本当お待たせしました……。
遥真の彼女、もとい美菜さんが遥真と付き合い始めたのは約2年半前。
行方不明となってしまった親友の全く進歩の見えない捜索に傷心していた遥真を彼女が励ましてから仲が進展したらしい。
そして今気付いたのだが、そういえば美菜さんって高校の1つ下の後輩だった人で、俺も普通に面識があったことをようやく思い出すことが出来た。
なんか向こうで色々とありすぎせいか、こっちでのことを忘れてることも多いな……。
そこはそれとして、明らかにその親友というのが俺であることは確かなのはともかく、どうやらあの時の遥真は今のような穏やかさとはまさに別人と言わんばかりに鬼気迫った顔をしていたようだ。
あまりの豹変ぶりに、壮馬達ですらも驚きを通り越して恐怖すら抱いてしまったとのこと。
美菜さんが彼に献身的に付き添いや励ましをしなかったら、今でもずっと身を削ってまで探し続けていたかもしれない、と。
俺もまさか、遥真がそこまで躍起なまでに必死になることなんて見たことがなかったから、驚きよりも信じられないといった感想の方が大きい。
ここだけの話ではあるが、壮馬達の中で付き合いが一番長いのが遥真だった。
壮馬と磬は中学からであるのに対し、遥真だけは小学校の、それも低学年の頃から続いているため、もはや切っても切れない仲と言っても過言ではなかった。
出会いとしては今と変わらず臆病で引っ込み思案だった遥真がいじめられているのを、たまたま通りがかった俺がいじめっ子を追い払ったのが事の発端だったが、それからのあいつとの関わりがまさかここまで深くなるとはあの時は全く思ってもいなかった。
俺達の中でもっともまともで、常に暴走していた俺を含めた他3人のストッパーにもなっていた存在だから、遥真自身が暴走するなんて、本当にそんなことがあったのかと疑わしくなる……とはいえ、壮馬もこういう嘘はつかないのは俺もよく知っているので、本当にあったんだろう。
……俺が居なくなってもやっぱこいつは俺が居なかった期間は一緒にいたんだろうな。
とまあ、そんな暗い話はここまで、ということで壮馬は話を切り上げたところで、丁度美菜さんが注文していたもの持ってやってきていた。
品が並べられたところで、最初はやはりコーヒーを一口。
豆もだが、淹れ方に相当工夫しているのか鼻の通る香りがよく、コクも深いため、苦味と酸味のバランスがとれていて非常に好みだ。
サンドイッチやサラダもとても美味しく、瞬く間に平らげてしまった。
食事を終えた俺達はほっと一息吐いてから、ふと、壮馬が呟いた。
「あ、そうそう。遥真も同じ職場だぜ。部署は違うけどな。磬だけは別の仕事なんだが」
「え、そうなの?」
「ああ、そうだ。俺の勤める会社はいわゆるソシャゲ専門のゲーム開発会社でな。大きい会社でもなく、むしろ無名なところではあるが、俺がエンジニアで、遥真がプログラマーをやってる」
……こう言っちゃなんだが、意外としか言えなかった。
俺達4人の中でゲームが一番好きなのは半ば廃人に近かった磬、次点で俺、そして壮馬と遥真はどっこいどっこいであった。
それ以前に、壮馬と遥真は別にゲームが好きだってわけでもなかったはず。
知る限りは壮馬は艦隊とか軍事系のステラテジーゲームをよくやっていたのは知っているが、あれは軍艦や武器などを効率的に覚えることも出来るからやっていただけだったはずだし、遥真に関しても俺達とゲームは本当によくやっていたが、ゲームが好きなのではなく、俺達とゲームをやることが好き、といった感じだったと思う。
そんな2人が揃って方向性は違えど、同じゲーム開発の職業に進むなんて……。
「ちなみに、元々俺は普通にエンジニア関係の仕事に進もうとしたらなんか成り行きで向こうに行くことになったってだけだからな。遥真に関しては俺は知らん」
俺も同じ会社で鉢合わせた時は流石に驚いたわ、とおどける壮馬。
まさに壮馬らしい如何にもな理由に、俺も流石に苦笑を漏らす。
「ってわけで、俺の身の上はまあ、こんな感じかな。だから、今度は夕ちゃんの……そっちの話を聞かせて欲しいかな。あ、もちろん嫌なら聞かないし、話していい範囲だけでもいいから」
