~陸斗side~
「陸斗!なんで昨日来なかったんだよ!」
「そうだぞ陸斗!一体昨日はどこにいたんだ!」
教室に着くやいなや、一夏と箒が詰め寄ってくる。まったく、朝からうるさい限りだ。
「少し用事があってな。すまない。」
俺がそう言った瞬間、鷹月がジト目でこちらを睨んでくる。
………俺鷹月に何かしたか?
「そっか、なら仕方ねえな。な、箒?」
「う、うむ、そうだな。だが陸斗、次は参加するのだぞ。」
「まあ次があればな。」
俺らの会話がひと段落するのを待っていたかのように、絶妙なタイミングでクラスのとある女生徒が話しかけてきた。
「ねえねえ織斑君聞いた?2組に転校生が来るらしいよ!」
転校生…おそらく鈴だろうな。
「転校生?この時期にか?」
「珍しいこともあるものだな。」
「私の存在を危ぶんでの転こ「黙れオルコット。まだ調子に乗っているのか?」……も、申し訳ございませんわ…。」
まったく、今はもうただの一般生だというのに、何を言っているんだか。
「そうそう、その転校生って中国の代表候補生なんだってさ」
「へぇ~どんなやつなんだろな?」
その一言に箒の眉がピクッと動く。
「む………気になるのか?」
「ん?まあな。そりゃ少しは気になるさ。」
箒の表情が先程より険しくなる。
「ふん…今のお前に女子を気にしている余裕があるのか?クラス対抗戦は来月なんだぞ?」
「その通りですわ一夏さん!クラス対抗戦に向けて訓練するべきです!お相手ならこの私、セシリア・オルコットが務めさせていただきますわ!」
オルコットの一夏に対する反応が以前とは全然違う。『一夏しか見えてない』って感じだ。
「なっ!一夏のコーチはこの私だ!」
箒も負けじと一夏に言う。しかし一夏が言った言葉はというと………
「あ、そのことなんだけど、陸斗が俺のコーチしてくれないか?」
その瞬間、2人が凍りつく。その上まるで雷に打たれたかのようにショックを受けた顔をしている。
まあ本当に雷に打たれたら俺みたいに死ぬんだけどな?
「それは無理だ。」
俺に一言で2人の顔が一気に明るくなる。
「な、なんでだよ!教えてくれたっていいじゃねえか!」
「俺の機体はピーキーすぎてお前を再起不能にしてしまう可能性がある。」
オルコットの顔が青ざめる。どうやら俺との試合を思い出したようだ。
「だから教えてもらうとしたらそこの2人に教えてもらえ。剣術は箒に、状況や相手に応じた戦術は元代表候補生のオルコットにでも教えてもらえ。」
「そ、そうか。陸斗がそう言うなら2人に教えてもらうよ。よろしくな、2人とも!」
「あ、ああ!」「は、はい!」
さっきとはうってかわって、2人はとても嬉しそうな顔をする。
「織斑君、クラス対抗戦頑張ってよね!」
「そうそう、なんたって食堂のスイーツがかかってるんだからね!」
「専用機持ちは1組と4組しかいないから余裕でしょ!」
「スイーツは貰ったも同然だね!」
女子ってデザート…いや、スイーツ好きだよな。あれ、スイーツとデザートってどこが違うんだ?
「その情報古いよ!」
教室の入り口で腕を組んで仁王立ちしているおチビ…もとい鈴がいた。
「2組のクラス代表も専用機持ちになったのよ!」
「……鈴、お前鈴か!?」
「久しぶりね、一夏!1年ぶりかしら?それと陸斗も昨日はありがと!」
本当にデザートとスイーツの違いってなんなんだ?
「陸斗!無視しないでよね!」
「あ、ああ、すまない。デザートとスイーツの違いを考えていたものでな。」
「なに!?私ってそれ以下の優先順位なの!?」
「悪いがその通りだ。」
「ムキーッ!!」
怒って地団駄を踏む鈴。………なんだろう、周りから痛い視線が………。
「陸斗、『昨日はありがと』ってどういうことだよ?」
一夏がガシッと右肩を掴んでくる。
「陸斗よ、昨日は用事があったと言っていたな?」
今度は箒がもう一方の肩を掴んでくる。
「鈴!昨日こいつに何をして貰ったんだ!」
突然一夏に名前を呼ばれて鈴が驚く。……その上顔を赤らめているってことは……惚れてるな。
「えっと、夕方暇そうに歩いてたから、受付まで案内して貰ったのよ。」
「夕方って何時頃!?」
「確か………6時半ぐらいだったと思うけど?それがどうかしたの?」
一夏が先程まで鈴に向けていた顔を、わざわざ怖い表情にして向けてくる。……ご苦労なことだ。
「陸斗、どういうことだよ!昨日は用事があったんじゃなかったのか!?」
「そうですわ!一体どうしてその時間に暇そうにしているのですか!?」
「そうだよ~」「西條君がいなくて寂しかったんだよ?」「私たちこれからずっと無視されちゃうかもって心配したんだから!」
一夏だけでなく、クラスの女生徒も言ってくる。………ああめんどくさい………。
「はぁ、めんど「私をどこまで放置すんのよ!」…あ、いたんだ。」
「いたわよ!」
「そろそろクラスに帰ったほうがいいぞ。」
「なんでよ!まだ全然一夏と話せてないじゃない!」
1組の女子が全員動き出し、自分の席へ帰り出す。どうやら気づいたようだ。
バシーーーーーン!!
