~陸斗side~
とある日の休日、俺は今一夏と一緒に歩いている。
理由は簡単。一夏の家の掃除(といってもそこまで本格的ではないが)をするのと、一夏が中学時代の友達を紹介したいとのことで、外出許可をもらって町を歩いているところだ。
ところで、あの後オルコットはどうなったのかというと、イギリス政府やその他諸々関係者は、千冬さんからの『ブリュンヒルデ兼担任教師』としてのありがた~い一言をもらい、二つ返事で代表候補生の資格をもう一度与えると宣言した。いや~あれはとてつもないスピード対応だったな………。
まあこの話題はこのぐらいにして、今俺と一夏は一夏の中学時代の友人、『五反田家』へと向かっている。
なんでも、家が定食屋らしく、これがまた美味しいとのこと。昔は食生活が酷かった俺だが、このIS学園に来てから少し食への楽しみが湧きはじめた。…いや、むしろ昔の食生活が酷かったせいで、今の素晴らしく美味しい食事がこの上なく魅力的になっていると表現した方が適切かもしれない。
そんなわけで今俺は柄にもなく少しワクワクしている状況なのだ。
(そっちの方が高校生らしいわ。)
(………俺自身が高校生とはかけ離れているんだが?)
(そういう問題じゃないでしょ。……全く。)
レイに呆れられた。
「いや~久しぶりだなぁ、弾の家も。」
「弾?」
「ああ、そういえば言ってなかったっけ?俺の中学時代の友達の名前。『五反田 弾』って言うんだ!」
「なんか変わった名前だな。」
「ああ。でもすごい良いやつだから陸斗ならすぐ仲良くなれると思うぜ!」
「そうか、なら安心だ。」
他愛もない話をしながらしばらく歩いていると、目の前に大きく『五反田食堂』と書かれた看板がかかった一軒の店を発見した。
「お、着いたぜ!」
「これか………なかなか良い店じゃないか。」
そう言って俺は店の扉を開けようとする。
「陸斗、ちょっと待ってくれ。店に入るのは後だ。先に弾を紹介しておくよ。」
一夏が店の裏側の方へと回ったので、俺もそれについていく。
ドアの前でチャイムを鳴らすと、中から人の歩く音がし、扉がガラガラガラと音を立てて開く。
「やっと来たか一夏!待ちくたびれたぜ?………っと、そっちが2人目の操縦者か?」
赤い長髪の男が姿を現す。どうやらこの少し背の高いのが弾らしい。
「久しぶりだな弾!」
「君が弾か?初めまして、西條陸斗だ。よろしく頼む。俺のことは『陸斗』って呼んでくれ。」
「あれ、なんで俺の名前を?」
「一夏から聞いた。」
「そういうことか。五反田弾だ。こちらこそよろしく。『弾』って呼んでくれ。」
「よし!じゃあ早速遊ぼうぜ!」
は?飯は?
カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ
只今一夏と弾が絶賛ゲームで対戦中。え?俺は何をしているのかって?俺は弾から借りた漫画を読んでいるんだ。
すると、急に弾が口を開いた。
「いいな~。IS学園ってお前ら以外全員女なんだろ?良い思いしてんだろうな~。」
「してねえっつうの。」
「嘘つくなって!このこの!」
弾は器用にゲームをしながら一夏に体をぶつける。
「お前のメール見てるだけでも楽園じゃねえか!招待券ねえの?」
「ねえよ、バカ。」
「おい一夏、お前は一体どんなメール送ってるんだよ?」
「至って普通のメールだよ!」
2人とも未だ器用に操作をし続けている。
「それよりさ~、鈴が来てくれて助かったよ。話し相手少なかったからな~。」
「あ~、鈴か。鈴ねぇ。」
弾がニヤニヤしている。
「あ~やっぱ弾も知っているのか?」
「ってことは陸斗も?」
「ああ。知らざるは本人のみってことだ。」
「………ご愁傷様。」
バァン!
