~陸斗side~
「わざわざ来てもらって悪いな、鈴。そこの椅子にでも座ってくれ。」
鈴を俺の部屋に呼び、ひとまずもてなすためのお茶とお茶菓子を用意する。
「別に、これくらいどうってことないわよ。」
「お茶菓子、甘いのと煎餅みたいなのとどっちがいい?」
「そうね、じゃあ煎餅の方を頼むわ。ちょっと訓練の後だからしょっぱいのが食べたいのよね。」
「了解。」
お湯が沸いたので、簡単なパックの緑茶を淹れて煎餅と一緒に鈴の前に出す。
「ありがと。」
「いや、まあ呼び出したのはこっちだし。」
「それもそうね。………それで、弾のことで聞きたいことって何?」
「ああ、あれか。あれは嘘だ。本当に聞きたいことは別にある。」
「う、嘘ぉ!?」
『ガタッ』と音を立てて立ち上がる鈴。俺の顔を見ると、『ハァ』とため息をつきながら呆れた顔で座った。
「まんまと騙されたわ。…で、その聞きたいことっていうのは?」
呆れた顔をしながらも、お茶をゆっくりとすする鈴。こうして見るとそこらへんの日本人よりもお茶が似合う。
「一夏とボーデヴィッヒの仲が悪いことについてだ。」
「!!」
お茶を啜っていた手が止まる。どうやらビンゴのようだ。
「やはりその顔、何か心当たりがあるな?」
「………いつからアタシのこと疑ってたの?」
「さっき鈴が歯切れの悪い返事をしたときに決まっているだろう。」
「あ~、あの時ね。……やっぱ陸斗は誤魔化せないか~。」
啜っていたお茶を置き、煎餅に手を伸ばして食べ始める。
「そうね、あのラウラって子が一夏を敵対視してる細かい理由まではわからないけど、ドイツでのことが関係してるんじゃないかとは思ってるわ。」
「…その『ドイツのこと』をどこまで詳しく知っている?」
「…一夏が誘拐されたことと、千冬さんがドイツ軍に力を借りたお返しにってことでドイツ軍で教官をしたことぐらいよ。」
なるほど、そこまで知っているのか。まあ、鈴の口ぶりから察するに俺のことは知られてないようだがな。
「ふむ、そこまで知っているのか。」
「『そこまで』って、陸斗も知ってたの?」
「まあな。俺は千冬さんと仲がいいからな。」
「へぇ~。それで、陸斗はあの子のことをどこまで知ってるの?」
「無論、ほとんどのことは知っている。勿論、ボーデヴィッヒが一夏を敵対視している理由もはっきりとな。」
少し冷めたお茶を口にする。ちょうどいいくらいに温くなっている。
「じゃあそれを教えて………って言いたいけど、おそらく無理なんでしょうね。」
「ああ、すまない。本当は教えたいところなんだが、ボーデヴィッヒのプライバシーにも関わるからな。」
「なら仕方ないわね。それじゃあその代わりに、今日なぜアタシをここに呼んだのか教えなさいよ。」
「それはだな、一夏を守ってやってほしい。」
「ふむふむ、一夏を守………は?」
驚きすぎて鈴が固まっている。
「お~い、鈴、大丈夫か~?」
鈴の前で手を振る。
「はっ!大丈夫よ!それで、一夏を守るってどういうことよ?」
「もちろん、ボーデヴィッヒにボコボコにされないように守ってほしいってことだ。」
「な、何でアタシが!あんたがやればいいじゃない!」
「俺はボーデヴィッヒの監視を千冬さんから言い渡されてんだよ。だから事情を少しだったとしても理解してる鈴が1番都合がいいんだ。」
「はぁ、それなら仕方ないわね。分かったわ。」
鈴は残っていたお茶をすべて飲み干し、湯呑みを机の上に置いた。
「で、要件はそれだけ?」
「ああ。わざわざ呼びつけて悪かったな。」
「全然かまわないわ。それじゃあ私は帰るから。またね。」
「じゃあな。」
鈴はスッと立ち上がると、そのまま扉を開けて帰って行った。
ピリリリリリリリリリリリリリ
扉が閉まった途端、俺の携帯が鳴った。
「誰だ?ウサギか?」
携帯を手に取ってみると、画面には『織斑一夏』の文字が表示されていた。
「一夏?何かあったのか?」
画面に表示されたボタンをスライドし、通話状態にする。
「はいもしもし、こちら陸『陸斗か!俺だ、一夏だ!』…そんなこと分かっている。それで、どうかしたか?」
『い、急いで俺の部屋に来てくれ!!』
急に呼び出され、しぶしぶ一夏の部屋に来た。
コンコン ドタバタドタバタ
俺がノックをすると、中で慌ただしく走る音がする。
ガチャ
「陸斗、入ってくれ!」
俺かどうかも確認せずに、扉を開けるや否やすぐさま俺の手を取って引きずり込む。
全く、こんなことしてるからホモと間違われるんだ………。
