追記:震電改正式配備して
結局、何が何だか分からないうちにショッピングに行くことが決定してしまい、但野2佐によって手を引かれるような形で近くのショッピングモールへとやって来てしまった。
基地内でのこと。
俺が「人間」としてこの日本で生きられるように戸籍を用意してくれるらしく、住む場所に関しては自衛隊営内の寮を使わせてもらうことになったのだが、服などの生活用品だけは流石に向こうで用意することは出来なかったようだ……まあ、艦これはキャラクターデータはほとんどないゲームだったし、仕方ないね。
住むにあたって手伝って欲しいこともあるそうだがまあ、駄目なら駄目でいいらしいから非人道的なことやいかがわしいことをされるなんてことはないだろうし、そこはいいとして。
そこまでいたれりつくせりでいいのだろうか、なんて思っていると、いきなり但野2佐が俺の頭に手を置いたかと思うと「子供なんだから、そんな難しく考えなくても素直に受け取っておけばいいさ」と言われてしまった。
……言っていることは確かに格好いいし、普通ならその通りなんだけど、俺、もうとっくに成人年齢は超えているんだが?
なんて野暮なことは言わないでおくことにしよう。
わざわざほじくり返す必要も無いし、どうせ子供云々でなくてそれ以外の面を鑑みた上層部の決定であることには違いないわけで、彼にそんなことを言ったところでただ傷を弄るだけにしかならないのだ。
まあ、それはおいておくとして、生活用品の中でも特に必要になるものと言えば、やはり服だろう。
ファッション的な要素以前に、そもそも着替えにはひとつたりとも持ち合わせがないというのが現状であり、もちろんここが自衛隊海軍基地である以上、元より女性隊員自体が割合的に少ないというのに、そこから私と同じサイズの予備を持っている人なんて、当然居るはずがない。
また、着替えがないというのも正直かなりの大問題ではあるのだが、それ以上に、今俺が着ているのが「白露型の制服」であるというのがよっぽどの問題だろう。
何しろ、亜麻色の長髪に赤い目の見た目というだけでもとんでもなく目立つというのに、この制服に語尾が「〜ぽい」なんて、どこからどう見ても変な勘繰りをする人が出てくることは間違いない。
しかし……とふと思ったことがひとつあった。
「じゃあ、今から行く買い物に着る服はどうするっぽい?」
「無論、そのままだが?」
いや、それ絶対目立つやーつ……。
俺的には目立つのはあんまり好ましくないんだけど……。
特に横須賀周辺ともなれば艦これ関係のものが色々と衆知しているし、何より聖地のような感じで
「夕立、あんまり悪目立ちしたくないっぽい」
「諦めろ。お前、これからも外に出ないつもりか? 大体、本当に
うーん……確かに言ってることはあってるのかもしれない。
どれだけ服を変えようが目立つというのは……まあ、そもそもの髪色と目の色だしな。
ゲーム内でも期間限定別衣装とかもあるわけだし。
せめて改二じゃなかったら色々と誤魔化せたところもあるんだろうけども。
というか、公表するつもりなのか。
まあ、この身体は色々と抑えがきかないから窮屈に過ごして面倒なことになるなら、いっそオープンにした方がいいか。
上層部がその点を考慮しての決定なのかどうかは不明なところであるが。
「それに……事情を聞かされた私の考えとしては、もしかしたら、お前の仲間も来ている可能性もあるだろう? それなら、お前の居場所はある程度分かっている方がいい」
「あ……」
そんなことを言われて、ようやくその可能性もなくはないことに気が付き、愕然とした。
言われてみれば、あの光を見たのは自分だけではない。
むしろ、あの場にいた艦隊全てに可能性があると言ってもいい。
どこの海に飛ばされたかにもよるだろうが、きっと艦娘が突然こちらの世界へと身一つで投げ出されてしまえば、きっと路頭に迷うことだろう。
だって、この世界には深海棲艦という存在は居ないのだから。
実質、この世界に艦娘の存在意義は……ない。
「そういうことだ。しかし、まだ可能性の域でしかない。よって、艦娘という存在が生きられる地盤を築いてやるのがお前の役割だ。ほら、行くぞ」
「ぽいっ!?」
こうして、但野2佐によって俵抱きされた俺は半ば強引に自衛隊併置の車に乗せられるとそのままショッピングモールへと向かい、今に至るというわけだ。
