・今回の話は一部の方々にとって、刺激の強い内容になっております
・今回の話を読んだ後に、読者の方々にどのような影響を与えたとしても当方一切責任を負いません
・上記の注意を守れる方のみ、完全自己責任で今回の話をお読み下さい
「…ふむ、成程…」
感心したかの様なイタチの呟きがこの一室に響く
イタチが居るのは川神院の書庫の役割を持つ部屋だ。
百代と一子の紹介で知り合った「風間ファミリー」
そして彼らと百代を交えた「勉強会」
彼らとの繋がりを通して行われる授業もある程度に重ねて、イタチも順調に知識を蓄えていた。
しかし、勉学というのは授業だけではその効果を発揮できない
授業で学んだ事を復習し反芻し身に付け、それを自身の糧にしなければならない。
また復習と同じように大事な事が予習だ
予め授業で習う内容に目を通しておき、授業の効率化を図る
この二つが、勉学の上で最も重要な要素と言えるだろう。
最初の頃とは違って、今はイタチ自身もある程度に勉強のコツが掴めてきた
故に授業と課題以外にも、こうして自分から動く事が出来た。
そして百代の祖父の鉄心にこの書庫の使用許可を貰って、イタチは仕事の合間を利用して百代との授業以外にもこうして動いていた。
「…争いの歴史が長いのは、どこも一緒か…」
静かに呟く
手持ちの参考書やここにある書物でも、その事実は容易に読み取れる
戦争の歴史、手元の資料の記載だけでも千年に迫る
国内だけでコレだ、ならば世界規模で見ればこの比ではないだろう
そして戦争は、一つの国や軍や組織ではできない
必ずそれには相手がいる、つまりこの歴史は日本のみならず世界的に見ても似たような国がある…という事だ。
皆が皆、仲良しこよしになれる訳ではない
争いとはどれだけ親しい間柄でもどれだけ些細な理由でも起きる
幾ら記憶喪失の自分でも、それくらいの事は解る
それ位の事は重々承知している…だがやはり、考えさせられるモノがある
そして、それはもう一つの事実を指している。
「…だからこそ、今の平和がある…」
無論、手放しで喜べる平和ではないだろう
戦争の様に大規模な被害がないだけで、小競り合いの様なモノは周辺諸国でも到る所で起きている
そうでなくてとも、日常では幾つもの悲報がニュースや新聞で報じられている
殺人や強盗を初めとする犯罪や、日々の諍いや揉め事
これ等は、凡そ『完全な平和』とは言えないだろう
「…だが、それでも平和はある…」
だがしかし、それでも確かに平和は存在する
自分の目の前に、自分が住んでいるここに、確かに現実に存在する。
それは一時的かもしれない、上辺だけかもしれない、いつか崩れるかもしれない
今この場でも、誰かが傷ついているかもしれない、血を流しているかもしれない、命を奪われているかもしれない
だが、あるのだ…今ここに、確かにソレはある。
日々学び舎や仕事場に通い、知人友人と顔を合わせる
三度の食事、清潔な衣服、暖かい寝具、己の居場所である家
それらが当たり前の日常、そう誰もが思える平穏
長い時を経て、幾多の戦い、数多の犠牲、万人の血と屍
それら全てと引き換えに、やっと得る事ができた『平和』なのだ。
――と、そこまで考えた所で
「……少々、横道に逸れたな」
自分を戒める様に呟く
元々ここには教材を探しにきたのだ、時間も限られているし手早く終わらせよう
そうイタチが考えを纏めた時だった。
「おっと」
少々驚いた様に呟く
棚の上に詰まれた本がバランスを崩して、バサバサっと床に散乱してしまったからだ
早く片付けて参考書を自室に持っていこう、そう思って散乱した本を整理する
その時だった、本棚の裏にある『ソレ』に気づいた。
「……ノート?」
恐らく、かなり長い年月の間ここに放置されていたのであろう
埃にまみれたノートが数冊、本棚の裏から出てきた
「…フム」
分厚く纏わりついていた埃を払うと、そのノートの外見がよく見えてくる
そのノートは本屋やコンビニで売られている安物ではなく、黒塗りハードカバータイプと簡易ロックが付いた結構値が張る一品だ
もしかしたら、誰かの紛失物なのかもしれない
そう思ってイタチは未だ多く埃が残る、その黒塗り表紙に視線を落とした。
「そういや皆は、春休み中はどうしてんの?」
風間ファミリーの秘密基地にて、大和は皆に視線を置きながら尋ねる
現在の秘密基地には、トレーニング中のワン子と百代以外の面子が揃っていた。
既に川神学園は春休みに入り、ファミリーの面々も思い思いに休みを過ごしていた
