今回でようやく話が進められます。
やっと艦これっぽくなってきました。
寮に戻ろう。
あまりに突発的な提案……いや、既に確定している事項とばかりの物言いに、俺もつい怪訝な表情を浮かべる。
ただ、戻ってきてからの壮馬の表情は差し迫ったという状況といった雰囲気は感じられないが、それでいていつものふざけたような、もっと悪く言うなら格好つけたがりの雰囲気は感じず、真剣であることは理解出来た。
けど、何故そうなったのか、気になることは気になるのだ。
「なんでっぽい?」
「叔父さんから連絡が来た。出来るだけ早く、夕に見て欲しいものがある、と。あと、壮馬に写真を送ってあるから、それは他の人に見せるなよ、とも言ってるな」
はて、と、それが何故俺に繋がるというのか。
とはいえ、やはり出来るだけ早く、の部分が気にかかる。
今の時間はまだ晩の点呼にまで至っていない……どころか、そもそもまだ昼飯前といってもいい時間だ。
中途半端と言ってもいいこの時間に……但野2佐が催促まで入れてきたということは、やはり予測不能なことがあったのだろう。
「分かったっぽい。峰倉さん、また今度っぽい!」
「もうちょっと喋りたかったんだけどねぇ。ま、仕方ないわね。元気でやりなよ!」
「チーフ、すみませんが俺もここで退出します。お仕事お疲れ様です」
「そんなの良いって。そもそも元々休みだろう? なら、もう君には用事はないはずだからね。じゃあ、夕ちゃん、また今度ね」
また今度来るっぽい!と返事を返してから、俺達は足早に会社を出た。
寮はすぐ近くなのですぐに到着はしたのだが、なんというか、壮馬の足が不自然なくらいに速く、俺が急を要する事態ではないと思っていたのはもしかしたら間違いだったのかもしれないと今更ながらに思い至った。
寮は社員証を鍵代わりのカードキーとして使うタイプらしく、カードを通すと、ようやく壮馬の住んでいるらしい一室へと入ることが出来た。
彼の住む部屋は1DKのようで、居間を彼の私室にしているらしい。
私室の中は彼らしいというか、あらゆる軍艦の模型が飾っており、その中でも彼が昔から好きだと言っていた陽炎型が最も分かりやすい位置に並べられており、あとはベッドに本棚、あとはノートパソコンが置かれた小さな机と椅子が1つあるくらいだった。
「あれ、思ったより早かったね。ま、いいけど……おかえり」
そして何故か、あたかも当然のように彼の妹である要ちゃんもその椅子に座って何処から持ってきたのかお菓子を食みながら寛いでいた。
要ちゃんは意外そうに目を丸くしながらお菓子を急いで口の中に入れてから駆け寄ってくる。
壮馬はと言うと、そういやこいついたな、とばかりにげんなりした表情を浮かべていた。
というか、この子は一体どうやって家に入ったんだ?
「そういや居たなお前……約束を反故にするようで済まないが、今日は帰ってくれないか? 夕ちゃんと大切な話があるんだ」
「大切な話? ほほう、それは一体どんなことなのかな?」
壮馬の言ったことで、要ちゃんは不敵な笑みを浮かべる。
その表情はやはり思春期女性らしい思考をしているのだろうと俺でもはっきり理解出来たこともあり、壮馬は俺にしか聴こえないだろうほどに小さな声で「だから嫌だったんだ」と呟いていた。
妹の三波も大体こういった恋愛事情にはやかましかったこともあり、こいつも苦労してるんだな、と内心で同情である。
「要、今はあまり茶化してやれそうもない。俺のじゃない、こいつにとっての緊急事態なんだ。本当に帰ってくれ」
「……それって、私は聞いちゃ駄目なの?」
「ああ、駄目だ。これは叔父さんの指示なんだよ。分かってくれ」
続けた壮馬の真剣な声色に、要ちゃんも引っかかったものがあるのか、今度は全くふざけた様子もなく純粋な疑問をもって聞き返すが、壮馬はそれをばっさりと断ち切った。
……というか、俺はまだ何も聞かされていないんだが、俺にとっての緊急事態とは一体……?
