荒れたセレナと、臆病なクリス   作:蒼葉蒼輝

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皆さま、新年明けましておめでとうございます。

コロナが蔓延する中いかがお過ごしでしょうか?

・・・なんか違うな、まぁいいや、新年早々仕事してた投稿主ですよ~
休暇が遅いので今月の投稿は良く分からないです、はい。
・・・こんなこと書いててあれだけど、そろそろガチに寒くなってきましたね・・・
皆さま身体や感染に注意して、健康に過ごしていけるようお祈りしておきましょうか。

それでは、夢の世界へ・・・


第二章 黒銀は平穏に何を見ゆ?
第十五,5話


―Dream in Serena―

 

 

再び夢に堕ちた私・・・セレナ・カデンツァヴナ・イヴ

いつも眠る時には何か見て居る気がする、でも・・・今日は何か・・・違う気がする。

 

私が私でいられる時間、それは多分、夢の中だけの時間・・・

でも、この【私】は・・・わたし・・・?

 

 

 眼を開いた時に見えた世界は白銀に染まっていて、いつの日か見た銀世界に変わっていく―

その中にはウサギやキツネ、鹿のような【ナニカ】が多数存在している。

 だがそれらは動き出すことなく鎮座している、まるで何かを待っているかのように・・・

夢の中、だけど、その世界の冷たさを身体全体で感じる・・・まるで私の心のよう―

 でも、私はこの世界を知らない・・・ここは、何処・・・?

 

 一つ、変化が起き始める、最初は吹雪く景色が陽炎の様に動いただけかのように見えた・・・だけどそれは見間違いではなく、小さな少女が雪景色の中一人走り回り遊んでいた。

 その少女の髪は不思議な彩色で、見方によっては金にも銀にも見える、そして同時に艶やかな紫、赤、青、様々な色を彼女が踊るたびに見せていた。

 

 しかし少女はこちらに気付かない、いや見えて居ないのかもしれない、だけれど少女は舞い続ける、一心不乱に、楽しむように、名前の無い舞いを踊り続ける。

 少女の容姿的には10歳ぐらいの少女だろうか、雪原では明らかに冷える程の薄着、ノースリーブでひざ丈まであるかどうかの白青色のワンピース、靴は履いていない、ただ半透明なピンク色のヒラヒラとした手袋をしている。

 髪は腰に届くほどの長さ、上から下まで見る間には髪の色がどんどん変わっていくのが見て取れた。

 しかし少女は気にすることも無く舞い続ける、だけどそれは時折り【踊らされている】ようにも見えて、それ自体滑稽にも思えた、が・・・

 

 

「(私は・・・この子をしってる・・・?)」

 

 

 事実、知らない人が夢に出てくる、なんてことも稀に有りはするが、それこそ妄言のようなモノだ・・・が、今目の前で踊っている少女を、セレナは何かを知っている・・・いや、何処かで覚えているだけかもしれない。

 でも、それ自体何だったかが思い出せない・・・それに―

 

 

「(私、こんな雪景色を、知らない・・・)」

 

 

 事実、クリスと渡り歩いた地では、これほどの雪景色は見たことは無かった。

 日本国で雪を始めて見たときは感動した事もあった、そしてクリスの髪と似た景色だって冗談みたく話しあった事もある・・・

 だけど、この世界は・・・

 

 

「(こんなに暗いのに、どうしてあの子の周りはあんなに明るいの?)」

 

 

 そう、辺りを見回せば雪と真っ暗な明かりも差さない世界が広がっているだけ。

ふと見つめると木々があるかと思えば何も無い闇が映し出されている―

 だというのに、少女は不安を感じることなく踊る、舞う、まるでそうすることが決めつけられているかのように・・・舞う。

 哀しくも見える、楽しそうにも、怒っているようにも・・・沢山の表情を舞いの中で見ることが出来る。

だけど、それは彼女が舞の中で表現しているだけの世界かもしれない・・・だけど。

 

 

「(私の心は・・・もっと荒んでいる・・・この吹雪の世界よりも、ずっと・・・なのに)」

 

 

どうしてこの世界は、これほど残酷なのに美しいの・・・?

