女性にしか反応しない"IS"を男が動かすために実験体と生み出された少年達が居た。
これは非合法な実験の中、生き残った少年が人並みの幸せを感じていく物語である。

※こちらの作品は更新しなくなった「篠ノ之家の弟は阿頼耶識使い」の設定を再構築したものです。
束様は黒くありません。真っ白です。


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初めまして木の人と申します。
こちらは既に更新しなくなった「篠ノ之家の弟は阿頼耶識使い」の設定を再構築したものとなります。
続くかどうかは……未定となっております。


前日譚

 眠る度に夢を見る。

 

 それは人間ならば当たり前で、特におかしくない事だろう。

 

 現在(いま)を生きる私もまた眠りにつくと当たり前のように夢を見る。しかしそれは少しだけ……そう、少しだけ他の()()とは違う夢だ。

 

 

 ――イダァッイィィィ!!

 ――ダズゲデェェェッ!! イヤダァァァッ!!

 ――ジニダグナァイィィッ!!

 

 

 常人ならば耳を塞ぎたくなるほどの叫びが聞こえる中、夢の中の私は特に何も出来ずにいる。人間一人が軽く寝られるほどのベッドの上で衣類を纏う事も無くうつ伏せで寝かされている。腕と足、そして腰は逃げられないように硬い何かで固定されているため耳を塞ぐ事も出来ず同胞(なかま)達が一人、また一人と()()される様を見続けるしか出来ない。

 

 

『また失敗だ』

 

『今月分はまだある……我々は何年も研究してきたのだ……! このテーマが間違っているはずがない!』

 

『そうとも! 我々が間違っているわけではない! 問題があるとすれば実験体が貧弱なだけだ……! 何のための遺伝子強化体を作っていると思っている! 問題など無い……ないのだ!』

 

 

 ベッドで寝かされている私……いや私()を見ている白衣を纏う者達は何かに憑りつかれているとでも表現出来るだろう。もっとも現在の私だからこその感想であり、この()()の私は何も感じる事など無かったが。

 

 私達に母親と呼べる者は存在しない。仮に居るとするならば試験管とでもいうべきだろうか……? 現在の私は"母親"と"姉"と呼べる人物が存在するが当時の私にはそんな人物など存在していなかった。何故なら女性にしか扱えない"IS"と呼ばれる兵器を男が動かせるようにする為だけに遺伝子を弄られて作成された実験動物が私達なのだから当然と言えば当然である。しかし女性が居ないわけではない……優しくしてもらった記憶など無くあくまで研究材料としての扱いだったがそれでも男と女の違い程度はあの劣悪な環境下で学ぶことは出来た。

 

 

『失敗です』

 

『ならば捨てておけ。あぁ、勿論分かっていると思うが――』

 

『バレないようにですよね? 大丈夫ですよ』

 

 

 また一人、同胞が廃棄された。

 

 今回の実験でこの場に集まる事になったたのは私を含めた十にも満たない少年達。この実験に参加する条件である背中に機械を埋め込む実験を受け、尋常ではない痛みに耐えきり無事に生き延びた私達は今回の実験も無事に生き延びようと誓い合っていた。短い期間だったが同じ部屋で過ごし、口数は少なかったが確かに夢と言える何かを語り合った事は現在の私は忘れてはいない。

 

 道を切り開くかのようにリーダー格だった者が一番手に実験を受け――最初に廃棄される者となった。彼の意思を継ぎ、それに続いた者達もまた同じ結末を辿り……残ったのは既に私だけだ。怖かったわけではないが他の者達がまるで身代わりになるように続いた事により最後になってしまっただけだが……そのお陰で現在の私が居るのだから彼らには感謝の言葉しかない。

 

 

『最後の実験体です』

 

『始めるぞ』

 

 

 ベッドに固定されたまま連れて来られた場所には黒い鎧があった。

 

 インフィニット・ストラトス――女性にしか扱えない兵器であり周りの者達が狂った元凶。私の背中に埋め込まれた機械とインフィニット・ストラトス……通称ISのコアを直接接続し男であっても動かせるようにする計画によって私は生まれる事となった。

 

 研究員によって固定されていた器具が外され一時の自由となる私だったが逃げ出さないように背後で重火器を構える者達により、私にとっての処刑台とも言えるISへ近づくしか出来ない。一歩、また一歩と近づくたびに体が震える――事も無く、当時の私は逆にやっと楽になれると思っていた。

 

 先に散っていった者達に心の中で謝罪をし、背中に埋め込まれた機械とISを接続する。

 

 

『開始します』

 

 

 その声と共に全身鋭い何かで滅多刺しにする以上の痛みが走る。頭の中には知らない事が止めどなく流れ続け……視界が真っ白に染まり始める。これが死ぬと言う事かと全身の力を抜こうとした瞬間――現在の私にとっての"母親"が空から現れた。

 

 

 

 

 

 

「……ん、んん……?」

 

 

 もはや日常とも言える夢から覚めると息苦しいのと柔らかい感触が同時に襲ってきた。それだけでは無く誰かに抱きしめられているようで私の力では抜け出す事は出来そうにない。

 

 

「――あっ! アッくんおはよー♪」

 

 

 私が起きた事に気が付いたのか満面の笑みで私を呼んできた。笑みをしているかどうかは今の私の状態では判断できないが恐らく間違ってはいないだろう。

 

 

「――おはようございます。束様」

 

 

