~陸斗side~
千冬さんと出会ってから3年が経った。
俺ももう中学1年の年齢になった。もちろん中学なんぞには一度も言っていない。学校には小学校の卒業式以来行った覚えがない。
ちなみに今世間では第2回モンド・グロッソの話題で持ちきりだ。前回大会優勝の千冬さんが決勝まで残ったからだ。まああの人なら2連覇できるだろう。
今日はその決勝戦。確か現地時間で昼の2時からということは、こちらでは夜の10時か。もちろん見るに決まっている。残念なことに現地には行けないが、テレビで観戦させてもらうことにする。
できれば千冬さんに勝ってほしい。こんな俺なんかのことを気にかけてくれているんだ。束さんも千冬さんも、その才能ゆえに周りからは孤立しているが、二人とも本当に優しくていい人だ。いつかあの2人も理解してもらえる、そんな世界を俺は作りたい……。
~千冬side~
試合まであと1時間。そろそろ準備を始めるか。今日は一夏が友達と一緒に観に来てくれているんだ。必ず勝ってみせる!陸斗も来れたら良かったんだが……。まあテレビででもいいから見ていて欲しいものだ。
ピロリ~ン
「ん?この音はメールか?」
携帯を開いてみると陸斗だった。
「なになに、『今日の試合頑張ってください。千冬さんの負けるところなんて見たくないですから。現地には行けませんが、日本から応援しています。』嬉しいものだな。それにあいつもだんだん明るくなってきてる。できれば紛争に介入するのをやめて欲しいものだが……。いかんいかん、今は試合に集中しなければ。」
少し体を動すために控え室を出ようとした時だった。私のマネージャー(仮)が慌てた様子で入ってきた。
「お、織斑さん!大変です!お、弟さんが!」
「!?い、一夏がどうした!」
「ゆ、誘拐されました!」
「ゆ、誘拐だと!?は、早く助けに行かなければ!」
こんなところで呑気に試合の準備をしている暇などない!一刻も早く一夏を助けなければ!
「ま、待ってください!あの、言いにくいことなのですが……。日本政府が今日の試合に出なければ、国家の名誉を傷つける行為をしたとかで一夏君を捕まえると……。」
「なんだそれは!?おかしいではないか!一夏は巻き込まれただけなのだぞ!?」
「おそらく、日本政府としては『世界一』の称号が欲しいだけだと思います……。」
くそ!ふざけるな!家族を見捨ててまで名誉をもらうなんて屈辱だ!
でも、私が勝たないと一夏は囚われてしまう……。それに、このタイミングで一夏をさらうということはおそらく狙いは私の2連覇を阻止すること。ということは私が2連覇してしまったら……。どうする、どうすれば……。
その時、先ほどメールを送ってきた少年の姿が私の頭をよぎった……。
~陸斗side~
プルルルルルルル
あれ、珍しいな、電話か。
「あれ、千冬さん?どうかしたんだろうか?試合前だというのに。はい、もしも『もしもし、陸斗か!』ってどうしたんですか、千冬さん?そんなに慌てて?」
『い、い、一夏が!!』
千冬さんは珍しく動揺しているのか、上手く話せていない。
「落ち着いてください、千冬さん。一夏君がどうかしたんですか?」
『ゆ、誘拐されたんだ!!』
このタイミングで誘拐か……。なるほどな。
「……なんとなく事情は分かりました。どうやら結構深刻そうですね。わかりました。俺が一夏君を助けに行きます。ですから千冬さんは目の前の試合に集中してください。」
『あ、ああ。わかった。すまない』
「ただし、終わった後に全部事情は教えてくださいね?あと、まだ動揺してるみたいなんで言いますが、一夏君のためにも勝ってください。」
『どういことだ?私が試合してるところを一夏は見れないのだぞ?」