そう思い、一歩、また一歩と気付かぬ内に近づいていた、少女に、少しずつ。

それは無意識からの渇望、彼女に触れ合えれば何かが分かると思えた気がした、そう―

 

 

「(あの世界が、無かったものならば・・・)」

 

 

こんな夢景色で楽しく暮らせたのかな・・・?

今の私ではなく、昔のわたしの様に、楽しい世界が、其処にはあったのかな・・・

幼い私が今に至る序曲(プレリュード)、その奏でを、彼女が踊る事で体現しているようで・・・

でも、眼は逸らせない、周りの動物たちも、もはや動く気配もない。

この場で動いているのは彼女と、私だけ・・・けど、私は・・・

 

 

「(こんな世界には・・・居られない、だって・・・

コレを求めてしまえば、私は・・・)」

 

 

復讐者では、無くなってしまう。

そんな最悪は自分自身で終わらせてしまえ・・・

そう、私は―

 

 

 

 

  「全人類の大罪者でいい・・・

  私は、世界を、拒絶し続けた少女だから―」

 

 

 

 

断罪するのならすればいい、ただ、私を地獄へ叩き落した奴らは何が有っても許しはしない!

こんな平穏な夢を見る位なら・・・私の世界は血塗られてていい・・・だから、せめて・・・

 

 

 「あの子の見る夢は、穏やかでいい、でも、私は―」

 

 

前に見た、夢の続きで良い― そう思ったわたしはこの世界に背を向けて闇へと消えようとした。

だけど・・・

 

 

『おねーちゃん、だぁれ?』

 

「!? えっ・・・? 貴女・・・?」

 

先程まで舞っていた少女が気が付いたら目の前に立ってこちらを見上げて首を傾げていた。

背は本当にそこまでない、130後半ぐらいだろうか?

でも、その時の少女の髪は何処かで見覚えのある色彩に染まっていた

 

 

「(この髪色・・・姉さんの・・・色?)

 え、えぇ、そう、ね カデンツァとでも名乗っておきましょうか」

 

『ん? カデン・・ツァ? カデン・・・ん~

じゃあ、カナちゃん!』

 

 

えっ? 待って、この子何言って―

それは兎も角、この子の名前は・・・いや、そうじゃない!

 

 

「貴女、私なんかと関わってて良いの?

私はロクデナシなの―」 『みんな~ カナちゃんが仲間になりたいって~』

 

「ちょっと! 人の話を―!」

 

 

 こちらの意図も聞かずに先程まで動きの無かった動物たちが集まって来る、小さい子からクマのような姿をした者までその種は様々だ―

 そして少女は私の手を取り跳ねる様に踊りへと誘う、まるで酔いしれる世界を彩る様に・・・まう、舞う、そうして、私は―

 

 

「(舞わされる・・・世界に・・・混沌に・・・?

 この子は、何か知ってる?)」

 

『ほら、カナちゃんも一緒に踊ろうよ! 楽しくなれば、きっと、思いも気持ちも変わって明るくなれるから!』

 

 

 そう言って私の手を離さない少女は何度か飛び跳ねて私に踊りを催促してくる。

でも、私は舞っていていいの・・・? 戦場の音しか知らない私が・・・

 そんな思考をしていても、不思議と居心地のいいこの夢に、酔わされる・・・不思議な感覚・・・

 彼女に動かされるように見様見真似で踊りを踊る、傍から見たら姉妹が踊っているように見えるのかもしれない、夢の中なのに、変なことを心配している私自身に嫌になる・・・

 

 

『だったら、嫌なことを忘れちゃえばイイよ!

そうして、アタシ達と―』

 

 

    一緒に踊っていましょ?

  嫌なことを忘れてずっと、ずっと―

 

 

 ・・・あぁ、それも良いかも知れない・・・

 この子は、不思議と私に安らぎをくれる、知りもしない子なのに、なぜか懐かしさと優しさを与えてくれる・・・正直に言えば、ずっと彼女と一緒に居たいとさえ思ってしまう・・・目覚めてしまえば、消えるのに、だ。

 だから、私は敢えて言った、この呪いのような世界で、幸せを踊る彼女に、不幸を背負う私が言う・・・

 

 

「この壊れた世界じゃ、私は止まらない・・・もう止められないの。

 貴女の誘いは確かに楽しいでしょうけど、それじゃダメなの

 私は、世界を壊し過ぎた、だから・・・」

 

 

