原作でも、ジョニーと一緒に誰かが残らなければなりません。(PS版)
そのままボス戦に突入しないから別にいいのですが……
二手に分かれたことをいいことに皆好き勝手言っていますが、果たして真相や如何に(笑)
オルガン演奏によって道が開かれる扉を前にして。
フィオレの放った一言に間髪いれずブーイングがあがった。
「フィオレさんも残るんですか?」
『妥当といえば、妥当だが……』
「確かに、そういった楽器が扱えるのはフィオレさん以外いませんけれども……」
『貴重な戦力の無駄遣いじゃの』
戸惑いを隠さない彼らに対して、こちらは正直だった。
「つまり、こっから先はクソガキに従えっての? 冗談じゃないわ!」
「ほう。つまり貴様は、僕にこいつらの世話を押し付ける気なのか?」
『フィオレがいなくなると、これを物理的に仲裁する人もいなくなってしまうわね』
『そうだよ! 始終坊ちゃんとルーティの喧嘩に付き合わなきゃいけないこっちの身にもなってよ』
またしてもじゃれあいをおっぱじめようとする二人を制し、ソーディアンたちの見解は無視し。
事の成り行きを見守るマリーに異存がなさそうであることを確認して一息つく。
「私の意見に賛成しかねるなら、代替案の提唱をお願いします。何もしないで文句を言うだけなら、異論は認めません」
最近、理由を語って納得させるよりこっちのほうが楽だということに気付き始めた。
一同は一様に口を閉ざすも、それで終わるわけもなく。
「でしたら、スタンさんやマリーさんが代わりに待機ではいかがでしょう? もしもジョニーさんの曲数が尽きても、前衛を担当するお二人のどちらかが扉の片方にいれば、破れるのでは」
「それができるなら、残るなんて言い出さないで初めから強行突破を提唱します。フィリアはあの扉、人の手で破壊できると思いますか?」
これまでの行程でもそれは同じだ。面倒な仕掛けに対して扉が破れるものなら破っていたが、扉は頑強な造りになっている。それはこの部屋の扉とて同じことだ。
フィリアの爆薬を数十倍の威力にすれば、あるいは可能かもしれないが……侵入者がいますと大音量でお知らせしているようなもの。提唱する気にもなれない。
「そうだ。フィオレさんの手品であの扉を消せば……」
「疲れるから却下です。それとね、ルーティ。あなたがクソガキと呼んではばからないのは、れっきとした私の上司です。客員剣士としての経験は私以上ですから、なんら心配はないかと」
「実力はあんた以下じゃない」
四つ角を浮かべて今度こそ額冠操作盤を取り出すリオンをどうにか押さえて、フィオレは言葉を続けた。
彼女の言い分はけして間違っていないのだが、もう少し言葉を選んでほしいところである。
「交戦能力という意味でならね。でも、判断力や作戦指揮に関してならまったく問題ありませんよ。むしろ、そういった能力は私以上かと」
「……お前、適当なことを言って僕の機嫌を取ろうとしていないだろうな」
擁護する本人から否定的な意見を聞かされ、フィオレは心の底から否定を唱えた。
世の中には経験や、頭の回転だけではどうにもならないことが多々ある。これもその内のひとつだ。
「そんなことありません。私が女であなたが男である限り、演算性能に関してあなたは圧倒的に有利なんですよ」
「?」
「えん……?」
「昼間ジョニーが似たようなことをおっしゃっていましたが、男は理性で、女は感情を優先させて物を考える生き物なのです。個人的にはなるべく合理的に考えるようにしているのですが……それでも咄嗟に感情が先走ることの方が多いですね」
だから誰かを不用意にかばったりして、痛い目を見るのだとフィオレは痛感している。
どうせ自力で治癒できるのだからという考えもあるが、つい先日それで死にかけたのは記憶に新しい。
「それに、ここにいて敵に襲われないという保証もありません。誰かをかばいながら戦うのだとしたら、私が一番優れていると思うので」
「確かにそれはあると思う。私は先陣を切って戦うのは得意だが、誰かを護りながら戦うのは苦手だ」
同じ理由でスタンも難しい、というより彼はあまり器用なほうではない。
