死にゲーみたいな現代で生きる一般不死身の怪物さん   作:ちぇんそー娘

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凛花過去編のだいたい中編が日曜日をお伝えするために生えてきました。





クソレズフォレスト 2

 

 

 

 

「おぎゃーっ!? ばぶーっ!? だー、うぁばー!?」

 

 

 アルカは絶叫した。いや、絶叫するしかなかった。

 はっきり言って油断していたのだ。自分は持ち前の探究心で1000年以上自分の体や能力を研究し続けた。大して相手はぼーっとしてつい先程まで人間の言葉も知らなかったアホ。いくら力が強くとも使い方を知らない雑草程度に自分が負けるはずがない。

 

 

 その自信が木端微塵に華と散る。

 異界領域『万魔屍山無明郷』によって生成された『原初の緑』は時間さえあればあらゆる相手の情報を解析し、相手が勝てない存在へと進化する可能性を孕んだある意味究極のジョーカー。……時間さえあれば。

 

 

「時間、時間稼いで! ブラド! 頼むから時間稼いで! 10秒!」

 

「無茶言うな。私では少しでもお前の防御範囲から出た瞬間量子分解されるだけだ。だいたいこの光速の戦いの中で10秒とか馬鹿なのか?」

 

 

 たった10秒。

 それだけあれば相手の無限に近い手数の植物の全てを解析し、あらゆる防御をぶち抜いて一撃で行動不能にできる! 

 

 だが! 

 光速で行われる不死者の戦いの中での10秒とは正しく気の遠くなるような時間。永遠と形容しても良いほどにその時間は長すぎる。

 

 

「どうだ? 勝てなさそうか?」

 

「いや、()()6()()()()()

 

 

 周囲の一切が確認できない植物の猛攻を『原初の緑』でギリギリ防いでいるジリ貧状態。なのにアルカはただ笑っていた。

 色々な理由はあれど、一番の理由は探究心。相手の手札は分からず、こちらの手札は通じない。1000年といえど人の世を知るには十分すぎる時間を生きた彼女にとって、『未知』とは死ぬほどの快感、それが強敵との戦闘ともなればなおさらのこと。

 

 

「結局な、自分の力で相手を屈服させる瞬間が一番気持ちいいんだよ。

 ────星は巡り、地に生は乱れる(ティフォン・オーバードーズ)

 

 

 自らの防御に使っていた『原初の緑』。その内、ブラドの為に使っていたもの以外の全てがアルカの体の内へと流れ込む。

 何者にもなれる故に何者でもない原初が、アルカの体の内側で翡翠の輝きを放ちながらあらゆる神経をぶち破り体外に漏れ出たりもしながらも循環する。

 

 

 

「必殺ゥゥゥ……アルカパァァァァァンチッ!!!!」

 

 

 

 無限の植物が拳の一振で吹き飛ばされる。

 晴れた視界の中で、アルカと植物の精霊は戦闘開始以降初めて目を合わせた。相も変わらず植物の精霊は無表情でアルカを見つめ、対する彼女は獰猛な笑みで威嚇をした。

 

 

「お前顔はどっちかって言うと儚い美少女だから、威嚇したつもりでもアルカイックスマイルにしかなってないぞ。あと、その技使って大丈夫なやつ?」

 

「役立たずは黙ってろ! 自分の顔があまりにも儚げ美少女なのはちょっと悩んでんだよ!」

 

 

 強気な口調で答えていたが大丈夫なわけが無い。

『原初の緑』は何者でもないが故に無限の可能性を持つ。その質量は当然無であり、同時に孕むエネルギーは無限。いくら不死者とはいえ存在しないのに無限のエネルギーを持つふざけた物質を体内でガソリン代わりに循環させれば、存在の核がボロボロになっていく。

 

 そもそも、肉体とは魂の格によって限界が設定されている。それを原初の緑とかいうよく分からないモノで無理やり越えさせてしまうバグ技を使えば細胞がバグり出すのは至極当然であった。

 

 

 はっきりいえば、内心使ったことを後悔。

 むちゃくちゃ痛い。例えるなら全身が足の小指になってあらゆる方向からタンスの角が降り注いでくるかのような苦痛。ささくれから全身の皮膚が剥けてしまうかのような激痛。

 

「だがパワーは予想以上! これは成功と言ってもかぶふぉ!?」

 

 言葉を遮るように喉が裂けて『原初の緑』が溢れ出す。明らかにアルカの体が負担に耐えきれなくなっているが、彼女はその辺りの事は考えない。考えたところで自分の利にならないのならば考えないのが彼女の生き方だ。

