swordian saga   作:佐谷莢

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 inモリュウ領。
 死にかけてそれを乗り越えて、たどり着いたその先は。ポッと出の領主が管理しているとは到底言えない、兵士という名の無法者が跳梁跋扈するところでしたとさ。
 久々の新キャラ(パーティ参入可能キャラクター)が登場します。
 
「蒼天の稲妻」「愛と夢の狩人」「道化のジョニー」
 二つ名がいくつもあるけれど、そう呼んでいる人は皆無。コレ全部自称じゃね? 
 その名はジョニー・シデン。気ままな吟遊詩人……らしい。


第七十四夜——出会い~筋肉達磨の次はきれいな道化と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鍾乳洞を抜ければ、そこはシデンの対岸に位置する島だった。

 道らしいものはないが、フィオレがシデンの歓楽街をうろついた際に手に入れたアクアヴェイル公国の拡大地図を頼って、モリュウ領を発見する。

 

「おそらくあそこにバティスタが潜んでいる。慎重に行くぞ」

 

 基本的に気をつけることはシデン領と同じ、一同は頷きあってモリュウ領へと近づいた。シデン領と同じく水路が至る所に流れており、橋も多くあることからシデン領より更に陸地が少ないのだろう。

 かの領地では見なかった小舟を操る船頭が、客を乗せてしずしずと水路を通っている。そして、ここを納める領主は城を構えているらしい。同じ公国といえど、土地が違えば色々と異なることもあるのだろう。

 ただし、セインガルド城とは完全に趣が異なっていた。それはシデンで見かけた民家の家屋から分かっていたことだ。それはいい。

 一同が眉をしかめたのは、さりげなく街に入ってからしばらく歩いてのことである。

 

「……なんか、暗い街ねえ。道行く連中が、妙に物静かなような……」

「確かに。全然活気がないような気がするな」

 

 シデン領を出てからは普段の格好だったルーティが、フィオレの外套を羽織った姿でぽそりと呟いた。

 スタンも同調し、さりげなく周囲の様子をうかがっている。

 

「そういえば、前領主がお亡くなりになっていらっしゃるのですよね。皆さん喪に服しているのでは……」

「いや、それは違うようだ」

 

 見れば、厳しい目をしたマリーがその視線を一点に集中させている。

 その先にいたのは、子供を捕まえたチンピラ三体と、今にも泣き崩れそうな母親だった。

 明らかに異常事態なのだが、道行く人々はチンピラの蛮行に衛兵へ通報するでもなく、見て見ぬフリをしている。

 そしてチンピラにしては特徴がありすぎる同じような格好をしているあたり、あれが衛兵か何かなのか。

 チンピラは、抜き身の細い曲刀──形だけは紫電に酷似した刀を子供に向けている。

 

「お許しください。その子に悪気はなかったんです」

「うるさいわい! このガキが、あろうことかワシにぶつかってきたのだ。ならば煮ようが焼こうがワシの勝手じゃい!」

 

 とんでもない理屈である。

 子供には前方不注意ではなくて、何故刃物を握っていなかったのかを叱るべきだろう。

 子供はひたすら、母を呼んで泣きじゃくっている。そして母親が、子供の助けを求める声を無視できるわけもなく。

 

「私はどうなっても構いません。お願いですから、その子だけは……」

「どうします、隊長?」

 

 自分の身を引き換えに子の無事を願う母親に、刀をつきつけるチンピラの取り巻きがわざとらしくそんなことを尋ねる。今、兄貴でも親分でもなく、隊長と言ったか。

 確かに少し格好が違うようだが、これではっきりした。一般市民にしか見えない母子をいいように威圧しているのは、本来街の治安を維持する兵士の類なのだ。

 一方、尋ねられた隊長格は意外な返答を寄越した。

 

「くー、泣かせるねえ。よし、本来なら公開処刑とするところだが、あんたの情が心に染みてしまってな……」

「じゃあ……」

 

 母親の顔に希望が灯る。

 それを十分に確認した上で、隊長格はにやけ顔も全開に言い放った。

 

