ここで少し、とある男が歩んだ生について話そう。
男が生まれた時は、争いの時代の中だった
男が育った場所は、争いの中にある場所だった
男の周りの人間は、誰も彼もが何らかの形で戦争に関わっていた。
自分とよく遊んでくれた人がいた
自分にお菓子を作ってくれた人がいた
自分に稽古をつけてくれた人がいた
自分に勉強を教えてくれた人がいた
自分がとても好きだった人がいた
自分ととても仲が良かった人がいた
自分にとって、とても大切な人がいた
その人達は、いなくなった
みんな戦争に行って、みんな戦いに行って
その人達は、もう帰ってこなかった
男はその人達に、二度と会う事はできなかった
男は戦争が嫌いだった
自分の大切な人を奪っていってしまう戦争が嫌いだった。
そして戦争は、一先ずの終焉を迎えた
もう誰も、戦争に行く必要がなくなった
でも男は不安だった
また戦争が起こる事が、それによって自分の大切な人がいなくなってしまう事が
だから男は強くなった。
自分の大切な人を守れる様に
自分以外、もう誰にもこんな思いはさせない様に
男は強くなった
とてもとても強くなった。
そして成長と共に、男は自分がいる世界の事が段々と理解してきた。
戦争は終わった
だけど、それ以外にも「危険なモノ」は世界に沢山ある事を
そんな「危険なモノ」は、自分たちの近くにも潜んでいる事を
その「危険なモノ」は、いとも簡単に自分の大切な人を奪っていってしまう事を
そしてそういう「危険なモノ」から皆を守る為には、自分もまたそんな「危険なモノ」にならなければならないという事を
だから男は、「危険なモノ」になった
自分の大切な者を守るために、悲しい思いを誰にもさせない様に
男は強くなった、強くなり続けた
男は戦った、戦い続けた
そして男は重要な、重大な選択を迫られた。
男の近くに、とても近くに、「危険なモノ」が存在した
そしてその「危険なモノ」を消さなければ、とても多くの人が犠牲になってしまう
選択とは、その「危険なモノ」を消すか否か
男は悩んだ、とても悩んだ
男は考えた、凄く考えた
男は苦しんだ、途方もない程に苦しんだ
何故ならその「危険なモノ」は、他ならぬ自分が守ってきた「大切な者」だったからだ。
男は悩んだ、頭が捩じ切れるほど悩んだ
男は考えた、脳が悲鳴を上げ続けても考えた
男は苦しんだ、心が八つ裂きにされ魂が蹂躙されるほど苦しんだ
そして男は選択した
「危険なモノ」を消し去る事を
自分が守り続けてきた、自分にとって最も大切な「危険なモノ」を消し去った。
男には、弟がいた
この世で一番大切な弟がいた
弟は何も知らなかった
自分の兄が
自分の両親が
自分の「大切な者」が抱えていた「危険なモノ」を、弟は何も知らなかった。
弟は何も知らなかった
男は何も教えなかった
弟は男を憎んだ
男は弟に憎まれた
だから弟は、いつか男を殺してやると思った
だから男は、いつか弟に殺されようと思った
時が流れた
男の前に、弟が現れた
弟はとても強くなっていた
男と弟は戦った
激しい戦いだった
そして弟が勝った
そして男は負けた
そして男は死んだ
―――許せ■■■…これで最後だ―――
男は死んだ
大切な者のために戦い、戦い続けて死んだ
大切な者を守り、そして守り続けて死んだ
男は死んだ
強くなった弟の姿に安心して
最後に残った自分が最も「大切な者」を守れた事に安堵して
男はそのまま、息を引き取った
これが、男が歩んだ道だった
これが、男が歩み続けた生き様だった
これで、男の話は終わりだった
そう
終わる筈だった――。
その夜は、雲が少ない月と星がよく見える夜だった。
そこはとある河原の道
川は月と星の光を反射し、鏡の様に夜空を映していた
夜風は頬を撫でる程度に吹き、季節がら暑くも冷たくもない
そして耳を澄ませば、川の潺と草木に宿る虫達の音色が静かに響くような夜だった。
そしてそんな道を、少女が一人歩いていた
艶のある長い黒髪に、同性でも見惚れるであろう貌とプロポーション
手足はスラリと伸び、体は女性らしさにあふれ
されでも内には確かな鍛錬と修練の結晶を宿して、美しさと強さを兼ね揃えた肉体だった
少女の名前は、川神百代と言った。
退屈を紛らわす様に、心の暗雲を誤魔化す様に、闇夜に浮かぶ月を眺めながら行き慣れた河原の道を歩いていた
「……もう少し、楽しめると思っていたんだがなー……」
溜息交じりに呟く
今日は久しぶりに他流派の武術家との、正式な手合せの日だった
長き伝統と確かな功績を持つ古流の一派
実力・技術は勿論、高い人望と器量を持つ指折りの達人
百代自身、その名を幾度となく耳にした事があり、兼ねてより手合せしてみたいと思っていた者の一人だった
だから、今日こそは解消できると思ったのだ
自分の渇きを、自分の疼きを……
確かに凄かった
確かに強かった
だが、それだけだった
蓋を開けてみれば、いつもと同じ様に相手が倒れ伏し、自分はただそれを静かに見下ろしていた
自分が渇望していた時間は、あまりにも短く終わってしまった
終わって胸にあるのは、物足りなさ
飢えにも似た強者を求める己の疼きだった。
「…なまじ実力があった分、余計に物足りなく感じてしまうな…」
空腹時に下手に食い物を口にしてしまうと、余計にお腹が減る…その感じが今まさに百代が感じている事だった。
足りない、これでは足りない、全然足りない
自分はもっと戦いたい
こんな不完全燃焼な戦いではない
もっと強い者と闘いたい
もっと血が滾る様な、もっと心が脈打つ様な、もっと魂が震える様な
そんな強者と、心行くまで戦いを楽しみたい
しかし、その望みは今日も叶える事が出来なかった
一体いつからだろう?自分が勝って当然になったのは?
