そんな練習の帰り道、ひまりが蘭に見せたのはなんと「アカペラ独唱」の大会。
それを巡って、蘭とひまりが喧嘩。
二週間後にチャリティーイベントを控えているAfterglow。
亀裂が走った状態で一体ライブはどうなってしまうのか――。
※こんな物語(イベント)があったらいいなーと思って描きました。クオリティ等は傍らに置いて頂き、私の自己満足にお付き合い頂けると幸いです。
――スタジオ内。演奏中
「――……ぃ」
蘭の歌声でビリビリ震えていたスタジオ。最後の歌詞を言い終わると同時に、張りつめていた空気が深呼吸のように吐き出される。
シーンと静寂に包まれた数秒後、ひまりが唸りを上げながら堰を切ったよう声をかけた。
「蘭! ちょっとさっきの歌声なに!? 演奏中なんかこう、いつも以上にぐぐいって背中押された気がしたんだけど!!」
「うんうん~。かなりエモかったよ~」
「ああ! こっちもよりノリに乗っちゃったぜ!」
「いつもと歌声の“感じ”違ったよね。……あ、悪い意味じゃないよ勿論!」
四人の鬼気迫る様子に、蘭は狼狽えながら返事した。
「そ、そんなに違ってたかな…?」
「少なくとも~、超気合の入った本番並みの力は出てたよね~。モカちゃんびっくり~」
「うんうん!! 私たちも蘭に凄い引っ張られたし!」
「全員、いつも以上の演奏が出来てたよなぁ」
「蘭ちゃん、何かしたの?」
「えーっと…。みんなが変わったっていうのなら、最近始めたボイトレのおかげかも……」
怒涛に蘭を褒めるメンバー達。あまりの勢いに顔を赤らめながら、少し顔をずらして恥ずかしそうに蘭は言う。
「ボイトレ?」
「うん。もっと良い声が出せる様になったらあたしのこの胸の想いを届けられるかなって……」
「エモさ大爆発だ~」
「ボイトレかあ~。どんなことやってるの!」
「まだ始めたばっかだからそんな大したことは……。本買って発声方法を勉強したり、講師のとこに行ったり……。とりあえず、今心がけてるのは一音一音しっかり声出すこと、かな」
「ほえ~。すげぇなぁ」
「蘭ちゃん華道もあるのに凄いなぁ。私も頑張らないと!」
「そ、そんなことないって。両方キチンとやるって決めたから、やれることをやろうとしてるだけ」
「あ~、蘭照れてる~」
「うっさいモカ!」
「わぁ~、蘭が怒った~。助けてひ~ちゃ~ん」
「え、私!?」
顔を一層赤らめながらスタジオ内でモカを追いかける蘭。モカは楽しそうに笑いながら、ひまりの背に隠れてひまりバリアを展開。いきなり矢面に立たされたひまりは慌てて、その様子を見た巴とつぐみは顔を見合わせて笑い合った。
☆
「――ふ~疲れた疲れた。なぁみんな、ラーメン食っていかないか!?」
夕焼け空の下。疲労困憊ながらも生き生きとした顔を見せながら、五人は帰り道を歩く。そしていつも以上の力を発揮したせいか、みんなの腹の虫は泣き叫ぶ五秒前だった。
「私はいいよ! 結構おなか減っちゃったしね」
「レベルアップの代償は大きいのだ~。今すぐ補給しないとね~。あ、あたしはやまぶきベーカリーでもいいよ~」
「あたしは……、何でもいいかな」
「ひまりちゃんは?」
道中みんなの後ろに下がって一言も喋っていないひまり。四人が立ち止まって振り返るとひまりの視線はスマホの画面に注がれていた。
「……ひまり?」
「ねぇ蘭! これ出てみない!? 今の蘭なら絶対優勝できるって!!」
蘭が声をかけると、バッとひまりは顔を上げスマホの画面をみんなに見せる。そこに映っていたのは――
「なになに~。アカペラ独唱大会~?」
「アカペラってあれだよね。伴奏なしで歌を歌うっていう……」
「歌唱力に自信がある奴は出てこい! って感じだなキャッチコピーは」
「歌唱力ある蘭ならいけるって! 興味ない!?」
大興奮の様子のひまり。それに対して、蘭の心は真逆を向いていた。
「興味……。ないわけではないけど……」
「えーなら出ようよ! 優勝したら賞品とかあるみたいだし!」
「賞品あんのか! それはテンション上がるな!」
「まぁまぁ二人とも。蘭ちゃん困ってるよ。ホントは嫌なんじゃない?」
「そうなの?」
「嫌というか……、私は……」
その時、蘭の顔は夕焼け空と同じくらい真っ赤に染まる。そしてぐっと一瞬口をつぐませると、声を荒げながら勢いよく否定する。
「と、とにかく、私は出ないから!」