 

 

「……『女郎壊死(オミナエシ)』」

 

「遅せぇわボケッ!」

 

 

 新たに繰り出された空間を腐食する花びらの嵐も、軽く腕を振るうだけでアルカはかき消してしまう。

 今までの植物と同じ構成では足止めにすらならないとわかっていようがもう遅い。緑に光る変態の拳は間違いなく植物の精霊の反応速度を超えてその体を吹き飛ばす。

 

 吹き飛んだ相手の体に追いついてもう一回蹴りを入れ、さらにもう一度追いついてもう一回蹴りを入れる。

 一見すればアルカが植物の精霊を手玉に取っているかのように見えるが、まだこの状況でも植物の精霊の方が有利な立場であった。

 

 

 アルカが勝つ為には、自傷ダメージで行動不能になる前に相手を行動不能にする必要がある。だからアルカは確実性を求めて近づいて直接相手に触れて解析を行なおうとしていた。植物の精霊はそれに気が付き、全ての攻撃をすんでのところで直撃を避けている。

 さらに時間を稼ごうと攻撃に回していた植物で盾を……森林を作りだす。

 方向感覚を狂わせる植物、時空断層を生み出す植物、物質のエネルギーの正負を反転させる植物、衝撃を吸収する植物。身を守ることに特化した植物によって編まれた森林の盾はもはや1つの世界。それだけで半ば異界領域に近い空間が生まれかけていた。

 

 

「無駄無駄ァ! そんなちんけな森でちょっとでも俺に勝てると思ったのか間抜け中抜け独活の雑草! ────人類神話仮想顕現、分岐宇宙強制接続(インストール)(つらぬ)け、螺旋類開拓目 ATGCッ!」

 

 

 三下臭い口上と共に放たれたのは、ドリルのような形状をした頭部を持つ地龍。

 馬鹿の一つ覚えと言わんばかりに、あらゆる物質を絡めとりその終わりまで閉じ込める植物の牢獄へと突っ込んだATGCは、ただ蹂躙する。未だこの世界では足りぬ領域であろうと、()()()()()()()()とは、あらゆる困難を自らの手で解決する道具を生み出しては風穴を空けて突き進んできた蛮族。その概念精霊であるアルカの最大の攻撃とは

 

 ────スペックによるゴリ押しであるッ! 

 

 

「っぅ……『城爪草』……」

 

 

 必死に防御を試みる植物の精霊は視界全てを覆う四葉の盾を生み出す。

 求めたものは純粋なる硬度。ただ叩き割られるのに数秒の時間を稼ぐ為だけに生み出されたその命はそんな儚さを一切感じさせずアルカの前に立ち塞がる。

 

 植物の精霊は僅かに稼いだ時間で思考を始めようとする。

 どうすれば、どうすれば()()を避けられる。アレだけは、アレだけは絶対に嫌だ。どうすれば…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぱんっ

 

 

 

 

 

 

「──────っ?」

 

 

 

 

 思考を遮るように鳴り響く水っぽい爆発音。

 見れば、植物の精霊の下半身は内臓物や茎や葉を撒き散らしながら四散し、無防備になった上半身は衝撃によって吹き飛ばされていた。

 同時に、自身の体の中に『原初の緑』が流れ込むのを感じる。再生、逃亡、攻撃、防御。あらゆる行為が自由に出来ず盾として用意していた植物が枯れ果てる。

 

 植物が塵となり、視界が晴れたことによって植物の精霊はアルカの姿を目にした。

 そしてようやく、自分が何故防御を無視して体を吹き飛ばされたのかを理解したのだ。

 

 

 

「名付けるなら……『形態(モード):淡島神(エグザイル)』かな。ぶっつけ本番だが割と上手くいったな」

 

 

 

 アルカの腕が細く、長く、そして鋭く柔軟に変形していた。

 

 肉体とは魂の格によって限界が設定されている。

 例えば、人間の魂は人体の限界を越えられず、不死者と言えど不死者の肉体の限界を超えることは出来ない。不死者と言えど肉体を自由自在には変えることはできないのだ。

 大量の植物の合間をすり抜けるほどの細さと薄さ、なおかつそれに必要な長さ、そしてそれらを維持したまま近距離での殴打と変わらないパワーを維持することは通常では不可能。どれだけその不死者が肉体を研究してその操作に長けていようと、そんな強化は出来ない。

 アルカが行ったその行為は、10点の持ち点で攻撃力、防御力、操作精度、射程距離に割り振れと言われて全てに10点をぶち込んだかのような完全なるルールの無視なのである。