一体いつからだろう?戦えば戦う程に落胆していく様になったのは?
一体いつから、こんな風になってしまったのだろう?
「……今更、か……」
気分を紛らわせ様といつもの「秘密基地」に行こうかと思ったが
今日はファミリー全員の都合が悪いのをすっかり忘れていて、秘密基地はもぬけの空だった
「…ワン子の奴が捕まらなかった時点で、思い出すべきだったな…」
小さな呟きと溜息が響いて、川神百代は再び歩みを進める。
悪い間というのは、どうしてこう連続でやってくるのだろう?
何となく気分が削がれてしまい
だったらせめて、月夜の晩を楽しもうと百代は帰宅ルートを大きく変えて、河原の道を歩いていた。
闇夜に浮かぶ月を見ながら
川の潺を聞きながら
夜の風を肌に感じながら
川神百代は、当てもない夜の散歩をしていた
もう、どのくらい歩いただろう?
月夜の晩も粗方堪能し、そろそろ戻らないと口五月蠅い祖父からまた長い説教を受けるだろうと思い道行く方向を変えようとした
正にその時だった。
「………おーいおい………」
自分の視界に入ったソレを見て、百代は思わず呆れた様に呟いた。
百代の視線の先に映るのは、一人の男
背の伸びた河原の草原の中に横たわる、一人の男だった。
「…酔っ払いか?それともこのご時世に行き倒れか?」
髪を掻きながら、再び呆れたような様子で百代は呟く
暗がりで恰好までは良く見えないが、倒れているのが成人男性という程度は分かる
ここは繁華街も商店街からも離れているので、こういう手合いは滅多に遭遇する事はない
百代はその事を少し疑問に思ったが、そのまま倒れている男に足を進めた
放っておいても目覚めが悪いし、それに急病人の類なら見捨てる訳には行かないだろう。
百代は歩みより、倒れた男の体に手を伸ばして
「おーい生きているか?生きているのなら返事を」
その言葉は、最後まで続かなかった。
「……ぇ?」
それは一瞬よりも短く起こった出来事
回転する視界
体に走る衝撃
倒れる身体
捕まれる手首
圧される喉元
封じられた動き
「――――っ‼?」
その瞬間、百代は自分に起こった事を把握する。
自分は倒れている
自分は体を押さえつけられている
自分は拘束されている
何故? どうして? どうやって?
一体ダレがどうやって?
瞬時に湧き起こる疑問
一瞬前の出来事が、未だに受け入れられていない
あの瞬間
反射的に体が迎撃に出たが、それは無意味だった
反射的に声が出そうとしたが、それは無駄だった
それは完璧な拘束
動きと声を封じられている百代自身が感動を覚える程の、圧倒的な技だった。
「――――」
「…………」
――月が見える――
――川の潺が聞こえる――
――夜の風を感じる――
「――――」
「…………」
――顔が見える――
――自分の鼓動が聞こえる――
――相手の呼吸を感じる――
互いの視線が交差する
目に映るのは、闇夜に浮かぶ月と赤い両の瞳
そんなあまりにも短く、あまりにも永い間を置いて
グラリと
力尽きた様に、糸が切れた人形の様に
男の体は百代の上に崩れ落ちた。
「―――――――」
男は動かない
力なく息絶えた様に百代の上に倒れこみ、一切動かない
百代は立ち上がらない
もう拘束は解かれているのに、もう自分を縛るモノはないというのに
川神百代は、立ち上がらない
痛い程に、胸の鼓動が激しく鳴っていた
燃えるように、体の熱を感じていた
恐ろしい程に、気分は高揚していた
それら全てが、川神百代に今の出来事が確かな現実だという事を教えていた
これが最初の出会い
これが二人の出会い
これが始まり
ここから始まる全ての物語の始まり――。
続く
あとがき
自分の書いた妄想にここまで読んでくれた方々、本当にありがとうございます!
今回はNARUTOのとあるキャラ(オリジナルじゃないっす)がまじ恋の世界で色々やっていく…という発想の元に書き始めました!
今回は割とシリアスっぽい感じで始まりましたが、一応作品としてシリアス成分はそんなに多くないです。最初だけだと思います。
そしてどうして「NARUTO」のキャラが「まじ恋」の世界に?
という質問に関してですが、これはとりあえずそういうもんだって事でお願いします(笑)
そしてまじ恋から出てきたのは、先ずは百代さんです。
まだこの先彼女をどう扱っていくかは言えません、ですけどこの作品における主要キャラの内の一人です。
それでは次回にお会いしましょう。