「勿体ないなー折角の機会なのにー」
「いいの! それにあたしたちのライブも近いんだからそっちに専念しないと!」
「でもこのイベントまだ先だよー」
大会の話を終わらせたい蘭。どうしても蘭を大会に出したいのか、ごねるひまり。二人の雰囲気に段々と空気が冷え始め、蘭は思わず冷たい声を出してしまった。
「ひまりしつこい……。私は出ないって言ってるの!」
「あ……。ご、ごめん……」
「――ッ! それじゃ、私先帰るから」
「あ、蘭!」
ひまりが腕を伸ばして引き留める間もなく、蘭は走ってこの場を離れる。スタジオ内やCircleから出た時の楽しげな雰囲気はなく、蘭が去っていった方向を涙目でひまりは見つめていた。
「……私、やっちゃったかな?」
「ま、まぁ少ししつこすぎた気もするな……。アタシもだけど……」
「で、でもひまりちゃんは蘭ちゃんがそれに出て優勝出来ると思ったから言ったんだよね! その気持ちはわかってると思うよ!」
「うん……。私、蘭が凄いってとこ色んな人に知って欲しかったんだけど……。まさか、あんなに嫌がるなんて……」
「(……多分、理由はあれだよね~)」
落ち込む二人にフォローするつぐみ。蘭に思い当たることがあるのか黙り込むモカ。そんな四人の後ろから、流麗で力強い声が届く。
「――あら、After glowじゃない。美竹さんはいないようだけれど」
「友希那さん!」
「アタシたちもいるよ~☆」
「リサ先輩!」
「おねぇちゃぁぁん!」
「あこ!」
「こんにちはAfter glowの皆さん」
「こ、こんにちは……」
「わ~、Roselia大集合だ~」
「やっほ―モカ。みんなは練習帰り?」
「そうです。さっき終えて、皆で帰っているところです」
「そうだったの。お疲れ様。でも、それならなぜ美竹さんがいないの? あなたたち、いつも仲良し五人組じゃなかったかしら?」
「あはは……。それがちょっと……」
☆
「――なるほど……。そういう理由だったのね」
つぐみからの説明が終わり、顎に手を添えて考え込む友希那。その様子を見て、更に落ち込む様子をひまりは見せる。
「だから私が悪いんです。しつこく蘭に出てみないって言ったせいで、蘭が怒っちゃって……」
「湊さんだったらどうします? この大会に出ますか?」
「そうね……」
常に高みを目指し、オーラも“格”もある歌姫友希那。一声で観客を魅了するその歌唱力は並大抵のボーカルなら一声聞いた瞬間に心が折れてしまうレベルでもある。
蘭には優勝出来ると言ったが、彼女がこの大会に出れば、今の蘭では優勝をかっさらうことは難しいだろう。
だからこその巴からの質問。それに対して友希那は即答で返す。
「――出ないわ」
「え!?」
「ゆ、友希那さんも出ないんですか……!?」
「そんなに驚くことかしら?」
「そ、そりゃ驚きますよ! 友希那さんが出ないって言うなんて思いもよりませんでしたから!」
「何か予定があるんですか~」
「いいえ。その日は完全なオフよ」
「なら何で……」
四人からの疑問の視線。それを友希那は胸を張りながら自信たっぷりにバッサリと切り裂いた。
「――私はもう、孤高の歌姫じゃないから」
その言葉にRoseliaの面々は明るい笑みを浮かべている。
そして友希那は続きの言葉を放つ。
「確かに、その大会自体には興味があるわ。出てみたいとも思ったし、今の私がどの位置にいるのかも気になる。
でもその大会、伴奏無しってことは私一人で出場ってことでしょう? ソロ時代ならともかく、バンドメンバーがいる今、私一人だけが何か事を成すつもりはないわ」
「友希那さん……」
「仮に独唱をするならそういう曲を作るし、曲の中にアカペラを組み込んでもいい。けれど、それは私だけの為じゃなく、Roseliaとしての質を上げる為よ。――私は、Roseliaの湊友希那なのだから」
ハッキリと自分の想いを蘭のいないAfterglowたちに届けた友希那。そして言葉をさらに続ける。この場の誰よりも蘭の気持ちが分かっているかのように。
「音楽に対して真摯な美竹さんがその大会に断固として出場しないと言ったのは、私の意見と近しいものがあるからかもしれないわね。
いえ、幼馴染で強い繋がりを感じている彼女ならそれ以上かもしれないわ」
「蘭……」
「アタシたち、馬鹿だな……」
