~海斗side~
俺の第2の人生が始まった。前世の死神時代は、とてつもなく残酷な世界だったせいで、今の生活はとてつもなく居心地がいい。ちなみに、俺は自我を持ち始めたころに前世の記憶もよみがえった。実際に自我を持ち始めたのは3歳の頃。あのころはまだよかったんだ……。
真面目に働く俺の親父。確かに容姿はお世辞にもかっこいいとは言えない。だけどその真面目さのおかげで、人望は厚く、母を心の底から愛している。それにやっぱり家族を養っているだけあって、その背中は何よりも大きい。
そして俺の母さん。優しくて、美人で、何よりも親父とすごく仲がいい。本当にこの二人はおしどり夫婦だ。『こいつらまだ新婚なんじゃねえの?』って思うぐらいだ。
最後に俺の双子の妹。東城 美月(とうじょう みつき)。性別から分かる通り、俺らは二卵性双生児だ。
そんなこんなで、俺たち4人家族は仲良く、幸せに生活していた。
だけど3年後、俺らの生活はとある事件を機に一変した……。
その事件は『白騎士事件』。あの事件を機に、世の中には女尊男卑の風潮が蔓延った。世の中の女性は男性を蔑むようになり、男性は生活を送るには女性に媚びる、もしくはこき使われるしか方法がない。俺の家族も例外ではなかった。正直なところ、今でも信じられない。あんなに仲の良かった夫婦が、あの事件のせいで引き裂かれることになったなんて……。
あの事件の直後、俺の家族でも、いや主に母が女尊男卑の風潮に染まってしまった。母がある日突然「離婚よ」と言い出したのが幸せな家庭が崩れたきっかけだ。その理由はとてつもなくくだらない。「親父が不細工だから」だそうだ。正直言って酷い話だ。だけど、この女尊男卑の風潮は、たったそれだけの非人道的な理由ですらも離婚の理由になってしまうのだ。
あの時俺は声が枯れるまで叫んだのを今でも覚えている。
「母さん!母さんいつも言ってたじゃないか!父さんの真面目なところに惚れて結婚したって!なんで顔で評価するようになっちゃったんだよ!」
今思えば、あの時は気が動転していて口調が子供らしくなかった。でも今はそんなことはどうでもいい。俺の記憶に鮮明に残っているのはこの後の母の言葉だ。
「今のこの時代、男は大事な女のステータスなの。稼ぎも普通で、顔も不細工。こんなんじゃあ私の経歴に傷がつくわ。」
あの一言は今でも忘れない。いや、忘れられるはずがない。
「だから私、新しい男を探そうと思うの。美月ちゃんは勿論私が育てるわ。あんな男の元じゃあちゃんとした女性に育たないかもしれないから。どう?海斗も一緒に来ない?私と一緒の方が良い暮らしができるわよ?幸い、あの人とは違って顔も整ってるし、私としては大歓迎よ。」
親父のことをただの『男』と言い切った母に、正直ついていけないと思った俺はその提案を断固として拒否した。
「そう、残念だわ。あなたがそんな愚かな男性だとは思わなかったわ。所詮はあの男の子供。蛙の子は蛙ね……。」
この言葉を残して、母と妹はわが家を出ていった……。
それ以降、俺はこの世の中が嫌になり、一心不乱に自分の身を鍛えた。自分の身は自分で守れるように。そして、あのISをすべて破壊するために。神様からもらった能力のおかげで俺の身体能力はみるみる内に上がっていき、今も成長を続けている。
そして勉強も怠らなかった。情報化社会の世の中、教材や資料なんてものはいろんなところに溢れている。ISのこと、パソコンのこと、社会のこと、歴史など、ありとあらゆる知識を頭の中に叩き込む。その努力のおかげで、知識に困ることは何もなくなった。
2度目の地獄は突然やってきた。俺が小学3年生の時、俺の親父が仕事をクビになった。理由は簡単。これまた「不細工」があだになったらしい。
簡単に説明すると、親父とその同僚が仕事でミスをしたらしい。本来なら2人とも責任を取ってクビになるはずが、その同僚の人は「顔が上司の女性の好みだった」という理由だけで、彼女の専属のマネージャーとなる条件でクビを免れたらしい。そして不細工である父は、全ての不名誉を押し付けられ、会社の女性全員から「不細工がいきがるな」と罵られながら、会社をクビになったらしい。
それ以降親父はいつも家で酒を飲み、元母のことや元上司のことを愚痴っていた。小学生の俺に対して。それに、相当顔に対してコンプレックスを持つようになってしまった。
そんな不幸が重なったせいで、あの地獄は訪れた。あれは忘れもしない、俺の誕生日の1週間前の日のことだった……。
その日、俺は家に帰った。「ただいま」と言っても部屋から何も声が聞こえない。親父の愚痴る声すらもだ。何かあったのだろうかと警戒しながらもリビングに進むと、そこには包丁を持った親父がいた。
「海斗、お前はいいよな?そんな整った顔立ちをしていて。なんで、なんで俺ばかりなんだよ!ふざけるなよ!真面目に生活していたさ。仕事もしていたさ!なのになんだよ!世の中顔なのかよ!なんで、なんで……。」
その時、俺は前世で感じていた『死の恐怖』をこの世で初めて直感した。
「お前を、お前を殺して俺も死んでやる!おとなしく俺に殺されろ、海斗!」
そう、親父が包丁を振り回して俺を追いかけ始めたのだ。
俺は鍛えていたおかげで親父に反撃をし、意識を刈り取った。その間に、ずっとためていたお金を全部持って家から飛び出し、ひとまず家から一番近くにあるホテルに避難することにした。
その翌日、家に帰ると、そこには親父の無惨な姿があった……。