転生者夕立、現代ニ帰還ス   作:香月燈火

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もっと早くに投稿出来る予定だったのに……。
また文字数増えたなぁ……。

今回はシリアスもあり。そしてシリアルもあり。
最初だから伏線貼りばっかになるなぁ……。


夕立(中身転生者)、営内を歩く

 硝煙の烟る戦場から今日も帰還した主力艦隊の中に、夕立()は居た。

 長門を旗艦に、並び随伴を陸奥、瑞鶴、翔鶴、時雨、そして夕立()の超火力特化とも言える艦隊は、自慢ではない……いや、自慢通り舞鶴鎮守府(うち)では最強のメンバーであると自負している。

 元々戦争のせの字も知らない平和ボケした元男子大学生ではあるが、艦娘としての、ひいては武勲艦としての誇りは強いと言ってもいい。

 努力の甲斐もあり、今では3人居るケッコン艦のうち長門と並んで2人目に選ばれたのだから。

 ちなみに3人目は瑞鶴である。

 これらの面子のせいで、提督は火力主義なのではないかという噂が立っているが、本人に知る由はない。

 

 

 母港に戻ると、いつも通りと言うべきか、今日の秘書艦である鳳翔さんと一緒に手を振る提督さんが立っていた。

 ここ、舞鶴第一鎮守府の提督さん、縣智一(あがたともかず)少将は、齢25という過去にも例を見ないくらい若い年齢で将官に就いているだけあって、非の打ち所がない程に優秀な司令官だ。

 軍学校も首席で卒業し、人格面は人間艦娘問わずおおらかで、指揮能力や本人の武術能力もずば抜けており、そして現に、彼の優秀さに立場を危惧する反対派の重鎮達からの無理難題を幾度と達成することで文字通り「実力を以て黙らせる」ことでここまで成り上がってきた程の秀才。

 そればかりでなく、他鎮守府や泊地などとの演習の際も、提督さんの指揮能力やうちの艦隊の戦法、そして彼の演習分析には舌を巻く司令官も多く、そのこともあって他所属の司令官や艦娘達からもかなり評判が良い。

 おかげで()()()()が多いが、そんな提督さんを、俺も含めてうちの艦娘達は皆誇らしげにしている。

 

 

 海上から提督さんの姿を認めた俺は気付けば艦隊のメンバーを放って飛び出し、その駆逐艦の膂力をもって弾丸の(ヘッドダイビング)ように提督さんの腹部へと突っ込んだ。

 初めの頃はこのダイブにたまらず膝をつくことが多かった提督さんも、気付けば回転することで力を殺し、互いに安全な受け止め方を修得していたのを見て、この人も人間じゃないのではと思っているのは秘密。

 抱き着いたまま見上げると、やはり何処か頼りなさそうではあるものの、柔和な笑みを浮かべる提督さんの顔がそこにある。

 これで、いざ艦隊指揮となれば戦神の如き奮迅ぶりを発揮するのだから、本当に凄い人だと思う。

 

 

「提督さん、ただいまっぽい!」

「おかえり、夕立。怪我は……ないみたいだね」

「夕立は大丈夫っぽい! けど、瑞鶴が中破したっぽい!」

「ってちょっと、夕立!?」

「夕立、報告は私がするから大丈夫だぞ……提督、舞鶴主力艦隊、只今帰投した」

「ああ、ご苦労。長門は報告のため、一度執務室に頼む。瑞鶴は入渠してきてもいいぞ。他は……まあ、今日はもう出撃もないし、就寝時間まで自由行動ということで」

 

 

 普段ならまだあと1つくらいは出撃があるものだが、どうやら今日はもう暇になってしまったらしい。

 ……最近行われた「光」作戦で艦隊を総動員したから、資材の回復がてら、艦娘達に休息させるのが目的だろう。

 提督さんはその辺の気遣いが上手いので嬉しいことには嬉しいのだが、どうにもここ最近は肝心の本人が忙しそうにしているように見える。

 と、なればやることはひとつ。

 

 

「じゃあ、夕立も一緒に執務室に行くっぽーい!」

「……言うと思ったよ」

 

 

 肩を落とす提督を労うように背中を叩く長門……いや、よく見たら長門の口角が上がっている。

 そういうことだったか、長門(ロリコン)め……。

 

 

「じゃあ、僕達は部屋に戻るよ。夕立、あんまり迷惑をかけちゃ駄目だよ」

「分かってるっぽい!」

 

 