「もし一夏君が自分のせいで千冬さんが負けたとなれば一夏君はきっと責任を感じるはずです。ですから必ず勝ってください。約束です。」
『……わかった。必ず優勝して日本に帰ると約束する。だから一夏のこと、よろしく頼むぞ。』
「任されました。それじゃあ俺も急いで救助に行きますので。」
その言葉を最後に、俺は電話を切り、すぐさま別のところに電話をかけた。
『ハロー!みんなのアイドル束さんだよ!それで、今日は何の用かな、りっくん?』
「束さん、緊急事態です。冗談はそこまでにしといてください。」
『ん?りっくんが緊急事態っていうことは相当なことだね?どうしたのかな?』
「一夏君が誘拐されました。千冬さんは救助に行けないので代わりに俺が行くことになったんですが場所がわかりません。1分以内に一夏君の場所を割り出してください。」
『ええ!いっくんが誘拐!?わかった!30秒で割り出してそっちに位置情報送るね!この束さんを怒らせたらどうなるか教えてやるんだから!バイバイ!』ブツッ
電話が切れる。あの人はやっぱ天災だな。
「30秒か。流石だな。俺も準備するか。」
俺はすぐさま死神の状態になる。するとここで束さんから一夏君の位置情報が送られてきた。
「……ドイツか……。距離がありすぎる。普通に行ったのでは間に合わない。仕方ない、負担がかかるが『アレ』をやるしかなさそうだな……。レイ、久しぶりにやるぞ。」
(了解。だけど、無茶しないでね?)
「ああ。行くぞ」
俺は左手を顔の前にかざした。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
すると、いつもとは模様の違う仮面が現れた。
「レイ、最大速度で行くが、我慢してくれ。」
(わかったわ。それじゃあ早く行きましょ)
「ああ。」
俺は急いでドイツへと向かった。
~一夏side~
目を覚ますとそこは真っ暗なところだった。
「あれ、ここ………どこだ?うっ!」ズキツ
急な激しい頭痛に顔を歪める一夏。
「おれ、どうなったんだ?」
立ち上がろうとする一夏だが、体は柱にくくりつけられ、手首と足はしばられ、思うように動けない。
「くそっ!どうなってんだこれ!身動きが取れねえ!」
その時、突然目の前の扉がひらき、光がさしこんできた。
「よう?お目覚めか、織斑一夏?」
一瞬光のまぶしさに目を閉じた一夏だったが、すぐに声がした方に顔を向け、その方向を睨んだ。
「お前は誰だ!一体なんのためにこんなことをするんだ!」
「馬鹿かお前は。誘拐犯が名前を名乗るわけないだろう?お前を誘拐したのは、織斑千冬をおびき寄せるためさ。」
そう言って目の前にいる誘拐犯は一夏のところに近づいていく。
「おうおう、なかなかのイケメン君じゃないか。これがあのブリュンヒルデの弟か。こんなにあっさり捕まるんなんて、だっせぇなぁ?」
そう言いながら、目の前の誘拐犯はケラケラ笑い出した。ISに乗っているということは女性か。
「くそっ!ここから出しやがれ!」
「ピーピーうるせぇんだよ、このガキが!お前が今どんな立場に立たされているのか教えてやろうかぁ!」バキッ
そう言って誘拐犯は一夏のお腹にケリを入れた。
「ぐふっ!げほっげほっげほっ………」
腹にケリを入れられ一夏は咳き込んでしまう。
「わかったか?お前は今囚われの身なんだよ。お前を生かすも殺すもこっちの自由なんだよ!」
「オータム、そこまでにしときなさい」
「スコール!す、すまねえ、つい頭に血が昇ちまって」
「ダメじゃない、人質はもっと丁重に扱わないと。」
スコールと呼ばれた女性がそう言うと、さきほどのオータムと呼ばれた女性は後ろに下がった。
スコールが一夏の目の前に座る。
「いい?織斑一夏君。君はあくまで人質よ、人質。だからおとなしくしてくれるかしら?そうじゃないと、あなたを痛めつけることになるわ。」