リオンは遊撃手、ルーティは遊撃に加えて癒し手を兼ねているためそこまで手を回せず、フィリアはむしろ護られる側だ。
フィオレとて一番向いているのは遊撃手ではあるが、経験上前衛として中衛や後衛の盾として戦う方法も心得ている。
「ちなみにフィオレは、どれだけレパートリーを持っているんだ?」
「さあ。数えたこともありません」
「ん!?」
「そして私、この楽器も知らないんですよね。ピアノのように弾けば十分そうだからつい提案してしまいましたが……」
試しに演奏してみるも、扉は少し間をあけて問題なく開いた。
開いたのはいいが、曲が終わるまで演奏しなければ曲の無駄遣いである。
「では、いってらっしゃい。この先が袋小路で、すぐ戻ってくることを祈っています」
「そうね、ひょっとしたら水路を開くポイントがあるだけかもしれないし」
どうにかこうにか一同が動き出す。
それを見送っていると、フィリアがくるりと振り向いた。
「あの、できるだけそれを弾いていていただけますか? 曲が聞こえる間は、ご無事であるだろうとわかりますから……」
「いいですよ。気をつけてくださいね」
快く了承し、しんがりのリオンが最後に扉をくぐったのを見て、フィオレは背後のジョニーを見やった。
「そういえばジョニー」
「ん、なんだい?」
「あなたはもしや、カルバレイスで腕白坊主に帽子を取られ、走り回ったことはございませんか?」
ふと思い出した微笑ましい記憶を口に出す。
すると、後ろで盛大に噴出す音が聞こえた。
「な、なんでお前さんがそんなこと知ってるんだ!?」
「赤いひらひらした服に、大きな帽子に大きな羽飾りをつけて面白い歌を歌う吟遊詩人のお兄さん。チェリクの子供たちは可愛かったですね」
特徴を見て何となく思い出したことだったが、やはり同一人物だったか。これまでからかわれていたことを思って、少しすっきりする。
気まずい顔をしていたジョニーだったが、やがて気を取り直したようにフィオレにくってかかってきた。
「大方お前さんも、同じような目にあったクチだろうが」
「私はすぐに取り返しました。足にはそれなりの自信がありましてね」
「取り返したって事は、一度取られたんだろ」
いらない事に気付いてくれる。確かにその通りだ。
苦笑して、フィオレは曲を弾き終えた。
バタン、と音を立てて扉が閉まる。
「さ、次どうぞ」
「なんだ、もう疲れたのか?」
「まさか。私はもとから戦闘要員です。それとも、何か来たら護っていただけるので?」
「任せとけ! と言いたいところだが、実力が伴いそうにもねえな」
備え付けの椅子に腰掛け、ジョニーが再び鍵盤に触れる。
つつがなく、扉は開いた。
「それにしてもどういった仕掛けなのでしょうね。これがなければ、二手に分かれるなんて手間は省けたものを」
「そうかい? 俺は役得だと思ってるけどな」
「役得? 仕掛けを解いて進むのに疲れたんですか?」
言ってくれれば休憩くらい取ったものを、我慢強い御仁である。
フィオレの言葉を聞いて、ジョニーは深く長いため息をついた。
「何ですかそのため息」
「いや……お前さんのそれはわざとか、天然か。ちょいと図りかねてな」
わけがわからない。
自分から振っておいてなんだが、その真意を尋ねる気にもなれず。フィオレは扉へと近寄った。
見た限り、わかりやすい仕掛けらしいものはない。
「そうだ、楔でもかませましょうか? それなら閉まらないかも」
「代わりに異常を知らせる警笛が鳴ったりしてな」
それは大いにありうる。
仕方なく、取り出した楔は仕舞うことにした。
「それにしても意外でした」
「ん、何がだ?」
「私が演奏している間に、隙をついて帽子を奪いにくるかと思ったのですが」
こんな風に、と後ろからジョニーの帽子を持ち上げる。
残念なことに彼の頭に一切の異常はなかった。男の癖に手入れの行き届いた髪は艶やかで、禿げてもいない。
意外性も何もないにつき、すぐに飽きて元に戻す。
「あー、そういやその手があったな。じゃあそろそろ終わるから、変わってくれや」
「お断りです。それと、続きは弾かなくていいですよ」
奇妙なその一言に、手を止めたジョニーがいぶかしがって振り返る。
すでに壇上から降りていたフィオレは、彼に背を向けたまま抜刀していた。
