死にゲーみたいな現代で生きる一般不死身の怪物さん 作:ちぇんそー娘
お久しぶりです。
番外編が生えました。アルカ(翡翠)がやらかした時の話です。
「こっちに逃げたはずだ! 絶対逃がすな!」
「だから言ったんだ……あんな娘……いや、あんな『魔女』さっさと殺しておくべきだと……」
どうしてこうなったのか、何度考えても理解ができない。
私には生まれつき不思議な力があった。手から火を出したり、人の傷を治したり。私にとっては当たり前だったけれどみんなには出来ないから『不思議な力』と呼んでいたそれは、とても便利なものだった。
これがあればみんな幸せになれる。だから積極的に人助けにこの力を使っていたのに、いつも私がそれを目の前で見せるとみんな私に石を投げて追い出そうと、殺そうとしてくる。
火がつかないところに火を分けたこと何がいけなかったのか。怪我をしていた子の怪我を一瞬で治したことの何がいけなかったのか。
怪我が早く治るのは良い事のはずなのに。
痛みに苦しむ時間が減るのは良い事のはずなのに。
何がいけなかったのか────。
「────きゃっ」
木の根に足を引っ掛けて思いっきり転んでしまう。
擦りむいた手足が痛むが、それはすぐに『不思議な力』で治すことが出来て傷はあっという間に消えてしまう。だからすぐに立って逃げることが出来る。
……でも、不思議と立ち上がる気にはなれなかった。まだまだ走ることの出来る体力はあるのに、私の足はちっとも力が入りはしなかったのだ。
地面に寝っ転がって見た空は、随分と暗い色をしていて、このまま放っておけば一雨降って何もかもを流してしまいそうな曇天。
……このまま目を閉じてしまえば楽になれるかもしれない。
視界を閉ざし、暗闇の中で呼吸を1度、2度繰り返す。それだけで段々と体から力は抜けて意識は昏い昏い沼の底へと────
「あん? 何だこれわかめ? ……うわ、人間じゃん。結界張ってたはずなのになんでこんな所に……」
めっちゃ飽きてた。
はっきり言って死にたいなーとか思っていた。まぁ死ねないんだけど。バンシーに誘われてブラドにバレない程度に人間を弄り回して遊んだりもしたけど、俺の半分の出力も出せない気持ち悪いバケモノしか出来なかったし、なんか作ろうにも思考がどん詰まっている。
既に微かなものになってる前世の記憶によれば、現在はたしか中世と呼ばれる時代っぽいので、昔かじってた魔術とか使って渡り歩いてたけど大して面白い出来事もなかったし、中世地味に長ぇし……マジで1回創世やってみようかなとか考えながら森の奥の結界の内側で寛いでいたら、何者かが結界を破った反応があった。
人間に破れる結界ではない。せっかくなので人間にも理解できる範囲の魔術要素しか使ってはいなかったが、それでもそう簡単にできるものではない。
じゃあ不死者の誰かか。凛花とバンシーにはしばらく1人にさせてと言ったし、ブラドなら強硬手段より先に連絡してくるだろうし、他の奴らならわざわざ俺の所を訪ねてこないだろうし、徐福じゃ出力的に結界を破れないだろうし、一体誰なのかと思って様子を見にいったのだ。
「なにこれぇ……ワカメ? うわ、人間じゃん。マジで? 40年振りくらいかもな見るの」
そこに居たのは人間だった。
時代を考慮しても清潔感が無さすぎる見た目とか、表面上だけ治癒したせいでボロボロになって変な方向に曲がっている手足とかもじゃもじゃの髪の毛で一瞬判断に迷ったが人間だ。
しかも治癒。そう、この人間ってば明らかに魔術を使って体を治癒した形跡がある。歳の頃は6歳ほどだし、親が魔術を使える人間なのだろうか? それだとしたらなんでこんな森の奥で転がっているのか疑問が出てくるが。
……もしもの話だ。
もしもこの子の親が魔術師でもそうでなくとも、6歳で治癒を使えるようになった人間は見たことがない。この子が自分で自分を治癒していたとすれば、それはとんでもない才能を秘めているということになるだろう。
確か最後に人間を育てたのは300年以上前で、最後はどうなったのか……なんかよく覚えていないが、多分俺ならば大丈夫だろう!