急に部屋の扉が開く。開いた先には弾と同じ赤紙のラフな格好をした女の子が片足を上げた状態で立っていた。
「お兄、ご飯出来たよ。さっさと食べに来な………いっ、一夏さん!?」
『お兄』ってことは弾の妹か。で、今の反応からすると………こいつも一夏絡みか。まったくこのフラグメーカーめ。もうメーカーというよりもむしろファクトリーだろ。
「よう、蘭!久しぶりだな!邪魔してる。」
「こんにちは。お邪魔してます。」
俺は当り障りのない挨拶をしておく。
「そ、そちらの方は?」
「こいつか?こいつは2人目の男性操縦者の西條陸斗だよ。」
「こ、こんにちは。妹の蘭です。よ、よろしくお願いします。」
「よろしく、蘭ちゃん。」
挨拶が終わると、蘭ちゃんは自分のラフな格好に気が付いたのか、すぐさま陰に隠れる。
ああ、一夏に恋する乙女の反応だ。
「い、いんや~、あ、あの来てたんですね?」
「今日はちょっと外出。家の様子を見に行ったついでに、陸斗にここのご飯を食べさせてやりたくって。」
「そ、そうですか!」
「蘭~、お前ノックぐらいしろよ。恥知らずな女だと思わ………」
弾がここまで言った瞬間、蘭ちゃんが顔を真っ赤にしたかと思うと、急に弾をにらんで拳を握りはじめた。
そして弾に向かって小声で
「なんで言わないのよ!」
と、拳を震わせながら言った。それを見て弾が、
「い、言ってなかったか?そ、そうか、悪い悪い。」
と、汗を垂らしながら言った。弾って尻に敷かれるタイプだな………。まあ一夏は相も変わらず全然蘭ちゃんのことが分かってないみたいだったが………。
下に降りると、そこには美味しそうな食事が用意されていた。
「「「いただきます」」」
3人で一斉に食べ始めた。
「やっぱこの味だよな~!」
一夏がまず声をあげる。
「おお、確かに美味い!」
なんていうのかな、こう、温かい味っていうか………家庭の味、かな?
「だろ?ここはやっぱ落ち着くし最高だぜ!」
「まあ一般家庭だしな」
などと俺と一夏と弾で談笑しながら楽しく食べる。
「あ、あの、一夏さん?ゆっくりして行ってくださいね?」
先ほどのラフな格好ではなく、ちゃんと女の子らしい恰好をした蘭ちゃんが一夏に言う。
さてさて、一夏はどんな反応をするのだろうか?
「着替えたんだな。どっか出かける予定?」
「あ、いえ、これは、その‥……。」
「あ、デート?」
「違います!」
一夏のバカ、鈍感、朴念仁。
「え!?」
「お前って学校でもその調子なのか?」
「弾、残念ながらこれ以上だ。」
「陸斗、ご愁傷様。」
全くだ。
「なんのことだよ!」
「「なんでもない。(なんでもねえよ。)」」
「鈴も可哀想に」
「なんで鈴が出てくるんだよ」
「「「はぁ」」」
俺と弾と蘭の溜息がそろった。まあみんな同じ気持ちだよな、こんだけ鈍感だと。
「そう言えば寮の生活ってどうなんだ?」
「ん?まあ箒には迷惑かけてばっかりなんだよな~。」
「え?箒って?お前と陸斗が相部屋じゃねえのかよ?」
「違う違う、俺たちはそれぞれ女子と相部屋。俺の場合はファースト幼馴染の篠ノ之 箒ってやつと一緒なんだよ。」
一夏のこの言葉を聞いて弾と蘭が愕然とする。
「お、おい、陸斗!お前も女子と相部屋なのかよ!」
「ん?まあ一応な。と言ってもそろそろ変わると思うが。」
「ち、ちきしょーーーーーー!」
弾が号泣して大声を上げる。
「うるせぇ!」
弾の頭にお玉が飛んでくる。
「静かにくぇねえのか!」
「ご、ごめんなさい。」
弾が頭を押さえながら涙目で謝る。
「い、一夏さんも女子と相部屋なんですか!?」
「あ、ああ。さっきも言っただろ?」
蘭がショックを受けすぎて固まっている。
「………決めました。」
「ん?どうした、蘭?」
「私決めました!IS学園に進学します!」
………一夏め、また面倒事を起こしてくれやがったな………。
「え? 受験するって……なんで?蘭の学校って超有名校だろ?」
「はい。私は今まで頑張ってきたので筆記試験とか余裕です!」
「い、いや、でもISには実技もあるし……な、なあ?一夏、陸斗?」
どうやら弾は蘭をISに行かせたくないみたいだ。まあそれもそうか。行ったら行ったで一夏が義弟になるかもしれないんだしな。
なにそれコント?って感じだよ、マジで。
「あ、ああ、一応IS学園の教員と闘って、ある一定の基準を満たせばいいだけだからそんなに難しくはないと思うぞ?」
「ちなみに、その時に入学時の稼働状況の参考資料を作るらしいから、ある程度は頑張った方が良いだろうな。」
まあなるべく煽らないように、かといって不自然に『来ない方が良い』というような雰囲気を出さないように答えた。俺としては来ない方が良いとは思うのだが。
すると、蘭ちゃんはどこからか1枚の紙を取り出した。
「な!?」
「ほぅ。」
弾は驚きの声を、俺は感嘆の声を出した。
「ど、どうしたんだ、弾、陸斗?」
「まあ一夏、これを見てみろ。」
そう言って一夏にその紙を見せる。