「敵襲です。警戒を」
一方その頃。
ルーティと共に中衛を歩いていたフィリアが、足を止めた。
「曲が……やみましたわ」
「一端手を止めたんじゃない? さっきも扉が閉まって、また開く音がしたし」
しかし、ルーティの楽観的な予想は外れて一向に曲は再開されない。
何も聞こえないのは扉が閉まっているからなのか、彼女らに何かあってのことなのか。
「本当だ。何も聞こえない……」
「何かあったのだとしても、今ここで戻ったら無駄足だろうが。行くぞ」
「でも……」
残念なことに、一同は未だこの先にバティスタが待つのか、それとも袋小路なのかをはっきりさせていない。
後ろ髪引かれるように立ち尽くすフィリアに、リオンは辛抱強く言葉を重ねた。
「こうして立ち止まっていたところで同じことだ。だったらさっさと進んだほうがいい」
「そう……ですよね。ごめんなさい、参りましょう」
リオンの説得に応じて歩みを再開するフィリアではあったが、不安そうな面持ちは消えない。
思わしげな彼女を気遣ってか、マリーが声をかけた。
「フィリア。二人のことが心配なのか?」
「……未熟なわたくしが、フィオレさんの心配なんて生意気かもしれません。けれど不安なんです。彼女は何一つ、話してくれないから」
これまで、フィオレが取り戻した記憶に関してフィリアはそれとなく尋ねたことなど山ほどある。しかし、フィオレはそれを一切きちんと答えたことがない。
のらりくらりとかわされて、挙句話題を変えられフィリアがやり込められる始末。
そんなに信用されてないのか、と言わんばかりに落ち込むフィリアに、ルーティは頭の後ろで手を組んだ。
「フィオレにも色々あるんでしょ。それよりかあたしは、フィオレの貞操のほうが心配かな」
「え……」
「ええっ!?」
驚きの声を発して驚愕をあらわとしたのは、それまでの話し相手ではなくスタンだった。
それを奇妙な目で見るも、ルーティの言葉は止まらない。
「だってあのジョニーって男、フィオレのことかなり気に入ったみたいじゃない。二人きりなのをいいことに、すんごい勢いで口説いていたりしてね」
「でも、でも、顔も見てないのに好きになんてなれるのか?」
「アクアヴェイルには『夜這い』なんていう風習もあるらしいしね。顔見てないから余計気になるのかもしれないわよ? 古今東西、男は美人に弱いから結果は同じかもね」
ムフフ、と含み笑いを浮かべるルーティに、スタンがますますつっかかる。
リオンとの一瞬即発の次に多い夫婦漫才じみたやりとりに一抹の寂しさを覚えながらも、フィリアは苦笑を零した。
一方で、くだらないとばかり黙々と進んでいたリオンはソーディアンたちの会話に気を取られている。
『青春じゃのう……』
『何を呑気な。この緊急時に惚れたのはれたの、どうでもいいだろう』
まったくもってくだらない。ディムロスの言葉の同意に尽きる。
が、彼らのやりとりはまだ終わらなかった。
『とか言いつつ、ディムロスだって同じようなクチじゃん。戦争後の二人ってどうなったんだろうね』
『クレメンテ老がご存知なのではなくて?』
『残念ながら、戦争直後はほんにバタバタしとってのう。その後隊員たちがどうなったのかは、さっぱりなんじゃよ』
『……それにしてもアトワイトはクールだね』
『私はあなたのその後が気になるわね。案外ハロルドと一緒になっていたりして』
『えー!?』
緊張しているはずの空気の中で、一同の気が抜けるようなやりとりが今までなかったわけではない。
気を抜くなと叱咤しかけて、いつもフィオレに止められていた。
緊張でガチガチになられるよりは余計な力を抜いていたほうがいい、とフィオレの意見もあり、隠密行動中以外の時は雑談など自由にさせている。
だからこういった無駄話自体には慣れているはずなのに、こうも落ち着かないのは何故か。
考えるまでもなく答えを見つけて、人知れず眉間に皺が刻まれる。
それを許して、その分を補うよう警戒にあたるフィオレがいない。
気に食わないはずの人間が傍にいないだけで、自分はこんなにも心を乱すのかと、リオンは己の未熟さを呪った。
それだけ彼がフィオレという人間を信じ、頼っていることを彼は一生涯認めないだろう。