 分かってるならいいんだ、とそのまま部屋に戻る時雨と、それに追随するように各個解散する艦隊メンバー達。

 残ったのは提督さんと鳳翔さん、そして長門と俺。

 

 

「よし、行こうか……あ、その前に長門と夕立は艤装は整備場に置いてきてね」

 

 

 と、言いながら提督さんは笑って工廠の方へ歩き出した。

 提督さんが着任して2年、俺が夕立として着任してから、約1年と8ヶ月が経った頃の話だった。

 

 

 そうして、俺は何処か心地よく、しかし寂寥が去来する感覚を抱きながら、目を覚ました。

 まだ意識は微睡んでいるものの、たった今まで夢を見ていたこと、そしてその夢の中身をはっきりと覚えている。

 酷く懐かしい夢……それも、()()()()()()()の記憶だ。

 当時からまだ1年しか経っていないというのに、もう遥か昔の出来事に感じてしまっているのは、それだけ記憶に思い入れが深かったのか、はたまた、ここに来てからの出来事が強烈なのか、あるいは両方か。

 

 

「はぁ……」

 

 

 こっちに戻ってきてはや3日経ち、今日で4日目。

 2日目、3日目で色々な話し合いや手続きを済ませ、人間としての戸籍「但野夕」と、艦娘としての戸籍「夕立」の両方を作ってもらう事が出来た。

 早くね? とも思ったりもしたが、朝凪大臣曰く、国の力を行使したらしい。

 何をやってるんだ一体……。

 さらに自衛隊基地に居候するために特務官という、その実決まった役割を持たない、実質的に自衛隊の遊撃員みたいな役職を与えられた。 

 俺がやることと言えば、非常時の防衛、緊急救助活動への参加、そしてその他諸々のお願い…つまりは、ものすごく適当かつ曖昧なのである。

 何故そこまでして俺を留めたがるのかと言うと、まず一つ目は単純に艦娘の力が非常に役に立つから。

 例えば艦娘なら全員が持っている、水上浮上能力。

 あの力だけでも、海上やその他でも溺れかけている人を容易に助けることが出来る。

 そして俺は駆逐艦だから足も速い。

 夕立の速力は最高で34ノット(時速約63キロ)もあり、改二になった今であれば、もしくはそれ以上行くかもしれない。

 それだけの力があれば救命ボートくらいであれば複数でも曳航するのも難しくはないし、余程大人数を救助する場合でなければ、巨体で乗員を動員する必要がある護衛艦を動かすよりも、より迅速に現地に赴くことが出来るのも大きなメリットだろう。

 二つ目は、一歩間違えれば大事故を引き起こしかねない艦娘としての力を監視するため。

 これもまあ、現代日本においては当然の反応だと思う。

 これは2日目のことだが、隊内限定の非公開演習の際、普通の人間では実質的に無理な距離……大体、スナイパーと変わらないレベルから、主砲でど真ん中を連続でぶち抜いたり、ついでに曲芸じみた動きをしながら再度的のど真ん中を撃ちまくったりもしたら、非常に驚かれてしまった。

 やってることと言えば高練度であるからこそのなせる業ではあるのだが、確かに艦娘としての力がこんなものであるならば、例え艤装を鑑みても危険なことには変わりはない。

 そもそもの話、艤装自体がまずとてつもなく重い。

 つまり、艤装を扱うための根本的な膂力が人とは比較にならない程に高いというわけで、やはり一歩力加減を違えるだけで、惨事になりかねないわけだ。

 だからこその自衛隊……日本でも大きな防衛力を保有する場所の本営に俺は監視されているというわけだ。

 とは言っても、これに関しては外出自体も不自由なくさせてくれるようだし、なんなら色々と融通も利かせられると言っていたから、本音は建前のようなものなのだろうとは思う。

 最後に、三つ目……自衛隊に潤いを与えてくれるから、らしい。

 これもおかしいことではないのだが、自衛隊というのは割合的に女性隊員が非常に少ない。

 そして当然ながら、俺みたいな子供は居ない。

 ……とどのつまり、簡潔に説明するならば、ここはロリコンの巣窟であった、ということだ。

 俺的には、この3つ目こそが本命なのではないか、と正直今では本気で思っている。

 実際、そのことについて朝凪大臣と柚原幕僚長に尋ねてみたら、揃って明後日の方向に目を逸らしていた。

 あの時ほど、彼らに抱いた最初の頃の緊張を返して欲しいと思ったことは無い。

 

 