「私たち、五人でAfter glowなのにね……」
蘭の想いに気付いてあげられず落ち込む四人。空は煌々と輝いているのに、それと反するように地面に映し出された影はより一層濃くなっていった。
☆
一方、美竹家・蘭の部屋。蘭は顔を枕にうずめて、先のことを後悔していた。
「……またやっちゃった。あんな喧嘩腰になるつもりなかったのに……。理由をちゃんと言えば良かったのかな……。でも恥ずかしいし……。――あーもう! 何で今やっちゃうかな! ライブ近いのに……」
素直になれない性格がより一層憎らしくなる。頭の中を駆け巡る自問自答。そんな中、ひまりが見せてきたスマホの画面を思い出した。
「完全独唱、か……。お父さんいないし、ちょっとだけなら……」
そうして息を吸い込んだその瞬間。
ピンポーン――
「――ッ!!!?」
いきなりのインターホンに体全体をビクッてさせた蘭。
そして咳き込みながら玄関の方に向かう。
「ごほっ……。は、はい……?」
「――らーーーんーーー!!」
扉を開けた瞬間、号泣しているひまりが蘭の胸にダイブ。その突然の光景に咳き込むことも忘れ、蘭は驚きながらひまりを抱き留めた。
そしてひまりの後ろから巴・モカ・つぐみが現れる。
「みんなまで……」
「よう、蘭。来ちゃった」
「やっほ~蘭。さっきぶり~」
「急にごめんね蘭ちゃん」
「どうしたの……?」
申し訳なさそうに美竹家に入ってくる三人。そして胸に顔をうずめていたひまりが代表して謝罪の声を蘭に届ける。
「ごめんね蘭! 私、蘭の気持ち全然考えてなかった!」
「え、ちょっと待って。どういう状況……?」
「えっとね。さっき、蘭ちゃんが先に帰った後、友希那先輩に会って……」
「そこで、色々聞いたんだよ~」
Roseliaの面々に会い、アカペラ大会について友希那に出場するかの質問をしたと蘭に伝えるモカ。そしてその続きをひまりが話す。
「――それでね、友希那さんは、私はRoseliaの湊友希那だからって出ないって言ったの。その理由が、もしかしたら蘭も一緒なんじゃないかって……」
「合ってるかな、蘭ちゃん……」
「えっと……」
図星なのか思わず顔を赤らめてしまう蘭。その瞬間つぐみの質問を否定してしまいそうになったが、先ほどの後悔を思い出し否定の言葉を飲み込んだ。
そして代わりに出した言葉は――
「ち、違わない……。あたしは、五人でAfter glowって思ってるから、その五人っていうのを大事にしたい……。ボイトレだって、After glowの為だし……。その……、大会自体が嫌なわけじゃないけど、あたしはやっぱ、そういうイベントに出るなら、みんなと一緒に出たい……」
最後まで素直な言葉を届けた蘭。顔は熟したリンゴのように真っ赤に染まっている。
それを見て感動していた四人。気づけば四人全員が蘭を抱きしめていた。
「おお~、蘭がデレた~。蘭がそこまであたしたちを大切にしてくれてるなんて~。嬉しいね~、ともちん~」
「ああ。いやーこれは、もう蘭を離すわけにはいかないなぁ」
「蘭ちゃん、私たちずっと一緒だよ!」
「らーーんーー!!」
「ちょ、みんなやめて……! はずいから……!!」
「いや~今のは永久保存版だよ~」
「わ、忘れて……!」
恥ずかしそうにしながらも四人を振りほどこうとはしない蘭。その五人の温かさに思わずみんな笑い合った。
少しして四人が離れ、視線を合わせながらひまりが話す。
「――じゃあ、蘭もみんなも、調子が戻ったところで来週のライブにむけてがんばろっ! それで、蘭だけじゃなくて私たちも蘭の背中を押せるように!」
「うん!」
「だな!」
「うぇ~い」
「分かったよ」
「じゃ、いくよ! えいえいおー!!」
拳を突き上げるひまり。他の四人は沈黙。
温かみがあったさっきの雰囲気は一瞬で消え去った。
「えーなんでぇ~!? 今、一番良いところだったでしょ~!!」
「いやーやっぱ、ひまりの掛け声にはこうじゃないと」
うんうん、と他のメンバーが頷く。
「みんなひどいーーー!!」
涙を浮かべるひまり。そんないつも通りの光景を見て、また全員が笑い合った。
☆
二週間後。ライブ当日。
昼過ぎの楽屋にて衣装に身を包んだAfterglowが蘭を主導にセットリストの確認をしていた。