「特別にこの場で無礼討ち、ということで許してやろう」

「……ぶれいうち、ってなんですか?」

「多分手討ちのことでしょう」

 

 ちなみに手討ちとは、武士が家来や一般市民を自分の手で殺すことだ。

 確かにアクアヴェイルでは刀持ちの戦士を武士と称するようだが、果たしてこの連中が武士なのかどうか。

 母親の顔が絶望に染まる。それを眺めて、取り巻き──推定ただの衛兵がくっくっく、と嫌な笑みを零した。

 

「こりゃあ格別の計らいだ。ありがたく思えよ」

「そ、そんな。なにとぞ……」

「んん? 何も聞こえんなあ」

 

 そのやりとりを見て、今にも魔神剣辺りを放とうとするスタンを手で制する。

 そして、フィオレは軽く腕を振るった。

 

「のわぁっ!」

 

 直後。それまで子供の頬にピタピタと刃を当てていた隊長格が、尻を押さえて飛び上がった。

 そのまま尻を突き出して突っ伏した隊長格を見て、衛兵が顔色を変える。

 

「誰だ! 隊長の尻に棒手裏剣なぞ投げたのは!」

 

 衛兵が周囲を見回すよりも早く、フィオレは一同のそばを離れて立ち位置を移動した。

 棒手裏剣の角度から犯人の位置を知る術を持っているかどうかは知らないが、用心はどれだけ重ねても構わないものである。

 フィオレが移動してすぐ、第二投が衛兵へと襲いかかった。

 隊長格と一緒になって刀を抜いていた衛兵が刀を取り落とし、周囲に睨みを聞かせていた衛兵が肩を抑えて呻く。

 手の甲を貫いた棒手裏剣と、肩に半ばまで突き刺さった同じ棒手裏剣を見て、自力で尻の棒手裏剣を引き抜いた隊長格が色めきたった。

 

「棒手裏剣を扱うとは……さては、反勢力に雇われた忍者だな!? 捕まえて、黒幕の正体を吐かせてくれるわ!」

 

 最早母子のことなど忘れて隊長は、衛兵二人に周囲の探索を命じている。今の内にと母子が立ち去った後、衛兵らも何処へと消えた。

 思い込みの激しさよりもまず、棒手裏剣の存在を知る彼らに驚く。ひょっとしたら、この国では割と有名な武器なのかもしれない。

 扱いはかなり難しいのだが、こちらではそんなことはないのだろうか。兎にも角にも、危機は去った。

 悠々と指を鳴らせば、血糊つきの棒手裏剣がコンタミネーションの原理により手元に戻ってくる。

 適当なぼろきれでそれを拭き取り、フィオレはようやく一同の元へと帰った。

 

「騒ぎは起こすなと言ったのに……」

「要は、こっちに被害さえなければいいんでしょう?」

 

 リオンがジト目を向けてくるも、フィオレはどこ吹く風といった風情だ。

 最近投擲術の類を使っていなかったから、久々の練習台に、と思ってやったことが知られれば何を言われることか。

 それより、住民の反応が気になる。見て見ぬフリをしていた時点で気にしていたことだが、本来こんな騒ぎが起これば住民に動揺が走るのが普通だろう。しかし。

 

「またか……」

「運のいい連中だな。俺の父親なんか、あっさり牢にブチ込まれたってのに……」

 

 騒ぐどころか、助かった母子に的外れな嫉妬さえ抱く始末。

 どうやらあのテの蛮行は、今に始まったことではないらしい。

 

「新領主になってから治安が一気に悪化したか」

「何が目的なのか知りませんが、当然でしょう。バティスタは領土の治安保持に精を出す必要などないのですから」

 

 治安を司る領主側が素行不良に走れば、取り締まる側が消えたことにより治安は崩壊する。住民が引きずられるように荒んでいないだけマシだが、それも時間の問題だろう。

 これは早期に解決する必要がある。こちらの事情もそうだが、事態の収拾が遅ければ遅いほど、こちらに責任が押し付けられる危険性がある。

 バティスタは密入国者、そしてこちらも密入国者。更に彼は、前領主をすでに殺害しているかもしれないのだ。これ以上被害が広がれば、その責任すらなすりつけられてしまう恐れがある。