「いったあぁぁぁぁぁ!何すんの…よ………」
「SHRの時間だ。とっとと帰れ。」
千冬さんが腕組んで仁王立ち。大魔王も真っ青な絵面だ。
「げっ!ち、千冬さん!!」
「ここでは織斑先生だ。」
「は、はい!申し訳ありません!」
鈴がビシッと敬礼する。…何故だろう、千冬さんだと全く違和感がない。
「今すぐ帰らせていただきます!…一夏!また後で来るから逃げないでよね!」
そう言うとまるで猫のように鈴は走って逃げて(?)行った。
その後、一夏絡みで授業に集中できてなかった箒とオルコットが出席簿で叩かれていたがこれはまた別の話。
~昼~
「待ってたわよ一夏!」
俺たちが食堂に行くと、鈴がお盆を持って俺たちのことを待ち構えていた。…いや、正確には『一夏を』だな。
「鈴、そんな所に立ってたら邪魔だぞ?俺も食券を取りたいんだが…」
…一夏って本当にこの上なく鈍感で唐変木だな…。」
「陸斗、声に出てるし聞こえてるぞ!?」
「いや、お前鈴のお盆の上のもの見てみろよ。」
「それがなんだって言うん…だ………あ!」
「ようやく気付いたか、アホ一夏。」
そう、鈴のお盆の上にのっていたのはラーメンだった。
「わ、わりぃ!今すぐ取って来るから待っててくれ!早く行こうぜ、3人とも!」
一夏は俺と箒とオルコットに言ってくる。………俺はオルコットと一緒にご飯を食べるほど仲良くはないんだが……。なんで俺はこいつらについて来たんだ?
「俺は今日はパンにさせてもらう。」
俺は向きを購買のほうへと変えて歩き出し…
ガシッ
「は?」
誰かに腕を掴まれた。
俺は『どうせ一夏だろ』とか思いながら後ろを振り返ると
「は?」
再び呆気に取られる。
それもそのはず。俺の腕を掴んでいたのはなんとオルコットだった。
「お待ちくださいまし!」
「…なんのつもりだ?」
「私、もっと西條さんと仲良くなりたいのです!」
「…最大限関わっているのだが?」
「全然そうは感じません!」
オルコットが涙を目に溜めながら訴えてくる。
「おいおい、それじゃあ俺が悪いみたいじゃないか?…それとここは食堂だ。少しは場を弁えろ。」
「西條さんが私と一緒に昼食をとってくださるのなら考えます!」
唇をキュッと結び、涙目になりながら必死になって言ってくる。
「……はぁ、さっさと行くぞ。鈴の麺が伸びてしまうからな。」
「は、はい!」
目をキラキラ輝かせながら返事をするオルコット。そのまま一夏たちの方へと歩き出す。
さて、今の内にさっさと逃げるとするか………。
俺は振り返って帰ろうとする。
ガシッ
「へ?」
なぜかオルコットに腕をガッチリとホールドされる。さっき一夏の方に歩き出そうとしたのになんで俺の隣にいるんだ!?
「…オルコット、何をしている?」
あくまで俺は平静を装って返事をする。
「どこに行こうとしているのですか?まさか逃げようなんて思ってはいませんわよね?」
なっ!!俺の行動がバレてるだと!?
「………はぁ、分かった分かった、もう逃げようとしないからさっさと行くぞ」
「初めから素直にそうしてくださいまし!」
………めんどくさいことになったもんだ………。
今、俺たちは5人で飯を食べている。左から俺、オルコット、鈴、一夏、箒の順番で座っている。
「久しぶりだな、鈴!丸1年ぶりぐらいか?」
「久しぶりね、一夏!そうね、そのぐらいになるんじゃない?」
「元気にしてたか?」
「元気にしてたわよ。あんたこそたまにはケガとか病気とかしなさいよ!」
「どういうことだよ、それ………。」
一夏はすでに『唐変木』っていう病気にかかっていると思うのは俺だけか………?