そう言うと最後のステップを踏み、少女はこちらから手を放し、クルリと綺麗に回り、そのまま右手を前にしてお辞儀をする、それに合わせて私も鏡写しの様にお辞儀を返す。

これでいい、私は、こんな幸せに飲まれちゃいけない・・・この世界を飲み込み、前へ、進まないと―

 

 

『そっか・・・残念だなぁ、久しぶりに楽しめるかと思ったのに・・・』

 

「ごめんなさい、でも、偶に踊りに来ても良いかしら?」

 

 

 こんな知らない世界でも、こんな事を言うのは可笑しいと、自分でも思う、だけどきっと、見失ってはいけないと、そう思う・・・それは、只の私のエゴだと分かって居ても・・・

 だけど少女は気にしてないかのように笑顔で言った、悲しませないためか、そんな顔しない為なのかは分からないが、彼女は元気に言葉を返してくれた。

 

 

『うん! 来てくれるなら大歓迎だよ!

あ、そうだ! だったら誰か一緒に連れてきてよ! 寝てる時間しか来れないのは分かってるから・・・

そうだなぁ~、じゃあ、これ、あげちゃう!』

 

 

夢の少女が何かを差し出してきた、これは・・・?

 

 

『あたし達の世界の宝物! 大切なものだから、無くさないでね?』

 

 

木製の可愛らしい人形・・・確か雪国で似たような物を見た覚えが有ったけど、何だったかしら・・・?

厚さがそこまでないが、縦幅は15センチくらいの装飾の凝った作り、冬の時期を想定して作られているからか、不思議とクリスマス装束に包まれているのが可愛らしい人形だった。

 

・・・私は基本呪い人形しか使った事無いんだけど・・・?

 

 

『また来てくれるって言ってくれたから、カナちゃんにあげるんだよ?

これであたし達は友達! だよね?』

 

「貴女は・・・はぁ、ま、偶になら来てあげる。

・・・それはそうと、貴女、名前は?」

 

 

先程から気になっていた事だった

 事実、彼女からは幼少期の私や姉さんの様な空気を感じていたが、話し方ややんちゃな姿はまるで似つかない、その上、私達はあんな踊りを何も知らないにもかかわらず、彼女は楽しそうに踊っていたから・・・

それを加味しても、彼女が私達と同じ名前を名乗るとは思えないけど・・・

 だから、聞いてみた、この幸せを教えてくれた彼女の名前を―

 

 

『あ、言ってなかったか~ いけないけない~ ごめんね~ついうっかりだったよー

あたしの名前ね? アタシは―』

 

 

そこまでして、辺りが眩しくなって、消えて行く・・・前に見た夢の跡はもうこの世界には無く、只あるのは明るい銀色の雪景色が舞っていた、此方に手を振りまたねー、と声を上げる少女。

ええ、また、ね そう小さく呟き、私は明日に手を伸ばす―

 

 

  ―復讐をやり遂げ、私達だけの世界を取り戻すために―

 

 

 

 ―Serena out on Dream―

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 ―クリス in どり~む―

 

 

ふにゅ・・・今日は大分夜更かしが酷い・・・

あぁ。こういう時は夢も見ずにゆっくりしてるのが一番なのだけど・・・

 

 

「みゅ・・・何であなたがいるの?」

 

「いや! みゅって何だよ! アンタどんな寝起き言葉言ってるんだ!」

 

 

辺りを見回してみると、何処かファンシーな動物たちが縦横無尽に飛び回り、跳ねたりしてる可愛いものがいっぱいな不思議な空間に来ていた。

あえ? 何で夢の中なのにこんな事に?

 

 

「こうなってるのもう一人の私にわかる?」

 

 

未だ寝ぼけ眼で目の前の少女、こともう一人の【雪音クリス】に聞いてみる

正直に言って、二人して関係無いというのも分かって居るけど、聞かずにはいられないというか、眠い。

 

 

「いや? 全然わからん、と言うかそっちの世界じゃないのか?