このショッピングモールには、以前にもそれなりに来たことがあった。
俺や親友達は揃って東京郊外に住んでいたわけだが、高校生に上がってからというもの、バイトなどで自分でお金が稼げるようになってからは活動範囲が一気に広がったこともあり、横須賀には度々くるようになっていたからだ。
元々、俺達はミリタリー関係の繋がりで仲が良くなったのが始まりだった。
観艦式にだって参加したこともある。
だからこそ、もう来慣れているはずのショッピングモールに来たところで今更問題なんてものはない。
そう思っていたのだ。
しかし現状はどうだろうか。
耐え難いほどの恐ろしい数の視線に晒され、俺は但野2佐の背中に張り付いたままとなっている。
「……」
「……せめて隣にしてくれないか? どうにも、歩きづらいのだが」
「いや、っぽい」
息を吐いてやれやれと肩を竦める但野2佐。
艦これとて一コンテンツ、聖地に近い場所であるとはいえ、流石にそこまで知っている人は居ないだろう。
そう思いながらいざ来てみるとこのザマである。
正直、付近の人達ほぼ全員が俺の方を見ているのではないだろうか。
そもそも、俺達艦娘は元々滅多に外に出ることはない。
必要なものは全部酒保で事足りるし、何より艦娘自体は民衆にも明らかにはなっていたとはいえ、存在自体はいわゆる軍事機密だったから、外出するだけでも手続きは厳しく、また、提督さんや鎮守府所属の憲兵さん達の随伴が必要だったからだ。
仮に外出したとしても、艦これ世界はシーレーンのほとんどが断絶されてしまっており、また空路も対空射撃の憂き目にあってまともな貿易が出来なくなってしまっていたために、日本の技術も数十年単位で衰退していたこともあり、ショッピングモールのような巨大建築物をそこかしこにぽんぽん建てられるような技術力や資材が不足していたようだ。
更に鎮守府近くはおしなべて海沿いであるということからも、深海棲艦を恐れてかなりの人が内地へと引っ越してしまった。
おかげで、俺も含めて艦娘というのは多くの視線というものに慣れていないのだ。
なまじ鋭い艦娘の感覚を持っているせいで、見事に凝視されているのが分かってしまい、余計に視線を怖く感じるようになっていた。
無意識に但野2佐の袖を掴んでいたらしく、堪らず俺は袖を引きながら、見下ろす彼へと懇願するように言ってしまっていた。
「
「……あ、ああ。分かった」
但野2佐は何かに耐えきれなかったかのように咄嗟に目を逸らしながらぶっきらぼうにそう言った。
小さく何かを呟いていたみたいだが、俺にはなんて言っているかは聴きとることは出来なかったが、まあはっきり言わなかったということは些細なことなのだろう。
おかしな反応だな、と思いながら首を傾げながら周りを見てみると、何故か何人か身体を震えさせていたが、やっぱりよく分からなかった。
最初に連れられたのは案の定、服飾店であった。
来たのはいいがレディース専門店だったようで、入るなり但野2佐は「頑張れ」と簡潔に言葉を残して店から出てしまった。
ファッションセンス皆無な俺に服を選ばせるか、と男である但野2佐に謂れのない怨恨を向けながらも服を選ぼうとするが、やはりどうすればいいのか分からない。
……さっきから、やたらと目をキラキラさせてこちらを見る女性店員さんに頼んだ方が良さそうだ。
自分で服を選ぶのを諦めてキラキラどころかギラギラに近くなっている店員さんに服の合わせをしてほしい旨を伝えると。
「分かったわ! お姉さんに任せなさい!」
と、女性店員は何やら雷みたいなことを言いながら自信ありげに胸を叩いた。
……よく見ればこの店員、見た目も結構雷に似ている。
このパターンは着せ替え人形にされるのではないだろうか、と思っていたのだが、意外と雷似の店員さんが持ってきたのはしっかりピックアップした何着かだけだった。
そのことについて言ってみると、店員さんはきょとんとした表情をしながら「別に言われた訳でもないのに、名前も知らない赤の他人のお客様を着せ替え人形にするのは失礼じゃない」と返されてしまった。
至極真っ当であった。
流石に財布を持っている但野2佐が居ないと話が進まないので彼も呼んで、金銭面も考慮しながら着替え用に何着か購入し、店を出た。
