swordian saga   作:佐谷莢

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 モリュウ城攻略中、懸念材料であったジョニーの友人にして前モリュウ領主息子・フェイトを救出。
 いよいよバティスタとのラストバトルに突入します。
 泣いても笑ってもこれが最後、果たして彼の行く先に待つのは死か、リンチか!? 
 ……どっちにしたってアレですね。


第八十夜——道化の仮面と血染めの玉座

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スタンらが扉の先にて手に入れたバルブを用い、閉ざされていた道が開く。

 オルガンの間にて襲撃されたことが関係しているのか、それから先の行程はけして楽なものではなかった。

 

「斬光蝉時雨!」「剛・魔神剣!」

「いっただきぃ♪」

「爪竜連牙斬!」「鳳凰天駆!」

「見つけたっ♪」

 

 ジョニーの吟詠奏は魔物こそ近寄ってこないものの、演奏を聴きつけた兵士がやってくる。

 更にレンズを呑んだ人間にとって吟詠奏は身体能力低下と苛立ちを誘発させるらしく、本来非戦闘員であるジョニーを標的とするため、危険極まりない。

 遊撃手が牽制し、前衛がとどめを刺し、ルーティがレンズを拾う。

 バティスタとの決戦が予想される今、後衛たちの晶術を温存して先へ先へと進むうち。

 後方から、慌しい駆け足が聞こえた。

 

「貴様ら、動くな!」

「よくもいけしゃあしゃあとこんなところまで……!」

 

 振り向いた先には、三名の兵士と黒装束、そして取り押さえられている男性がいた。

 男性はひどく衰弱しているらしく、取り押さえられている以前に自分の足では立っていられないほどふらついている。

 男性を一目見て、ジョニーは目を見張った。

 

「フェイト……? おい、フェイトか!?」

「そうだ。どうせこの男が目的だろう。動くなよ、動けばこの男の……!」

 

 兵士の口上が終わるよりも早く、何かが風を切って飛来する。それは、誰が反応するよりも早く、兵士の脳天を直撃した。

 

「が……っ!」

「うわっ!」

 

 兵士が崩れ落ちるよりも先に、次なる棒手裏剣はフェイトと呼ばれた男性を抑える黒装束に襲いかかった。

 黒装束が怯んだその瞬間をフィオレが逃すはずもなく。

 

「ぐっ!」

 

 一人強襲を仕掛けたフィオレが男性の腕を掴んで確保し、自分の背後へ押しやる。

 フィオレの動きに目論見を察知したリオンが男性を保護したことを確認して、そのまま紫電を引き抜いた。

 人質さえいなくなれば、こちらのものである。

 速やかに彼らを片付けたフィオレが、こびりついた血糊を拭って振り返った先。

 リオンによって保護されたフェイトなる人物は、ジョニーによって介抱されていた。

 

「おいフェイト、しっかりしろ!」

「ジョニーか……助かったよ」

 

 苦しそうに目蓋を開いた男性が、ゆっくりと起き上がる。周囲を見回して、まず見慣れぬ顔触れが気になった様子だ。

 

「ところで、後ろの彼らは?」

「助っ人さ。バティスタとの因縁があるらしい」

 

 一同が密入国者の集団であることを隠してくれるつもりらしく、ジョニーは紹介もそこそこ話題を変えた。

 

「しかし、なんだってこんなことに?」

「ティベリウス大王がグレバムなる人間と密約を結び、セインガルドへの侵攻を目論んでいる。それに反対したがため父は殺され、私は座敷牢に幽閉されていた」

「!」

 

 ──ようやっと。グレバムの名がここで出た。

 セインガルド侵攻の話自体はモリュウの広場にて聞いている。

 しかし、すでに違う領土の領主を抱きこみ、拒否をすれば殺害する暴挙に出るほど話は進んでいたか。

 

「このままではあなたのお父様も危険なのでは?」

「確かにそうだが、お前さんたちに聞き流せるのかい? 大変だな、やることが増えたぞ」

 

