swordian saga   作:佐谷莢

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 モリュウ領港にてひと悶着。
 ジョニーに助けられ、一同は彼の根城である宿へ連れ込まれます。
 
 



第七十五夜——大捕り物の行方

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衛兵にせっつかれるようにしながら、港へ赴く。

 それなりに大規模な港は住民で覆い尽くされ、一同は港の入り口付近にて立ち止まらざるをえなかった。

 だが、これはかなり幸運なことである。

 もしもバティスタやグレバムがいたとしても、この群集に加えて遠目、発見される可能性は低い。

 やがて住民たちのざわめきが、兵士に促されて現われた男の出現によって、ぴたりとやんだ。

 バティスタ、ではない。

 

「フィリア。あれ、グレバムではありませんよね?」

「はい。見たこともありませんわ。アクアヴェイル大王とやらでは……」

「モリュウの民よ! まもなくだ、まもなくアクアヴェイルは統一される!」

 

 豊かではあるが艶を失った髪質や風情からして、初老の男である。だが、その声には歳不相応の張りがあり、背筋もピンと伸びていた。

 腰に差した仰々しい刀は、おそらく飾りではないだろう。

 

「その時こそ、我らの悲願をいよいよ実行に移すのだ!」

「悲願……?」

「宿敵セインガルドと、属国フィッツガルドを討ち果たさん!」

「!」

 

 それはまた、大層なお題目である。

 アクアヴェイルとセインガルド諸国の確執は知っているが、これまで冷戦状態だった状況を打破する何かを得たからこその発言だと勘ぐるべきか。

 領民から賛同は得られず、ひたすら戸惑う彼らを尻目にティベリウスとやらの演説は続く。

 仮にも領主であるバティスタを差し置いて、彼が我が物顔で演説を繰り広げているのはやはりバティスタとティベリウスが──正確にはグレバムとアクアヴェイル大王が通じているからか。

 唐突に語られたセインガルドへの侵攻、バティスタが領主となったことでモリュウ領が大王に制圧されたも同様の状態になったことの確信。

 予想以上に大きくなっていく話を前にして、フィオレがこれからのことをえんえんと考えていた矢先。

 視線を、感じた。

 

『気をつけて!』

 

 シルフィスティアの忠告に、身を翻して背後の少女──フィリアに斬りかかる。

 

「フィオレさん!?」

「……お静かに」

 

 考え事をしていたせいで気付けなかった。その代償が鈍い痛みを訴え、更にまっぷたつになって転がっている。

 どこからか放たれた二本の矢が、フィオレとフィリアを狙っていたのだ。

 自分に向けられたものは寸前で回避したものの腕を掠めており、フィリアに向けられたものを寸断したフィオレは勿論紫電を使っている。

 当然のことながら人々は驚きから身を引いており、異常事態を注視していた。

 慌てて紫電を仕舞うも、もう遅い。大王の視線はこちらへ釘付けになっている。

 そして、思いもよらない言葉を放たれた。

 

「その刀──我が朋友シデン家の家宝ではないか! 不届き者に盗まれたと聞いてはいたが、さては貴様が犯人か!」

 

 まさかまさかとは思っていたが、やはり関係があったか。

 それにしても、盗まれたと言うのは……

 

「皆の者、そ奴をひっとらえよ! 宝刀を盗み出した挙句我が物顔で使う恥知らずに、思い知らせてやるのだ!」

「話は通じそうにありませんね。撤退しましょうか」

 

 ティベリウスの一言で、港内にまんべんなく配置されていた兵士が群がってくる。

 一番近くにいた兵士が襲いかかって来るのを見て、フィオレは転がっていたものを拾い上げた。

 

 ぷち。

 

「ぐわっ!」

 

 フィリアに向けられて放たれた矢じりを拾って、眉間に軽く刺しただけなのだが……兵士は泡をふいて痙攣している。死なない程度に薄められた毒のようだ。

 おそらくフィオレが掠ったものも同様のものが塗布されているだろうが、この程度なら効果はないに等しい。フィリアに当たらなくてよかった。

 とにかく、今の「撤退」の一言で巻き込まれまいと逃げた住民に混じって、一同は港の入り口付近に待機している。

 それを確認してフィオレも走れば、兵士たちはもれなく追跡してきた。

 

