戦姫絶唱シンフォギアVC Depthe of the unDergrounD   作:サリッサ@無期限休止

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こんにちは。サリッサと申します。
イベント参加したくて作りました、シリーズVCの短編DDD、これにて終幕となります。
(1話はこちらから: https://syosetu.org/novel/236465/1.html

お付き合いいただき、誠に有難うございます。
絶唱ステージももう間もなく。
コロナがだいぶ侵食してきておりますね…
会の無事開催と、そして読んで下さった皆様のご無事を切に願っております。


全力私欲妄想と、毎度伝わりづらい表現描写で恐縮です。
DDD編ラスト、是非お楽しみください。


D4 更にその先に

 

眼前の音ですら、動きを止めた。

異形は歪んで笑い、弦十郎はただ見ていることしかできない。

 

漆黒の液体に飲まれた彼女の身体は、どうなっているのか。

痛ましく、想像を拒絶するほどの音。確実にその液体の中で、彼女の身体とココロの在り様はおかしくなっていく。先ほど対していたスライム状の化け物よりも尚、不定形にうごめき、絶えず脈打っている。

 

「響……くん……」

教え子の壮絶な現状に、立ち尽くす弦十郎。その彼の横を、ナニカが駆け抜けた。

 

あのオトだ。

異様な、形容しがたい滅茶苦茶なオトを発しながら、ソレは彼女の元へ突撃する。その模様による凶手が、振るわれようとした。

 

 

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」

 

 

突如、人のものとは思えぬ絶叫が、空間を殴打する。接近していたオトが、肉片が、瞬く間に壁へと押し飛ばされた。更なる現状の激動に、理解が追い付かない。

その目が、ふと、あの粘性液を生み出した異形に向けられた。

 

 

 

 

その異形の目が、見開かれている。

 

 

その様を、あえて表現するならば

 

 

驚愕。

 

 

 

怠惰に微睡み続けていた異形の出で立ちは、明らかに変容していた。

『なるほど……通りで似通った匂いがするわけだ』

黒い粘性から、一本の線が、伸びている。それは未だ不規則に揺蕩っていたが、再び粘性の内側に潜っていく。一層波打ち、激しく胎動する。

『貴様、一度纏っているな。ワシらに近しい、未分化の……有体に言えば、神の力を』

驚愕が、次第に高揚に変わる。異形は低く、しかし高らかに笑った。

 

『そうか!そうか!ならばいいだろう!思うまま振るうがいい。その身腐り果てるまで!!』

 

粘性から引き吊り出るように、次第にその姿が現れる。

 

 

獣だ。

 

四足歩行で、黒いナニカを引き釣りながら、

突如、その肩から何かがずれ落ちる。マフラーのあった場所だ。纏わりつく液体が泡立ち、それが徐々に、まるでイヌ科の頭部を思わせる形状に変容する。

「………」

少女、だったモノの首が持ち上がる。笑顔が咲き誇っていた少女の表情は、そこにはない。

同様に、まるで狼。かろうじて残るガングニールの頭部パーツや髪の形状が、まぎれもなく立花響であることを示していた。

「ッッ!!何をした!!!」

明確な敵意と怒気を込めて、弦十郎は鎮座する異形を睨みつける。しかし、異形は気にも留めない。

 

 

「頃合いか」

 

 

 

そこで、この場に不釣り合いな、しかし凄みのある幼き声が、弦十郎の耳に入る。

そして己の胸ポケットを見、更に驚愕する。光を放っているそれは。

 

「まさか……‟君„は!?!」

胸の遺物、ダウルダブラより、粒子が巻き起こる。それは弦十郎の肩口で集結し、形をなす。

「フン。人使いが荒いヤツだ」

そこには、よく見知った顔の、だが確実に違う、金髪の少女の姿があった。

 

 

「キャロル…マールス・ディーンハイム…!!」

 

 

キャロルと呼ばれた少女は、弦十郎を一瞥し、すぐに響の方へ目を向ける。

「無駄話をしている時間はない。アイツを助けたいのなら、言う通りにしろ」

有無を言わせぬ物言いだが、弦十郎は捨ておくことにした。

「助け、られるんだな?」

キャロルは頷く。

「不本意だがな。そして、偶発的に起きた事象が、お前たちの生還ルートを生み出した」

 