まさかいきなり俺の身の上話を振られたものだから少し悩んだが、まあ、少しくらいならと了承した。
どうも万が一のために外部にも俺の理解者を作るために壮馬にはもう既に俺の正体は前世の話を除けば但野2佐からそれなりに教えてもらっているようで、案の定、向こうでの話というのは艦これの世界に居た頃の俺の鎮守府の生活ということのようだった。
ただ、ここで話すには流石に人の目がつくため、一度移動しなければならない。
続きの話は移動中にしよう、と店を出るために会計を済ませようとするとレジまで美菜さんがやっていたので最後に一言断り店を出る。
その際、美菜さんが壮馬に「あとで貴方の家にお伺いさせていただきますね」と言っているのが聴こえたが、壮馬がどんな返事をしたのか、俺には聴こえなかった。
喫茶店には歩いて行っていたから寮も近くなのかと思っていたが、どうやら少し離れたところにあるらしく、駅にも車できていたそうだ。
車の中なら余程大きな声を出さなければ聴こえないだろうし、先程の話の続きをすることにした。
「夕が夕立として生まれたのは3年前っぽい! 階級はないけど、所属は舞鶴鎮守府っぽい」
「3年前? どこかで……それはとにかく、舞鶴か。それだったら司令官も中々の階級だったんじゃないか?」
壮馬は何かを考えたかのように数言俺にも聴こえないような小さな声で呟いたと思うと、何事もなかったのように聞き返してきた。
「提督さんは少将だったっぽい。けど、実力と結果で大本営の反艦娘派のお偉いさんを黙らせちゃったとても凄い人なのよ」
「へえ、そいつは凄いな。てか、やっぱ反艦娘派なんているのか。おかしいことではないが、まるで物語みたいだな」
確かに、反艦娘派は艦これの二次創作には本当にありがちな設定だよな……。
俺が居た世界も例に漏れず反艦娘派の存在はあったが、どうにもかなり少数派だったらしく、大本営の2割程度しか居なかった。
元帥はむしろ親艦娘派だし、大将連も大体は同様で、一部に中立派に所属しているくらいの振り分けのようだった。
中立派も反艦娘派と大体同数ほどが加わっているが、彼らは別に艦娘と仲良くするつもりがないわけではなく、ただ単に公と私を分けろという考えなだけで、要は「作戦行動中、もしくは戦場では兵器。しかし、陸上に上がって人の営みを行っている間は女性」という、考えを持っているからこその中立派らしい。
別に親艦娘派も公私を分けていないわけではなく、あくまで意識としての差で出来た派閥の違いらしいが、内容的に見れば実質的に中立派も親艦娘派とそう変わらないので、中立派と親艦娘派が衝突することは滅多にない。
ただ、逆に言えば反艦娘派にも2割も居る、ということになり、それが大本営の警戒をくぐりぬけて反艦娘派から送られてくる無茶な命令が何度も提督さんの元に届けられる要因となっている。
例え内部的な敵対勢力であろうとも、軍では階級は絶対と言っていい。
提督さんも階級的には少将とかなり高い位置だが、流石に中将や大将からの命令には従わなければなからなかった。
それでも、
「舞鶴鎮守府って言やあ、日本海軍でもかなり大きい方の基地だけど、そっちだとどんな艦娘がいたの?」
「んー、正直多すぎてどんな、とは言えないっぽい。けど、総艦数は154隻だったっぽい。日本艦だと一航戦とか秋月型とか、あと海外艦もそれなりに居たっぽい!」
ゲーム的に見るとあれ?意外と少ない?となるかもしれないが、あちらの世界ではどんな仕組みなのかは知らないが、同じ鎮守府に全く同じ艦娘が建造されないようになっていたりする。
それもあって、総艦数だけを見るなら、うちの鎮守府は全国で5番目に多かった。
例に漏れず上から横須賀、佐世保、呉、そして対深海戦艦の最前線とも言うべき柱島泊地である。
ただし、だからといって絶対に新規艦が出る、というわけでもなく、被ったら被ったで既存艦の艤装だけが出てくるようになっている。
要はゴミのようなものなんだが、実はこの艤装こそが艦娘の近代化改修に使われる素材で、元になった艦娘に由来して上昇する能力が変化するということだ。
夕立?もちろん雷装値ですが?