だがやはり、既に溜まり場である秘密基地にくる習慣は春休みであっても変わらず、連日数人の面子が揃っていた。
「俺は明後日から三日間、引越しのバイト。給料日払いだから、バイト終わったらまたどっか遠出してみる予定だ」
「俺様はずばりナンパだな。この春休みこそは俺様好みのお姉さんをゲットして、バラ色の青春を過ごす」
「僕はいつも通りかな? クマちゃんやスグル達と遊びにいったりイベント行ったりかな?」
「私もいつも通り、大和としっぽり」
「すいません、お友達で」
全員が順々に答えていく
やはり皆は皆で春休みの予定は立てており、春休み中はここまで面子が揃う機会はあまりないだろう
――と、そこまで皆が話した所で、不意に部屋の戸が開いた。
「あ、やっぱり皆もここだったんだ」
その声が響いて、声の発信源に皆の視線が集中する
その視線の先にいるのは、皆が見慣れた茶髪のポニーテールに人懐っこそうな笑顔
ファミリーのメンバーである川神一子だ。
「いらっしゃいワン子」
「今日のトレーニングは…って、どうしたのその包帯?」
歓迎の空気に困惑の空気が入り混じる
皆の視線は一子の左手首、そこに巻かれている包帯に向けられていた。
「ああ、コレ? トレーニング中に少し捻っちゃって。大した事ないんだけど、今日は大事をとってもう終わりってルー師範代に言われちゃって…」
全然大した事ないのに、と少し不満げに漏らしながらワン子は自身の左手首を見て
「そっか、まあ妥当な所じゃね?」
「折角の春休みなんだし、無理して悪化させても逆効果でしょ」
「…まあ、確かにそうだけどさ」
ガクトとモロの言葉に、他の三人が頷く
一子も心の内ではその事を分かっているのだが、やはりどこか納得できない様だった
しかし、ここで思わぬ発言が飛び出る。
「しっかし、腕に包帯かー。何時ぞやの大和も良く包帯巻いていたよなー」
――ビシリ、と空間が鳴った様な気がした
まるで液体窒素を掛けられたかの様に、その部屋の空気が一気に冷却された様に感じた。
その一言を聞いて、大和の顔は一瞬で固まり表情が凍り付く
次いで、ギギギっと壊れかけのからくり人形の様に首を動かして
「ハッハッハ、嫌だなーキャップ。一体いつの――」
「ああ、そういえばしてたしてた。『制御ができない』とか『クソ、暴れるな!』とか言ってたな」
「それで確か包帯を取ると、変な紋章とか文字が描いてあったわねー」
「偶に眼帯とかしてたよなー。そんで派手にコケて、『やはりまだ逆らうか、この忌まわしき呪眼は』と何故か誇らしげにしてたなー」
「修学旅行で木刀を買う人は居るけど、模造小太刀を買うのは多分大和だけだよねー」
「だけどお金が足りなくて、ATMでお金を下ろしたって聞いた…そんな所も好き」
「指貫グローブとかも買ってたよね、しかもバイクショップとかで売ってるやたら本格的なゴツいヤツ」
「お年玉全部使って、黒コートとサングラスを買ってた時もあったわね」
「自作小説とかも書いていた。主人公とヒロインの名前をひっそりと『ヤマト』と『ミヤコ』に書き換えたのは、今では良い思い出」
「あと忘れちゃいけないが、何と言っても――」
「やめろおぉ! 人の古傷を抉るんじゃねえ!」
皆が皆、当時の大和を思い出し口々に語る
ビリビリと空気と鼓膜を震わせる様に、大和の魂の叫びが秘密基地に轟き響く
次いでのたうち回る様に頭を抱えて
「って言うかマジでやめて、本当にやめて、お願いだからヤメテください」
のたうち回って床に這いつくばる様な姿勢で、唸るような声が低く響く
幼き日の忘れたい思い出、黒歴史とも言うべき心の古傷
記憶の奥底に埋もれていた傷、ソレを引っ張り出されてしまったら中々に堪えるだろう。
「ありゃ、ちょっとイジり過ぎたか?」
「大和は昔、大分『こじらせてた』からねー」
「意外と豆腐メンタルな大和…でもそんな所も好き」
キャップとモロが苦笑しながら呟き、京は微笑みながらいつも通りの台詞を言う
次いでガクトがニヤニヤしながら大和に歩み寄って
「ちなみに当時の中二グッズ、まだ手元に残してんのか?」
「とっくに処分したよ、もう俺はそういうのは卒業したよ」
「でもひょっとしたら、まだ幾つか残ってたりしてねー」
「あー、確かに。全部処分したつもりでも、偶にポロっと出てきたりするからねー」
「それはない、念入りに全部処分した…筈」
皆の問いに対して、大和はやや目を泳がせながら声を震わせながら堪える
どうやら確実に処分したと言っても、やはり一抹の不安はあるらしい。