「騒ぎは起こすなと言っただろうが!」

「無茶ですよ、あんな状況で」

 

 自分が引き起こしたことなら責任もってどうにかするが、あんな不可抗力的なもの。運が悪かったとしか言いようがない。

 

「それよりも、大丈夫なのですかフィオレさん! さっきの矢で、兵士が昏倒しておりましたのに!」

「異常はありません、ご心配なく」

 

 息を乱して走るフィリアの心配を遥か彼方へ追いやり、追っ手には久しく使っていなかった閃光弾を投げつけつつ、逃走する。

 一時的に追っ手を撒いたものの、モリュウの街に入ったのはつい先程。

 地の理が一切ない今、あっさり回り込まれて待ち伏せに遭い、その都度当身を打ち込むという単純作業に見舞われる。

 

「ぬがっ……」

 

 五人目を紫電の峰打ちで仕留めて、ふう、と息をついた。

 ふと一同を見やれば、走っては隠れるを繰り返した結果か、この中では一番体力がないだろうフィリアが真っ赤になって息をついている。

 

「一度二手に別れましょうか」

「え?」

「幸いなことに追われているのは私だけ。地理はわかりませんが、いざとなれば水路に潜ればいい話です。待ち合わせは……」

 

 咄嗟に思いつかなかったため、そこで一端言葉を切って。フィオレは突如抜刀した。

 幻想的な淡紫が煌き、捺印された銘の如き鋭さを持って対象に迫る。

 

「おおっと!」

 

 しかしながら、相手も相当の警戒をしていたらしい。紫電の一太刀は相手の構えた刀に激突した。

 フィオレの一撃をしのいでみせたのは、往来で母子をなぶり、住民を港へ集め、更に大王の命令を受けてフィオレを捕獲せんと集ってきた兵士姿である。

 ならば当身か始末か、どちらかをしなければならない。

 刃同士をかみ合わせるつもりはなく、紫電を手元へ引き寄せようとしたその時。

 

「確かに、紫電だな。まあ、今はどうでもいい」

「?」

 

 ふと、聞き覚えのある声が眼前の兵士から発せられる。

 次なる一撃のことしか考えていなかったフィオレの目の前で、兵士は目深に被っていた兜をはねのけた。

 柔らかそうな金髪、薄い翡翠色の眼、誰もが振り返る整った顔立ち。

 格好こそ兵士のものだが、先程の吟遊詩人でないことに気付かないのは誰もいなかった。

 

「あなたは、先程の……!」

「ちょいと、あんたらに話がある。今邪魔者を追っ払うからな」

 

 そう言って、吟遊詩人は一同を袋小路へ押し込むなり兜を拾い上げて、自分はくるりと振り返った。

 少しして、慌しい足音が数人分、聞こえてくる。

 

「草の根分けても探し出せ!」

「この辺りにいるはずだ、片っ端から調べろ!」

 

 再び兜を装着した彼は、口元で人差し指を立てて見せてから通りへと赴いた。

 そして、会話が聞こえてくる。

 

「こちらにはいないようだ」

「何? ちゃんと探したのか?」

「隅から隅まで。捨てボートを手に入れて水路を使ったかもしれ……ませんぜ」

「水路を使うとは……なかなか頭が回るようだな」

「しかし、あの見事な逃げっぷりじゃあ大王閣下におそれをなして外へ逃げた可能性が。もう街の中にはいないのかも……」

 

 やがて水路を使ったということで街の外へ逃げた可能性が高いと言いくるめられた隊長格が、衛兵らに捜索範囲を広げるよう指示を出す。

 再び数人分の足音が響き、一帯が静かになった頃、兜を脱いだ兵士姿が現れた。

 

「あ、あの、ありがとうございました」

「ああ、気にすんなって。困った時はお互い様ってな」

 

 片手間に鎧を脱ぎ、あの派手な衣装に戻りつつ、男は小さく畳まれた綿雲帽子を広げて被る。

 どこか気後れしたように礼を言うスタンとは対照的に、ルーティは懐疑的な目で吟遊詩人を見やった。

 

「お礼は言うわ。けど、兵士の装備なんてどこで調達してきたのよ」

「お前さんたち、追っ手兵士を何人か往来に転がしたろ。そいつらからちょいと拝借したのさ」

 