 無論、他の誰をおいてもリオンが聞き流せるはずがない。セインガルドには、彼が何に変えても護ると誓った女性がいるのだ。

 

「おい、その大王とやらは……」

「気になるのはわかりますが、その話は後でじっくりお聞きしましょう」

 

 はやるリオンを押さえて、ジョニーに支えられた次期領主を見やる。

 現状の説明を手早くした後に、提案をした。

 

「できれば奥方のところまで避難していただきとうございますが、その様子では難しいでしょう。だからといってお連れすることもはばかられます。この付近で篭城できそうな場所は……」

 

 ないだろうか、と続けようとして、口ごもる。

 帽子はしっかりと被り、背丈の関係上口元だけしか見えないようにしてあるはずなのに。何故か彼はフィオレをじっと見据えているのだ。

 まるで帽子に隠された素顔を、見つめているように。

 

「……あなたの声は、とても懐かしい。前に会ったことが……」

「元気な奴だな、リアーナがいるくせに。ナンパはまた今度にしときな」

 

 ……顔が同じで、声も同じ、だったのだろうか。ジョニーは気づかなかったのに、愛の力って凄い。

 ジョニーにからかわれ、顔を赤くして否定するフェイトの横顔を見つつそう思う。

 やがて気を取り直したらしいフェイトは、小さく咳払いをしてゆっくりと腕を上げた。

 

「ここから先、私が閉じ込められていた座敷牢があります。そこに置いていって下さい」

「大丈夫なのか?」

「こんな有様でさえなければ私も加勢したいくらいですが、我が妻リアーナの元にすら行けそうにありません。足手まといになるくらいなら、篭城します」

「……ご協力を感謝いたします。必ずや、領主様の仇は討って見せましょう」

 

 打算だらけの発言ではあったが、幸い彼はフィオレの言葉の真意に気付いていない。

 しかし。

 

「おいフィオレ、リアーナと会っただろう? 玉の輿狙っても無駄だぞ」

 

 どこぞの腹黒ロリータと一緒にしないでいただきたい。

 純粋にこの後の展開を考え、目先の都合でこのようなことを口走っているのだから。

 無論口にはしない。無言でジョニーの顔を見て、丁寧にそのつま先を踵で踏みにじる。

 

「あ痛い!」

「『会いたい』? どなたにです?」

 

 派手な悲鳴を上げるジョニーに背を向けて、さっさと歩き始める。

 その背中が遠ざかる頃、痛みに跳ねるジョニーを観察していたルーティがその肩をぽん、と叩いた。

 

「あんまりちょっかい出しすぎると、本格的に嫌われるわよ?」

「手厳しいねえ。こうでもしないと、構ってもらえそうにねえからなあ」

 

 そんなやりとりなど一向に知らぬまま、フィオレは件の座敷牢を見つけている。

 格子状の扉は南京錠が外された状態になっており、奥は簡単な寝具が転がっていた。

 一同の姿が見えないことをいいことに、シルフィスティアに頼んで周囲の様子を探ってもらう。

 すると──驚くべきことに、バティスタがかなり近い場所にいた。

 まだ見ぬ通路の先、長い階段を昇った最上部、モリュウの街を一望できる高台の中央に据えられた玉座。そこに、フィリアの同僚であったあの男がいる。

 試しに額冠操作盤を取り出すも、影武者でないことがはっきりとわかった。

 

「フィオレさん!? どうかしたんですか」

 

 握られた額冠操作盤を見てだろうか。薄笑みを浮かべるフィオレにだろうか。追いついてきたスタンがやや身を引いている。あまり見ていて気持ちのいいものではなかっただろう。

 誤魔化すよりも前に、他の面々が追いついてきた。

 

「すぐに迎えに来るから、じっとしてろよ?」

 

 目的の座敷牢を見つけて、ジョニーがフェイトと共に入っていく。それを見たフィオレは、扉の鍵を手に取った。

 

「ジョニー。やっぱり次期領主殿一人じゃ心もとないでしょうから、ついててあげてくれません?」

「は? おい待て、ちょっと待て! そのまま錠前かけようとするな!」

 

