緋弾のアリア~裏方にいきたい男の物語~   作:蒼海空河

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武偵たちの三重奏

「招待状? 理子が招待したのはキー君と――オルメスⅣ世だけ。なあにカッコつけて抜かしているのかなぁ~? わ・き・や・く・さん?」

「ッ!?(コイツ――ッ!)」

「アリア……?」

 

 相手は反応を示さない。

 視界の隅ではアリアが犬歯を向けながら理子を睨みつけ、その様子にキンジは怪訝そうな表情を浮かべる。

 蜂蜜色の髪。甘ロリ風制服に身を包んだ理子。だがその口調は甘いどころか辛口。淡々と話しながらも刺々しさを含んでいた。

(ジャンヌたちも忙しいのか連絡が繋がらないし、いや~な感じ。ちゃぁ~んとお膳立てしたのにゴキブリが混じるなんて最悪だよ。クレームはどこに言ったらいいのかなぁ?)

 自分の味方がここに来るなどまずあり得ない。ジャンヌや夾竹桃に連絡が繋がらなかった以上敵である可能性が高かった。

 

 理子はキンジたちを盗み見る。

 目は口ほどに物を言う。そしてマスクの男に対する態度や雰囲気を観察すれば、直接問わなくても情報は盗みだせる。

 現代の情報怪盗ともいうべき理子に掛かれば造作もないことだった。

(キー君は、う~む渋い顔。しかし抜き身のナイフみたいにキレてて危なカッコイイねぇ、ゾクゾクするよ♪ でもちょっと読み辛いなぁ~。アリアは――うっは~~こっちを威嚇してるぅ♪ まるで子猫みたい。…………キー君は疑念と警戒? 両方かな。アリアは警戒心バリバリでアタシもマスクも両方敵認定中だぁ♪ これはちょーっと牽制して、潰し合わせた方がいいかなー? でもさっきの攻撃はともかく隙だらけだしなぁ~。肩慣らし程度に痛めつけた後で捕まえて「人質だぁーっ、動くなぁー」とか遊ぶのも面白いかも?)

 理子が頭の中で算段を付けていると、意外にも先ほどから反応の薄かったマスクの男の方から話しかけてきた。

 

「――――ぃ? 俺は……主役、じゃない、のか?」

 

 マスクのせいでくぐもっているが、さらにガラガラ声で聞き取り辛い。

 かろうじて届いたとんちんかんな言葉に理子が小馬鹿する。

 

「……すごい勘違いしているね君。リコりんが用意した空中の大舞台の主役はキー君、オルメス四世、そしてアタシなんだよ。判った、前座君?」

「……オルメス四世? 誰だ?」

「ふーん…………まあいっか♪ めいどさんの土産に教えてあげる。そこのピンクいのがオルメス四世だよ」

 

 そう言って理子はアリアを指さした。

 

「アリア、どういうことだ?」

「……アタシの家名よ。だけどなんでアンタがそのことを知っているの!」

 

 アリアの言葉に調子が出てきたのか、理子は両手を広げながらとても可笑しそうに哂い始めた。

 

「あは、あはははははハはははハハハ! まだ判らないのキー君? (オルメス)(ホームズ)のフランス読み。つまりソイツの本当の名前は――」

「神崎・(ホームズ)・アリア……まさか」

「そう、偉大なる天才探偵シャーロック・ホームズ。イギリスより連綿と続いてきたホームズ家の子孫がソイツだよ。探偵たちの中でも更に特別な一族のお姫様(プリンセス)ってーわけだね。でも、受け継いだ才能はダメダメで一族から干され気味だっけ?」

「アン、タ……ッ!」

「落ちつけアリア! 安い挑発に乗るな」

「く……ッ!」

 

 今にも理子を撃ち殺さんばかりに睨み付けるアリア。かろうじて彼女を押しとどめているのはホームズの名と不気味な第三者の存在だった。

 

「四世って……あーっと……んん? まさか去年のあれって……」

 