 こいつみたいにな、と未だに気を失っている兵士を足でつつく。

 そして、ひょい、と一同を見回した。

 

「さて、話をしたいところなんだが、ここじゃあ落ちかなくていけねえ。場所を移動したいんだが、構わないかい?」

「構います、と言いたいところですが、助けてもらった恩もありますからね。モリュウ城の牢屋でなければ、構わないとお答えしたいところです」

 

 一同を見回すも、特に反対意見はない。

 流石にリオンは渋い顔を隠していないものの、不承不承納得する素振りを見せている。

 

「サンキューな。目立たない道通るから堪忍してくれや」

 

 そして、彼について十分警戒しながら歩き始めたのだが……その土地勘は評価に値するものだった。

 兵士が闊歩する大通りは一切通らず、いつ袋小路に繋がるかもわからない細かな路地を迷わず歩いていく。

 そしてたどり着いたのは、一軒のこぢんまりとした旅館だった。

 

「いらっしゃ……「悪いな、俺の客だ」

 

 迎え出た仲居に一声かけて、吟遊詩人は歩みを止めない。

 そのまま一番奥の部屋に通されて、フィオレはうっすら眼を細めた。

 イグサで編んだマットレス──畳が敷き詰められた部屋、床の間と呼ばれる特殊な一角には掛け軸が飾られ、見事な水墨画が描かれている。

 フスマといったか、ショウジといったか。

 奥は木戸ではない特殊な引き戸によって仕切られており、いかにもアクアヴェイル風の意匠である。

 履物を脱ぐよう指示された一同が入り口で詰まっている中、一足先に乗り込んだフィオレはとりあえず外套を脱いだ。

 一同をここまで連れてきた吟遊詩人はといえば、帽子やらスカーフやらを外してリラックスしている。

 

「屋内で帽子被るな、って教わらなかったか?」

「ええ」

 

 特殊な部屋の中では履物を脱ぐように、アクアヴェイルには様々な異文化があると言っていたが、これもその内か。

 突如としてそんなことを言われ戸惑うフィオレに、吟遊詩人は嫌味のない笑顔を向けてきた。

 

「ひょっとして禿でもあったりするのかい? まあいいや、座っとけ」

 

 言われて、その場に正座する。

 ここでようやく履物を脱ぎ終わった一同が、フィオレの周囲に続々と座り込んできた。

 正座を真似しようとしたフィリアが悪戦苦闘した挙句、横座りの形になって落ち着く。

 

「さて、突然だがお前さんたち、訳ありって感じだな」

「衛兵に追われているのを見て、訳ありではないと判断するほうがどうかしています」

「そう噛みついてくれるなって」

 

 フィオレの嫌味もさらりと流し、男は話を続けた。

 ペースを崩してやる気満々で茶々を入れたのだが、手ごわい。

 

「しかもセインガルドの剣士あり、ストレイライズ神殿司祭あり、和風剣士コンビあり、きれいなお姉ちゃんあり……いわく取り合わせがバラバラだ」

「あら、見る目あるじゃない」

「自意識過剰だな。きれいな、というのはマリーのことで、お前は省略されたんだろ」

「ぬぁんですってぇ!」

 

 相手の些細な言い回しをきっかけに、またもや壮絶なじゃれあいが繰り広げられる。

 男は一端言葉を切って愉快そうに事の成り行きを見守っているが、流石にフィオレはそうもいかない。

 何せ彼は「セインガルドの剣士」に「ストレイライズ神殿司祭」がこの場にいることを承知している。

 フィリアは司祭服、そしておそらくアクアヴェイルでは珍しいスタンの鎧の型を見てそう言ったのだろうが……それが何を意味するのかが、わかっていないわけではないだろう。

 

「二人とも、収まらないなら外に出てください。この方の話が聞けません」

「あたしのどこがきれいじゃないって言うのよ!」

「そうやってギャンギャン喚くところもそうだが、まずは鏡を見ろ」

 

 注意したものの聞く耳を持たないため、双方にデコピン一撃ずつ加えて静かにさせる。

 途端に無言となり、額冠(ティアラ)に保護されていない額の一点が赤くなって痛そうにさするルーティと憮然としているリオンをさておいて、フィオレは男に話しかけた。

 