(私もそう思うわ。)
「(お、レイか。やっぱお前もそうおもうよな?)」
(ええ。あれはもう不治の病だわ。)
「で、いつ代表候補生になったんだよ?」
「あんたこそ、ニュースで見た時びっくりしたじゃない。」
「俺だって、まさかこんなところに入るとは思わなかったからな。」
隣同士に座った一夏と鈴は周りから見ると『イチャイチャ』って感じで話している。
正直言って鬱陶しい。
「なんで入試の時に間違ってIS動かしちゃうのよ?」
「……迷って入った教室にISがあって、ついつい触っちゃったら動いた………。」
「馬鹿じゃないの!?でも変な話よねぇ。」
「バカって言うな!………まあ変な話だよな。」
聞くに堪えられなかったのか、そのラブラブっぷりに耐えられなかったのかオルコットと箒が一斉に立ち上がる。
その時、事件は起こった。
オルコットが机を叩こうとした右手が俺のお盆を見事にひっくり返してくれた。
そして俺は先ほど頼んだサバ味噌煮定食を見事に上から被った。周りからは『きゃぁっ!』という悲鳴が上がる。
しかし、よっぽど一夏と鈴の方に気が向いていたのか、オルコットはそれに気づかずに一夏に向かって怒鳴り始める。
「一夏さん!その方とはどういう関係なのか説明してください!」
その言葉に俺は怒りのボルテージを上げる。
その怒りを汲み取ったのか、はたまた俺の様子が見えたのか、おそらく後者だろうが一夏と鈴、箒は顔を青くしている。そして勢いよく怒鳴っているセシリアに『そっちを見ろ!』と言わんばかりに俺の方を指さしてくる。
「さっきから3人とも指をさしてどうかしましたの!?こちらには陸斗さんしかいらっしゃいませんが」
俺の方を振り返った瞬間、オルコットの顔が真っ青になる。
「オルコット、お前はわざわざ俺にこんな仕返しをするために、嫌がる俺を無理やり連れてきたんだな?」
「そ、そういうわけではございません!」
「だが事実、お前はこちらに詫びを入れるより前に一夏に怒鳴り込んだ………。つまり元から俺を会話には入れさせずにハブらせようとしたんだな?」
「い、いえ、そういうわけでは………」
オルコットがあたふたしている上に、涙目になっている。
………だが流石にこの仕打ちは許せん。
「貴様は客人を招待してその客人に偶然を装ってスープをかけて恥をかかすのだな?そうかそうか、ならば俺はもう帰らせてもらう。金輪際俺のことは誘うな。不愉快だ。」
「そ、そんなことは「それと箒、お前も食事中に机を叩くのはやめろ。マナー違反だ。食事を楽しく食べるのは悪くないが、周りのことと食事を作ってくれた人のことを考えろ。」
「あ、ああ、すまない。」
「そういうわけだから、俺は先に教室に帰らせてもらう。」
俺は後ろで固まっている4人をそのままにして一度自分の部屋へと着替えを取りに行った。
………これは時間的に昼休み飯食えないな………。
~一夏side~
「わ、私、どうすれば………。」
陸斗が帰った後、セシリアはずっと泣いたままだった。
「あ、謝れば大丈夫だって!」
「そ、そうだぞ!私も悪かったのだ!一緒に謝ろうではないか!」
「ねえ一夏、こいつと陸斗って仲悪いの?」
鈴がセシリアを指でさす。
「ま、まあそれはな、色々あってな………。」
「り、陸斗も陸斗だ!いつまでも根に持つのはどうかと思うぞ!」
「いや、まあ今まで何があったかは知らないけど、流石に今日のは誰でも怒ると思うよ?それに、陸斗の口ぶりだとここに来るの嫌がってたみたいじゃない?それならなおのことよ。」
セシリアの目から涙が零れだす。
「わ、私、西條さんと仲直りがしたかっただけですの………。あの一件以来、ほとんど言葉を交わすことはありませんでした。今日も西條さんは私との昼食を嫌がっていらっしゃったのですが、どうにか誘うことが出来ましたの。なのに、私ときたら………。」
声が震えている。よっぽど悲しいのだろう。
「分かった、今回はここにいる4人でどうにかしようぜ!」
「ああ、そうだな。」
「なんで私が!」
鈴が嫌よと言わんばかりに立ち上がる。
「鈴、お前困ってる人を放っておくような人間になっっちゃったのかよ?」
「なっ、なわけないでしょ!分かったわよ!手伝えばいいんでしょ、手伝えば!」
「あ、ありがとうございますわ!本当になんとお礼を言えばよろしいのでしょうか………。」
セシリアが90度のお辞儀をする。以前のセシリアから考えたらありえない行動だな。
「お礼は成功してからにしてくれよな!」
「は、はい!」
「それじゃあどうするか考えようぜ?」
「その前に、一夏、お前とその鈴とやらの関係を聞かせてもらおうか?」
「わ、私も気になりますわ!さぁ、説明してもらいます!」
………これから面倒になりそうだ………。