「言われた通り牢獄に来てみたけど…看守役の玉兎がボロボロになってるわね。あ、居た居た、一番奥の牢に。無理矢理夢でも見せられているのかしら?」
「やっぱりな。叩き起こしてやれ。」
「了解!」
紫には作戦を伝えてある。作戦実行には豊姫の協力が必須だ。作戦内容は霊夢の偽者の周囲、結構な広範囲をえぐり取るようにして虚無空間に送り付けるという単純なものだ。しかし流石の紫でも一人では無理だ、偽物が虚無空間の入り口から離れてしまう前に閉じ込める必要があるからだ。偽物が干渉を受け付けない以上こちらから押し込むことは出来ない、だから偽物ではなくその周りに干渉し、逃げられる前に閉じ込める。大事なことだぞ、作戦成功のためにもよく覚えておくんだ、この作戦は豊姫と紫がタッグを組めば不可能から不可能に近いというレベルまで可能性が上昇するということをな。
偽物の攻撃を絵筆で防ぎながらトマトゼリーの瓶を依姫に向かって投げる。これが予備の最後の一本だ。頑張っても持てる数に限りがあるからな。本当はもっと欲しいところだが、仕方がない。いや、頼りすぎたら依存症になりそうだな…
「それをサグメに食わせろ。それで豊姫と合流するように伝えてくれ。」
「なるほど、そういうことですか。」
サグメは蓬莱の薬で穢れを負ったから回復は必要無さそうに思えるかもしれないが、とある蓬莱人曰く不老不死でも痛いもんは痛い、消耗するもんは消耗するらしい。あくまでも不老不死というだけ、限界を迎えても死ねないだけでダメージは蓄積されるということだ。しかしなぜこんな遠回しな侵略をしたんだ?あんな圧倒的な力を持っているなら殺せば良いじゃないか。月には唯一の対抗手段である魔法の絵筆が無いんだしさ。なのに蓬莱の薬で穢れをばら蒔くなんて…奴隷にでもするつもりだったのか?
絵筆と御払い棒が火花を散らす。勝てないのは解っているが、それでもくたばるわけにはいかない。そもそも私はルール有りの戦いで本物の霊夢に勝ったことすらないのだ。属性的に相性が悪い。それなのにルール無用で本物より強い偽物相手にこうして剣(?)を交えているのだ。ここまで死と隣り合わせになるのは初めてだ、不思議と身体が熱くなる。嫌いじゃないぜ、こういうのは。
「逆境こそ燃えるもんなんだぜ!…うわぁ!?」
突然手応えがなくなり、転んでしまった。起き上がるとそこは牢獄だった。こんなことをするのはアイツぐらいだ。
「おいおい紫、こんなことしたら霊夢の偽物がこっちに来ちまうぜ?」
「その心配はないわ。あの空を見てごらん。」
空を見上げるとどう見ても絵画になっていた。形容しがたい(←読者に伝わる表現をするのであれば、コンピュータで描いたような)きらびやかな星空は冬の幻想郷から見える本物の星空に忠実であった。でもこのセンス、何処かで見たことがあるような…
「どういうことだ?月は絵画になってなかったんじゃ?」
「私が真似たのよ。霊夢を幻想郷に置いてきちゃったからね。」
「おい、まさか…」
何処かで見たセンスというのはそういうことだったらしい。そしてこのタイミングで霊夢の話をするということは、霊夢をあそこに送って私を回収したということだ。
「ピンポーン!そゆことよ!」
そんなドヤ顔されてもなあ…
「で?そんなことしてまで私達をここに連れてきた理由は?」
「絵筆を借りたかっただけよ。でも貴女は余裕がなかったみたいだから。これを見て、豊姫が絵画に閉じ込められてて…アイツ、偽物の癖にご丁寧にあのバリアまで再現してこの絵画に封印しているのよ。ま、私も同じ境界(バリア)は真似て作れるわ、壊せないだけよ。」
「理由はよく分かったが…それじゃ月を絵画にしたら戻せないんじゃ?」
「あ…てへぺろ☆」
こんなノリの作品(異変)だったっけなあ…まあいいや。とりあえず豊姫の封印を絵筆で解いた。やはり眠っているな、蓬莱の薬に関わる夢を見ているようだ、寝言でそう言っている。豊姫を叩き起こして状況と作戦を説明すると、丁度良いタイミングでサグメがやってきた。
「月の都はもうお仕舞いですが…せめて仇だけは。これをこのまま受け入れるだけでは悔しいですし。この作戦は非常に可能性が低い、だが、運命は逆さに動き始めた。きっと成し遂げてくれるでしょう。」
さよなら、偽物とはいえ、お前とのルール無用の殺し合いは意外と楽しかったぜ。