「……うぅ、おかあ、さ?」
「はいはい俺はお母さんじゃないですよーっと」
片手で持ってみるけどだいぶ軽い。
歳の頃は10代前半、体格などから考えても軽すぎる。栄養もろくに取れていないみたいだし、このままじゃ衰弱死するな。人間の世話なんて久しぶりで、上手く改造せずにできるか不安だけどやってみるか。
「おい待てそこの女! そいつをどこに連れていく気だ!」
と、立ち去ろうとした時に背後から声がかけられた。
そこに居たのは成人した雄の人間2人。ここは結界内だから、このワカメ娘が破ってきたのを伝って入ってきちゃったのだろう。そうでもなきゃ人間が入ってこれるわけが無いし。
「おい聞いているのか! それとも……お前もそいつの仲間か?」
槍先をこちらに向けておどしているようだけれど、多分あんな粗末な槍じゃ……あれこれ農具か? よくわかんねぇけど俺の肌には傷もつけられないだろうし何も恐れることは無い。
というか人間だいぶ退化したな〜。一昔前の奴らなら私を見ればその時点で力の差に気が付いて逃げるか跪くかしていたのに。まぁ数が増えれば質が落ちるのは仕方ないのかもしれないけれど。
「無視をするな! お前、その髪の色に瞳の色……やっぱりお前も魔女か!」
「お、おい……なんかアイツ変だぞ。マジでやばいんじゃないか……?」
槍を突き出してくる男は見所なしだけど、その後ろにいるビビりなやつはどうやらそうでも無いようで俺との実力差をわかっているようだ。人間にしてはやるじゃん可愛らしい。
まぁキャンキャンうるさいのは代わりないし、向かってくるようなら……。
「……私を、置いていってください……」
「あら、ワカメちゃん起きてた?」
ボロボロのワカメちゃん(仮称)は騒ぎの中でいつの間にか意識を取り戻していた様子で、人間では珍しい赤色の瞳で私を見つめながら、今にも消えてしまいそうな声を絞り出していた。
「私を匿ったら、貴方も酷い目に……だから、置いて逃げ……」
「んー、別にお前のお願いを聞いてやる義理ないしなぁ」
「さっきから俺を無視しやがって! お前もそのガキの仲間ってことで──」
「ハイハイわかったわかった。ちょっとみんな黙ってくれや」
せっかく今は中世なのだ。
体内の構造を少し変えて魔法陣を作り出し、指を弾くことでそれを起動させた。原理としてはめちゃくちゃ簡単な異界領域で現実に物理法則を無視した現象を限定的に発生させる。
例えば火を出したりだが、今回はさっきからうるさかった男の頭の内側から爆発を作り出してみた。
ボンッ、という小気味好い音と共に男の首から上が弾け、辺りに赤とピンクが散らばっていく。
「…………ぇ」
「ひ、ひぃっ!? うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「あーちょっと待ってそっちの君っと」
逃げようとするもう一人の男の脳に向けて形を変えた指をぶっ刺してとりあえず動きを止める。えーっと……人間の脳の形ってどうだったかな?
「ここをこうして……うーん……俺の声聞こえてる?」
「あ、あぎ、あ、ある、か、さま?」
「よしよしいい感じ。俺のお願い聞いてくれるかな?」
「い、いだ、やめ、ゆる、いぎぃっ!?」
やべ、ぐちゃって音したし脳の変な所潰しちゃったかもしれない。
割と人間って壊れやすいから慎重に脳を弄らなければいけないのを忘れていた。
「じゃあここを刺激して、今度はどう?」
「あ、あるか、様の、ご命令を、なんで、え、聞きます」
「よし。じゃあ俺が抱えてる子はクマ……まぁこの辺りにいる適当な肉食獣に食われてるところを見たって追ってる奴らに報告しといて」
「あ、あ、わかり、ましたぁ」
「あと、それでも追跡をやめないような奴がいたらそいつの前で服を脱いで、自分の体を少しずつちぎりながら『あの森に近づくな!』って叫んどいて〜。この時代の人なら結構そういうの効きそうだし」
「り、りょうか、あ、です。あるか、様」
とりあえずこんなものかな。あとはまぁ、別に来なければ手間が省けるしこの森ごと焼きに来たら全員殺せばいいしなるようになれだ。とにかく、そんなどうでもいいしどうにでもなる奴らよりも俺の興味は才能溢れるワカメちゃんの方に集中している。
「それじゃ、帰ろうかワカメちゃん」
「…………え、帰る? それにワカメちゃんって誰……?」
うーん…………。
めんどくさい!
当身!
「あら、目が覚めたかしら?」
最初に目に入ったのは、知らないお姉さんだった。
ふわふわの白い髪の毛と緑色の瞳。どちらを取っても見たことの無い不思議な雰囲気の人だ。
「あっ、まだ動いちゃダメよ。『治癒』はしておいたけど、純粋に体が衰弱してるから、今は安静にしていて。別にとって食ったりなんてしないから。ね?」
逃げようとしたのではなく、辺りを確認しようとしただけなのだけれど、上手く体が動かなかった。
そういえば、ベッドでゆっくりと体を休めたのなんていつ以来だろうか?
