死神がISの世界に 改   作:岩男 一前

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Ep.23 変わったもの 変わらなかったもの

~陸斗side~

 

 

「鷹月、もう離してくれて大丈夫だ。」

「え?で、でもまだ左足が………。」

「大丈夫だ。片足で歩くさ。」

「だ、ダメだよ!」

 

俺は鷹月の肩にかけている左腕を外そうとするが、鷹月ががっちりと掴んで放そうとしない。

 

「いや、でも俺汗かいてるし………。鷹月の制服がダメになるだろ?」

 

そう、俺は制服の上を渡してしまったため、今上に来ているのは黒いTシャツ一枚しか着ていない。先ほどまで激しい戦いをしていたため、汗をかいている。

 

………流石に俺も汗をかかないほどの変態ではない。汗だってかくし、疲労感も感じる。時には筋肉痛やら腰痛等にもなる。

 

「そんなの気にしないでいいの!怪我してる陸斗君を放っておくほうが嫌だよ!」

「………すまない。迷惑をかける。」

「め、迷惑なんかじゃないよ!それより、ほら、保健室行こ?早く手当てしないと」

「………ああ、そうだな。」

 

俺は再び鷹月に体を預ける。

 

「うわっ」

 

鷹月とバランスが合わず少しふらつく。

 

「だ、大丈夫!?」

 

鷹月が咄嗟にふらついたのに合わせて力の入れ具合を変える。

 

「「「「西條君!」」」」

 

周りにいる1組の女子も俺をこけさせまいとフォローの体勢になっている。

 

「み、みんなありがとな。」

 

正直言ってホラーだ。

 

「ほら、行こうぜ。」

「「「「「「「「「「うん!」」」」」」」」」」

 

1組の生徒全員(オルコットと一夏と箒以外)が俺に付き添ってくれている。

 

この前だったらこんなことは絶対になかった。

 

その上、みんな俺のために(・・・・・)なんらかの形でサポートしてくれている。

 

多くの生徒は先ほどみたいにふらついた時のために一定の距離を保って歩いてくれている。のほほんさんや鏡はさっきの俺の『汗が………』という言葉を聞いていたのか、手にタオルをもってこまめに汗を拭いてくれている。しかもその上さっき俺の汗の量を見てわざわざ水を持ってきてくれた女子もいる。さらにその女の子が、どこから持ってきたのか紙コップに水をつぎ、右手が使えず左手は鷹月の肩に回している状況の俺に飲ませてくれているのだ。

 

「(みんな、なんか変わったな………)」

(ええ、そうね)

「(以前の状況からは考えられないな。)」

(みんなそれだけあなたのおかげで考えを改めたってことよ。)

「(俺のおかげ?それは違う。みんなが変わっただけだ。俺は人をいい方向に導けるほど大した人間じゃない。むしろ人を力でねじ伏せることしか出来ないクズさ。)」

(………あなたは変わらないわね。)

 

それはそうだ。そんなに簡単に変わるものじゃない。なにせ俺は殺人鬼だ。

 

(あなたが戦うことで救われる人がいるってことを忘れちゃだめよ。)

「(それでも殺人をしてることは確かだ。)」

(………まああなたがそう思うなら私はこれ以上何も言わないわ。)

「(………ああ。)」

 

レイとの精神会話(?)は、どうやら周りからはボーっとしているように見えるみたいだ。

 

「陸斗君?どこか痛むの?」

「い、いや、何でもないよ。ただボーっとしてただけだ。」

「それならいいけど………。どこか痛んだりしたら言ってね?私こういうの初めてだからちゃんと支えてるかどうかわかんなくて………。」

「大丈夫だ。鷹月の支えは完璧だよ。この上なく歩きやすい。」

「そう、ならよかった。」

 

鷹月がホッとする。ああ、鷹月って本当に良い女の子だよな………。

 

俺がそんなことを考えていると、遠くから走ってくる女性の姿が見えた。制服でない真っ黒な服を着ているため、生徒ではない。

 

「陸斗!!!」

 

大声で俺の名前を呼びながら走ってくる。それもとてつもない速さで。

 

近づいてくる女性の姿をよく見てみると、千冬さんだった。

 

千冬さんは俺の前で止まると、膝に手をつきながら、切らした息を整えていた。あの千冬さんが息を切らすんだからよっぽど急いで来てくれたのだろう。

 

「どうしたんですか、織斑先生?」

 