「そういえば、夕立ちゃんってケッコンカッコカリの指輪してるよな。それって、あれなのか。本当に司令官のこと好きだったりするのか?」
「い、いや……それは……よく分からないっぽい」
自慢ではないが、俺は舞鶴では11番目に生まれた艦だった。
初めの頃は謎の焦燥感からか、遠征ばかりであった俺は提督さんに何度も直談判してしまったが、今ならあれは反攻作戦に向けて資源を集めつつ、かつ駆逐艦や軽巡洋艦を出撃させる前にまずは海に慣れさせようという魂胆があっただろうことは手に取るようにわかる。
提督さんのおかげで俺もここまで……具体的には指輪をくれるようになったまでは練度が上がったわけだし、今では艦娘達は日本海外問わず、着任している艦娘は全員が提督さんを信頼するようになっていた。
だからこそ、俺はどんな気持ちを抱いているのか分からなくなっていた。
ただまあ、嫌いではない……むしろ好き、という気持ちは正直言ってある。
「ふーん……ま、
「ま、まあ、その気持ちもなくはないっぽい」
壮馬には言っていないのだから当たり前だが、俺の本来の故郷はむしろこっちであるはずだった。
だけど、やっぱり身体が艦娘になったことで心もだいぶ染まったからか、向こうに戻りたい、仲間と一緒に戦いたい、という気持ちは正直言って強い。
問題はそもそも戻れるすべなんてものを知らないのと、例え戻れたとしてもやはりこの世界と別れることも踏ん切りがつかないことだろう。
今の俺には、真に寄る辺となるものがない。
但野2佐は親身にしてくれるが、どのみち他人でしかなく、またこちらに戻ってきてからの関係しかないため、
壮馬はそもそも俺の正体を知らない。
公表さえすれば明かせる時が来るだろうが、いつになるかも分からない。
家族……そもそも、まだ顔を合わせてすらいない。
「もしだけどさ、もし迷っているんならさ……一回、こっちの学校に行ってみたらどうだ?」
「学校、っぽい?」
何故今その提案を?と疑問に思ったが、壮馬は俺が何かを言う前に言葉を続けた。
「ああ。なんていうかな……会った時からずっと思ってたんだけどさ、夕、てか夕立ちゃんの目がどっかを向いてる気がしてな。多分、司令官や仲間、あとは姉妹艦達も居ただろうし、急に離れることになったから多分窮屈に思ってるんだろ? だからまあ、これは荒療治になっちゃうんだけど、ひとまず現状を忙しくしてしまえば、ある程度は気持ちも楽になるんじゃないかと思って。それに、夕立ちゃんの見た目にもあった友達が必要だろうしな」
なるほど、確かに少しこじつけが強いような気もするが、今はちょっと窮屈なのは間違ってはいない。
その窮屈な理由が大体が外で思いっきり戦えないことに対する欲求不満ってだけで……。
舞鶴鎮守府にも駆逐艦専用の……言わば小学校みたいなものがあった。
当然
艦娘という存在は、基本的に全員頭がいい。
もちろん個人差もあるが、艦娘は実戦の際に射程計算、射角計算などを瞬時に行って発砲するため、特に数学面における知能に関しては生まれながらにして超難関大学の大学院生と比較して何ら遜色ないレベルの頭脳があるのである。
俺ももちろん例外ではなく、むしろ前世で大学までを経験している下地があるだけあって、やはり数学ほどではなくなってしまったものの、数学面以外でも中々に好成績だった。
「けど、夕立が学校に入るのは流石に無理があるっぽい」