彼の返事が不満だったのか、あからさまに不機嫌そうな表情を浮かべるが、壮馬は毅然としたまま全く動じる様子はなかった。
「……けち」
やがてどうあがいても無理そうだと思ったのか、諦めた様子で要ちゃんはのんびりした足取りで玄関のある廊下へと出ると、最後に一度振り向いて、怒り顔で。
「でも!今度こそは絶対夕ちゃんを借りるんだからね!」
と叫んだ。
壮馬ははあ、とひとつ溜め息を吐くと俺の方をじっと見るると。
「俺はいいが、夕ちゃんに頼めよ」
「夕ちゃん、いいよね!?」
「っぽ、ぽい!?」
「よし! 約束だからね!」
って、まだ何も言ってねえ! 今のは了承の返事じゃないから!
などと言い返す間もなく、彼女はそのまま逃げるようにして部屋を出て行ってしまった。
呆然としたまま固まる俺に、壮馬からそっと肩に手を置かれたかと思うと。
「ま、そっちはそっちで頑張ってくれ……」
などと言われてしまった。
全くもって有難くないことだが、もう過ぎたことは仕方がない。
壮馬はやれやれ、と首を振って「準備するからちょっと待ってろ」と言った後に何やらパソコンを起動して何かを始めたので、俺もひとまずベッドに腰掛けて待つことにした。
それから数分程度待った時、ようやく壮馬からこっちに来いとばかりに手を振られたので、その指示に従った。
『聴こえるか、夕』
「但野さん!?」
不意にパソコンから聴こえてきたその声は、最近になってようやく聴きなれたもの、但野2佐のものだった。
画面を覗き込んでみると、どうやらビデオ通話にしているらしく、但野2佐の威圧感のある顔がはっきりと映し出されていた。
なんで?と思いながら壮馬の方を見るが、壮馬からは「叔父さんが直接言いたいことがあるんだと。夕ちゃんのこれからに関わる重大なこととだけ聞いた」と言われたくらいだったので、壮馬もこれ以上のことはまだ何も聞かされていないらしい。
『どうやら聴こえているようだな。いきなり呼び出してしまい、申し訳ない……壮馬、先程送ったものを夕に見せなさい』
「はいはい、自分で送ればいいのに……っと、あった。これだ」
「これ、っぽい?」
壮馬のSNSの個人チャットに送られていたらしいそれは一枚の写真だった。
何かの鉄屑だろうか?見た感じでは、元々何かの装甲に使われていたもののように見える。
恐らく手痛い何らかの攻撃を受けたのだろうと思わざるを得ないほどにボロボロでもはや残骸と言ってもおかしくない状態だが、これがどうしたというのだろうか。
『これは数日前、とある海域で突如発見されたものだ。それも、浮かび上がってくるように、だ。発見したのは護衛艦やまぎり。不審に思った彼らは当物体を引き揚げた後、基地に持ち帰りとある機関に成分分析を依頼したらしい……のだが、その答えは全く存在しない物質、いわゆる未知であったということだ』
「待ってくれ叔父さん。俺にはどうにもそれがとんでもない衝撃を受けてひしゃげているように見えるんだが、なんでそんなものが海に?」
「どうもこうもない。後から私も直接目で確認し、そして触れたりもしたのだが、確かにお前の言う通り、これは外部からの強い衝撃によって出来たものには違いない。恐らくだが、魚雷や爆雷のような衝撃兵器を受けでもしない限りはこうはならないだろう……が、当然のことではあるが、これを回収した海域での戦闘行動、もしくはそれに類似したような行動は、横須賀基地の記録を見る限りでも今までに確認されていない。正直なところ、私達にも全く分かっていないと言ってもいいだろう」
「おいおい、どういうことだよ……」
理解不能とばかりに唸る壮馬に反して、但野2佐は変わらぬ冷静なまま、しかし表情だけは心做しか普段よりも一層厳しめに見えた。
但野2佐は護衛艦はるさめの艦長だが、実際の所属は横須賀基地ではなく、佐世保基地である。
元々演習やその他の要因から偶然横須賀に来ていたわけで本来なら既に佐世保に戻っているはずなのだが、俺という存在が現れたせいで第一発見者であることと、また俺が但野2佐に懐いていることから護衛感はるさめは横須賀基地に残留しているというのが現状だ。
ふと、但野2佐と目が合った。
『話はまだ終わっていないぞ、壮馬。ここからが肝心な部分だ……先程、とある海域で発見と言ったがな。これが基地からほど近い、横須賀沖150キロ地点で発見されている。夕、今言っていることが分かるか?』
150キロとなると、言った通り本当に相当近いな……。
確かにその距離ともなると、少し沖合に出ただけで分かるな。
俺の時も、割とすぐに見つかったし……。