 と、まあ、これらの事情も諸々全て聞きながらも、俺についての身の振り方は決まったという訳だ。

 こんな得体の知れない俺に居場所を作ってくれた自衛隊には本当に感謝しかない……ないのだが、やはり、何故だか心の奥では寂しい気持ちが消えることはなかった。

 思えば、こっちに来てから向こうの世界のことばかりを考えているような気がしてならない。

 本来ならばこっちの世界が故郷で、向こうの世界と違って戦わなくてもよくて、そして基本的人権や、自由も保証されている。

 条件だけで見るなら、圧倒的にこっちの方が有利なのだ。

 

 

 それでも、俺は向こうの海が恋しくなっていた。

 理由は分からない。

 それは艦娘達仲間への想いなのか、それとも……。

 

 

「っぽい! 気合い、入れて、行くっぽい!」

 

 

 変な考えに陥る前に自分の頬を両手で叩き、意識の底に感情を沈めそうになっていたのを無理矢理引き上げると、あの高速戦艦某のような掛け声で声を張り上げる。

 俺……というか、夕立らしくない気の沈みようだったな、本当に。

 気を引き締める意味も込めて、しばらくしてから基地の中を散歩にでも行くことにしよう。

 幸い、今日は土曜日(休日)なので、基本的に基地は稼働していない。

 緊急出動があれば当然出る必要もあるが、そう頻繁にあるものでもない。

 休日出動があった場合、代休も入るが、そもそもそんな事柄が頻繁にあるようでは固定シフト、定時出勤もへったくれもないものだし。

 だからこそ、今ではあれば邪魔にならずに歩き回ることが出来るわけだ。

 もちろん機密のあるような立ち入り禁止場所もあるから、そこには行くことは出来ないが。

 

 

 時間にしてマルナナマルマル。

 この時間であれば、普段総員起こしでとうに起きている時間だから、散歩するには丁度いい頃合いだろう。

 白露型制服ではなく私服に着替えて身だしなみを整えると、一人部屋を飛び出した。

 

 

 散歩とは言ったものの、実は行く場所自体はある程度決めており、今から向かうのは護衛艦「はるさめ」の艦内である。

 何故なら、俺の……夕立の艤装を置ける場所が艦内にしかなかったからである。

 基地内部にはある程度武装を置いておける場所はあっても、艤装を整備出来る環境が何処にもない。

 対して艦内であれば、現代とはまるで艦種が違うとはいえ、艦載装備の点検、整備の環境は万全と言えるため、結局艤装は艦内に置いておくということになったのだ。

 ちなみに、これも艤装ではあるが、電探だけは常に持ち歩くようにしている。

 電探であれば普段持ち歩いていても危険性はないし、何より艦娘は艤装がないと膂力が強いだけのただの人間とほとんど変わらないため、水の上に浮かべなくなってしまう。

 ただ、電探1つでも装備をしていれば水の上に浮かぶことが可能となるため、非常時のことを考えて持ち歩くようにしている。

 もちろん、これには上の許可も貰っているため、問題ない。

 

 

 そういうわけで寮内の廊下を歩いていた訳だが、ふと男性寮の近くを通りがかった時、一般曹員達が輪になって騒いでいることに気が付いた。

 何をやっているのか、気になった俺はこっそり近付き、覗き込んでみると……。

 

 

「……」

 

 

 数枚の写真を囲んで、それを取り合うかのように必死にじゃんけんしている男どもの姿だった。

 その写真というのが、但野2佐と手を繋いでいる夕立()、食堂の席で物憂げに指輪を撫でる夕立()、演習後の疲れで昼寝をしている夕立()、などなど……平たく言うならば、全部夕立()だった。

 それも許可した覚えのない、盗撮である。

 まさに最終盗撮全部俺。

 

 

 どうやら雌雄を決したらしい、はしゃぐ隊員達の肩をそっと叩く俺。

 

 

「ん?……あ」

「「「あ」」」

「一体、何をやってるっぽい?」

 

 

 きっと、この時の俺の表情は一見すれば笑っているように見えたことだろう。

 しかし、そんな俺の背後にはとてつもなく重厚な気配が漂っていたとは隊員談。

 

 

「夕立ちゃん? えっとね、これは……」

「問答無用っぽい」

 

 

 ここでもし拳骨制裁なんてしてしまうと、艦娘の膂力ではとんでもないことになってしまうだろう。

 だが、ひとつだけ、怪我の少ない方法で安全に行う方法がある。

 そう……デコピンである。

 

 

