死にゲーみたいな現代で生きる一般不死身の怪物さん 作:ちぇんそー娘
二話ですの!
拝啓、不死友の皆様へ。
お元気でしょうか?
俺はちょっと読書に集中したいからネット断ちを3年くらいすると皆様に宣言して……あれから10年が経っていたことに最近気が付きました。
しかも、その10年の間に突如として『ゾンビ』が現実にも現れて文明社会は崩壊。当然ネットも死ぬわ電子書籍は軒並みパーになったりと結構ダメージがデカかった。
というかいくら4000年以上生きてきて時間感覚バグったからと言って、10年間ほとんどこ〇亀読んで時間潰すとかアホだろ。日暮ですら2回は起きるぞ。もうここまで来ると俺がアホなんじゃなくてこ〇亀が偉大なだけだろ。なんだよあのネタの多さと時代の話題の先取り。秋〇治大先生は神かなにかだろ。つまり俺はアホじゃない。
まぁ俺がアホであるかどうかについてはもう完全に答えが出ているので割愛するとして、だいたい100年近く振りに人間のリア友ができました。
俺の適当な言い訳にも『恐怖で錯乱している』と判断してくれたのか優しく接してくれている、こんなゾンビが蔓延る世界で生きていくには優しすぎる人達である。
リーダーの戸塚 剛は一体現代日本のどこでそんなガタイが求められたのかと言うくらいガタイが良く、そのガタイだけあってか包容力のある男だ。何やら経歴はしれないが銃火器についてやたら詳しく、多分コイツらがここまで生きてこれた理由の6割はこの剛という男だろう。なんか俺が娘に似てるとからしくやたら世話焼いてくれるけど、白髪と緑眼で人種が分からない俺の顔立ちと似てる娘ってなんだ……?
年齢も知らんが、まぁ人間なんて100年経たないうちに死ぬんだから、1歳も100歳も誤差だよね!
あと俺と最初に会った比較的若い男、琴吹 葵。
マジでなんでこんな所まで生き延びられたってくらい正義感が強く優しすぎる男だが、人間にしては我欲というものが薄く、植物と会話しているかのような話心地は悪くないし、観察眼に優れていてこちらの些細な変化に気が付くまぁ悪くない男だ。
そしてもう1人が南 照香。
余り喋らないし必要な時以外は体力温存のために寝てるしでほんとよく分からない女だけど、多分格闘技か何かをやっていたのかめちゃくちゃ強い。殴り合いなら剛も負けるだろうし、人間離れした直感を持っていてなんか怖いという印象しかない。
現在俺はこの愉快なメンバー達と共に、俺は大昔に誰かからつけてもらった名前であるアルカを名乗り、人類がゾンビに怯えることなく生活出来る生存圏を探して絶賛冒険中、と言ったところだろうか。
正直言ってめちゃくちゃワクワクしてたよ。バイオ〇ザードとか好きだし、ぶっちゃけ俺はゾンビに噛まれても何もならないから合法的に銃をぶっぱしまくって肉塊を吹き飛ばしまくるのサイコー。俺がゾンビ相手に血の気を見せまくっても皆は「ゾンビによっぽど酷いトラウマがあるんだろう」とか「自分を守る為に別人格を作ってるんじゃないか」とか思われてるようでめちゃくちゃ都合が良い。
……ただ、一つ誤算があったとすればゾンビの強さだ。
ゾンビって基本的に弱い個体はあーあー呻きながら歩いてくるだけで、数の暴力が基本なところがある……なんて言うゾンビの常識は通用しない。
このゾンビ達は昼間は活動が鈍くなるが、夜だともうめちゃくちゃ走る。五感は野生動物並みに鋭く、人間見つければ自身の体が引きちぎれるまで追ってくる。筋力も圧倒的に優れており、武器無しで立ち向かえば確実に死ぬ。その上強い個体は特殊能力を持っており、これがあまりにも初見殺しで能力持ちにあったらまず絶対人が死ぬ。
実はこのチームも俺が出会った時は4人居たのだが、その1人は一度殺した瞬間無傷で復活するとかいう糞能力を持った蜘蛛型のゾンビに頭を食いちぎられてしまったし、道中も何人か仲間が増えたりしたのだが皆突然火を吹かれて焼死したり、真夏に凍死したりして帰らぬ人になってる。
現メンバーが生き残っているのは、強いからではなくそう言った初見殺しの技を名前も覚える前に殺されてしまったモブ達が受けたのを見て、観察眼に秀でた葵が能力を考察し、やたらタフな剛と猿みたいな動きをする照香の2人で追い詰めるという動きができていたからに過ぎない。
うん。
ここまでくるといい加減わかってくるけど、これゾンビゲーじゃなくて死にゲーだわ。しかも残機もなければリトライもないタイプの。