って、寝ながら話すなよ・・・本当にあたしかよ・・・こいつ」

 

 

だって、眠い・・・もん・・・

我儘かもしれないけど、夢心地でぬいぐるみを抱きしめながら、うつらうつらと眉を閉じて完全に眠ろうとしていた。

 

 

「お~い、大丈夫か~・・・あ、ダメっぽいな・・・

つっても、前に比べりゃこれだけ安心できる所に来れたって事か・・・

ま、あのバカには感謝しておくか、こっちのセレナも起きて、今は安定しているみたいだしな」

 

「うにゅ・・・ばか・・・?」

 

「あ、あぁ あの立花 響の事だ。

頭わりーし、突っ込んで迷惑かけるしで正直傍迷惑も良い所だけど―」

 

「人の為に、人一倍頑張れる・・・人の事を分かって動いてくれる・・・

とっても、良い・・・人・・・すぅー」

 

「はは、良い人・・・か。

確かにな、アイツは良い奴だ・・・お人好しで、誰よりも人の事を考えられる・・・

お前たちの所にも、きっと来るはずだ・・・ま、今のお前たちの世界が何年か知らねーけど。

少なくとも、平穏に過ごしてれば、きっと、楽しい世界が見れるはずだ―

私とは、違う道を・・・楽しい時間を、歩んでくれ・・・」

 

 

うみゅ? なにいってるの、この人・・・?

明るい時間、楽しい時間なんて、何年も前に消え去った。

だって、パパも、ママも、私と仲良くしてくれた人たちも、何もかもあの紛争で亡くした。

だから、あの施設に連れていかれたとき、あぁ、此処が私の死に場所か、と人生の何もかもを諦めた・・・

そう、だから、だから―

 

 

「今が、一番・・・嬉しいの・・・

お姉様が、私に【世界】を与えてくれた・・・だから。

貴女とは、違う道を行く・・・お姉様の為に、私は、歩むの」

 

「あぁ、そーか、ま、それがアンタの決めた道なら、これ以上あたしは何も言わねーよ。

けど・・・」

 

「にゅ? なに?」

 

 

ため息を吐き出し、呆れながらも真直ぐにこっちを見つめるもう一人の私。

その瞳は、綺麗に輝いていて・・・迷いの無い、真っ直ぐな瞳・・・

私には・・・そんな瞳は出来ないよ、だって、今までどれだけ捨てて来たと思って・・・

でも、そんな私を、もう一人の私が愚直に、真っ直ぐに見つめて言う。

 

 

「アンタも、自分の意思を持ってくれ・・・

ママと、パパの意思を、無駄にしないでくれよ・・・な?」

 

「もう一人の、わたし・・・? なんで、それを・・・?」

 

「あたしだって、両親を亡くしてるんだ・・・いや、それだけならアンタよりマシかもな。

なんせ・・・まだ、町として、バルベルデが有ったからな・・・」

 

「・・・・・・私の世界のバルベルデは・・・紛争で無くなったよ・・・

もう、何処を探しても、誰も居ない、何もない・・・ただの荒れ地だった・・・」

 

 

 ・・・思い出したくない記憶・・・お姉様に助けられた後、一度パパとママの居た場所に戻ろうとした・・・けど、其処には何もなかった、あったのは、誰かが居たであろう建物の残骸だけ。

 必死に探したよ、両親の残した【何か】を・・・だけど、だけどッ!!!

 

 

「何も・・・無かった、私を残して、何もかも無くなってたの・・・!

だから、私は・・・私はっ!!!」

 

「お、落ち着け! 別にアンタを責めようとなんかしてない!

仕方なかったんだ、力が無いあたし達なんかじゃ、結局、守れなかった・・・仕方、無かったんだ・・・」

 

「そんなこと・・・そんなこと! 私だって、何か出来たはずだった!

誰かを助けるぐらい出来たはずだった! なのに・・・なのに!!!」

 

辺りの空間が一声一声怒声を発するたびに暗く、血の色に少しずつ変化していく。

私の、私達の世界に、ぬいぐるみたちもそれに乗じて引き裂かれ、血を噴き出し変化していく、まるであの頃を思い出させるように―

先程までの眠気はもう無い、今は、唯々怒りたかった、理不尽なこの世界を、世界を殺す人間共を。

この人は、それを諦めて、許せって言うの・・・?

ダメ、そんなの・・・絶対ダメ・・・ユルセナイ、だれが・・・許すモノか・・・!!!

 

 

「別にあたしは【許せ】なんて言ってない!