千冬さんが膝についた手を腰に置きながら顔を上げた。それと同時に俺が肩を借りて立っているところを見て顔を歪めた。

 

「り、陸斗、怪我を………!」

 

千冬さんは悲しみの表情を浮かべながら、右手を俺の頬へと伸ばしてくる。

 

「なんで織斑先生が悲しそうな顔をするんですか?これは俺の実力不足が招いた結果です。俺の不甲斐なさが原因なんです。」

「そんなことはない!私が、私が実力行使で動くことをしていればこんなことには………。結局私は立場に囚われて……お前を傷つけてしまった。」

 

千冬さんが頬を触ろうとした手をおろした。そして俯き、プルプルと震え出した。

 

「なんで織斑先生が「私は!私はお前を救うとあの日誓ったのに、それでもなおあれからお前を何度も傷つけている。私はお前にどんな顔をすればいいのか……分からない………。」

 

今の千冬さんの姿を見た女生徒たちは信じられないといった顔をしている。

 

「ならいつも通り強気の顔をして、クールな雰囲気でどっしりと仁王立ちで構えててくださいよ。そうじゃないと千冬さんらしくないですよ。」

「………。」

 

千冬さんは下を向いていた顔を上げた。少し表情がいつもの状態に戻ったみたいだ。それでもまだ少し暗いんだが。

 

「千冬さんがどっしりしてないとIS学園にいる人全てが不安になります。千冬さんの存在がみんなに保護されているという安心感をもたらしているのは確かです。トップに座っているあなたがそう易々と戦場に出てはダメですよ。」

 

俺のこの言葉を聞き、やっと千冬さんの表情がいつも通りに戻った。

 

「……………そうか。すまないな、西條。お前を助けるどころか励ましてもらうことになるとはな。それよりも西條、ここでは織斑先生(・・・・)だ。呼び方には気を付けろ。」

「そうでした。俺としたことが間違えました。ですが、先生、先生も先ほどまでは間違えてましたよ?」

「ふっ、そうだな。今回は水に流すとしよう。それよりもさっさと保健室に行くぞ?」

「そうですね。行きましょう。……ほら、鷹月たちも行こうぜ?」

 

呆気にとられていた女生徒たちは、我に返った。

 

「う、うん!」

 

1組の大集団はゆっくりと保健室へと歩いていった。

 

 

 

~鈴side~

 

「一夏………」

 

私はベッドで横たわっている一夏の傍の椅子に腰を下ろしている。

 

「あんた、本当に昔から変わってないわね………。」

 

一夏を起こさないように呟く。

 

一夏は昔から変わっていない。理不尽にいじめられている人を見ると、後のことなんて気にせずに突っ込んでいく。『正義』ということを意識せずに行える愚直と言えるほどの真っ直ぐさ。

 

そして何より、あの鈍感さ。

 

「そこは変わっててほしかったんだけど………。」

 

一夏の髪を撫でる。一夏がくすぐったそうに少し顔を動かす。

 

「一夏………。」

 

ゆっくりと顔を近づけていく。

 

一夏の唇まであと10cm…5cm…3cm…

 

 

ガチャ

 

 

「陸斗君、早く座って!」

 

扉が開き、騒がしい集団が入ってきたと同時に、近づけていた顔を離した。

 

 

~陸斗side~

 

「陸斗君、早く座って!」

 

鷹月に導かれて椅子に座る。

 

「左足、早く出して!」

 

俺は制服のズボンをまくる。すると、腫れている左足首が露わになった。

 

腫れている足首を見て、周りの女生徒が一斉に息をのむ。

 

「いやいや、大丈夫だよ。こんなの2日あれば大丈夫だし。」

「じゃ、じゃあ腕も見せて!一応固定しとかないと」

 

今度は腕を見る。さっきまではみんな俺を運ぶのに精一杯で見てなかったようで、俺の腕を見た瞬間に全員が息をのんだ。あの千冬さんまでも。

 

なぜなら、手はそうでもなかったんだが、腕が紫に変色していた。

 

「り、陸斗君、これ大丈夫なの!?」

「り、陸斗!これは酷い折れ方をしているのでは!?」

「大丈夫ですよ。できれば湿布と包帯をお願いしたいんだけど………。」

「そ、それだけで足りるの!?」

 

もっともな意見だ。だが俺にはそれで十分だ。

 