と、そこまで考えたところで、但野2佐の言っていることをようやく理解した。
いや、理解出来てしまったと言うべきか。
『……夕には分かったようだな。そうだ、この謎の物体が発見されたのは、夕が発見された海……それも、夕の立っていた地点から数百メートル程度の距離から発見されている』
但野2佐は努めて何事もないかのように言っているが、俺がこの鉄屑に関係しているであろうという考えには至っていることだろう。
そして俺は、先程の答えに及んだの同時、この鉄屑の正体にも思い至っていた。
いや、
「これ……深海棲艦の装甲っぽい」
「ちょ、まじかよ……」
『……やはりか』
改めて見ると、俺にはそれがとても見慣れているものだということに気が付いた。
画像に映っている鉄屑の正体は恐らく潜水カ級のものだろう。
となると、この攻撃跡というのは爆雷攻撃のものであるというのは確か。
というか……。
「但野さん、もしかして薄々分かってたっぽい?」
『まあ、そうなるな。とはいえ、この世界では存在しないものであるが故、確証はなかったが』
まだ発見されていない未知の物質であるにも関わらず明らかに手が加えられた形状であり、また俺が転移してきた位置とほとんど距離がなかったことから艦これ世界のものであるだろうことは想定済み。
更に、装甲のような形をしていることからも艦これ世界で艦娘ではなくこのような装甲を持つ軍艦を海に出すことはどうにも考えられず、消去法から深海棲艦ではないかとも考えていたらしい。
流石艦長を務めているだけあって、頭の回転が速かった。
『それで、この深海棲艦に心当たりは?』
「見た感じではカ級っぽい。けど、ソ級の可能性も無くは無いっぽい。この壊れ具合は爆雷のせいっぽい」
まあ、この破損具合からしても十中八九カ級だろうけど。
そんな推論をしていた俺達の隣で口を噤んでいた壮馬だったが、ついに我慢が出来なくなったようだ。
「ちょ、ちょっと待て。こっちに深海棲艦も来たってことじゃねえか! 大丈夫なのか!? それに、カ級って潜水艦だろ!? それって、今出てる船は狙われるんじゃないのか!?」
『落ち着け、壮馬。恐らくそれは無いと思われる』
矢継ぎ早に言う壮馬を宥める但野2佐に、深海棲艦出現の危機だというのに焦りの表情は無い。
その様子を見て、壮馬もすっかり冷静になれたようで、次第に落ち着いてきた。
『こちらの世界に来たのは深海棲艦ではなく、深海棲艦の残骸だ。やまぎりには少しばかり対潜装備も積んでいたが、一門も使ってはいない。まだ潜水艦隊による哨戒は行われていないが、恐らく生きた深海棲艦はこちらには来ていない……と信じたい』
それに、このような非常時のために私達自衛官が居る、と物珍しい笑みを浮かべながら、但野2佐はそこで話を断ち切った。
対して壮馬は、不満は抱いているようだが、文句自体はなかったようだ。
「……分かった。まあ、まだ正直その言葉は信じられないが、俺には何も出来ることはないしな。けど、叔父さん。無理は禁物だからな」
『気持ち命じておく』
「全く……それで、今日の話ってこれで終わりか?」
『いや、まだだ。というよりも、夕立にとってはむしろこれからの方が重要になるかもしれない』
やっと話が終わった、と思ったのだが、どうやらまだあったらしい。
今の話も俺にとってはかなり衝撃的なものだったが、これより上があるのか、と正直げんなりしてきている。
しかし、俺はこれからの話でとんでもないことを聞かされることとなった。
『夕……夕立には、君が着ていたような服に似ているセーラー服を着た、小柄なピンク色な子が、仲間には居なかっただろうか』
「え? そ、それなら夕立の一つ下の妹の春雨が多分当てはまるっぽい。けど、いきなりどうしたの?」
『そうか……よく聞いて欲しい』
但野2佐は一息分の間を置くと。
『深海棲艦カ級の残骸を回収する直前、護衛艦やまぎりは海上にて先程言った容姿に酷似する艦娘と思しき存在と接触した。しかし……』
「えっ」
呆然とする俺に但野2佐は申し訳さそうな表情を浮かべる。
『駆逐艦春雨と思われる彼女は数発、主砲を散らしたかと思うと水しぶきに乗じて逃走。以後、行方不明となった』
この報告をきっかけに、俺の生活が急変し、日常とは程遠いものとなることを、今はまだ知らない。
こんな感じで話は進めていますが、現代TS系でよくあるようなことも混ぜては行く予定です。
けど大筋はやはり艦これ要素は残したいので艦これさせますね。主人公艦娘ですけど。
あー、烈風改二戌が腐るほど欲しい……