「ええっと、なになに………IS適正簡易試験……『A』!?こ、これ俺よりも高いじゃないか!?」
一夏も同じように驚く。
「え~、で、ですから」
蘭ちゃんが一夏の方を向く。
「IS学園に入ったら、一夏さんに是非とも指導していただきたいのですが………。」
「あらあらいいじゃな〜い。心強い先輩がここに2人もいることだし?」
弾のお母さんの蓮さんが一夏と俺の方を向いてウィンクしてくる。………俺はIS学園はやめたほうがいいと思うんだが。
「おう、いいぜ!陸斗も手伝ってくれるよな?」
一夏が俺に振ってきたせいで、弾のこの世の終わりのような顔が俺の方を向く。ここは蘭ちゃんと家族のためにもちゃんと言ってやらないとな。
(あら、なんだか今日は優しいのね。)
「(うるさいぞ、レイ。ここのご飯が気に入ったんだ。理由はそれだけで十分だ。)」
俺は蘭ちゃんと蓮さんの方を向いて真剣な顔つきで言った。
「……………俺は反対だな。」
「な、なんでですか!?」
俺の発言を聞き、蘭ちゃんは驚き、弾は天使が舞い降りたかのような嬉しそうな顔をしている。
その時、厨房から今度は俺に向かってお玉が飛んできた。
俺は難なくそれをキャッチすると、弾は『信じられねぇ。爺ちゃんのお玉をキャッチするなんて…』と呟いていたがそれはこの際どうでもいい。
「おい小僧、お前俺の可愛い孫の言葉にケチをつけようとしてるんじゃねえだろうな?」
「そんなことはありません。ちゃんと俺には俺の意見があります。」
「………言ってみろ。ふざけたこと言ったらただじゃおかねえぞ?」
厨房の奥にいる弾の祖父である厳さんが今度は中華鍋を持ち上げて睨んでくる。一般人からしたらここで萎縮してしまうだろうが、俺はそうはいかない。
「分かりました。蓮さんも聞いていただけますか?」
「ええ。今は店に誰もいないから大丈夫よ。」
「ありがとうございます。」
蓮さんに一礼してから話し始める。
「蘭ちゃん、この家族は好きかい?」
「は、はい!」
急な質問だったため、蘭ちゃんの声が裏返る。
「そうか。なら尚のことIS学園はやめておくべきだ。」
「な、なんでですか?」
「ここだけの話ですが、IS学園は今危険な状態にあります。」
「「「「!?」」」」
一夏も含め、全員が驚く。おそらく一夏が驚いている理由は他3人とは違うだろうけど。
「お、おい陸斗、この前のことなら箝口令が……」
「一夏、お前は黙ってろ。お前がやるべきことは、今後こういうやりとりがあった時はどう対応するかを学ぶことだ。」
「お、おお………」
俺の気迫に気圧されたのか、一夏がたじろぐ。
「去年まではこんなことはおそらくなかったでしょう。ですが、今年からは一夏と俺がいる。そして俺たちがいる3年間は常に危険がつきまとっている状態に有ると言っても過言ではない。」
「そ、それってどう言うことだ?」
弾が恐る恐る聞いてくる。
「俺や一夏を狙って襲撃が起こる可能性があると言うことだ。まあ一夏には千冬さんがいるから、狙われるのは特に俺だろうけど。」
「「「「!!!」」」」
「もしそうなった時、おそらく助かることが出来るのは専用気持ちだけだ。」
「え、で、でも、IS学園にもISは設備されてあるんじゃ………」
「そう思うのも無理はない。だが、学園に設備されているISでは全校生徒がそれぞれを自衛するには少なすぎる。それに実践訓練も積まないまま戦場に出ても、犬死にするだけだ。」
全員が神妙な面持ちになる。
「ただでさえ事故やら何やらで危険が伴うISだ。国家代表になりたいとか、そういう意気込みを持って入学するなら止めはしない。と言うより止めることなんて出来ないだろう。でも蘭ちゃんはISでなにかやりたいことがあるのかな?」
「い、いえ、これと言って……ですが……」
おそらく一夏のことでも考えているのだろう。いや、100%そうだ。確かに青春もこの時期の女の子には大事なことなのだろう。でも命より大事な青春というのはそうそうあるものではない。
「蘭ちゃんの言いたいことも分かる。でも、この家族のことも考えてあげて欲しい。」
「は、はい…」
蘭ちゃんが素直な子で良かった。
「そういうわけです。厳さん、蓮さん、納得してくれますか?」
「そうだな。坊主の話にゃあちゃんと筋が通ってらぁ。悪かったな、お玉投げて。」
「いえいえ。」
「私もあさはかだったわ。もう少しちゃんと話し合ってみます。」
「ありがとうございます。ちゃんと話し合った結果IS学園に来るというのであれば、全力で一夏がサポートすると思うので、そこのところはご安心ください。」
一夏が真剣な顔つきから一変、いつもの一夏の顔になる。
「え、ええ!?俺かよ!?今の話の流れはどう考えてもお前だろ!」
「知るか!お前は話の流れを読むより女心を読む勉強をしろ!」
「うん、全くその通りだ。」
「だ、弾!?」
「確かに、その通りですね。」
「ら、蘭まで!?」
最後はネタっぽくなってしまったが、ちゃんと納得してくれたようだ。
今日はいい休日だった。