「まあ4、5日すれば治るよ。」

「嘘言わないで!」

「いや、本当なんだけど………。」

 

俺の一言で周りの女生徒が一斉に固まる。まあ非常識な体の構造(?)をしているからな。

 

「まあ西條がそういうならそうしよう。どれ、私がやってやろうではないか。」

「え゛っ!?千冬さんがですか!?」

 

千冬さん、普段はずぼらだから、こういうのとか雑なんじゃ………。

 

「なんだ今の『え゛っ!?』は?その顔は私が雑にやると思っているな?それに呼び方も違うぞ、西條?」

 

そして千冬さんがゆっくりと俺に近づいてくる。

 

手には湿布と包帯。や、ヤバい、過去最大のピンチ!

 

 

 

ピタッ

 

 

「!?」

 

 

ひんやりとした感覚が右手に走る。

 

綺麗に伸ばそうと千冬さんの手が湿布を撫でる。

 

「あ、あれ?」

 

全く痛くない。普通これだけの怪我をしていたら触られたら痛い。だが不思議なことに全く痛みはない。

 

そして俺が疑問に思っているうちに、いつの間にか包帯が巻かれていた。痛みもなく、程よい締め付け具合だ。

 

「え?」

「何を驚いているのだ?」

「いや、やけに慣れているなと思いまして。」

「慣れてるに決まっているだろう?小学校時代、怪我をしてくる一夏の手当をすることもあったのだから。」

「………納得です。」

 

千冬さんが「フフッ」と微笑みながら湿布を指の大きさに切って貼ってくれる。

 

 

「ヘックション!!!」

 

 

その時、ベッドの方から大きなくしゃみが聞こえてきた。

 

「あれ?鈴?なんでこんなところにいるんだ?というよりここどこだ?」

 

………一夏だ。

 

「一夏!起きたのね!ここは保健室であんたはベッドの上!」

「え?なんで俺は保健室なんかに?………あ、そっか、俺倒れたんだったな………。」

「そうよ!まったく、あんたってやつは無茶ばっかして。」

 

鈴の声が少し涙を含んでいるように聞こえる。やっぱ好きなんだな、一夏のこと。

 

「ははは、悪いな。でも鈴は無事だったんだろ?」

「おかげさまでね。でも精神的には疲れたわ。あんたのせいで。」

「無事ならよかった。守った甲斐もあったっでもんだ!まあ精神的な疲労はすまんとしか言いようがないな」

 

一夏の『ハハハ』という笑い飛ばす声がする。

 

「もう、自分の体も大事にしなさいよね。心配する側の身にもなってみなさいよ。」

「あ~、確かに嫌だな。分かった、俺はもっと強くなってみんなを護れるようになる。約束する。」

「え!あ、う、うん、が、頑張りなさいよね。わ、私も手伝ってあげるからさ。」

「おう!あ、そういえば約束で思い出したんだけどさ、昔の約束って『毎日味噌汁を』っていうあの………」

 

その時、クラスととある女子がいきなり大声を上げた。

 

「突撃ーー!!」

「「「「「「「「「「おおーーー!」」」」」」」」」」

「え、え、え!?」

「はぁ、まったくお前たちは。」

「鷹月、落ち着け。織斑先生、ご苦労様です。」

 

俺の治療に意識を集中していた鷹月は流れについていけず、千冬さんは額に手を置いて『ヤレヤレ』といった表情を浮かべる。かくいう俺はというと我関せずだ。

 

「織斑君、大丈夫?」「痛むところとかない!?」「戦ってくれてありがとね!」「やっぱ頼りになるね~。」

 

クラスの女子たちは、鈴と一夏の会話に無理やり突撃し、見事にエアクラッシャーとなっていた。

 

「ま、また邪魔されたああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

鈴、ドンマイ。

 

 

 

 

 

 

 

~第三者side~

 

「あれ、ここは?」

 

目を開くと目の前には真っ白な板のようなものが広がっていることに動揺するセシリア。

 

「私、一夏さんと鈴さんの試合を観戦していて………。そしたら突然すごい音が鳴って…………そうですわ!上から上から瓦礫が降ってきて…イタッ!」

 

急に起きあがったところ、後頭部に鈍い痛みを感じ、思わず手で押さえる。

 

「大丈夫か、オルコット?」

「へ?」

 

不意に横から声をかけられたため、そちらの方を向くと、そこには意外な人物が椅子に腰かけていた。

 