そういう少女の目線の先には、壁に打ち付けられた、あのオトがいる。先ほどまでなら、即座に応戦していたはずだ。しかし、今はそこに滞空して、動かない。

「警戒…しているのか…?」

弦十郎の呟きに、キャロルは同意を示す。

「今のアイツは、地獄の番犬。注入された神の如き力を、ディバインウェポンを纏った経験、地下という特異環境によって強引にねじ曲げている結果が、あの有り様だ」

彼は響の傍に目を向ける。響の変貌した容姿から滴り落ちた黒い液体がいくつかある。それは、行き場を失い、不定形に歪み狂ったように悶えている。おそらくは、あれこそが、本来の末路だったのだろう。弦十郎はかつて聞いた、かけがえのなかった友からの話を思い出す。

「伝承の番犬は、地獄から逃げ出そうとする魂を捕らえ貪る。その唾液には猛毒植物を生むと聞くが……」

「ああ。そして、その毒性が、ヤツにも通用するのなら……」

 

 

ついに張り詰めていた緊張が破られる。

 

「!!」

動いたのは、響だ。

四足を用いた彼女は人間のソレではない。両肩の咢が無形の存在に襲い掛かる。オトはその攻撃を幾何学模様で弾く。

しかし、彼女の咢は止まらない。まるで個々に意思があるかのように模様を掻い潜り、その毒牙が、幾何学模様の中心をかすめる。

オトは、これまでに聞いたことのない異音を発した。人間の尺度で推測するなら、怒りか、痛みか、その両方か。

「効いているのか」

「そのようだな」

キャロルがほくそ笑む。

「ならば!!!」

弦十郎が、突貫しようと姿勢を落とす。しかし、それを肩に浮かぶ少女が止める。

「今アイツとの間に入れば、敵味方の区別なく喰い殺されるぞ!」

「それでも!」

 

 

尚も猛進しかけた弦十郎の耳に、微かな音色が聞こえる。

それは自身の胸元の、キャロルの依り代となっているものからではないか。

 

「元々、ダウルダブラはチホージュ・シャトーをモデルに製造されている。欠片ゆえ、世界分解の再現には至らぬ。が、シャトーに備わったそもそもの機能。忘れたわけでもあるまい」

次第に音が大きくなっていく。それはまるで、はるか遠くの波動を感知し、共に震える音叉のように。

 

「オイ!聞こえているか!シンフォギア!!」

 

響が声の方を向く。その目は最早人のそれではない。暴走状態、それよりもはるかに異常な形相。今にも襲い掛からんとする、変わり果てた好敵手に、そしてどこかの誰かに対して、揺蕩う少女は叫んだ。

 

 

「歌え!!それが、お前たちの絆とやらだろう!!」

 

 

 

『なぜ どうして ひろい 世界の中で』

 

響き渡るは、仲間たちの、戦友に、盟友に、親友に届ける歌。

 

ダウルダブラによって増幅された、歌を奪われかけた彼女の代わりに歌う、

 

 

ソノ先ニ届く歌。

 

 

 

「UkェドッDa…yAサSィサ…ギっド…ワスれナい……」

 

響の姿は未だ三つ首の魔獣。しかし、塗りつぶされていた微かな目に、よく知る決意が芽生えたことを、

弦十郎が見逃すはずはなかった。

「響くん!!!!」

響の首がこちらへ向く。そして、その微かに上下した。

 

「よし!!!」

弦十郎は肉片へ接近する。無論、湾曲した幾何学模様によってその行く手は阻まれた。だが、それでいい。

『?!』

四足による恐ろしい速度でもって、響が肉片へと肉薄する。虚を衝かれ、叫ぶような甲高いオトと共に、繰り出される幾何学模様。その合間を避け、響の左肩に居座る咢が振るわれる。

『───!!!!』

肉片にまとわりつく意思が、明らかに乱れている。動揺か。予期していなかったであろう更なる抵抗。そしてその脅威に対し、鞭のようにしなる幾何学模様をでたらめに拡散する。