 過去の私を、死ぬはずだった私を救ってくれた方が目の前に居る女性。篠ノ之束様、女性にしか動かせないISを作成した本人であり私が生まれる原因となった計画が開始された元凶とも言える方だ。もっとも恨むという感情は全くなく、逆に救われた上、同胞達の墓を作ってくれたのだから感謝の感情なら持っているが。

 

 

「うん♪ おはよーだよアッくん! 今日はいい夢は見られたかい? それともまた悪夢なのかなー?」

 

「いつも通りですよ。それと申し訳ありませんがそろそろ離れてもらえると助かります。息苦しいです」

 

「なんと!? この束さんのわがままぼでぃを味わってその感想はダメだよアッくん! それにこの行為は日頃疲れに疲れた束さんを癒すために必要な事なのだよ! えっへん! というわけで~ぐへへ! くーちゃんが来る前に気持ち良い事をしちゃおうZE!」

 

「また()()()に殴られますよ?」

 

「ぐぬっ……流石の束さんでもくーちゃんが振るうフライパンには勝てないのだ……! 仕方ない! それはまた未来に期待して♪ それじゃあ移動するよ」

 

「お願いします」

 

 

 束様に抱えられた私はベッドの横に置かれた車椅子へと座らされる。実験動物だった私の時は五体満足だったが現在の私は車椅子が無ければ移動すら困難となっている。それもこれも束様を狙う輩との戦闘が原因なのだが……私自身の実力不足もあるためあまり文句は言えない。

 

 束様に車椅子を押されて姉さんが居るであろう場所へと移動する。毎日、目が覚めるたびに私は生きている事に感謝するようにしている……あの日、束様が私達が居た研究所を襲撃し、その場に居た研究員を殺害のちIS起動実験中の私を回収してくれたからこそ現在の私が居るのだから。無理を言って背中に埋め込まれた機械を"完成品"へと作り替えてくれた事で男でありながらISを動かせるようになっただけでなく、私の同胞を殺害し続けた実験機であるISを私の専用機にしてくれたのだから文句を言えるはずがない。

 

 既に馴染んだ背中の機械は死んでいった同胞達を忘れないためであると同時に、束様の役に立つために必要な鍵……あの運命の日からかれこれ数年経ったがあの時の自分の選択は間違ってはいないだろう。

 

 

「でももうそろそろかぁ~アッくんがIS学園に言っちゃうのはさぁ~! やだー! 束さんはアッくんとはなれたくないー!」

 

「織斑一夏様と束様の妹様を護る為ですからご納得を。別に通信が繋がらないわけでは無いのですからそこまで言わなくても良いとは思いますが?」

 

「全然違うのだよアッくん! 通信でお話しするのと目の前でお話しするのは天と地の差があるんだよ! でもね……いっくんと箒ちゃんのために動いてくれるって言ってくれた時は嬉しかったよ」

 

「私なりの恩返しと言うものです。それに、学生生活と言うのも体験してみたかったですし」

 

「だったらめいっぱい楽しんじゃおう! あっ、でも"クレイプニル・システム"の事はあまり言っちゃだめだよ? それは既にこの世から消え去った負の遺産なんだから。でもいざという時のためにちーちゃんには私から言うから問題無いとして……IS学園の生徒会長辺りには勝手に知るかな~うーん、まぁ、利用できるし放置しとこっと♪」

 

「えぇ。背中の事は私が信じられる方にしか話すつもりはありません。第二、第三の"私"が生まれては困りますからね」

 

「ならばよーし♪」

 

 

 あと数日経てば私は束様と離れて過ごす事になる。その切っ掛けとなったのは束様のご友人、織斑千冬様の弟様が私と同じように……恐らく私とは違い正規な手順でISを動かした事により常日頃、私達を狙っている輩が千冬様の弟様を狙う事は確実の為、私と姉さんが彼が通う事になるIS学園へと入学する事となった。そのせいかここしばらく束様が先ほどのような行動を起こしているが……仕方ないと既に諦めの境地である。

 

 

「……この私が名前を貰っただけではなく一人の学生として過ごす事になるとは。昔では考えられないな」

 

 

 天国と呼ばれる場所で私を見ているであろう同胞達。生前、お前達が体験できなかった分まで私が代わりに体験してくる……そしていつか、それをあの小さな部屋の中で集まった時のように飽きるまで語ると約束しよう。

 

 この私――アインハイト・クロニクルの名において、必ず。




・アインハイト・クロニクル
ラウラとクロエと同じ遺伝子強化試験体で男でも"IS"を動かせるようにするためだけに生み出された少年。
とある戦闘で無茶をした事により両足が動かない状態となっている。
例えるならば一期が終わった三日月さん状態。
計画の内容的にラウラ、クロエとは親戚同士の関係かもしれない。

・クレイプニル・システム
男でも"IS"が動かせるように狂った研究者が開発したシステム。
脊髄部分に埋め込まれたコネクターとISコアをコードで接続し、起動させる事を目的に開発された有機デバイスシステム。
命名元は北欧神話に登場するフェンリルを捕える魔法の紐。
元ネタは勿論、鉄血のオルフェンズに登場する阿頼耶識システム。
見た目的にはマッキーのような感じで性能は篠ノ之束により阿頼耶識(オリジナル)となっている。

・篠ノ之束
全ての元凶的な何か。
今作の束様はホワイトです。真っ白です。

・姉さん
束様と一緒に行動しているクロニクルさん。


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