ちなみに今の服装は白のブラウスの上に小さくレースのついた薄茶の袖なしワンピースといった出で立ちである。
それからの買い物は、思いのほかすんなりと進んでいった。
途中、スマホの契約までしてもらったことで財布を心配したが、但野2佐に「大丈夫だ、買い物のお金は全部幕僚長の財布から出ているからな」ととてもいい笑顔で言われてしまったので、何か言う気も失せてしまった。
ただ、柚原幕僚長には帰ってからお礼を言おう。
そんなこともあって、気が付けば視線にも慣れることが出来たのか、純粋にショッピングを楽しめるようになり、あれは何、これは何かと子供のような反応で但野2佐に尋ねながらも、途中で買ってもらった髪飾りに機嫌よくぽいぽいと鼻歌を歌っていたことで、我に返った後に今生の黒歴史を作ってしまったと赤面することを今はまだ知らない。
気付けばもう外は夕暮れが空を支配しており、帰るのにも良い時間になっていた。
作戦開始の時間が昨日のヒトフタマルマル、そして今の時間がヒトナナサンマルであることを考えれば、ものすごく濃密な1日を過ごしていたように感じられる。
不意に、右手が左手の指輪を撫でていた。
……やはり提督さんが居ないと、寂しいものがある。
そういえば、今までどの店員さんにもこの指輪について言及されなかったが、何かの事情があると汲み取ってくれたのかもしれないな。
今の俺の……夕立改二の見た目年齢なんて中学生くらいだし、これで結婚指輪なんてつけてたら、そりゃ誰だって何かあるとは思うだろうが。
「よし……帰るか」
「分かったっぽい!」
と、その時だった、どこか聴き慣れた……懐かしい声が聴こえてきたのは。
俺は反射的に声の発生源の方を振り向き確認すると、やはりというか、そこには仲の良かった親友……
じっとその様子を眺めていると、但野2佐も視線の先に居る存在に気がついたようで、ひとつ咳払いを入れると、「壮馬!」と大声で呼びかけた。
俺もまさか呼ぶとは思わなかったためにびっくりしたが、それ以上に壮馬の方が驚いたようで、身体を震わせて硬直した後にゆっくり振り向いた彼の表情は、まさに「何故こんな所にいるんだ」とばかりの感情を浮かべているのがはっきり分かる。
但野2佐が遠慮なく近付いていくものだから、俺も慌ててその後に続くように追いかけた。
「お、叔父さん!? なんでこんな所に居るんだよ!」
「それはこちらのセリフだが? 全く、社会に出ても相変わらずということか……それで、君たちは友達かな?」
「は、はい! 永井遥真です!」
「俺は水瀬磬です……あの、壮馬の血縁者の方ですか?」
「うむ……そうか、君たちが……とにかく、これからも
ちら、と一瞬だけ但野2佐はこちらに視線を向けた後、彼らに向き直ってそう締め括った。
一方、俺の方は但野2佐が社会人、と言ったのを聞いて、年齢的にももう立派な社会人であることを思い出した。
俺としてはこの身体になってすぐに戦いに身を投げるようになっていたし、そもそも今と昔では
渋い顔をする壮馬だったが、但野2佐の陰に隠れる俺に気付いたのだろう、一転して驚愕に表情を染めていた。
「あれ、叔父さん……その子は……?」
「……ああ、今日はこの子の買い物に来たんだ。名前は
え、と声に出そうとしたがら、但野2佐を見上げると、声には出していないが、口が動いていた。
「口裏を合わせろ」と……了解。
「但野夕っぽ……です! よろしくね!」
うっかり変な語尾が出そうになってしまった。
まあ、ギリギリセーフといったところだろう。
改めて但野2佐の顔を見上げてみると、よくやったと言わんばかりの表情である。
「よろしい。この娘は訳ありでな。君たちともこれから何度も関わることがあるだろう」
「え? でも、この子って……」
「
そう言うと、彼らは何かを理解したように真剣な表情を浮かべて、分かりましたと返事した。
折角だから、と契約したばかりのスマホで連絡先を交換して、別れるのだった。
車に乗り込んだ際、但野2佐に。
「いつか、明かせる時が来る。その時まで、我慢しろ」
と言われたから、俺は。
「はい!」
と張り上げない程度の声で返した。
基地への帰り道、窓から見えた空は、久しぶりに陸地から見る夕焼けであった。
そういえば、明日忙しいからもしかしたら更新出来ないかも……書く努力はしますけど、可能性としてはあるとだけ先に。