轟音と共にまき上がる、瓦礫と砂塵。床を簡単に引き裂く切れ味の旋風。

それを彼らは容易く避ける。

 

眼前に迫る幾何学模様を、弦十郎の一撃が捉える。先ほどまでは押し飛ばされていた漢の剛腕。

しかし、今度は不定形に歪む模様を捻じり飛ばした。

「感触が…さっきよりもッ!」

己の拳が感じた変化。微かにつぶやく弦十郎に、キャロルは肩で漂いながら笑みをこぼす。

「毒の効果か。なるほど、実体を与えつつあるのか。ならばその手でも、届かぬはずはない」

肩口を見ずに頷いた弦十郎。目線の先には、複数の模様が響に迫っている。一度息を吐きだし、四足で足掻く響と幾何学模様の渦中へ飛び入った。そして、響の周囲にまとわりつく模様へ片っ端から拳を叩きつける。

 

『──────!?!?!』

その間、僅か一秒。無数と思われた模様による挟撃は、一瞬にして塵へと消える。

 

 

両者の動きが止まった。

 

余波で破壊された壁面の向こうには、黄昏色から、いつしか真紅に変わった光源が座している。

 

「どちらにしろ猶予はない。一気にカタをつけろ」

キャロルは吐き捨てる。弦十郎は先程と打って変わり、静かに肉片を見据えている。

響の周囲にまとわりつく黒い粘液は次第に大きくなり、その姿をより異質に変貌させていく。響は低い唸り声と共に、ゆっくりと弦十郎の横に立つ。

歌はまだ、届いている。

 

「いくぞ、二人とも」

両側に座す者たちに告げ、その身体の全てが、決死の一撃のために移行していく。まるで、引き絞られた弓矢。

それと同時に、響の肉体にも力が通う。いつ破裂してもおかしくない静寂が、あたりを覆う。

 

 

一層の甲高い音と共に

 

 

空間がオトに埋め尽された。

 

 

しかし

 

それでも、

彼女たちの歌は止まらない。

 

 

 

咆哮を纏い、その両肩の咢が模様を破り猛進する。肉片にまとわりつくオトの意思は、その捨て身とも呼べる突撃を恐れているのか、後方へ浮遊した。

 

否、破りきれなかった模様が壁面で反射し、響の背後に迫ってくる。時間を稼がれれば、その迫りくる模様群に、全方位から切り裂かれるだろう。

 

「逃がさんぞ」

 

そこに、風鳴弦十郎は‟既に”いた。

響が追い詰めることを、決して止まらぬことを信じたからこそ。

模様の暴風がまき散らされたあの刹那、全てを決める一撃を作り出すため、

 

彼はその拳で、敵の背後までの道を押し開いていた。

 

「─────!!!!」

最早眼前の矮小な存在を、現状最大の障害と定める他なくなったのだろう。これまでで最も多い模様による狂撃が、弦十郎に向いた。

「ッ!!!!」

そのすべてを、弦十郎は押しとどめる。全霊をかけた拳は、正しく千の拳となって、凶閃を打ちすえる。

だが、長くはもたない。

相手は種族を凌駕する絶対的存在。破り損ねた模様が彼の身体を削り、鮮血のようなものがほとばしる。

 

 

「伸ばせ!!!響くん!!!!!」

 

その一瞬が

 

欲しかった。

 

 

一秒に満たなくとも、立花響を完全に意思から外せれば、彼女は必ず。

 

 

「GUOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

彼女は右腕を空に掲げ、両肩の咢がその腕に絡みつく。二足で立ち、周囲に迫る模様を空いた左手で強引に払いのける。

 

 

 

道は、できた。

 

 

後は、真っ直ぐに

一直線に

 

 

「SィNグ OゥT ヴィth UaaァァァァあああああああS!!!!!!!!!!!」

 

 

殺到する幾何学模様のオト。しかし間に合わない。

絶叫がぶつかり合う。競り勝ったのは

 

 

「IKeeェェェェェぇぇぇぇえええええええええ!!!!」

 

 

 

 

その双頭咢が、ついに

 

 

 

オトの意思まとわりつく肉片を

 

 

 

喰い裂いた。

 