 ジョニーは大慌てで座敷牢からの脱出を図っている。その慌てっぷりに苦笑して、フィオレは南京錠を扉にかけた。

 

「幸運を」

「ありがとうございます。もう少々、お待ちください」

 

 座敷牢を離れて、くるりと一同を見回す。早速ジョニーが苦情をつきつけてきた。

 

「フェイトと一緒に監禁なんて冗談じゃないぜ」

「不愉快に思われたのなら、謝ります」

 

 そんなことよりも、集中すべき事実が判明したのだ。ジョニーの苦情を流して、フィオレは小さく咳をした。

 

「それより、朗報です。バティスタを発見しました」

「何!?」

「バティスタを、ですか? 一体どこに……」

 

 額冠操作盤を見せて、彼が天守閣にいることを一同に伝える。決戦の時を前に、フィオレは先頭を歩きながら帽子を取った。

 更に紐を取り出して襷──たっぷりとした袖が邪魔をしないよう、縛る。

 

「ジョニー。この上に行ったことはありますか?」

「ああ。天守閣兼、玉座だな。バティスタの野郎、そんな場所にふんぞり返っていやがるのか……」

 

 一歩一歩、罠がないか警戒しつつ慎重に階段を昇る。幸い何もなかったものの、あちらに悪知恵が働かなくてよかった。

 こんな長い階段の先で待ち構えるのであれば、階段に油を塗りたくるのが定石だ。足を滑らせてくれればもうけもの、気付かれたとしてもつるつるの階段を昇るのは至難の技である。

 幸いにもそういったこともなく、一同は無事天守閣へと上り詰めた。

 いつ仕掛けられても構わないよう先頭を歩いていたスタンが、ついにその姿を見つける。

 

「いたぞ!」

 

 玉座からは立ち上がり、うっすらと白み始めた空の下に広がるモリュウの街並みを、バティスタは見下ろしていた。

 一同から背を向けていた彼は、ゆっくりと振り返る。

 相変わらず防具と思しき眼鏡をかけているために表情はわからない。

 しかし、未だスタンとルーティが身につけると同じものが額に煌いているのは滑稽だった。

 

「来やがったな……」

「バティスタ、もう逃げられないぞ!」

「ガキがいきがるんじゃねえ! 俺は逃げも隠れもしねえ!」

 

 よく言う。

 きっぱり言い切ったところを悪いが、事実とは正反対だ。聞き流すも難しい。

 

「フィッツガルドでは私たちから逃げ、このモリュウではこんなヘンテコ城の奥深くに隠れ……逃げも隠れもしているではありませんか」

「うっせえ! しつこく追ってきやがって陰険女、まだ俺をいびり足りねえか!」

「ええ、足りませんね。あなたがグレバムに加担しているとわかって、フィリアがどれだけ悲しんだか。その涙の分だけ、しばきに参りました。さあ、歯を食いしばりなさい」

 

 そして、啖呵を切ったフィオレはひとつ咳払いをした。

 相手を怒らせて理性を少しでも揺さぶり、こちらのペースに持ってくる。その方法があるのにしない手はない。

 

【もうやめて、バティスタ。見苦しく悪あがきなんかしないで。微塵切りにされる前に土下座をして泣き喚き、非常に情けなく命乞いすれば『こんな奴殺す価値もない』と皆さん呆れかえって見逃してくださるかもしれませんわ】

「い、今のはわたくしではございませんが……多勢に無勢という言葉をあなたも知っているはず。無駄な血を流すのはやめましょう、バティスタ!」

 

 声だけはフィリアのものを借りるも、今回は堂々と彼女の隣で挑発を口にする。

 僅かに顔を引きつらせたフィリアではあったが、構っている場合ではないと続けてバティスタの説得にあたった。

 しかし、以前の戦闘で学んだことがあるのか。バティスタは額に四つ角を浮かべつつも反応はしなかった。

 