そういいながら、スコールは一夏の頬から顎へとなぞるように指を動かした。
「………ひとつ聞かせてくれ。千冬姉を呼び出してどうするつもりだ?」
「あら、簡単なことよ。織斑千冬のモンド・グロッソ2連覇を妨害するのよ。………お話はここまで。あなたにはもう一度眠ってもらうわ。」
その次の瞬間、一夏は首に衝撃を受け、意識を手放した……………。
~そのころドイツでは~
「ねえ弾、一夏見なかった?」
「え、鈴、お前一緒にいるんじゃなかったのか?」
「もう、お兄!何やってんのよ!」
「蘭、違うのよ、一夏がさっきトイレに行ったきり帰ってこないのよ。」
「あ、そうだったんですか!それならそのうち帰ってくるんじゃないですか?」
「まあそうね。それじゃあ試合開始まで座って待っとこっか。」
~陸斗side~
「くそ、やっぱ
(おかげで試合開始には間に合いそうよ。それにもうそろそろでしょ?頑張って)
「ありがとな、レイ。……あ、見えた!あそこだ!このまま突入するぞ、レイ!」
(お願いだから、無茶はしないでね)
俺はそのまま一夏君が囚われている倉庫に最高速度のまま突っ込んだ。
~千冬side~
「一夏、無事か!?」
私は今とある倉庫に来ている。
あの後、ISの決勝戦を速攻で終わらせた私は、ドイツ軍の力に一夏の捜索をお願いした。すると、束から連絡が来てこの倉庫に一夏も陸斗もいるとのことで、文字通り飛んできたのだ。
「千冬姉!」
「ちっ、織斑千冬が来ちまったか。おい、全員撤退だ!」
先ほどまで聞こえていた銃の音がすべて消え、ISは飛び去り、周りにいたやつらも全員逃げていった。
「一夏、無事か!」
「千冬姉!俺は無事だけど、俺を助けてくれた人が……!」
なに!陸斗が!
「陸斗!大丈夫か!」
「ええ、力を使いすぎて疲れただけですよ。俺も一夏君もケガはしてません。」
陸斗が目の前でどうにか笑顔を作る様子を見て、居ても立っても居られなくなり、私は陸斗を抱きしめた。
「すまない。お前にばかり負担をかけてしまった……。」
「いえ、俺なんかのことを気にかけてくれてる千冬さんのためですから……。でもすみません。あいつらを……逃がして……ゴフッ!」
突然、陸斗が血を吐いた。
「お、おい!陸斗!お前、血を吐いているではないか!」
「だから、力を使いすぎただけですって……。ゲホッゲホッ!」
陸斗が咳と一緒に再び血を吐く。
「もう喋るな!今からお前を病院に連れていく!少しの間我慢してくれ!」
「そんな、そこまで迷惑をかけるわけには「うるさい!何が迷惑だ!迷惑をかけたのは私の方だ!」
「千冬姉、その人は誰なんだ?」
「一夏、空気を読め!今はこいつを病院に連れていくことが先決だ!詳しいことは後で話す!」
「お、おう」
一夏を縛っているロープを全部斬る。その時、ちょうどドイツ軍のものが到着した。
「ドイツ軍特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ、クラリッサ・ハルフォーフただいま到着しました!織斑さん、弟さんは無事でしたか!」
「ちょうどいいところに来た。私は今からこいつを病院へと連れていく。すまないが弟を後から連れてきてはくれないだろうか?」
「了解しました!それで、そのものは何者ですか?」
「後で話す。今は一刻を争う事態だ。それじゃあ一夏のことはよろしく頼むぞ!」
「ハッ!」
陸斗を抱えなおしたとき、陸斗はつらそうな顔で息を荒げていた。
「陸斗、少しの間だが我慢してくれ!絶対に助けてやる!」
私は急いで陸斗を病院へと連れて行った。
やっぱ下手ですね……。
陸斗君、虚化しました~。
おかしいところがあれば言ってください!