「り、陸斗さん!?」

「大声を出す元気があるところをみると、どうやら大丈夫そうだな。」

「ど、どうしてここに!?」

「どうしてって、お前を見舞いに来たんだが?」

「だからどうして陸斗さんがわざわざ…痛ッ!」

 

急な行動のせいで頭に痛みが走り、再び頭を押さえる。

 

「無理をするな。頭を打っているんだ。ゆっくり寝とけ。」

 

陸斗が起き上ったセシリアを再び寝かせる。

 

「質問に答えてくださいまし!」

「分かった分かった。……俺の対応が遅れたせいで今回お前に怪我をさせた。本当にすまない。」

 

陸斗が頭を下げる。

 

「や、やめてくださいまし!あの場では仕方のないことです!それに私は当然のことをしたまでです!」

「そうか。それならば俺はお前に対する考えを改めなければならないな。」

「?どういうことですの?」

「別に大したことはない。俺は俺なりにけじめをつけなければならないというだけだ。」

 

陸斗は椅子から立ち上がり、地べたに正座し、頭を下げた。

 

「ここ最近、些細なことでずっとお前に対して怒りをぶつけ無視し続けたことを謝りたい。本当にすまなかった。」

「あ、頭をお上げくださいまし!私の方こそ、陸斗さんを強引に昼食に誘っておきながら蚊帳の外にした挙句、食べ物をかけてしまうなどと言った失礼極まりないことをして申し訳ございませんでした!」

 

セシリアは保健室のベッドの上で正座し、同じように土下座をする。

 

「そうか。だが俺の方が気が済まないのでな、お詫びのしるしとして千冬さんにかけ合わせてもらう。」

「な、何をですか?」

「今回のオルコットの働きは代表候補生の鑑ともいえるほどの働きだった。さすがに国家代表とまでは行かないまでも、ここ数週間で代表候補生にふさわしいほどに人間的に成熟したということを千冬さんのほうからイギリスへと報告してもらおうと思う。」

「え!?で、ですが」

「素直に受け取っておけ。お前が代表候補生から降ろされたせいで遺産相続やらで大変なのだろう?」

 

陸斗の言葉にセシリアが驚愕の表情を浮かべる。

 

「な、なぜそのことを!?」

「そこは秘密にさせてもらう。…とにかく、素直に受け取っておいてくれ。それにこれはお前だけの問題ではないのだぞ?」

「……そうですね。今もチェルシーが必死に我が家を守ってくれているのかと思うと、その提案に甘んじないわけには行きませんわね。」

「何を勘違いしている?別にお前の行動は甘えなどではない。正当な評価だ。身を挺してまでクラスメイトを救った。お前が庇っていなかったら死んでいたかもしれない。」

「そ、それは」

「素直に評価を受け止めておけ。千冬さんには俺の方から言っておく。だからオルコット、今は寝てしっかり休め。お前が救った女の子に心配をかけるのか?」

 

オルコットの目から涙が零れる。

 

「あ、ありがとうございます、陸斗さん。私、本当になんとお礼を申し上げれば……………」

「なら3つ、約束してくれないか?」

「は、はい!」

 

セシリアがベッドの上で背筋を伸ばして姿勢を正す。

 

「1つ目はもう男性だからといってそれだけで軽蔑しないでやってくれ。」

「も、もちろんですわ!」

「それで2つ目。代表候補生という立場に胡坐をかかないでくれ。」

「今回のことで自分が井の中の蛙ということが十分わかりましたわ。」

「それを聞いて安心したよ。そして最後、これが1番重要だ。」

 

『1番大事』と言われてセシリアの表情が引き締まる。

 

「力ばかりを追い求めないでくれ。」

「………へ?」

「頼むから俺みたいに力だけを求めた大馬鹿野郎にはならないでくれ。」

「ど、どういうことですの?」

「………そのうち分かる。今すぐ知りたいなら千冬さんにでも聞いてくれ。俺には詳しいことは教えることはできない。」

「………分かりましたわ。約束します。」

 

セシリアは腑に落ちないようであったが、それ以上は追及しなかった。

 

「それじゃあ俺は今から千冬さんのところに行ってくる。しっかり休めよ。」

「は、はい!今日はありがとうございました!」

 

セシリアはベッドから出て立ち上がり、陸斗に礼をした。陸斗はセシリアに背を向けたまま手を振りながら保健室を後にした。

 

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