けど、聞いた話だと、お前たちをやろうとした奴らは全員セレナがやったって聞いたけど―」

 

「えぇ、お姉様が、私を殺そうとした世界を壊してくれた。

嬉しかった、でも同時に悲しかった・・・自分の非力さに涙しか出なかったよ・・・

 ねぇ、何で私達はこんなに非力なの・・・貴女なら、何とか出来たの?

教えてよ! もう一人の私!」

 

 

それは・・・そう言って口ごもるもう一人の私・・・

 やっぱりそうだ、結局、この世界は根っから壊れてるんだ・・・

だから、お姉様の行動は正しい・・・だからお姉様の為に動く、それが私、この世界の【雪音クリス】

 私は、今に幸せな【あたし】を許せない・・・だって、ソレは私から奪った幸せでしょ・・・?

いま、私に何も言えないのは、きっと私なんかよりずっとマシな世界で生きていたからだと思う。

 私は確かに彼女の事をよく知らない、だけど、同じ自分と言う枠で言うなら、恐らくだけど・・・この人も、私と似た選択をしていたはず・・・でも、彼女から血生臭い雰囲気を感じない。

 それはつまり、誰も殺していない証、普通で言えばそれが当たり前だと思う・・・

だけど、この世界においてソレは幸福者の得る夢だ・・・私は、私達は違う・・・

 

 

「確かに、それに関しては、アタシも何も言えない。

けどな、それは本当に幸せを求める奴の言う事じゃないだろ?

 お前も、お前の言う姉さんと幸せに成りたいんじゃないのか?

一緒に幸福な夢を見たいんじゃないのか?」

 

「そう、だけど・・・だけど! もう無理だよ! 今更遅い!

そんな幸福願ったってもう叶わない! もう一人の私だって知ってるよね!

ネフィリムが、あの怪物が世界を飲み込もうと動いてるの、聞いてるはずだよね!

私は、私達は、あの不幸の権化を倒せるなら、こんな命惜しくない!

お姉様の為なら、こんな亡くした命、どうなったって―」

 

「あまりフザケたこと言うんじゃねぇっ!」

 

「っ!?」

 

「こんな命だと? その命がどれだけ大切か考えた事あるのかよ!

そりゃ世界で見たらちっぽけかもしれねーけどよ!

それは、パパや、ママが大切にしてくれた命だろ! お前の姉さんも大切に思ってる命だろ!

だったら、だったら生き抜いて見せろよ! 亡くなる為の命じゃなく、生き抜く為にある命と証明して見せろよ! 結局お前もアタシの両親の夢を叶えられねぇ程に弱いんじゃねぇか!

そんな奴が! 軽々しく命を懸けるなんて言うな!

頼むから・・・大切に生きてくれ・・・お願い、だから、さ」

 

 

涙を滲ませた瞳で手を握って懇願してくる。

え、私・・・だって、世界に必要とされて無いから、無くしても良いと思って―

でも、目の前にもう一人の私は、私にも、お姉様にも生きていて欲しいって・・・なんでそんな事言えるの? 私達、世界が恨む人殺しだよ?

 

 

「そんなの、誰が決めたよ?」

 

「え・・・?」

 

「世界が決めた? そんなの自分で書き換えりゃいいだろうが。

お前は、もう、お前の手で道を紡げるだろ? もう小さいだけのガキじゃないんだから。

だからよ、夢を見ても良いんだぜ?」

 

「・・・無理、だよ・・・だって―」

 

「自分を縛るんじゃねぇよ、それに、お前も、歌を歌うの、好きだろ?

だったら、もっと自分に素直になってみろよ・・・あの時に、大好きだった歌を―」

 

 

大好きだった・・・歌・・・

ママの歌ってくれた、大好きな・・・

 

 

「ねぇ、もう一人の私・・・素直に、なって良いの・・・?

私は、幸せになって、いいの?」

 

「良いだろ? むしろ幸せに成ってくれなきゃ、両親に顔向けできねぇよ。

それに、アンタの幸せは、二人の幸せ、だろ?」

 

「うん・・・うんっ!」

 

 

先程までの威勢はもうお互いに無く、私は彼女の答えに涙した・・・

安い涙かも知れない、だけど、私は、私として生きて良いと言った彼女の言葉を信じている。

過信かも知れない、それでも、私が前に進むには十分すぎる言葉だった。

だって、あの頃に忘れかけていたママの歌を、やっと思い出すことが出来たから―

 

 

「この世界も、アンタを祝福してくれてるみたいだな、夜空が綺麗になってやがる」

 

「ふぇ? あ、ホントだ」

 

 

気が付けば先程の血塗られた世界は無くなっており、ぬいぐるみたちは消え、雪原に眩しく光る星々の夜空が映し出されていた・・・この世界が、私?