部屋の中に入ると、デュノアが椅子に座っていたが、いつもと様子が違っていた。強いて言うなら、妙に落ち着きがなく、そして女性の象徴である胸の膨らみがしっかりと自己主張していた。
「なるほど、状況は把握した。…というより、やっとバレたか。」
俺の言葉に、一夏とデュノアが驚きの表情を隠せずにいた。
「『やっと』って、気付いてたのか!?」
「そりゃあもちろん。」
「いつから!?」
「転校してきて教室で挨拶した瞬間から。」
「早っ!!!」
一夏が『嘘だろおおぉぉぉぉ』と言いながらベットの上で身悶えている。見てる側としては相当面白い。俺はそれを見て笑っていたが、デュノアは苦笑いしか出来ていなかった。
「西條君にはバレてたんだね………。」
「おそらく俺らの情報目当てと言うところだろう?」
「………うん、そこまで見抜かれてたらもう何も言えないよ………。」
「陸斗!力になってくれないか?シャルルは悪くないんだ!悪いのはシャルルを利用した奴らなんだ!」
一夏は必死に俺に訴えかけてくる。
「一夏、詳しく話せ。判断はそれからだ。」
「あ、ああ、すまない。シャルル、話して大丈夫か?」
「一夏、僕が話すよ。」
シャルルは自分の過去について話し始めた。
「これで全部だよ。」
シャルルの話がひと段落ついた。
「それで、一夏はどうしたい?」
「もちろん、シャルルを助けたい!子供を道具のように扱うなんて間違ってる!」
そういえば、一夏は昔親に捨てられたんだっけな。親、か………。
「ふむ、そうか。ならば手伝おう。」
「ほ、本当か!ありがとう、り「なんて言うとでも思ったか?」…なっ!?どういうことだよ、陸斗!」
「これは俺が簡単に手を出していい問題ではない。」
「なんでだよ!?」
一夏が俺の肩を掴んでくる。
「分かっているのか、一夏?デュノアはフランスの代表候補生だ。これがデュノア社専属程度ならばどうにかなっていたかもしれんが、国も敵にまわしかねない。」
「じゃあシャルルを見捨てろって言うのかよ!?」
「ああ、そうだ。俺にはどうにもできん。」
「ふざけんなよ陸斗!」
一夏が俺の胸ぐらを掴んでくる。デュノアは俺の言葉にショックを受けたのか、俯いていた。
「なんで、なんでそんなに簡単に見捨てられるんだよ!」
「じゃあ聞くが、なぜ俺を頼った。」
「そんなの、陸斗が頼りになるからに決まってんだろ!」
「だが俺はあくまで一般人だ。何の権力もない。」
「何とかしようとは思わないのかよ!」
一夏がギリギリと締め上げてくる。
「ひとつ聞くが、このことは俺たちだけしか知らないのか?」
「そうに決まってるだろ!こんなこと他の奴には聞かせられないだろ!」
「ならばもう一度聞く。なぜ俺を最初に頼った?」
「同じ質問じゃねえか!ふざけんなよ!」
同じ質問?全く違う質問じゃないか。俺はなぜ俺を『最初に』頼ったかと聞いたというのに。
尚も一夏は俺のことを締め上げる。
「やめて、一夏!これ以上言い合いするのはやめて!僕のことはいいから、もういいから!」
デュノアが涙ながらに一夏に訴える。
「チッ」
一夏が手を緩める。
「一夏、お前は俺の意図が全く分かっていないようだな。」
「なんなんだよ!まだ何かあるのかよ!」
「はぁ………頭を冷やせ、この馬鹿野郎!」
俺は一夏の頬をぶん殴った。
ドシン
一夏は思い切り壁にぶつかり、大きな音が鳴る。
「痛っ!何しやがる!」
「頭を冷やせ、一夏。俺よりも先に相談するべき人がいるだろうが。」
「さっきから何言ってんだよ!意味わかんねえよ!」
「まったく、世話が焼ける……。一夏、お前は千冬さんには相談したのか?」
「「!?」」
一夏の怒りが静まる。
「その顔を見る限り、選択肢にもなかったようだな。」
「いや、そ、それは………いつまでも千冬姉に甘えてちゃ駄目だと思って………。」
「この大馬鹿野郎!」
「「っ!?」」
2人の体が『ビクッ』と震えた。
「いいか、一夏、俺たちは確かに義務教育を卒業して、若いといってもある程度の分別ある行動を期待される立場だ。だけどな、まだ子供なんだよ。1人の無力な子供なんだよ。俺たちが1人2人でとやかく言っても何も世の中は変わりはしない。それなのに、お前の行動は何だ?なんでも1人で護れるとでも思ってるのか?」
「お、俺は………。」
どうやら図星のようで、一夏は少したじろいでいる。
「確かにそれを目指して精進しようとするならそれは立派な行動だ。だがな、強くなった時に孤独になってては全く意味がない。頼るのと甘えるのは全く違うことだ。今その違いを理解するのは難しいかもしれんが、何でも1人で背負おうとするな。」