 

 

「なんで? って不思議そうな顔してるから説明してやるとな。俺ってば人体のスペシャリストだから、その限界を超えて自分の魂までイジれるようになったのよ。だから瞬間的に魂の形を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に変えたってだけ。簡単でしょ?」

 

 

 そう笑うアルカの体は節々が崩れていて、明らかに無理のある行為に魂そのものが悲鳴をあげ肉体を傷つけていた。死にはしなくとも狂う程の激痛と倦怠感。そしてしばらくは思い通りに体を動かせなくなる後遺症が残るであろう、理論上は可能だが、難易度と危険性から誰も行わなかった行為の代償。

 

 こんなことをできるのは天才か天災(バカ)だけ。だからこそ、天災(バカ)を知らなかった植物の精霊は不意を突かれた。

 

 

「原初の緑をたっぷり流し込んでやったからもうしばらく動けないと思うが、可愛いブラドちゃんのお顔を傷物にしてくれたんだ……覚悟は出来てんだろうな?」

 

「か、可愛いってお前……と言うか不死者だから傷物にはなりたくてもなれないけどな?」

 

 再生も出来ずに地べたに転がされた植物の精霊の上半身を見下ろしながら、アルカは原初の緑を練り上げて彼女に最も苦痛を与える獣を生成しようとする。

 かかる時間は10秒。不死者の戦闘においては長すぎるその時間も、無抵抗な相手へと向けるのにはあまりにも短すぎる時間だった。

 

「最初に言った通り俺達は敵意はないし、ここには話し合いに来た。だが、先に手を出したのはそっちだ。そう言う態度を取ったから、とりあえずまずはボコボコにさせてもらったが……何か言いたいことはあるか?」

 

 

 

 

 

 

 

「…………たい……いたぃ……いたいよぉ……ひぐっ、ぅ、うぇ……いぁ、うぅぅぅぅ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 脅迫するように強めの口調で問いかけたアルカの言葉を、植物の精霊は全く聞いていなかった。

 正確に言えば耳を傾けることが出来ないほど、()()()()()()()()()。泣きじゃくり、声を上げることも辛いのか押し殺すような悲鳴を上げ、血と植物由来であろう液体を吐き出しながら悶え苦しんでいた。

 

 

「えぇ……なに? さっきまでの強敵感どこ言ったし……」

 

「騙されるなよアルカ。()()()()()()()()()()()()()()()()。だいたい、話し合いにも応じず私の頭を消し飛ばしてきた戦闘狂だぞ? 油断したら最後の悪足掻きで道連れ大爆発とかやりかねん」

 

 

 戦闘が終わったのを見て原初の緑の防壁の中から出てきたブラドが口を挟んだ。

 

 不死者は痛みを感じない。と言うよりは痛みに慣れてしまう。生きるという行為はそれだけで苦しみを伴い、長い人生の中で苦しむ経験の多い不死者は、300年も経てば大抵痛みという感覚を特に気にすることも無くなる程度に流せるようになる。

 アルカも最初頃は痛みは辛かったが、現在では星は巡り、地に生は乱れる(ティフォン・オーバードーズ)による血管中に溶けた鉛を流し込まれる様な苦痛も、形態(モード):淡島神(エグザイル)の心臓をこねくり回されるような激痛も痛いと叫んでそれだけで済む様になってしまっている。

 加えて目の前にいるのは植物の精霊。その起源は人間の概念精霊であるアルカとは比べ物にならない。今更痛みに涙を流すような感覚が残っているはずもないし、そもそもそんなものが初めからあるかも分からない。

 

 

 

 

 

「えー……じゃあ、今回は俺の勝ちということで! おしまい!」

 

 

 

 

 

 だがアルカはトドメを刺すのをやめた。

 

 そもそも不死者は死なないので本当の意味でトドメを刺すことは出来ないが、相手の体を徹底的に破壊し、しばらく再生すらできず地に転がす屈辱を与えることに意味が無いということは無い。

 むしろ、今回アルカ達が植物の精霊の元を訪れたのは、彼女に現在の環境を激変させるような暴走をしないように注意しておくこと。ならば言うことを聞かなければまたこうするぞ、と脅しの意味も込めて徹底的にやることにこそ意味がある。むしろ、中途半端に倒してプライドを折らなければ再戦とかをふっかけられて巻き添えで地球が滅ぶ可能性すらある。

 

 それでもアルカがトドメを刺すのをやめた理由は…………

 

 

 

