「ロォォォォォン!!!!」
「あああああああああ!!!!!!!!!」
大山鳴動もかくやという声が響いた。ラス親からの慈悲無き直撃は、タツヤの心を粉砕するのには十分すぎたのだ。萬子の染め手により、タツヤは消し飛んだ。
「貴様の敗けだタツヤ!!」
「クソォ、いっそ殺せ……!」
膝から崩れ落ちたタツヤを、愉悦の瞳で見つめるミツル。口元をニヤリと歪ませ、高らかに叫んだ。
「さあ、教えて貰おうか──お前の性癖を!!!」
そう、これは闇のゲーム──性癖麻雀。敗者は自らの、まだ言っていない性癖を宣言しなければならない。
無論、これが男子校などであったのなら、相当ドギツイ性癖でなければ述べることなどいとも容易いであろう。しかし、しかしだ。
「往生際が悪いわね、タツヤ。早くしなさい」
いるのだッ……女子が……ッ!!
このツリ目黒髪ロング女学生の名はミツキ。この性癖麻雀部、もとい麻雀部唯一の女子生徒である。
元々ただの麻雀をしに麻雀部へと入部した彼女は、アワレ男子高校生の雰囲気に毒されてしまい、今や性癖麻雀初期メンバーの一人なのである。
タツヤは迷った。この週に何度か行われる地獄のゲームに参加すること数カ月、負けた回数は数知れず。最早、安牌は全て吐ききったのだ。
いや、性癖がもう無いという訳ではない。男子高校生の有り余る性欲に限界などなく、だがしかしそれをおおっぴらにして良いかどうかは別物なのだ。
「…………お、オレは……ッ!」
──ここでタツヤに天啓光る!
……誰も知らないジャンルを出せば勝ちじゃね?
世界には数多のジャンル、数多の性癖が存在する。その中でも、普通に生活しているだけではまず触れることのないジャンルというものも多く存在している。ならば、名前すら知らないものがあるのも自明である。
加えて、この学校では部活中はスマホを使うことは禁止されている。つまり、知らない単語が出てきても、調べることができない!
タツヤは自らの勝利を確信した!
「……俺は、ケーキバースが好きだ」
──困惑の空気が広がる。タツヤはガッツポーズをした。
「あっタツヤてめぇ! あえてわかんなそうなやつ言ったなこの野郎!!」
「ハハハハ俺の勝ちだミツル!!! 自分の知恵の浅さを呪うんだな雑魚が!!」
まさに一転攻勢。水を得た魚であるタツヤは、ここぞとばかりに煽りに煽った。
そも、ケーキバースとは。
詳細は省くが、重要な点は、『健全な男子高校生であれば知ることのない情報』であるということなのだ。BL情報など、知っている男子高校生の方が圧倒的に少ないだろう。
「……なぁ、ミツキ。知ってるか?」
「知らないわね。聞いたこともない」
そう、タツヤは試合に負けて勝負に勝ったのである。タツヤの心は、二人を上回ったという優越感で満たされていた。
──しかし、その瞬間。
ガタリと、椅子が揺れる音が聞こえた。
「なッ……」
そう、失念していた。タツヤが負けたこの試合。ミツルの最後の手は
四麻──四人麻雀。
もう一人いた、忘れていた。一度も上がらず、一度も振り込まず、ツモによるマイナスのみで3位にいた男。影が薄く、すぐに忘れ去られる男。
「カゲ……!!」
カゲミツ、通称カゲ。
前髪を伸ばし、教室では本を読み大人しげなキャラを気取ってはいるが、奴も紛れもない性癖麻雀のメンバーである。
「カゲ……お前は……知っているのか…………?」
タツヤは、自分の声が震えていることに驚いた。それほど、知られることに、敗北することに恐怖しているのだ。
カゲは黙して語らなかった。しかし。しかし。
「あ……ああ……」
「タツヤ、お前の、負けだ」
ニヤリ、と静かに笑ったのだ。すなわち、事実上の勝利宣言に他ならない。
タツヤは再び膝から崩れ落ち、つうっ、と一筋の涙を流した。
「……今日の部活はここまで。……解散」
悲痛に告げるタツヤは、窓から入る夕日に照らされ、哀愁に満ち満ちていた。
残りの三人は、部活の終わりを合図にスマホを手に取った。自らの性癖を、広げるため。次のゲーム開催に、備えるため。
デスゲームはまだ続く。
負けが増えれば増えるほど緊張感が増していく地獄の性癖麻雀、実際にやってみるとそこそこ面白いのでやってみてください