「私たちが普通の集団ではなさそうだ、とあなたが思っていることはわかりました。前置きはその辺でお願いします」

「そうだな。で、ものは相談、というか確認なんだが……お前さんたち、バティスタを追ってきたんじゃないのか?」

 

 彼がどのような推測を経て、そのような結論に達したのかはわからない。

 あるいは、そうであってほしいという望みを込めて言ったのかもしれない。

 しかし、それを察する余裕などない人物がここにいた。

 

「ど、どうしてそれを!」

「やっぱりそうか」

 

 どうも確信があって放った言葉ではないようだ。

 一人動揺し、目的を露見してしまったスタンを、ルーティが莫迦にしきった調子で零す。

 

「あんたってなんでそう、バカ正直に……」

「彼が彼である所以です。息をするように嘘をつくスタンなんて見たくありませんよ」

 

 再び仲間同士のいさかいを静めたフィオレは、小さく息をついて男と向き直った。

 どうも先程から、話の筋がそれていけない。

 

「私たちの目的がバティスタに関連する何かだったとしたら、あなたは何をお望みで?」

「何、簡単な話さ。俺に親友が奴に囚われている。そいつを助けるのに協力して欲しいんだ。どうだ、手を組まないか」

 

 何が簡単な話か。確かに内容は単純かもしれないが、いくつか不思議な点が見え隠れしている。

 あの母子の件であったように、新領主バティスタの行いに異を唱えるものはあえなく牢獄行きであるらしい。彼の親友とやらもその類だとしたら、助けたいのが人情だろう。

 だが、それにバティスタの件を絡めるのは早計だ。

 単なる住民の悪口雑言や風説の流布程度、衛兵に袖の下あたり渡せば済みそうなものである。衛兵に化ける程度の知恵はあるのだ。ただ助けたいなら、兵士の格好をしたまま潜り込んで牢獄に忍び込むなりすればいいだろう。

 それが、得体の知れない連中に恩を売ってまで協力を──人手を求めている。

 それはつまり脱出させるだけでは駄目で、根源を潰さない限り、救出したところで意味を成さないということだ。

 このように話の裏を考えていたフィオレだったが、次なる一言で我に返った。

 

「ええ、一緒に行きましょう」

 

 なんと。吟遊詩人の言葉に、スタンは即答してしまったのである。

 これは流石に見過ごせなかったらしい。

 

「ちょっと、スタン!」

「おい、勝手に決めるな」

 

 いさめようとして、ルーティにリオンの両名がスタンの決定に異を唱える。

 彼の相手は二人に任せることにして、フィオレはしばらく思索に集中した。

 

「だって、仲間は多いほうがいいじゃないか」

「そうですわ」

 

 スタンの言いたいことはわかる。フィリアが頷く理由も、わからないではない。

 多勢に無勢という言葉があるように、数の暴力が勝負を制することはよくあることだ。

 だが。

 

「だからといって、そんな素性も知れないヤツを……」

「さっき助けてもらったのに、まだそんなことを言うのか?」

 

 彼らは気付いていなかった。

 もっと根本的なところで、決定的な間違いがあるということを。

 覆せない事実を突きつけられたことで、リオンは二の句が告げない。

 

「……わかったよ。だが、バティスタを倒すのが……」

「そこで言いくるめられないでください、あなたまで」

 

 とりあえず考えがまとまったところで、フィオレは口を挟んだ。

 言いたいことなど山ほどある。

 

「どうしてですか、助けてもらったのに」

「ええ、助けてもらいました。そこは感謝するべきでしょう。でも、それとこれとは別の問題です。混同するのはおかしい」

 

 スタンやフィリアによる非難の視線が向けられるものの、そんなものを気にはできない。

 最も気にするべきところを、彼らは見逃しているのだから。

 

「親友を助けたいとおっしゃいましたね。その親友とやらが、バティスタの無茶な政治による被害者でなくて、正真正銘犯罪者だったらどうするんですか」

「あ」

 

 しーん、と場に沈黙が降り積もる。

 そんなマヌケな声を出すということは、当然バティスタの悪政被害者だと思い込んでいたのだろう。

 よもやそんなことはないだろうと思いたいし、確認してどうにかなることでもない。しかし、今の条件反射的に受け入れてしまった思考は見逃せない。

 