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

空間には、息遣いだけが響いていた。

弦十郎は額を拭う。本来身体はこちらにはないはずだが、事実肺が酸素を求め喘いでいる感覚がある。

「勝った…のか」

 

眼前にはそれまでの激闘を物語る崩壊の山。紅色に染められた、壮絶な破壊の痕跡の中心。

そこに、少女だったモノはいた。

「ああ……」

肩で揺蕩うキャロルが同意する。先ほどまで相対していた浮遊する肉片は、既に響の一撃によって掻き消えていた。依り代を失ったためか、あのオトが放っていた幾何学模様も一切生じてこない。

 

「………」

響が、ゆっくりとこちらを見る。依然全身は黒い粘液で覆われている。その骨格にすでに人間のものから外れ、より狼や犬になろうとしていた。右腕に絡みついた肩から伸びる双頭。そして獣人のような身体とそこから伸びるガングニールの名残と思われる突起類。

ただその瞳にのみ、彼女であると確信できる意志を感じた。

「響くん……」

弦十郎の言葉に、響は自身の両腕に目を落とす。その目が見開かれ、先ほどまでの猛攻が嘘のように震えていた。左手で弦十郎から己を隠す。弦十郎から、だけではないかもしれない。

ダウルダブラを経由して届く歌、彼女の親友の歌が、まだ微弱に届いていた。

「響くん、d───」

 

続きを弦十郎が語る前に、異変に気付く。

 

 

「───ゥu…gァァァぁぁaaaAAAAAAA!!!!!!!!」

 

 

響が右腕を押さえ、苦しんでいる。見れば絡みついた双頭の内、一頭の牙が彼女の腕を深々と貫いていた。

「逃さないつもりか」

キャロルが舌打ちと共に言う。弟子の元へ駆け出す弦十郎。

「何をする!?」

キャロルの問いに、弦十郎は立ち止まらない。

 

「なんとかして…みせる!」

言葉と共に地面を踏み砕く。彼の道行目掛け、ナニカが高速で伸びてきていた。

咢だ。噛みついていないもう一頭の顎が、弦十郎を襲う。

「ッ!!!!」

衝撃を相殺し、再び走る。己の変化に慄き苦しむ少女の元へ。

 

「フン、まあいい。どの道近づいてもらわなければならなかったのは事実だ」

その言葉に、弦十郎は再度襲ってきた咢を反らしながら目線を向ける。全世界を敵に回し、そして全てを寸前まで追い詰めてみせた錬金術師。

キャロル・マールス・ディーンハイム。

「策があるのか」

「改めて…全く、不本意だが…な」

弦十郎はその言葉に笑みを浮かべる。

 

「……わかった!!!」

 

敵対した者だからこそ知る、この少女の凄まじさ。何より彼の理屈ではない部分が、信じることを選択する。

「AAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

一頭の咢から来る猛攻を全て強引にいなす。反撃はしない。助けるという固い意志を握りしめ、前へ進む。そしてついに、師匠の手が少女に届いた。

「響くん!!!」

 

師弟の視線が交錯する。その塗りつぶされそうな瞳を、弦十郎は知っている。

不安と怯えの入り交ざった、初めてガングニールを纏い、そして二人が出会った時の目。

そんな掻き消えそうな、少女の意識に寄り添うように、震える右手に手を添える。

やることは、あの時と変わらない。

「大丈夫だ」

そう言って、変わらぬ笑顔を向けた。

 

 

「伝承には、地獄の番犬から身を護るための術が幾つかある存在する。甘い菓子を食わせるか、竪琴の音色で眠らせるか。コイツの場合、菓子の方が覿面であろうが」

一層嫌そうな顔をした後、微かにキャロルは呟いた。

 

 

「高い貸しだぞ、シンフォギア」

 

 

 

 

空間に、小さな少女の歌が、伝い響く。優しく撫でやかで、どこか寂しい旋律。

 

弦十郎に迫っていた咢が止まり、響の身体を覆っていた粘液も次第にその胎動を抑えていく。

 

歌われるのは父と子、そして二人の旅路を見送った、緑ひろがる丘の物語。

 

 

 

 

 

静かに歌い締めくくったキャロルと、そして弦十郎の前には、

黒い憑き物が落ちた、いつもの少女の姿があった。

 