……いや、それよりもだ。
「いま、治癒って……治したって、こと?」
「えぇ。……あれ? どっちも同じ意味じゃなかったっけ? あってるわよね?」
怪我を一瞬で治すことは『普通』ではない。
私はそれを、短い人生の中で嫌という程知ってきた。
けれどこの人はまるでそれを当然のように言ったのだ。時間をかけずとも、怪我とは手順さえ踏めばすぐに治せるものだと。
「そういえば自己紹介をしていなかったわね。私は……やっべ名前とか決めてねぇわえーっと……アルカ。『森の魔女』アルカよ。貴方の名前は?」
魔女。魔女、魔女。
何度も言われてきた言葉、その言葉と共に、いつも私は虐げられてきた。けれどこのお姉さんはその言葉を誇るように、空いた方の暖かな手で私の汚い髪の毛を梳いてくれた。
「……え、なんで泣いてんの? 俺なんかしたっけ?」
「あれ、私、泣いて……ます?」
殴られたり掴まりたりする以外で誰かに触れてもらったのは、もう本当に覚えていないくらい昔が最後だ。
ただ髪を梳いてもらった、それだけで今まで人を助けてきてよかったと、自分の意思を曲げないでよかったと思えるくらい、その手は暖かかった。
『魔女』という忌み名が、こんな暖かな意味を持っているのならば、それだけで私は今までの人生の全てに胸を張ることが出来た。
だって、『魔女』はこんなにも私の心を救ってくれたのだから。
「私の名前……ウィ。ウィって言います。貴方と同じ、魔女です」
「泣いたり笑ったり忙しいなー……。っと、ウィちゃんね。よろしく」
「ところで、その喋り方はなんなんですかアルカさん?」
「へ?」
「いや、私を拾った時はもっと男性っぽいというか、強めの口調でしたよね。なにか意味がある行為なんですか? そして実際どちらが素なのでしょうか?」
「あ、なに? 普通に覚えてる系? 夢とかそういうのだと思ってたり、朦朧として覚えてないとかそんな都合いい感じにしてくれないタイプ?」
「あ、また話し方変わりましたね。なんかそれも魔女的に必要なことなんですか? そもそも魔女ってどういう意味なんですか? あとなんで服着てないんですか? 寒くないんですか?」
「やべ、癖で服着てなかったわ。あー、うん。ちょっと待ってね」
そう言いながらアルカさんは私の頭の上に手を置いて…………おいて…………あれ、なんだか、きゅうにあたまがふわふわして……………………
「………………」
久しぶりだから上手くいったかわかんないけど、トランス状態に多分出来たはずだ。
焦点の定まらない目でぼーっと虚空を見つめているウィちゃんのほっぺを軽くはたいてみたり、髪の毛を引っ張ったりしてみるが反応はない。ヨシ! 大丈夫なはずだ。
「さてと。とりあえずまずは『2日前から現在までの記憶を全て忘れて』っと」
「……はい、わかりました」
これで多分色々めんどくさいことは忘れてくれたはずだ。もう一回同じやり取りをしなければならないと考えるとちょっとめんどくさいけど、人間って割と猜疑心強いからこうしておかなければ謀反とかされたり、後ろから刺されたりするんだよね。
えぇ、経験談ですとも。まさか後ろから刺されて四肢を切られて地下室にぶち込まれて怪しい宗教の御神体にされた時はもう笑っちゃったね。
あとやっておくべき催眠あったかな?
「あ、そうだ。『貴方は他人が怖い?』」
「……はい」
「『貴方は他人が憎い?』」
「………少し、だけ」
「よし。じゃあ『私以外の人間への恐怖、憎悪を増幅させて』」
「……わかり、ました」
これは一応の『保険』だ。
こうすることでウィちゃんは極度の人間不信、対人恐怖を引き起こして同時に俺にのみそれを感じないようになる。そうなると無意識に俺の近くが『安心する』と思い込むようになり、依存するようになる。こうすれば裏切られる心配も、逃げられる心配も無くなるっていう一石二鳥の神の一手なのだ。
でもあんまり精神弄りすぎるとこの子本来の才能を潰したり、脳に影響を及ぼして魔術師として上手く育ってくれないかもしれないからこれ以上はやめておこう。これだけ貴重な才能を持つ
……という訳でこの子がまた起きる前になんか適当に服を着て、魔女っぽい感じの設定考えて、この子が魔術師として大成するのにかかる時間……普通の人間から考えて30年くらいだろうか? その期間しっかりとこの子の『師匠』として教えてあげられるように演技しなければならない。
まぁ俺なら大丈夫だろ!
演技は得意分野だぜ!
・アルカ
本編と比べてクズ度が少し低いが、倫理がワンランクダウンしてる頃。この後から数百年かけて、ナチスとドンパチした後本編のメンタル状態になる。
・バンシー
クソレズな頃
・クソレズ
凛花
・ブラド
色々あってちょっと病んでる頃。