まぁ俺からすればどうせ死なないし、どんな状況も無限残機だからひたすら銃が撃ててサバイバル的な感じで楽しければどうでもいいけれど。それでも一応建前として助けて貰っているし、人類に滅ばれたらもう二度とネットが出来ないかもしれないのはきついのでぼちぼち仲間が死なない程度、されとて俺が不死の怪物だとバレない程度に頑張っていた。
いたんだが……まぁこんな人類ハードモード状態じゃいつかはそういう日が来るよねって話だったのだ。
◆
「みんな……俺を置いて逃げてくれ。このままじゃ、全員やられるだけだ……」
「何言ってんだ葵! 俺に仲間を見捨てて逃げろってか!? 弱音言ってる暇があればいつもみたいに観察して突破口見つけやがれ!」
「怪我人は黙っててください。貴方の声を聞いてると、肩の力が抜けて不愉快、なんですよ」
強気な言葉を口にする剛と照香も全身裂傷まみれで何とか致命傷は避けている状態で、葵に至っては左目と腹部を切り裂かれてもはや虫の息。
『グォォォォォ!!! ォ、ォオオオォォォ!!!』
俺達はナナフシのような姿をしたゾンビ……しかも人間をナナフシに無理やり改造したかのような精神的にかなりくるビジュアルをしたゾンビと相対していた。
4人で次の目的地に向けて進んでいて、あと少しで着くというタイミングでこいつに襲われた。いつものように初見の攻撃をくらって死ぬ役目のモブがいなかったせいで、葵がコイツの繰り出す不可視の斬撃にやられて重傷を負ってしまったのだ。
出血と痛みで葵にいつもの冴えがなく、ついでにかなり強力な個体で剛と照香もコイツの繰り出す不可視の斬撃の攻略方法を見つけられずジリ貧。
チーム内では弱くてあまり正面戦闘に向かない俺は遠くから狙撃を繰り返しているが、中々俺もコイツの能力が分からない。
どうしたものか。
ここで生き延びるのは簡単だ。でもそうしたら俺がバケモノだということがバレる。なんだかんだで居心地の良かったこのチームから抜けるのは嫌だ。
でもそれ以上にコイツら良いヤツらなんだよなぁ……。
…………そんな時、ちょっと良い考えが俺の脳裏を過ぎった。
これってもしかして
数多のアニメやゲームで使われてきた
「────皆さん、ここは私に任せて逃げてください!」
俺のその言葉を聞いて、負傷していて戦いに参加できないので俺の隣で座り込んでいた葵が真っ先に反応した。
「何を言っているんだアルカさん! そんな事したら君が……」
「でもこのまま戦えば4人揃って死ぬだけです。だったら私1人の犠牲で皆さんを逃がした方が良いと思います」
『ここは俺に任せて先に行け!』
死亡フラグとも取れる言葉であるが、時には逆に生存フラグにもなる。
味方を逃すためにただ1人残り、強力な敵と対峙するというカッコ良いヤツ。
不自然なく皆を逃がせて、ついでに上手くいけばそのあとなんだかんだで逃げきれたということにして合流すれば万事上手く収まるというもの。
「剛さん! リーダーならチームのメンバーがより多く、確実に生き延びられる方法を取るべきだと思います」
「ふ、ふざけんな! それなら俺が残るぞ! 老い先短い俺なんかより、お前達若いのが……ぐおっ!」
ナナフシゾンビの攻撃が勢いを増し、剛の使っていた銃が綺麗に二等分されてしまった。さっさと説得をしないと、誰かしらが致命傷を負うことになりそうだ。ここは『情に訴えかける作戦』でいこう。
「剛さんも葵さんも照香さんも、皆さんは私と違ってこのチームのみんなを生かす為の特技があります。それだったら、何も特技のない私が皆さんを生かすのが良いと思います。……それに、私は皆さんと出会ってなかったら、今日まで生きることも出来なかったんです。役立たずの私でも、せめて最期くらい皆さんの役に立ちたいんです!」
「──────ッ、くっ、──────照香ッ! 逃げるぞ!」
照香がナナフシゾンビに爆弾を投げつけ、怯んだ隙に二人が全力でこちらへと走り出す。
よし、『情に訴えかける作戦』大成功!
俺ってば見た目だけなら儚げ美少女だし、助けて貰ったとかそういう言葉を引き合いに出すとみんな提案を断りにくくなるんだよね。
「照香さん。葵さんをよろしくお願いします」
「別に、アンタに言われなくても一応仲間だし。……死なないでよ。寝覚めが悪くなる」
お?