 そんなことを考えつつ、敵情視察ということで城を目指して歩く。すると、一同は広場へとたどり着いた。

 住民の憩いの場と思われるその向こう側には道が続いており、おそらくモリュウ城へ通じているのだろう。セインガルド城とは似ても似つかない古風な城がそびえている。

 広場を通っていくと、その中心に人だかりが出来ていた。また衛兵の類が何かをやらかしている……わけではないだろう。

 あの母子のときは、誰も関わらないようにしていたのだから。

 

「あれ、何だろ?」

 

 スタンが興味を示して近づいていく。それに続いて歩み寄ると──歌声が聞こえてきた。

 

 ♪ 風よ もしも願いが叶うのなら……

 

「へえ、吟遊詩人じゃないの。なかなかいい声してるけど、フィオレほどじゃないわね」

 

 ルーティがそんな辛口コメントを囁きつつも、短くまとめられた歌唱が終了する。

 特殊な弦楽器の音色が余韻を奏で、吟遊詩人の朗々たる声が響き渡った。

 

「ジョニーナンバースリー、守り人のバラード。ご清聴、感謝するぜ」

「おおー」

 

 スタンが歓声を上げて手を叩き、聴衆からもパラパラと拍手が聞こえる。

 フィオレも同じように歌唱に対する賞賛を示せば、ルーティが呆れたように声を洩らした。

 

「同情?」

「十分上手いと思いますよ。ほら」

 

 拍手の後、吟遊詩人めがけてガルドがいくつか飛んできている。

「おいおい、嬉しいが物乞いじゃないぜ」と耳に心地いい男の地声が聞こえてきた。その姿は、人だかりが災いしてちっとも見えない。

 ところが、ガルドが地面に転がる華やかな音を聞いたルーティは、あっという間に眼の色を変えた。

 

「この景気悪そうな時におひねりもらってる! フィオレ、あんたも歌いなさいよ。ほらほら」

「やめろよルーティ。もらったおひねりはフィオレさんのものであって、ルーティのものじゃないだろ」

 

 至極当然のことを言うスタンだが、「つべこべ言うんじゃない!」とルーティに胸倉を掴まれて焦っている。

 

「それにここ、異国ですよ? 文化の違うこの国で私の歌が通用するかどうか、まったくわからないんですけど」

「じゃああんな感じのを歌えばいいじゃない。ないなら即興で作る」

「ルーティさん、それはいくらなんでも無茶なのでは……」

 

 フィリアまでもが口を出すが、ルーティの目はガルドマークから一向に治る気配がない。

 だめだこりゃと確信して、フィオレは軽く咳をした。

 こういう時は──ルーティに現実を見せる必要がある。

 

【悪いな、兄さん。ちょいとあんたの曲、借りるぜ】

 

 途端、人だかりがざわめき、仲間達すら驚愕に目を見張る。

 フィオレが真似たのは、件の吟遊詩人の声だった。

 そしておもむろにシストルを取り出し、先ほど聴いた曲の再現を始める。

 同じような弦楽器、そしてフィオレが音楽を形作るに際して基本中の基本である和音の存在を知っていたからこそできる芸当だった。

 

 ♪ 風よ もしも 願いが叶うなら……

 

 それでも原曲を知らないフィオレでは、歌い方の物真似はできても、伴奏が薄っぺらくなりがちである。

 そこで、即興で飾りつけるような伴奏に編曲した。

 フィオレの耳からすれば歌詞と真っ向から対立するような、非情にチャラチャラした雰囲気の曲という仕上がりである。

 

 ♪ だから! ──泣かずに、わらっておくれと……

 

 余韻を響かせるようなことはしないですっぱりと伴奏を断ち、ひとつ咳をしてフィオレは声を元に戻した。

 