「お騒がせ…しました」

涙溢れながら、ぎこちない笑顔を向ける少女の肩に、再び手を置く。

「よく戻った。響くん」

 

 

 

 

 

 

『終えた、か』

 

それと共に、ゆっくりとナニカが姿を現す。あのヒキガエルのような異形だ。

「ヒキガエルさん!」

涙を拭い、声をかける響。

「ご協力いただき、有難うございました!」

その言葉に少し怪訝そうな目を向ける異形。

『フム…存外罵声の一つでも来るものかと思っていたが』

その言葉に、響は頭を買い毟る。

「二人のお陰で戻れましたし、それに、力を貸してくれたのは、事実ですから」

異形は愉快そうに笑った。

「あ!そういえばあのオトがまた襲ってきたりは…」

強張る響に、異形は寝そべりながら答える。

『案ずるな。アレは元の星域に戻された。依り代を得ようとしても、星辰は既に移り変わり、叶うまい』

「そうなんですね!よくわからないですが、とりあえずよかったぁ…」

座り込む響に、その異形の顔が再び近づく。間近で見れば悍ましいはずのソレを見ても、響は動じない。

 

 

『貴様ら、元の場所へ、帰りたいのだろう?帰してやろう』

 

「本当ですか?!」

響は飛び上がり、満面の笑みで異形を見つめる。異形も微かに笑った。

『そろそろこの天体から離れようと思っておってな。本来であれば贄の一つもあって然るべきだが、最後に実に愉快な闘争も見せてもらった。ワシが昇るのと合わせて、貴様らも引き上げてやろう……ただし』

その切れ長い目が、一層細く鋭利になる。

 

『ひとつ、貴様のウタを付けてもらう』

 

その言葉に、響は首をかしげる。

「歌…ですか?それなら私より翼さんやマリアさんや、他の人の方が…」

異形はその大きく醜い鼻を鳴らす。

『音の権化たるアヤツが好み、欲してここまで来させたウタだ。資質を図るのに、これ以上の尺度はあるまい』

童話のチシャ猫のような形相で、異形は言う。

『少しオマケもつけてやる。どうだ』

響はゆっくりと頷いた。

「わかりました!」

そして後方にいる弦十郎に顔を向けながら言った。

 

「師匠!ヒキガエルさんが返してくれるって……」

 

 

話途中で、響はふと訝しみ、言葉を止めた。

 

 

 

師匠の顔が、明らかにおかしい。蒼白な上、冷汗もかいている。

 

弦十郎だけではない。その肩元で漂うキャロルでさえも、驚愕といった形相をしている。

 

 

響は、ゆっくりと、首を傾げた。

 

 

 

イッタイ ドウシタト イウノダロウ?

 

 

 

 

「響くん………ソイツの言葉が…わかるのか……?」

 

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

「響!!!」

 

 

眩しい閃光の中、少女は目を覚ます。光に慣れて見えた情景には、見慣れそして何処か焦がれていた顔があった。

「響!!!!」

もう一度強く叫ぶと、彼女の親友が抱き着いた。泣きながら、強く。

「よかった…よかったデス!!」

「うん!やったね!エルフナイン!」

切歌と調も目に涙を浮かべながら、エルフナインに手を添える。

「……ッ」

一番責任を感じていたエルフナインは何も言えず、ただ身体を震わせている。

「一時はどうなることかと思ったがな」

「ええ、黒い何かが滲み出てくるわ歌は聞こえるわ…でも、とりあえず、戻ったわね」

そう言って互いに頷き合う翼とマリア。その横では、響同様に目を覚まし、覚束ないながら上体を起こした弦十郎がいた。

 

「戻ったか、ゲン」

傍までやってくる伴成蘭堂。馴染みの顔を見、安堵からか小さくため息をつく。

「この通り、おっかなびっくりではあるがな」

ベッドから降りようとする彼を、蘭堂は手で制す。

「まだ寝ていろ。察するに、向こうで戦闘でもあったのだろう。実際の肉体に損傷はないが、向こうで受けた傷がこちらに影響を及ぼすのは常だ」

 