「一曲目、『True color』。二曲目、『ツナグ、ソラモヨウ』。三曲目、『Crow Song』――。ラストは『Scarlet Sky』って順番ね」
「りょ~か~い!」
「今日の会場はいつもと違う場所だから色々と注意するよみんな! 緊張感もってやろう!」
「お~、ひーちゃんがリーダーっぽいこと言ってる~」
「私リーダーなんだけど!?」
モカとひまりの漫才で楽屋が笑いに包まれる。そして笑いながらも巴が場を引き締める言葉を放った。
「まぁひまりが言うことも最もだろ。聞いたところによると、音響とかプロの人じゃないみたいだし」
「大丈夫かな~」
「み、みんなそんなこと不安そうな顔しちゃダメだよ!」
「そーそ!みんな、これはチャリティイベントなんだよ!? 私たちが不安そうにしてたら本末転倒だって! しっかり会場盛り上げないと!」
そうは言うものの、ひまりは自分の言葉で不安が増してプレッシャーを抱えてしまう。それが伝播したのか、つぐみや巴、モカにまでピリッと緊張感が走った。
その瞬間――
「そんなに気を張らなくてもいつも通りやれば問題ないでしょ」
自信たっぷりに発せられた蘭の言葉が重苦しい雰囲気を切り裂く。そのおかげで、ふっと全員が力を抜き柔らかい笑みを浮かべた。
「そうだね、蘭ちゃん!」
「だな!! アタシたちやいつも通り!」
「やるだけ!」
「モカちゃんのギターテクに観客全員震わせてしんぜよ~う」
“いつも通り”に戻ったAfterglow。そして開始の扉が開く。
「――After glowさん時間です」
「分かりました。いくよ、皆」
『うん!』
☆
――ステージ袖。
『それでは、続きましては仲良し五人組ガールズバンドAfter glowの皆さんです! 幼馴染で構成されたこのグループ! その仲の良さに最高の感動を皆さんに届けてくれることでしょう!』
「うわ~、あの司会者さんすごくハードルあげるね~」
「ま、また緊張してきた……」
「大丈夫。あたしたちはあたしたちの演奏をするだけ」
「流石蘭! 分かってるね!」
程よい緊張感がステージ袖に漂う。
そしてそれを見計らったように、司会者がAfterglowに大手を振った。
『では、Afterglowの皆さんよろしくお願いしまーーす!』
意気軒昂とAfter glowがステージに上がると、歓声が五人の肌を打った。
それぞれが楽器とマイクの位置をセットし、蘭が客席を見渡す。そこには、Roseliaの五人がいて友希那は真剣な眼差しを蘭に向けていた。
それに蘭は力強い視線を返し、マイクに手を添え一瞬だけ目をつむると、元気よく第一声を放つ。
『After glowです! 今日は楽しんでいってください。それでは早速一曲目、True color』
ライブがスタートする。
疾走感溢れるドラムからリズムを支えるベース音。メロディを作るキーボードにギター。巴・ひまり・つぐみ・モカが胸の想いを音に乗せていく。
うねりを増して届けられる音。それは蘭の背中にももちろん届き、それに背中を押され蘭の感情が爆発した。
『――――』
「――これが今のAfterglowなのね」
「友希那?」
一曲目が終了し。拍手と歓声が沸き起こる。
そうして観客の心を震わせた曲が続けられていき、いよいよ最後の鬨が来た。
『ふぅ……。――それでは次で最後の曲です。これは私たちの始まりの曲。そして大事にしているモノを歌に込めました。期せずして、今の時間にもピッタリだと思います。ではラスト――、Scarlet Sky』
一音一音。音を重ねるごとに、想いが大きくなっていく。Afterglow、観客、スタッフまで気分が高揚していった。
「(良いじゃん! あたしもみんなもテンション最高潮……! このまま最後まで突っ走るよ――)」
――だが、理不尽はいつも突然やって来る。
バツンッ!
『え……』
それは誰の声だったか。Afterglow? 観客? スタッフ? それとも全員?
分かることは一つ。
機材トラブルが起きた。
『―――――』
「あ、あ……」
「……ッ!」
一転して静寂に包まれたライブ会場。その冷え切りそうな光景に涙目を浮かべるひまりやつぐみ。他の三人も悲痛な顔をしている。
ただそんな中、蘭の頭にはあるモノが浮かび上がっていた。
それはあの日の夕焼けの下。ひまりが言っていたこと――
『――アカペラ、独唱』
(これしかない……!)