 ひゅん、と風を切るような音と共に、俺の指が一人の隊員の額へと襲いかかる。

 瞬間、デコピンでは有り得ないような音が鳴り、隊員はあまりの痛みに声も出せずに悶絶している。

 その痛がりように、他の隊員達の顔も総じて青ざめている。

 もちろん、ここでやめる俺ではない。

 もう一度皆の顔を見て、一言。

 

 

「さあ、ステキなパーティーしましょ!」

 

 

 数秒後、全ての男達が、一人の少女を前に力なく倒れるという異様な光景が出来上がっていた。

 何だこの状況は、とつい溜め息を吐く。

 

 

「もう、次からこんな盗撮はやめるっぽい……」

 

 

 なんだかんだと、誰一人としてデコピンから逃げることはしなかっただけに、誠実な人達だと分かるだけに勿体ない。

 向こうの世界でも、舞鶴鎮守府(うち)の長門と佐世保鎮守府の提督の手によって国民観艦式に出る俺も含めた他駆逐艦達の写真が盗撮され、それがバレた2人は駆逐艦達に総叩きにされたなんてこともあった。

 向こうの世界の人間は何故かバグレベルで頑丈なので、その時は遠慮なくグーパンである。

 戦艦の艦娘である長門はともかく、中将を含めた他司令官達はギャグ時空の世界にでも生きているのだろうか……。

 

 

 昔の話はもういいとしよう。

 兎に角、彼らは悪い人ではないのは分かっている。

 だから……。

 

 

「だから……つ、次から撮る時には、ちゃんと言いに来るっぽい!」

 

 

 ああ、言い切ってしまった……。

 途端に恥ずかしくなって、俺はその場から逃げ出してしまった。

 その際、倒れる彼らの中から呻くように「デレはデコピンの前に見せて欲しかった……」と呟いているような気がしたのは、きっと本当に気のせいだろう。

 

 

 なんだか朝からもう疲れてしまったが、その後は特に何かあったわけでもなく、無事に護衛艦「はるさめ」へと到着した。

 艤装を見つけた俺は、そこに居るであろう彼女達へと呼びかける。

 

 

()()()()! 出てきて欲しいっぽい!」

 

 

 声を張り上げてそう言うと、俺の艤装の中からまあわらわらと出てくる装備妖精さん達。

 どうやらこの世界に俺がきたと共に、彼女達も一緒に来てしまったようで、おかげで妖精さん達のバックアップがなければ使えなかった艤装をこちらでも使える。

 故意ではないとはいえ、こちらの世界に無理矢理な形で連れてきてしまったことに申し訳なさを覚えるが、妖精さん達は気にしていないようだ。

 この装備は俺が着任して1年の後……つまりは2年間つかいつづけてきて、既に改修も最大値まで行ってあり、装備妖精さん達もその頃からずっといる存在なので、正直俺にとってはとても安心出来る存在と言える。

 この妖精さん達、普通の人には見えないのだが、提督適性がある人にだけは見えるし、意思疎通も取れるようだ。

 予想通りというかなんというか、但野2佐や朝凪大臣、柚原幕僚長には見えていたので、彼らはやはり優秀だということなんだろう。

 

 

 これも向こうに行って知ったことなのだが、艦これというゲームで資材が自然回復する現象、どういう事なのかと思っていたが、どうやら妖精さん達が鋼材やらの不純物を変換して資材に変えていたらしい。

 非常時の鎮守府の縁の下の力持ち、それが妖精さんだったということだ。

 

 

 装備妖精さん達と一緒に艤装の確認をしていると、後ろから人の気配が近付いてきているのが分かった。

 誰かと思い振り向くと……。

 

 

「やっぱりここに居たか」

「あれ? 但野さん、どうしたの?」

 

 

 但野2佐だったようだ。

 それにしても、俺の事を探していたようだが……。

 

 

「もうそろそろ配食の時間だ。朝食は要らないのか?」

「あ」

 

 

 時間を見てみると、確かにもう時間が配食の時間に迫っていた。

 ここでの配食はマルナナサンマルになっており、過ぎれば最悪食べられないため、時間にはきっちり合わせないといけない。

 きりもよく整備を終わらせることが出来たため、慌てて妖精さん達に断りを入れる。

 

 

「夕立も行くっぽい!」

「そうか……行くぞ」

 

 

 俺は但野さんと手を繋ぎ、食堂へと向かうのだった。




明日は多分更新出来ます(結局)。

ちなみにうちの艦隊ではただいまガングートの練度上げ中です。
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