「………ははっ、そっか、そうだよな。俺、何意地張ってたんだろ。素直に千冬姉に力を借りればよかったじゃないか。」
「…間違いなく、千冬さんが世界に対して大きな発言権を持ってる。それにデュノアをIS学園の教師として守る義務もある。好都合じゃないか。」
「そうだな。ありがと、陸斗。お前のおかげで目が覚めたよ。」
「そうか、ならよかった。デュノア、お前も顔を上げろ。当の本人がそんなことでどうする?自由を勝ち取りたいなら、必死にもがいてみろ。」
ずっと俯いていたデュノアがやっと顔を上げた。しかし、そこにはどこか申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「ど、どうして2人はそこまでしてくれるの?僕、ずっと騙してたんだよ?2人から情報を取ろうとしてたんだよ?なんで、なんでそこまで………?」
「何言ってんだよ、シャルル!俺とお前は仲間だぜ?」
この唐変木め、さらっとくさいセリフを吐きやがる。
「俺は元から騙されてなどいない。最初からお前が女だと知っていたし、その上でデータが情報が取られないよう警戒もしていた。それに実際被害にあったわけでもないしな。」
「一夏、西條君、あり、ヒック、ありがと………。」
「泣くなよ、シャル!さっさとこれからのことを話そうぜ!」
一夏が泣いて座り込んでいたデュノアに手を差し伸べ、デュノアがその手を取った。その時だった。
コンコン
誰かが部屋のドアを叩いた。
『織斑君!?先ほど織斑君の部屋から喧嘩のような声が聞こえるとの連絡が入ったのですが、大丈夫ですか!?』
山田先生だった。しかも相当に慌てている。これは非常に拙い事態になってしまった。
「ま、マズイ!山田先生にバレたら大変なことになる!ちょっとやそっとの騒動じゃすまない!」
そう、これが千冬さんなら、デュノアが女だったことが分かっても冷静に対応してくれる可能性が高かったのだが、今の慌てている山田先生ではパニックになるに違いない。そうなってしまっては、他の女子たちにバレて、最悪の場合デュノアの立場がなくなる。
「それに、『喧嘩』って言われちゃってるし………。」
「…仕方ない、デュノア、今すぐ風呂場に隠れろ。それと一夏、時間稼ぎをするからお前は何も口出しするな。というよりそこで黙って倒れていろ。」
「は?陸斗、なにするつもりだ?」
俺は歩いてドアへと近づいた。そしてドア越しに山田先生に話し始めた。
「山田先生、西條です。申し訳ありません、先ほど一夏と大喧嘩をしてしまい、殴って気絶させてしまいました。今のところ一応意識は取り戻していますが、一応誰か医療知識のある人に診てもらいたいのですが……。」
「お、おい陸斗、何言って…!?」
一夏がヒソヒソ声で俺に話しかけてくる。
「うるさい、黙っていろ。これも作戦の内だ。デュノアを救うためのな。」
『そ、それは本当ですか!?分かりました!今ならまだ保健の先生がいらっしゃると思いますのですぐに連れていきます!ですから早くドアを開けてください!』
俺はデュノアが風呂場に隠れたのを確認すると、ドアを開けた。
「織斑君!大丈夫ですか!?」
「は、はい、大丈夫です。」
「さあ、早く保健室に行きますよ!」
「山田先生、俺が運びます。」
「お願いします。」
一夏に肩を貸す形で一夏を支え、(急ぐ必要はなかったのだが)出来るだけ早く急いで保健室へと行った。
~一夏side~
保健室へとつくと、そこにはおそらく行く途中で山田先生が連絡したのだろう、千冬姉が待っていた。
「ち、千冬姉!?なんで!?」
「お前が西條と揉めたと聞いたのでな、少し事情聴衆を。」
「織斑先生、一夏には治療が優先です。事情聴衆なら自分に。」
「加害者が偉そうに言うな、馬鹿者。…では西條、お前に話を聞く。ついて来い。山田先生も同行してください。」
「は、はい。」
千冬姉が先頭に立って陸斗を連れていく。そして陸斗の後ろに、まるで犯人を連行するように山田先生が立つ。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ千冬ね「織斑、ここでは『織斑先生』だ。」
千冬姉に睨まれ、言葉が詰まる。
「…では行くぞ、西條。」
「はい。」
そしてそのまま3人は、俺と保健室の先生の2人を残して、保健室を去って行った。
俺はその後、簡単な検診を受け、何も目立ったことはないということで部屋へと返された。結局その日のうちに千冬姉たちに呼び出されることはなかった。
翌日、教室に陸斗の姿はなった。