「…あ、あーそういえばワン子。姉さんはどうしたの?」
「ん?お姉さま?」
ここで大和は強引に話題を切り替える
このまま中二トークをされていたら、再び心の古傷が開きそうであったからだ。
「お姉さまなら川神院よ。今日もイタチさんの勉強あるから」
「あー、イタチさんの方か。成る程」
「そういえば、あれから僕は勉強の方に参加してないけど…モモ先輩、大丈夫なの?」
「俺様も初め以来参加してなかったな。実際どうなんだ?」
話題は変わって、先日知り合ったイタチに変わる
川神院に住んでいない他の面子も少なからず興味があり、自然と話題がそっちに切り替わって
大和は人知れず安堵の息を吐く
次いでイタチの授業について、同じ川神院に住む一子が少し考えて
「イタチさんの授業? 私もたまにお姉さまの手伝いしてるけど、今の所はちゃんと出来ていると思うわよ?」
「寧ろワン子も授業を受ける側だと思われる」
「うぐぐ、否定できないのが悔しい」
悔しそうに口元と表情を歪めて、唸る様に一子が呟く
勉強が不得手のワン子にとって、やはりこの辺を突かれると反論ができない様だ。
「俺は姉さんに参考書とか資料のアドバイスをする関係で、イタチさんと割と顔を合わせるな」
「俺も結構会ったりするぜ。この前も偶然に買い物途中であってさ、お勧めの甘味処を教えて一緒に食いに行った」
「そういや、キャップは初めからあのイタチって奴の事は気に入ってたよな」
「ああ、結構話が弾むんだよなー。俺の趣味が遠出や冒険って言ったら、サバイバルって奴かね?
その手の知識とか技術とか、あの人面白い話たくさん知っててさー。話してて飽きないぜ」
偶によく意味が解らない事いうけどな、と
最後に加えてキャップは楽しげにイタチの事を話し
「面白い話を、たくさん…ねえ」
大和はその話を聞いて、興味深そうに聞き入る
そしてイタチと初めて会ったときの事を思い出して
(……知識もある程度覚えている?でも社会とかの知識は…実際自分の事も分からなかった位だしなー……)
どうやら、あのイタチという人物の記憶喪失は少し込み入った事情がありそうだ
今までの話を纏めるに、やはり川神に住まう他の人物同様に中々『クセ』のある人物の様だ
あのイタチという男は大和の周囲にはあまりいないタイプの人間
大和自身、イタチという人間に興味を持っているし、姉貴分が尊敬している人物
折角できたこの繋がり、ここら辺で強固にしておくのも悪くないだろう。
「んじゃ、ちょいと姉さんの授業振りでも確認しに行こうかな?」
「何だよー、いじけるなよー」
「違うって、姉さんがちゃんとイタチさんの授業を出来てるか見てくるだけだよ」
「じゃあ、私もついていく」
ガクトがくくっと笑いながら大和を茶化すが、大和は軽く手を振って否定する
次いで京が大和について行き、キャップが大和の発言に興味を示し
「ん、なら俺も行こうかな? まだ少しイタチさんと話したい事もあるしな」
「それじゃー、私も一緒に戻ろうかな」
「んだよんだよ、大和だけじゃなくてキャップと京もかよ」
「じゃあ、僕たちも付き合おうかな」
大和の発言を切っ掛けに、ファミリーの面々もそれに同意し同調していく
こうして何やらかんやらで、何時もの面々が川神院に集う事になる
――この後に起きる――
――恐るべき『悲劇』を知らずに――
「――とまあ、源義経は兄の頼朝と敵対、その後に自決
この時義経の首を取らせまいと、弁慶の奮闘振りは『弁慶の立ち往生』として後世にも伝えられている…という訳だ」
「…兄と弟で…か」
ホワイトボードに黒マーカーを走らせて、参考書片手に授業を行うその姿
予期せず始まった川神百代の講師役、それは皆の予想を裏切って中々様になっていた。
「おー、初めはどうなる事かと思ったけど」
「意外や意外。思いの他形になっている」
「うおーい。お前ら、全部聞こえてるぞー
…スマンな、イタチさん…色々と騒がしい奴らがきてしまった」
「いえ、お気になさらず。自分も少々疲れてきた所ですから」
折角ですから休憩にしましょう、そう言って百代とイタチも休憩に入る
次いでイタチは立ち上がって軽く間接を解す、溜め込んだ息を吐き出して体と表情をリラックスさせる
その足でお茶と茶請けの菓子の用意して、しばしの歓談の時間となった。
「そういや前から気になってたけど、イタチさんって普段はどうしてるんだ?」
「自分ですか?特別変わった事はしていないですよ、炊事や掃除…あとは買出しとかですかね?