照香って口数少ないなーとか思ってたけどもしかしてツンデレ? もしももう一回合流出来たらじっくり攻略したいなー。顔可愛いし、何よりツンデレキャラはツンツンし続けて溜めまくった先に放たれるデレ能力威力にこそ持ち味があるんだから、どうせならクール無表情の照香がデレデレになるところとか見たいし。
「待って、待ってくれよ皆! アルカさんを囮にするなんて、そんな……そんな事!」
正義感の強い葵くんはやっぱり認められないようだが、腕っ節でいえば元から剛にも照香にも勝てないのに、今の虫の息の彼ではがっしりと照香に捕まえられてろくに抵抗することも出来ない。
「俺だ、俺が残る! 今の俺でもみんなが逃げるくらいの時間なら稼げるはずだ。だから──────」
叫ぶ葵の口を優しく指で押さえ、必殺の時には村人を堕落させる淫魔扱いすらされた美少女儚げスマイルを喰らわせて完全に言葉を失わせる。
「葵さんは私のような人をきっと沢山助けられる。だから、生きてください」
葵くんもさすがにここまで言われたら何も言えず黙ってしまい、その間に照香がしっかりと彼を担いで剛と共に走り出した。
…………完璧だっただろ。
完全に仲間を助ける為に1人残るヒロインロールだっただろ。強いて言うなら俺の容姿とロールが儚げ美少女過ぎて生存フラグ感が全くないことは問題だが、まぁなんとかなるだろ……
『グォォォォォ!!!』
「ん? あ、やべ────────」
爆弾のダメージから復帰したナナフシゾンビが咆哮を上げると同時に、周囲の瓦礫諸共俺の体は切り裂かれ中身を撒き散らしながら見事に17分割されてしまった。
◆
「ぁぁぁぁぁああああああ!!! このクソゲーゾンビが! これで128死だぞ!」
まぁ全身切り刻まれたくらいで4000年間生きてきた俺が死ねるなら、もうとっくに自殺してるよね。
それはそれとしてこのゾンビ、本当にクソゲー極まっている。
攻撃の法則性は何となくわかってきたのだが、それがあまりも特殊すぎる。
どうやら不可視の『場』を周囲に生成し、目を光らせながら咆哮を上げるとそれが実体化。重なっていたものを押し出すようにして不可視のままに出現する。
要は斬撃トラップを周囲において咆哮でそれを起動させるものなのだが、その配置がエグい。隙間はせいぜい人1人がギリギリ通れるくらいしかなく、その上何をしても見えないので血のシャワーとかで姿を見るのも無理。形も複雑怪奇にぐにゃぐにゃ曲がっているし、むしろなんで剛と照香はこの攻撃からギリギリ致命傷を回避出来てたんだよ。俺なんて最初の10死くらい何が何だかわからずバラバラにされたぞ。
しかも不可視の斬撃の位置を覚えて避けようとするとそこに触手を伸ばして攻撃してくるし、そもそも位置を覚えるのが無理ゲー過ぎたりする。酷い時は1cmくらいの大きさの『場』が避けた先にあって脳の中を切り裂かれ死とかあったよ?
そして128死目。
俺だって一応ゲーマーなので、こんな死にゲーじみた状況ならちゃんと攻略してクリアしたいと思ってきたが、そろそろ飽きてきた。
これ死にゲーってかもうクソゲーだよ。相手の手札が全部わかってんのに、純粋にクッソ避けにくい攻撃連打されて嵌められてる状況とか何も楽しくないよ。
「あー! あー! あー!!! もう面倒臭い!」
面倒臭くなったのでとりあえず装備を全部放り投げてダッシュで距離を詰める。
当然、ナナフシゾンビは咆哮を上げ不可視の斬撃を発生させて俺の全身を細切れにするが、
本気で再生すれば例え全身を灰にされようとも、一切勢いを落とすことなく俺は走り続けられる。
そうして無理やりナナフシゾンビに触れられる距離まで近づいた瞬間、俺は全身に力を込めて
爆発。
うん、爆発。
ワン〇ースとかでもあるじゃん? 血流を速めてすごい速度を出すアレ。心臓をフル稼働させるのと、ちょっと昔習った魔術を使って体を思いっきり爆発させる。
超高速で弾け飛んだ肉や骨は超凶悪な榴弾砲のようにナナフシゾンビの体を吹き飛ばし、抉り穿ち、細かな肉片となり完全に動かなくなった。
そして、爆発した張本人は余裕で再生しておしまい。
長く生きてるとね、自爆が最強で超楽な戦法だって気がつくんだよね……昔は魔術使ったり、異能使ったりしてたけどアレ使うと肩が凝るんだもん。
とはいえこの技にデメリットがない訳では無い。
……ゲーマーとしてのとてつもない敗北感。攻略サイトをツイ見ちゃって、めちゃくちゃ苦労した敵が簡単に倒せてしまった時のあの虚無感。
ちくしょう!
勝てればいいんだよ勝てれば! だいたい元を辿ればどう考えても普通の人間じゃ1000回は死なないと勝てないバランスの敵を出す方が悪いんだ!
何はともあれ結構時間はかかってしまったが倒せたんだから皆の後を追うとしよう。俺が本気で探知して追いかければ数分で追いつくだろうし何も焦る必要は…………
そう言えば、去り際の葵くんに17分割されるところ見られた気がするけど……まぁ大丈夫か。
アルカの名前の由来は言わずもがな
伊達に4000年生きてないので知識も技量もカンストしてるし魔術やら特殊能力やらも色々あるけど疲れるから不死身ゴリ押しブッパが正解