀みなく三つの額冠(ティアラ)の位置が表示される。二つはすぐ近く、もうひとつは……残念ながらこのシデンの領土にはいないらしい。

 現在位置から西側に位置する島国に、かの額冠(ティアラ)の反応はあった。

 

「残念ながら、さっきの集落にはいないようですね。とっとと隣の領に行ったほうがよさげです」

「隣の領と言いますと……」

「このモリュウ領ってところですか?」

 

 フィオレに渡された地図帳をめくり、スタンがとある頁を開く。小さく頷いて、フィオレはどうにか起き上がった。

 

「陸続きならさっさと向かうところですが、地図を見る限りかなり距離がある様子です。だったらシデンの集落で情報収集と船を用立てることにしましょう。ただし、発言には気をつけてくださいね」

 

 一同を引き連れて歩き出しながら、先ほど見た光景を思い起こす。海中移動の最中、あの位置からでもそう遠い場所にはなかった。

 現に今、フィオレが立つ場所から海沿いにせり出した波止場のようなものが見える。あれを目指して歩けば、迷わずには済むはずだ。

 

「ねえ、発言には気をつけろってどういうことよ?」

「アクアヴェイルは鎖国……各国との交流断絶状態にあるので、表向き外国との貿易をしていません。つまり、旅の者です、と言っただけでは怪しまれる可能性大です。ルーティ達の格好では尚更」

「それじゃ聞き込みができないじゃない。どーすんのよ!?」

 

 やはり先に説明しておいて良かった。集落付近で話をしていたら、この騒ぎ具合で注目が集まるだろう。

 そんな彼女の賑やかさに、ケチをつけたのはこの人だった。

 

「わめくな、ヒス女。盗み聞きされていたらどうする」

「誰がヒス女よ! 偉そうに、あんたには何か考えがあるっての!」

「当たり前だろう、お前とは違うんだ。それにお前は、フィオレが何のアテもなく動き始めるアホだとでも思っているのか」

 

 リオンにも一応考えがあるようだが、まずはフィオレの案を聞くつもりらしい。

 暗にどうするつもりなのかを尋ねられ、フィオレは足を止めた。周囲の人の気配はない。おそらくは、大丈夫だろう。

 

「先程は、情報収集に船を用立てると言いましたが、情報収集はさておいて船の確保は難しいと思います。アクアヴェイルにも商業上の理由で定期連絡線があると思うのですが、私が見た限りでは港が機能している気配はありませんでした」

「見たというのは、さっきの映像のことか」

「ええ。まずはそれを探ろうかと思いますが、これについて詳細を調べる方法も検討はつけてあります。しばらくついてきてくれませんか?」

 

 詳細を尋ねるも、フィオレは再び歩き出すだけだ。一同はそのままついていくことを余儀なくされた。

 やがて静かな港の全容が、シデンの領主がおわすだろう町並みが見えてくる。

 そこで、フィオレはくるりと振り返った。

 

「フィオレさん?」

 

 スタンが声をかけるも、フィオレは一同の姿を上から下まで余すところなく見回しているだけだ。

 やがてフィオレは、おもむろに自分の荷袋を漁ったかと思うと、何かを引きずり出した。

 手にしていたのは、カルバレイスにてフィオレが着用していた、すっぽりと体全体を覆うことができる外套である。

 そしてそれを、ルーティへ差し出す。

 

「ルーティ。まことに申し訳ありませんが、街中ではこれの着用を義務付けます」

 

 無論のこと。彼女は露骨に嫌がった。

 

「ええー! 何でよ」

「その格好が非常に目立つからです。これまで旅してきて、男性からの視線を感じたことがないとは言わせません」

 

 決して下品ではないが、ヘソを出して歩き回るのは問答無用で目立つ。これまでならまだしも、密入国中の身でいさかいを起こすわけにはいかないのだ。

 不法者といさかいを起こすならまだしも、それによって更なるトラブルを引き起こす危険を考えると、看過はできない。

 

「この格好だと、寄ってきた色ボケから色々せしめられるのに……」

「また今度にしてください。それと、不審だと思われるような行為をしようとしたら私から電撃を飛ばしますので」

 

 これには流石にスタンすら鼻白むも、それだけ真剣なことが伝わればそれでいい。きっちり着用させて、再び歩き出す。

 やがて一同は、件のシデン領へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 常々思っていたことですが、ルーティの格好って絶対目立ちますよね? (ファンタジーに突っ込み禁止。大事なことなので二回ry)
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