「だって嫌だもん! 泣いてる相手をボコボコにするとか、俺が悪役みたいじゃん! 俺は常に正義で気持ち良い側がいいの! やりたくない事はやりたくない!!!」

 

 

 

 まぁ端的に言えば気が向かないからである。

 前に同じようなことを襲ってきて返り討ちにした人間にして、その人間が不死を殺すことを目標に掲げて怪しい団体に数十年追われた経験があるのに全く懲りてないアルカにはさすがのブラドもブチ切れていた。

 しかし、アルカがアホであるのはブラドも知っていた。それよりももう対応がめんどくさいので何も言わないことにしたのだった。

 

「そう……じゃあ帰ろう。おい植物精霊。一応言っておくが、なんかやろうとしたらまたこの馬鹿けしかけるから、痛いのが嫌だったらマジで変なことやろうとするなよ? ホント迷惑だから」

 

「ブラドちゃん、なんでそんな可哀想なものを見る目で俺を見るの、って、待って置いてかないで反動で足腰が全然動か、ちょっと待ってマジで置いてくつもり!? おい全力で走るな!」

 

 足が形を維持出来ずにまともに立つことも出来ないアルカをブラドは全力で走って置いて帰っていった。

 残されたアルカは少しバツが悪そうに植物の精霊へと移す。当然といえば当然だが、彼女は原初の緑の影響で再生も出来ず、下半身を吹き飛ばされるという激痛に瞳孔を開き、短い呼吸を繰り返してどうにか対処しようとしているが、不死者の強靭な精神は発狂も気絶も許さず、逃げ場のない激痛に悶え続けていた。

 

 

「かっ……ひゅ、うぇ、ぐすっ……」

 

「あー……なんと言うか、俺は悪くないからね? 先に攻撃してきたのそっちだし……その、なので謝らない! じゃあね!」

 

 

 去り際にアルカは残された力で植物の精霊の傷口に全力で蹴りをぶち込み、産まれたての子鹿のような歩き方でゆっくりとその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────あれ?」

 

 

 アルカに傷口を蹴られ、その激痛に悶えること数時間。植物の精霊はふと、痛みが緩やかに治まり始めたことを自覚した。

 

 通常なら、いくら再生しようとも体を吹き飛ばされれば痛みの余波で数日は苦しむことになると言うのに、再生すら未だ出来ずにいるこの状況でまともに思考が出来るほどに痛みが収まり始めるなんてことはありえない。

 

 

「あの……蹴り……」

 

 

 あくまで可能性の話だ。

 あのアルカとか言うそよ風でも折れてしまいそうなほどの儚い容姿に隠しきれない邪悪さが滲み出ていた精霊が去り際に浴びせてきた傷口への蹴り。

 それが体内へと流し込まれた原初の緑とやらになんらかの作用を与え、痛覚を麻痺させているのかもしれない。

 

 あの邪悪な精霊にそんな意図があったのかは分からないし、偶然に偶然が重なった出来すぎた偶然だという可能性もある。

 

 ────それでも、初めて自分から苦痛を取り除いてくれた存在だった。

 

 

 

「────あるか」

 

 

 

 完全には治まらない痛みを紛らわす為に、試しにその名を口ずさんでみる。

 まだ覚えたての言語体系。その名が何を意味するのかも分からないまま、植物の精霊は何度もその名を呟いた。

 あるか、あるか、アるか、アるカ、あルカ、アルカ────。呟けば不思議と痛みが紛れる気がして、何度も何度もその名を呟き続けて数日が経ち、徐々に体が再生し始めた時の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと……なんで俺の名前呟いてるの? もしかして、やっぱボコボコにしたこと恨んでたりします……?」

 

 

 

 

 邪悪な精霊は、再びその姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 






・ブラドって……
女の子です。ぶっちゃけ自分が女だということは彼女自身体が女だから前から女だっただろうと思ってるだけなので喋り方は特に意識してませんし、生前女だったかなんて記録は消えてしまったので不明ですがとりあえず女の子です。キレ芸担当なのもあって分かりにくい。


・なんでアルカが勝てたの?
アルカの能力が初見殺しなのと、この時の凛花が異界領域のことを知らずに使わなかったからです。
そしてこの時のアルカならオケアノスにすら搦手で勝ちの目があるくらいには強いです。本編のクソザコは研鑽と研究をやめて久しいのでだいぶ劣化してます。

それでも過去アルカと本編凛花が戦ったら確実に凛花が勝ちます。


・偶然か故意かキック
真実はアルカ(クソ)のみぞ知る




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