「見慣れねえ顔があるな。お前、ここでも男を引っかけたのか? お前の好きそうな面をしてるもんなあ!」

「あなたの挑発は単調で芸がない上に莫迦の一つ覚えですね。下品な上に面白くもない。もう少し、私を怒らせるようなことは言えないんですか?」

 

 好きそうな顔というのは、一重に美形を指すのだろうか。

 確かに過去一目惚れしたのはその要素を持つ男であった。あったが……フィオレの好みは年上で知的な男性である。

 知性派かどうかはともかくとして、触れることにまったくためらいを覚えないジョニーは該当しない。

 

「はん。まーた俺を怒らせてハメる気か? てめえこそ馬鹿の一つ覚え……」

「私はあなたをハメたのではなく、仲間と協力して生け捕りにしただけです。ご自身の記憶を都合のいいものに加工するのは勝手ですが、現実と混同するのはただのアブない人ですよ」

 

 これは挑発ではない。事実である。

 しかし、バティスタの四つ角は更に数を増した。

 

「……く……ふっふっふ。余裕だな。まさか、あの時の俺と実力は同じものだとでも思っているのか?」

「へえ、違うんですか。あの武器を両腕につけたとか? 確かに、単純な攻撃力は二倍になりますけど」

 

 それがどうしたと言わんばかりに鼻で笑って、特徴的な武器を揶揄する。

 どうあっても相手を挑発し、侮辱しにかかるフィオレとあくまで対抗するバティスタとの舌戦を前にして、ジョニーがこそっと囁きかけた。

 

「すげえな。口を挟む隙もありゃしねえ」

「無駄口叩いてないで身構えろ。そのうちキレたバティスタが仕掛けてくるぞ」

 

 その間にも、フィオレの口撃はバティスタを徐々に追い詰めつつある。

 それが奇妙な方向へ捻じ曲がるのを、誰が予想しただろうか。

 

「なわけがねえだろうが! くだらねえことを抜かすのも大概に……!」

「能ある鷹は爪を隠し、弱い犬ほどよく吼える。でっかい爪をちらつかせて、無意味に大声を上げがちなあなたには、ぴっっったりの格言ですね」

 

 まるで決められた芝居の台詞を言うように、フィオレはすらすらと慇懃無礼な一言を突きつけている。

 第二次挑発合戦の行方は、この時決着を迎えた。

 

「この、売女が……!」

「リオン様、今です」

「馬鹿が。額のものを忘れたか!」

 

 フィオレとの口論に夢中になっている隙をついて、リオンが額冠操作盤を操る。

 ほどなくして、臨戦状態に入ったバティスタの口から騒がしい悲鳴が上がった。

 

「ぐあぁぁぁぁ!」

「な、なんだぁ?」

 

 事情を知らないジョニーがいぶかしがるも、事情を話すのはスタンに任せてバティスタの様子を見守る。

 これで失神を促し捕獲すれば、あとはフェイトに引き渡せばいい。それも一つの手だ。

 しかし。

 

「これしきの電撃で……屈服する俺ではないわ!」

 

 ──レンズを摂取した生物は、その影響を受けて魔物と化す。人間も、また然り。

 確かに人間は、常時与えられる苦痛に対して慣れるという対抗手段を備えている。

 そして魔物は、理性を失う代償として身体能力を飛躍させている生物だ。

 だからといって。

 

「こんなものはもう効かんぞ! ふははははは!」

 

 その二つの要素が組み合わさったことで、内情はともかく本当に克服してしまうとは。

 確実に電撃を受けながら高笑いを放つバティスタに、一同は刮目した。

 

「う、うそだろ……化け物かっ!?」

「その精神力だけは誉めてやる。だが、いつまで続くかな」

 

 動揺するスタンにつられないリオンは流石だが、額の汗は消えない。

 本来あの額冠(ティアラ)は自力で外そうとしない限り、致死量の電流が発生することもないのだ。

 つまり、リオンやフィオレの持つ額冠操作盤を用いてバティスタの命を奪うまでには至らない。

 

「その前にお前らを殺す! 一人残らずな! さあ、来やがれっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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