けど、俺がこっちで学校に入るには、正直のところ問題が多すぎた。
まず、俺という存在はこちらの世界ではゲームキャラである、ということ。
艦これ、というのはそもそも大元になっているサイトに必要な登録年齢が18歳からであるため普通ならプレイしている人は居ないだろうが、キャラだけは知っている、という中高生が果たしてどれだけ居ることか。
それに、俺は艤装を身に付けていない状態でも素の身体能力が半端じゃなく高い。
かつて岩川基地の司令官から「舞鶴の夕立はゴリラと殴りあっても無傷で勝利する」とまで言わしめたこの怪力、もちろんその司令官は素敵な発言のお返しとしてきっちりぶっ飛ばしてやったが、当然こちらではそんなことをすれば死人が出るし、下手すれば大事故すら起こしかねない。
そもそも、艦娘は人間の姿をしているものの、人間ではない。あくまで、深海棲艦に対応する力を持つために人間の姿を取っている軍艦、というのが俺達だ。
最後に、何より、また学校というものを中学、もしくは高校からスタートするのが正直面倒臭い、という気持ちが大きかった。
他にも色々あるが、要は現状ではそれだけ困難なこと、としか言えなかった。
それを言ってやると。
「ま、確かに普通ならそうだな。けど多分だけど叔父さん、夕立ちゃんには何も言ってないかもしれないけど、その辺りは多分もう何か手を打ってるんじゃないかな」
「ええ?」
少し困惑してしまったが、確かに但野2佐なら俺が……というか、中学生くらいの見た目をしている俺が学校に行っていないという状況は普通に気にしそうだ。
体裁とかそういうのじゃなくて、普通に「このくらいの年齢の子が学校に行けていないのは可哀想だ」的な感じで。
……尤も、艦娘は改造以外では肉体的に成長することはないので、見た目がそうでもやっぱり中身は子供、という訳ではないが。
「さて……もうすぐで寮に着く。叔父さんが言うにはお前の存在は出来れば公然の秘密にしておきたいらしいから、これからは艦娘であることの明言は避けつつ、振る舞いは自由で良いからな」
「はーい!」
このやり取りで提督の秘書艦として大本営に行った時のことを思い出しながら待っていると、それほど間もなく到着したので、促されるようにして車を下りる。
しかし、壮馬が車を駐車し終えたところで、いきなり彼を呼ぶ声が聴こえてくる。
「あ、お兄ちゃん」
「あ?……げっ」
壮馬はその声の主の正体を理解するなり、面倒くさそうに顔を顰めた。
それを見た壮馬の妹……
「もう……お兄ちゃん! なんでいつもそんな面倒くさそうにするの……あれ?その子、お兄ちゃんの連れ? 彼女?」
「連れではあるのは確かだが、彼女ではない。そういうとこだぞ、本当……こいつは但野夕。訳あってあの自衛隊の叔父さんのところが引き取った子だ。まあ、これからも度々会うかもしれないし、宜しくしてくれ」
「ゆ、夕っぽい。よろしくお願いいたします!」
「へー、叔父さんが……」
俺も見知った顔だったので、少し言動が挙動不審になってしまった。
そう言って要は意外そうに俺を暫く見ていると。
「なんか……喜人にぃに似てるね、この子」
さらっとそんなことを言ってのけたのだった。
2日間死ぬほど予定が詰まってたので合計で1000文字くらいしか進まなかったという過密スケジュール……。
もっとしっかり考えてスケジュール組まなければならない(戒め)。