「戦…闘か」

その呟きに、眉を顰める蘭堂。

「なんだろうな……いろいろあったように思うが…どうも、記憶が……」

弦十郎は身体を再びベッドに預けながら、額に手を置く。弦十郎自身、かなりの疲労を感じている。が、何があったかを思い出せないようだった。

 

「オイ、ヒビ割れ少女」

蘭堂が、響に向かって言う。親友に抱擁したまま、少女は少し嫌そうな顔を蘭堂に向けた。

「その呼び方、やめてくださいっていつも言ってるじゃないですか…」

ガスマスクの男は気にせず続ける。

「お前は、何か覚えていることはあるか?」

問いに対して、しばし考えこんだ響。

「えっと…あれ?……思い出せません…なにも…」

そう、ばつの悪そうな笑みを返した。

「お前本気か?!あれだけの異常事態があったのに覚えてないって…てかそういうことは家でや…ンンンン!!!」

装者同士のひと悶着を尻目に、蘭堂は弦十郎に視線を移す。

「そうか。まぁ覚えていないに越したことはあるまい。深淵の埒外事象など、人間として生きる上で、害以外の何物でもないからな」

そう告げると、男は大きく伸びをする。

「とりあえず、だ。ゲンとヒビ割れ少女はしばらく安静にしていろ、と言っておこう」

 

 

言葉を残し、蘭堂は部屋を後にする。

残された面々の目は、おのずとエルフナインに注がれた。少女は未だ、俯きつづけている。響は未来に目配せし、支えてもらいながらエルフナインの元へ向かった。

 

「エルフナインちゃん」

その小さな肩が、跳ねる。恐る恐る顔をあげようとするエルフナインに、響はそっと抱きしめた。

「有難う。エルフナインちゃん」

 

「僕は…何もっ……」

尚も涙を湛えた顔でいるエルフナインの頭を、響は優しく撫でる。

 

「確かに何も覚えてはいないけれど……でも、エルフナインちゃんや、みんなが助けてくれたことは、わかるから」

そして抱擁を解き、エルフナインに向かって優しく微笑んだ。

 

「本当に有難う。エルフナインちゃん」

 

その言葉を聞き、小さき少女はたまらず響に抱きつき、号泣した。

 

 

状況は不明なことだらけ。しかし、確かにここに、大切な仲間が帰ってきた。

その場の誰もが、その事実に喜んでいる。

弦十郎はそんな少女たちを見、満足そうに眠りについた。

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

「さて、顛末を教えてくれるか」

 

 

廊下を進む蘭堂は、虚空に呟く。しばし黙り続ける。まるで問いに対する答えを聞いているかのように。

「成程…アレが協力的になるとは、まぁ直近で喰っていた人間の影響もあるのだろうさ」

両腕を服のポケットに入れたまま、肩を竦める。

「それにしても、その短時間でアレの言葉を解析するとは、恐れ入るね」

蘭堂はガスマスク越しに笑うと、角を曲がる。もう少し先が、彼本来の研究室だ。

 

「伝言?アレから俺に?フム………間もなく至る……か。了解した。しかと受け取ったよ」

研究室前に立ち、ポケットから手を引き抜く。

 

その手には、ダウルダブラの破片があった。

 

 

「時間が無いなかで、ここまで構築するとは、流石結社の錬金術師。しかし尽力してくれた彼女たちに、礼をし損ねてしまったな。

 

まぁともあれ、有難うキャロル。お陰で助かった、と言うべきか、ここは」

 

 

 

 

 

研究室の扉が閉まる。薄暗い廊下には、誰もいない。

 

 

 

 

 




お読みくださり、誠に有難うございます。

ようやく帰還、されど不穏な影がまとわりつく〆となりました。

本来は同人誌として形にできればと思っていたので
1.5万字を目安にしていたはずなのですが…w
結局だいぶ足が出てしまいました。
(実は最後の伝言、実際シーンも含めて描写しようかとも…)


地続きの前作HomeFronters( https://syosetu.org/novel/231953/ )から来まして、ようやっとここかよ…とw
前日談、脱線短編を経て…ついに本筋VCへ…ッ!

これからも、どうぞよろしくお願い致します。
宜しければ、コメント、評価頂ければ幸いです(^^
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