「そんなことすらちゃんと聞かないなんて、スタン。自分が助けられたからって犯罪者の脱獄のお手伝いをしていいとでも?」

「え、で、でも。フィリアもリオンも納得してくれたし……」

「おい、僕を巻き込むな」

「お、お話の流れからきっとそうなのでしょうと……」

 

 問い質せば、しどろもどろとなって言い訳を挙げ連ねる。

 気持ちがわからないではないが、一番考えなければならないところを流されないでほしい。

 

「同じことが何度もあるとは思えませんが、以後気をつけてくださいね。それはそれとして、気になる点があるのですが」

「気になる点? 俺の親友が犯罪者でないかどうか、かい?」

「正直なことを言わせてもらうと、それはどうでもいいことです。ただ、彼らがあんまりにも何も考えず物事を進めてしまうのは危険なことだから警告しただけで」

 

 人道的、倫理的観点からは完全にアウトでも、フィオレたちには関係ないことである。

 冷たいようだが、目的がある以上それを無視してまで誰かを気遣う余裕はない。

 そうしたいのなら、それができるようになるべきなのだ。ちょうどフィオレが、母子を兵士の蛮行から穏便に救うことができたように。

 

「私が問題とするのは、何故バティスタ討伐を目的とする私たちと、下手をすれば自分が捕まるような危険を冒してまであなたが接触してきたか、です。あと、どうして紫電のことをご存知だったのですか?」

 

 ついでのように尋ねた一言に、男の顔が一瞬だけ強張る。

 しかし、それは夢だったかのように次の瞬間には霧散していた。

 

「面白いこと聞くな。シデン領領主の名はアルツール・シデンじゃないか。その刀が同じ名だったとしても、不思議じゃないだろう?」

「ええ、確かに。でも、ティベリウス大王ですら刀の銘は口にしなかったのに、どうしてあなたは普通に出てきたのでしょうね? 知っていれば、口について出てくるものなのですが」

 

 上手く誤魔化したつもりだろうが、よくよく注意すれば綻びは見つかる程度の繕い方だ。

 吟遊詩人を名乗る男は沈黙している。

 

「私が思うに、あなたの親友の救出はバティスタが討たれなければ意味がないことだから、わざわざ私たちに接触を図ってきたのではありませんか?」

「……まあ、な」

「新しい領主が消えなければ、助けても意味がない人間……となると、最有力候補はお亡くなりになられた前領主の、子息殿」

 

 ここで、吟遊詩人はふーっ、と長いため息をついてみせた。

 浅はかで単純な推測に失望を覚え、やはりこの話はなかったことにされるかと思いきや。

 

「わかった。白状しよう。確かに今から助け出そうとしているのは、前領主ジノ・モリュウの一人息子、フェイトだ」

「前領主の息子ってことは、次期領主!? そんな大物と知り合いのあんたって……」

「帽子の嬢ちゃんにはもう察しがついているみてえだが……俺の名はジョニー。気ままな吟遊詩人さ。自称だけどな」

 

 初めて彼の名が明らかになるものの、前評判を知らない一同に意味はない。

 ただ、シデンの歓楽街を出歩いて情報収集をしていたフィオレには十分だったが。

 

「シデン領主の三男坊殿らしいです。シデン領では大変な人気者でして」

「人気者?」

「ええ。三男であるにも関わらず、この大変な時にどこをほっつき歩いているんだ、だの、少しは親父殿の手伝いをすればいいとか何とか。逆に彼のお兄様たちはどれだけ頼りないのかと思えるほどの言われようでしたね」

 

 本当は女性関係でも大変な悪評を聞いたのだが、話しても知って気分のいい話ではないので言わない。

 しかし、当の本人はフィオレが彼についてどんな情報を得ているのか、大体察しはついているようだった。

 

「意地が悪いな。そこまで知っているということは、どうせ初めて会った時から想像はついてたんだろ」

「見当はつけていました。確信を得たのは、紫電の銘を聞いてからです」

 

 ジョニー自身、並びにその親友の正体がはっきりしたことで、フィオレは結論を出した。

 

「これなら、問題ないでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 どうでもいいけど、領土が三つあるとはいえ、地方の島国が大陸ふたつ相手取ろうなんて無茶もいいところ。
 神の眼があるなら世界すら掌握できるから可能ではあるのですが、大きな力をアホが手にすると、本当めんどうくさいですね。
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