「……ぽい?」
気が付けば、自分は海の上に立っていた。
つい最近まで激闘を繰り広げていたような、見知った真っ赤な海はどこにもなく、ただひたすら、穏やかにどこまでも広がっている青海だけがそこにあった。
「……ここ、どこ?」
確か、ついさっきまで連合艦隊第一機動部隊の随伴として捷一号作戦に参加、激闘の果てに深海鶴棲姫を沈めることに成功したことに皆で歓喜していたはずだが……。
周りを見渡したところで、仲間らしき姿はどこにも見当たらなく、それどころか、深海棲艦の気配すら全く感じない。
そういえば、最後に撃沈しかけていた深海鶴棲姫の持つ艤装らしきものの残骸から、変な光が溢れ出てきて意識がなくなって……。
「もしかして、あの光が原因っぽい?」
現状を考えるのならそうとしか考えられないものだが、些か超常的すぎて信じ難い部分が大きすぎる。
まあ、そんなことを言ってしまえば艦娘や深海棲艦、妖精さんだってどう考えてもオカルトの塊のような存在だし、何より
話は変わるが、私……いや、俺は、元々は何の変哲もない、どこにでも居るような男子大学生だった。
別に家族関係や友人関係に特別なことがあったわけでもないし、強いて言うなら「艦隊これくしょん」通称「艦これ」というゲームが大好きなだけの、本当にどこにでも居るような一般人Aと言ってもいい。
そんな自分が、今では白露型四番艦「夕立」として同じ艦娘仲間と共に日々深海棲艦と戦っているのには、それはそれは壮大な理由が……あるわけでもなく、ただ気付けば自分の身体が夕立のものになっていた、それだけだった。
思えば、あの頃も気付いた時には海の上に立っていた。
とはいえ現状とは理由が違っており、あの時は深海棲艦を倒した時に「ドロップ」したのが自分だったというだけだったのだが。
まあそんなこともあり、夕立として過ごすこと3年が経ち、その後に所属した舞鶴鎮守府ではエースの一角として常に前線を立ち回ってきたわけだが、そこはそれ。
艦娘達の活躍により制海域は俺が着任した当時とは比較もできない程に拡げることができ、ついに日本周辺において最も深海棲艦の活動が活発だったレイテ沖を攻略すべく、あらゆる鎮守府の艦隊と連合を組んで発令された捷一号作戦に参加し、見事に成功……そして、今に至る。
なるほど、分からん。
「……! 電探に反応あり! 方角は北東、距離およそ9000!」
どういうわけだと思案しながらも、ふと電探の反応を確認してみると、大型の反応を1つ確認することが出来た。
自分の他に誰も居ないというのについ艦隊行動時の癖が出てしまったが、もう3年間ずっと繰り返してきたのだから仕方がないことだろう。
それよりも、この反応体の大きさが気になって仕方がなかった。
これだけの規模の深海棲艦は戦艦や空母にも存在しない……かと言って、艦娘というのは有り得ない。
それこそ、
しかし、こんな時勢に艦娘の護衛もなしに艦船が航行しているというのはどういうことだろうか。
行く宛もなかったこともなかったこともあり、ある程度警戒しながらもその場で待機していると、やはり思っていた通り、恐らく軽巡ほどのサイズであろう艦船がこちらに接近していた。
ただ、なんだろう、その艦船に搭載されている装備に違和感が……?
呆然としていたところに、見知らぬ艦船がおおよそ500メートル離れた地点に停泊した。
そして動きの止まった艦船からいきなり光が放たれたかと思うと、点滅を始めた……そして気付いた、これはモールス信号であると。
その内容を大まかに意訳すると「ヘリ着水。搭乗の後、武装解除されたし」とのことだった。
そういえば、と今の自分は作戦中の装備のままであったことを思い出した。
ちなみに現在の装備は12.7cm連装砲C型改二が2つにSGレーダーと、非常に火力に特化した装備となっており、自慢ではないが、うちの鎮守府の装備はかなり新しいものを揃えられていると思う。
少しだけ待っていると、指示の通り、ヘリが飛んできているのが分かった。
何故わざわざ俺を乗せるためにヘリを着水させるのかも分からない。
ただ、ヘリの構造を見る限り着水に特化した設計ではないように見えることもあり手間をかけるようで気が引けるが、艤装はかなり重いから恐らく縄ばしごだと荷重に耐えられずに切れてしまうだろうから、割り切るしかない。
少しして、着水したヘリに乗り込むと、1人の兵士がこちらに拳銃を突きつけて警戒していた……拳銃だって?
何やらおかしいと思いつつ、その後は指示通りに艤装を取り外し兵士達へと預けると、2人がかりでもものすごく重そうにしていてすごく申し訳ない。
それから再び浮上したヘリは、艦上の甲板へと降り立った。
そして艦に下りた先には、第二種軍装を纏った老年の男性と、その後ろには彼とはまた別の軍装をしている兵士達が整列していた。
前の男性とは別に簡易的な白い海兵服を着た搭乗員達が集まってざわめいており、恐らく件の男性の階級が一番高いことを伺わせている。
歳も見た目では周りの乗員と比較して一回り老けており、目測40超かそこらだろうか、恐らく艦長かそれに近い役職であると推測出来る。
それにしてもこの制服、どこかで見たような……?
ぼうっとしていると、例の艦長さん(仮)が一足分前に歩み出る。
「突然の乗船指示に訳が分からず困惑していることと思う。すまないとも思っている……」
「ぽ、ぽいぃ?」
いきなり艦長さん(仮)に頭を下げられたことでつい変な声が出てしまったが、正直これは夕立としての性だから仕方がないだろう。
それよりも、今の声で後ろの人達がクスクスと小さく笑い出したり、逆に目を見開いて唖然としている人が気になって仕方がない。
艦長さん(仮)がひとつ咳払いを入れると、途端に静まりかえった。
「失礼、先に自己紹介をしようか。私は
なるほどやはり艦長だったらしい……2等海佐? 護衛艦はるさめ?
……おかしいなぁ、その名称を聞いたのは本当にはるか昔、夕立になる前な気がするんだが、気のせいだよね?
「更に、だ。つかぬことを聞くが……さっきまで海に浮かんでいたように見えたが、私の節穴ということでいいのだろうか。それに、君の容姿や服装はどうにも
じっと何かを窺うようにして見つめる艦長さん……但野2佐に見つめられた俺は全てを察してしまい、混乱しながらも反射的に海軍式敬礼を取っていた。
「白露型駆逐艦、夕立! 今日も頑張るっぽい!」
拝啓、提督さんへ。
どうやら俺、こと夕立は、またもや異世界の日本に来てしまったようです。
……提督さん、夕立、どうすればいいっぽい?
かなりおかしいところがあったので、後半結構書き直しました。
ちなみに作中に出てきましたSGレーダーはゲーム内での捷一号作戦より後に実装してますが、そこはそこ、ご愛敬ということで()