 

 

「臆するな、とは言わない、けど、我儘は言って良いんじゃねーか?

あんたは、それだけ頑張って来たんだ、アイツもな。

だから、幸せに成れよ? 一応、応援してる」

 

「あ・・・ありがとう、御座います・・・」

 

 

そこまで言って、お互い夜空を見上げ、ゆっくり時が過ぎるのを待っていた・・・

でも不思議とこの時間が嬉しくて、楽しくて・・・

そんな事をじっと空を見上げながら思っていたら―

 

 

「あー、その、何だ、そろそろお互い名前で呼ばねーか?」

 

「んぇ? でも、同じ【雪音クリス】だよ?」

 

「ちげーだろ? アンタは今は―」

 

 

 

そうだ、今は只の【雪音クリス】じゃないんだ・・・でも、何でそっちの私がその事を知ってるの?

と疑問に思ったが、こっちに入って来るとある程度の記憶が流出するらしい、前に少し頭痛がしたのはその影響だったらしい・・・と言ったのはもう一人の私。

そう、だから、私達は互いの姓と名前で、今回は別れることにした、また会えるか分からないけど、その時を楽しみにしよう、そう、思った だから―――

 

 

 

 

―――「またね! 雪音クリス!」―――

 

  ―――「ああ、またな、クリス・カデンツァヴナ・イヴ・雪音」

 

 

 

与えられたこの姓に恥じないように、こんな世界でも幸福を得よう・・・だって、私はもう、一人じゃないんだから―――

 

 

 

 

 

  ――Dream out クリス――

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

  悝嶺,sラボ

 

 

 

 

 悝嶺の住処にして色々な研究や発明をするエリア、此処には様々な小道具が置かれているが、そのどれもが曰く有り気な怪しいモノばかりと、不信感しかないような場所である。

 なお、一部の物は公に販売しているものが有ったりする。

 そんなラボの中奇妙な声が響いたとか無いとか・・・

 

 

「あんれ~、あの踊り人形(マカブルズ・ドール)どこ行った~?

 まだ調整中だったんだけど・・・」

 

 

深夜帯、バッグの中に置いてあった補修中の人形を探すが見つからず、思い当たる節を探ってみる・・・が

 

 

「う~ん・・・ま、アレの補修は出来たらって話だったし、別に誰かが持ってても悪い事にはならないでしょ~多分、うん。

・・・ただ、繁殖すると面倒なのよね~ 本体探してロック掛けないといけないし・・・はぁ。

面倒だけど、セレナちゃんに厄介になりますかね~・・・持ってたらヤバいけど」

 

 

持ってるわけないか~、などと楽観的に考え、今やる作業をカチャカチャこなしていく悝嶺であった・・・

少なくとも、彼女自身、セレナの害を深く考えて居ないのである・・・

しかし、現状、何かある訳では無いので、思う事は無くても良いのだ・・・そう、今は・・・

 

そんなこんなで、混じった異物を考えないようにして没頭する悝嶺だった。

 

 

 

「・・・あ、そ~いや、あの人形とセレナちゃんの持ってる【呪い】が合わさったらどうなんだろ?

 ヤバい事なるんかな? なりそうだな~、ま、面白そうだからいっか~。

 にゃはは~、あ~酔いが酷いや~、これ終わらせたら寝よ、うん、そ~しよ~」

 

 

 等と口を動かしながら手を適当に動かして整備をこなして行く悝嶺だった・・・

 

 

 

その人形のは、すでに動き出しているとも知らず、存ぜず、お構いなく、考えることなく、過ぎ行く時を唯々謳歌していく、悪魔の様に、時に聖者(?)の様に・・・?

 

 

 

「・・・・・・吐きそう・・・うぇ・・・」

 

 

・・・今後は控えようとも考えもしない悝嶺だった・・・。

 

 

 

 

 

現状いまの文字数で良い? (七千~一万程

  • そのままのペースで?
  • もう少し減らして
  • 読み足りない?

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