「参考にして即興を作れと言われても、これくらいしかできませんね」

 

 何食わぬ顔で楽器を仕舞って、肩をすくめてみせる。

 固まってしまった空気を一刀両断したのは、ただ一人の拍手だった。そして、人だかりが割れる。

 その中から現われたのは、誰もが振り返るような綺麗な顔立ちの優男だった。リオンがあと十年もすれば、こんな感じになるかもしれない。

 ただし、まとう雰囲気は真逆だ。人当たりのよさそうな風情は、性格が現われているのだろうか。

 赤を基調とした特徴的な衣装を身にまとい、スタンのものよりは色の薄く、柔らかそうな金髪を覆うは派手な羽飾りのついた綿雲のような帽子だ。

 桔梗色のスカーフを羽飾り同様、風に遊ばせているその姿は、かなり印象強いものである。

 

「俺の曲を盗んで即興アレンジたぁ、只者じゃないな」

「お褒めの言葉として、お受け取りいたしましょう」

 

 男は翡翠色の瞳を興味に瞬かせ、フィオレを真っ直ぐ見つめている。

 相手には口元くらいしか見えていないだろうが、この場合は非情に都合が良かった。

 何故なら、男の風体を一目見て、フィオレは彼の正体に思い当たっていたからである。

 もしも顔をさらしていれば、非情にいぶかしがられたことだろう。それだけ表情が動いてしまっていることを、自覚していた。

 

「ご挨拶が遅れましたね。初めまして、ご同輩。お国の方々が心配しておられましたよ」

「……へ? 知り合いなんですか?」

「なんでそうなるのよ。今初めまして、って言ったじゃない」

 

 外野うるさい。

 表向きにこやかな表情を崩さなかったが、一瞬眉が歪んだのをフィオレはしっかり確認している。

 こう言われていぶかしげにしないということは、可能性がますます高まった。

 さてどのような二の句が返ってくるかと楽しみにしていたところ、男はふと真剣な表情になって口を開いた。

 

「……どこかで、会ったことがあるかい? 俺は妙に覚えがあるんだが」

「私にはありません。世の中には同じ顔の人間が三人はいるといいますから」

 

 などと、くだらないやりとりをしていると。

 先程母子に絡んでいた衛兵と同じ出で立ちの数人が、広場へとやってきた。

 棒手裏剣を放った犯人を捜している──わけではないらしい。

 

「モリュウ領の民よ、港へ集結せよ! ティベリウス大王陛下が帰国にあたり、お言葉をくだされる!」

 

 衛兵は言うだけ言って、そのまま違う場所への伝令か去っていく。

 広場に集まっていた人々がぞろぞろと港方面へ向かって行く中、一同は目配せしあって自然と集まった。

 

「ティベリウス……大王? ここの領主ってバティスタじゃなかったっけ?」

「大王というのはトウケイの領主で、アクアヴェイル公国を束ねる地位の人間です。つまり、セインガルド城におわす陛下のような存在ですよ。国の代表者のはずです」

 

 首を傾げるルーティに補足を加えて、フィオレは提案した。

 盗み聞きしている輩がいないかと辺りに視線を走らせるも、見た限り住民たちは大人しく港へ向かっている。

 

「あまり得策ではないと思いますが、港へ行きましょう。ここの住民が総勢で集まるとなれば、向かわないと怪しまれるかもしれません」

「ですけれど、もしモリュウ領主としてバティスタが同席していたらどうしましょう。権力を持っている今、兵士に取り囲まれたら脱出は難しいのでは……」

「そうなったら、まずは撤退です」

 

 確かにその可能性は十分にあった。いいところに目をつけたフィリアにかこつけて、あらかじめ考えておいた策を一同に伝える。

 

「貴様ら、何をぐずぐずしている!」

 

 さて行こうとしたところで衛兵に見つかり、一同は大人しく港へ向かうことになった。

 港の場所なんかもちろん知らなかったが、幸い住民たちが体のいい道しるべになってくれている。

 

「あれ、あの男の人。どこへ行ったんだろう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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