SCP-544-JPの「少女の声」と形容されていたアナウンスがD-1104の声質に変化しました。D-1104はいまだ発見されていません。

D-1104に携帯させたカメラに残されていた映像にはノイズが多く、特に扉が開いた後には7分間に及ぶノイズが確認されています。この間、何があったかは未だに判明していません。

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人には、絶対に忘れたくない思い出の一つや二つは必ずあるだろう。
私もそうだ。忘れたくないし、忘れてはいけない事がある。
これは、とあるおじさんと私の、7分間の記録。
世界に忘れ去られた2人の、7分間の、会話の記録。


7分の記憶

「よう、お嬢ちゃん」

 

私が久しぶりに直に聞いた声は、少し震えたおじさんの声だった。

 

ここに囚われて、一体どのくらいの月日が経っていたのだろう。歳をとることも、成長することも無く。一人ぼっちの部屋で、もう泣く事も忘れてしまった。泣くことがあるとすれば、時々デパートに入ってくる人達に向けてアナウンスをして、その人達が出ていってしまう時だ。助けて、私をここから出して。その気持ちでいっぱいになって、いつも泣いてしまうのだ。

けれど、あの時は違った。いつまでもデパートに残り、その人に向かってアナウンスをする。だけど、今までの人なら1回や2回のアナウンスで出ていってしまったのに、その人はずっとデパートに残って、上を目指して歩いていた。

私は焦った。この人が、どんどん人に忘れられてしまう。一人ぼっちの孤独は私が1番知っているから、この人に同じ想いをさせたくない。3分の時が流れてアナウンスをする度に、私は必死にアナウンスをして、男の人が出ていってくれるのを待った。

だけど、その人は絶対に出ていかなかった。後で、この人が元々出ていくことが出来ない人だと知ったけれど。

 

「よう、お嬢ちゃん」

放送室の扉が開き、おじさんが顔を覗かせる。オレンジ色の服を着た、少しやつれたように見えるおじさん。涙ぐんだ目の奥に、覚悟と勇気の光を宿していた。

「なんで…なんで……!」

私はおじさんに泣きついた。何故来てしまったのか。最後のアナウンス、「お知らせです。○○○さん、皆さんがお待ちでした」のあのアナウンスで、世界中の誰もが、おじさんの事を忘れてしまった。私と同じ、世界で一人ぼっちに…。

「なんでって…まぁ、これが俺の仕事だから、かな。」

笑って言うおじさん。これも後で知ったことだが、おじさんは人を殺した犯罪者だった。だけど、あの時のおじさんは、そんな風には全く見えなかった。

「今まで良く頑張った。たった1人で、ずっとこの中で…だから、交代の時間だぜ、お嬢ちゃん。それにさっきも言っただろう?放送って仕事は、子供にやらせる仕事じゃない。学校の放送係みたいな仕事ならまだしも、デパートでの迷子の案内なんてのは、大人がするべき仕事だぜ。」

彼は手に持っていたカメラと、首に付けていたマイクを私に渡してきた。そして、優しく私の頭を撫でる。その目にもう涙は無く、にこやかな笑みだった。

「いいかいお嬢ちゃん。ここを出たら、1階まで降りるんだ。デパートの入口に警備員の人がいるから、その人達にこれを渡すんだよ。それがお嬢ちゃんの、このデパートでの最後の仕事だ。」

「おじちゃんはどうするの…?」

「俺か?俺はもう皆に忘れられちまったからな。それに、この扉が開いたってことは、さっきも言ったように交代の時なんだろう。こんな事をして償いになるとは思えないけれど、それでもお嬢ちゃん、俺は君を助けるよ。」

私はカメラとマイクを大切に抱える。おじさんから任された、私の最後の仕事。こくり、と頷くと、おじさんは私の頭から手を離した。

「いい子だ。いいかいお嬢ちゃん。きっと君はこれから、苦しい道を歩くかもしれない。皆に忘れられているってことは、誰もお嬢ちゃんのことを覚えていないんだ。だけどな、これからならいくらでも覚えて貰える。もう忘れられる事なんてないんだ。これから歩む人生で、苦しい事もあればもちろん楽しいこともある。沢山の人と知り合い、色んな経験をする。俺の事なんて忘れてくれてもいいが、この先で出会う人達のことは絶対に忘れるな。そして、皆に忘れられない人であるんだ。お嬢ちゃんのこれからの人生が、幸せであることを祈ってる。さぁ行け!大きくなったら、今度はまともな仕事に就くんだぞ!」

私は涙を拭って、しっかりとおじさんの顔を見て頷いた。もう、このデパートの中では泣かない。私は階段に足を掛けた。私の後ろでは、扉が閉まる音が聞こえた。

 

困難と楽しさに彩られた月日が流れた。私は財団に就職し、そして今、チョミさんの案内であのデパートの報告書を読むためにあるサイトを訪れている。研究員の人は変わっていなかった。あの時の博士は少しだけ老けていたけど、私の顔を覚えてくれていた。あぁ、覚えていてくれることは、やっぱり嬉しいことだ。

私は博士に頼み、報告書を見せてもらえることになった。一応私は、あの放送室の事は覚えていない事になっている。私が保護された時、咄嗟に嘘をついたためだ。直観的に感じてしまったのだ。覚えている、と言ったら、何だか忘れさせられてしまいそうだと。だから、気づいたらこのカメラとマイクを持ってデパートの入口にいたと、研究員の人に伝えた。あの時の事を私が覚えていることを知っているのは、今は私とチョミさんだけだ。あぁ、もう1人。あのおじさんも…。報告書を開き、あのデパートの異常性のページを読み、そして、あのおじさんがどのようにしてあの放送室の前まで来たかを読み、そして、最後の部分を読む。

 

D-1104:よう、お嬢ちゃん。

[7分の間激しいノイズ]

 

私は、その部分を指先でそっと撫でた。私、覚えているよ。あなたのことも、あなたとあそこで話したことも、ずっと…そしてこれからも…。おじさん、言ってくれたよね、出会った人のことは絶対に忘れるなって。だから私は忘れない。あそこから出て最初に会った、あなたのことも。

 

 

 

これは、ノイズに包まれた7分間の記憶。私とおじさんしか知らない、秘密の記録。

 

「おじさんも私の事、覚えていてくれてるかな……。」

 

 




この小説はSCP財団のSCP-544-JP(http://scp-jp.wikidot.com/scp-544-jp)とそのtale「進路相談」(http://scp-jp.wikidot.com/sinro-soudan)を中心としたSCP二次創作SSになります。
この作品は、SCP-544-JP「孤独な放送室」、及びそのtale「進路相談」に対して独自の解釈が有ります。
このコンテンツは、クリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンス(http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.ja)の元で利用可能です。

登場SCP
SCP-544-JP「孤独な放送室」
tale「進路相談」

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