何の躊躇いもなく、蘭はマイクの前に出る。
そして次の瞬間、猛々しくもそれでいて優しさが纏われた歌声が響き渡った。
『――!?』
一瞬にして空気を戻した蘭の歌声。“機械”を通していないおかげか、蘭の感情はよりダイレクトに観客の心を打っていく。
そしてそれを感じない、Afterglowではない。
(……蘭、独唱してる。あんなに嫌がってたのに……。――いや、違う。これは蘭がいつも通りの私たちを崩さないでいてくれてるだけ)ひまりが。
「(蘭ちゃん一人だけ背負わせていいの? 五人でAfterglowだよ)」
つぐみが。
(蘭、お前やっぱ最高だぜ。空気を一瞬で変えちまった。それなのに、アタシはどうした? 仲間をただ見ているだけか?)
巴が。
(このままじっとしてるなんて、エモくないよね~。それに、あたしは蘭の親友。蘭を支えるって決めてるんだ)」
モカが。
『――だったら』
一瞥もなく四人の想いがシンクロする。
そして――
『――あの日見た夕影の空……!』
「(みんなッ!?)」
「(私たちは誓ったんだもんね! 蘭を一人にさせないって!)」
五人で歌われるScarlet Sky。押す四人の
まさに絆の歌声。想いは大きく、深く、そしてしなやかに観客の心を振るわせていく。
そうして
――最後の夕焼けが届けられ、拍手喝采の嵐が巻き起こる。
☆
「かんぱーい!」
『かんぱーい!!』
ひまりの音頭でガチャンとグラスが叩かれる。
ライブ終了後。Afterglowはファミレスにて打ち上げを行っていた。そこにRoseliaも混ざっている。
「お姉ちゃんたち凄くカッコよかった!! あこもライブしたくなっちゃった! ね、りんりん!」
「う、うん……。ほんと、想いが言葉になって届くって、あんな感じなのかなって……思いました……」
「うんうん。あの場はまさにAfterglow一色だったね☆」
「アカペラやら独唱やらで揉めていたあなたたちが、まさかそれでトラブルを解決させるなんてね」
「あ、ははは」
「独唱というか、最後は合唱になっていましたけどね……」
感動の声を上げるRoseliaたち。
それに苦笑いを返すつぐみと蘭だった。
「しかし、あの一瞬でよく合唱が噛み合いましたね」
「なんとな~く、一緒に歌いたい~ってなったんですよ~」
「蘭を一人にしないって約束してたしな」
「そうそう! 気持ちがぶわっと伝わったんですよ! 今だッ!って」
紗夜の言葉に各々その時の感覚を述べるモカたち。うんうんと頷き合い、それを見てリサはより笑みを深くした。
「へぇ~、流石幼馴染。ねぇ友希那~アタシたちも出来るかな~?」
「さぁ知らないわ。でも、そうね。出来ると信じているわ。だって大切な幼馴染なんだもの」
「ゆ、ゆきな~~!」
優しい笑みをリサに向けた友希那。その言葉と笑みにリサは思わず涙を流しながら友希那を抱きしめた。
そんな二人をよそに、蘭はモカたちに驚きの表情を向ける。
「みんな、そんなこと考えてたんだ……」
「だって~、一人にしたら蘭拗ねるでしょ~」
「は、はぁ……!? 拗ねないし!」
「いや、蘭なら拗ねるな。もしくはツンツンする」
モカの言葉に思わず赤面して否定する蘭。しかしそれを更に否定する巴だった。
そこにつぐみとひまりも参戦する。
「ま、まぁ二人ともその辺で」
「そうだよー。あんま弄ると、蘭のデレが見られなくなっちゃうよー」
「お~それは由々しき問題だぁ~」
「みんなして……! もういい……!」
拗ねてしまった蘭に、あぁ~と思う四人。ただ、蘭の顔は夕焼けのように赤く染まったまま。それに気付いていたから、照れているだけたと確信し顔を見合わせて笑い始めた。
そんな中渦中の蘭はというと。その笑い声を聞き、窓ガラスに反射しているメンバーたちの笑顔を見て微笑んでいた。
そして誰にも知られることなく、心のうちでひっそりと想う。
「(――みんな、ありがとう。ずっと一緒だから)」
☆
最後まで読んで下さりありがとうございました!
きっとコレジャナイ感はあったと思いますがそれでも感謝します!
また何かしらの作品は投稿したいと思いますので、その際はよろしくお願いします!
(個人的にやりたいのはチュチュと母親の和解イベント)