後は時間の合間を見て軽く運動をしたり、料理の練習をしたり、偶に鉄心様とご一緒に将棋や碁を嗜んだりですね」
「お? イタチさんって将棋指せるんですか?」
「そこそこ…のレベルですけどね」
(……私との手合わせは…『軽い運動』、かー……)
キャップから趣味の話を振られてイタチも答える
少し百代がどこか納得いかない様な表情をしていたが、それもまた短い間で終わる
次いでイタチの将棋発言についても大和が興味を持ち、徐々に話に華を咲かせていく
そしてそこにガクトも参加する。
「しっかし、さっきから出てくる単語が真面目っぽいヤツばっかだなー。漫画とかテレビとかは見ねえのか?」
「結構見ますよ、共有スペースにある『ダイの大冒険』や『ヒカルの碁』『アイシールド21』とか好きですね」
「おー、中々のチョイス…でもちょっと古い」
「基本あそこの本って、門下生やお手伝いさんが持ち込んだ奴だからねー」
ガクトの質問、娯楽系の趣味に関してもイタチは淀みなく答えていく
そして共通の話題があると強いのか、基本人見知りのモロも加わる
「最近のヤツとか読んでないんですか?」
「そうですね。今の週刊誌で載ってるヤツですと、『銀の匙』とか好きです」
「月刊誌とか青年誌は読まないんですか?」
「休憩スペースにある奴以外は……ああ、そういえば最近一つ読み物が増えましたね
ただ漫画ではなく活字、小説ですね」
モロの問いに対して、イタチは思い出したかの様に応える
そのイタチの答えを聞いて、更にモロの興味を刺激したのか次いで尋ねる。
「小説? もしかしてラノベ、ライトノベル?」
「ラノベ? よくは分かりませんが、商業作品ではない感じですね。この前書庫でたまたま見つけたモノでして
…ああそうだ、実物を見て貰った方が分かり易いですね」
「あるの? 今ここに?」
「はい、休憩時間に読もうと思いまして…コレの事です」
そう言ってイタチは持参した参考書とノートの中から『ソレ』を取り出す
皆に取り出した『ソレ』を見せて、そこに居る皆の視線が『ソレ』に注がれて
『―――え?―――』
その瞬間、時間が止まった
その瞬間、空気が凍った
その瞬間、空間が罅割れた
皆の視線の先にあるのは、一冊のノート
黒塗り表紙の、少し値が張りそうな一冊のノート
そしてその表紙には、こう記されていた
『――黒煉獄の禁書目録・堕天断罪の章――』
『――著・衞真名十夜――』
次の瞬間、そこにいる誰かの表情が固まった
次の瞬間、そこにいる誰かの顔から血の気が引いた
次の瞬間、そこにいる誰かの全身から汗が噴き出た
『――――』
「? 皆さん、どうかしました?」
一瞬にして空間を埋め尽くす静寂
刹那で空気を侵食する沈黙
ファミリーの皆は喋らない、その誰もが言葉を発しない
何故なら彼らは覚えていた、何故なら彼らは知っていた
その本を書いたのは誰なのか、そのノートは誰の物なのか
故に、皆の視線は自然とその矛先を帰る
その脳裏に過ぎったであろう人物を、その本を書いたであろう人物を
『著・衞真名十夜』
この名前の読み方は『エマナトオヤ』
この名前は、とある人物の名前の文字を並び替えたモノである
そして、そこにいる全ての面々は知っていた
その本の著者を、その名前の由来を、つけた人物の名を
風間ファミリーの頭脳、軍師にして策士、無類のヤドカリ好きで、川神百代の弟分
そして、嘗て思春期にありがちな特殊な病を発症していた過去を持つ男
『大和の黒歴史だああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!』
声にならない心の叫びと共に、皆の視線は直江大和に注がれていた。
続く
あとがき
……あかん、前回の最遅記録を大幅に更新してしまった。
どうも作者です、前回は七月中に更新するとか言っておきながら結局三ヶ月も経ってしまいました。
詳しい事情は話せないのですが、少々身の回りのことで忙しくて更新できませんでした
何か凄い事情がある訳じゃないんです…ただ『忙しいだけ』なんです…
まあ、そんなこんなでやっと今回更新できました
作者的にはまだまだ描きたいエピソードが控えているので、今回の「黒歴史編」もできるだけ
スムーズに完了させたいです。
あえて今回は更新時期は明言しません(色々とフラグになりそうなので)
ですけどできるだけ早く次回も更新する予定です!それでは!