 不気味な第三者であるマスクの男が何かを呟くも、くぐもった声は誰かの耳に届くことはない。

 

 激しい嵐か飛行機は小刻みに揺れる。

 アリアは体勢を崩さないようにスタンスを広げながら、理子とマスクの男を視界に捉えておく。

 かつてホームズを支えたワトソンのように、ホームズ家の人間は二人が揃って初めて真の実力を発揮できる。

 頼りになるパートナー(キンジ)が揃った。

 無様は晒さない。

(ふざけたマスクも面倒だけど、今はあの人を喰ったみたいな女を捕まえるのが先!)

 ふーっ、ふーっと荒い息を吐きながらも、一人で特攻するまでに至らなかった。

 しかし『武偵殺し』峰理子は小動物をいたぶるかのようにアリアの心を揺さぶっていく。

 

「いや~ん、こわーい顔。優れた頭脳と戦う才は遺伝に依るものも大きいけど、ねぇ? アリアには備わっているのかなぁ?」

「ぐぐぐぐぐぅ~!」

「抑えろよアリア」

「判ってるわよ!」

 

 言外に無能呼ばわりされて歯ぎしりが止まらない。

 キンジはアリアが爆発しないように宥める。

 理子が挑発し、アリアが怒髪天を突くばかりにヒートアップしていく。

 ある意味膠着状態の中で、ヒストリアモード中のキンジの頭脳は一つの結論に達していた。

(この飛行機にはアイツ(・・・)が乗っているはずだ。声が微妙に違うが、身長と身のこなしに共通点が多い。間違いなく、あのタイガーマスクは――)

 簡単な答えだ。

 信頼するあの男は必ずやってくる。

 裏から回り込むのが大好きなやつなのだから、理子の背後を取るのも彼なりのメッセージなのかもしれない。

 

 なによりこの場で一番付き合いが長く、共に依頼をこなしてきた経験からマスクの正体が判っていた。

(待てよ? マスクの男が正体を隠しているのなら……間接的に問うことができるんじゃないか?)

 キンジはふとこの状況を利用(・・)できないかと考える。

 先ほど沸いた疑問を解消するために、今の状況は実に都合が良い。

(すまん、アリア。この状況、利用しない手はない)

 キンジは心の中でアリアに謝りながら、何かを決心する。

 前方では理子がいやらしい笑顔で話していた。

 

「ふふふっ」

「何がおかしいのよ!」

「あー、ごめんねぇ? アリアったらきゃんきゃん鳴いて子猫見たいで楽しかったから、ね? じゃあアタシの本当の名前を教えてあげる」

「どういうことよ!」

「お前とはただの武偵と犯罪者の関係じゃないってことだよオルメス! 先祖が付けられなかった決着をアタシの手で終わらせる! そのときこそ、リコは本当のリコになれるッ! 世界でただ唯一の!」

「なに、言ってるの?」

「教えてやろうオルメス! アタシの本当の名前は――」

「……峰・理子・ルパン四世、か」

 

 声のイントネーションが違うのか、マスクの男はルパンと言った。

 だが、ルとリュでは発音に大差はない。

 マスクの男の言い間違いはスルーされ、アリアは驚愕に顔を染める。

 なぜなら彼女個人だけではない、ホームズ家とも少なくない因縁を持つ家名だからだ。

 

「リュパン四世!? あの曾お爺さまと幾度も戦ったアルセーヌ・リュパンの!? でも……なんでアンタが知っているの!」

「――――ッ!? ちょっとどうして君が答えるのかな……」

 

 理子が言おうとした言葉を丸ごと虎マスクの男に取られた格好となった。

 アリアは驚きながらマスクの方に視線をやっていたが、理子は心中穏やかではない。

 間隙を縫って発言した男に対し、理子は苛立ちを隠そうともせず噛みついた。

 

「何でお前が知っている!?」

「…………」

「言えッ! さっきからフザけたことしやがってッ!」

「豹変……やっぱり」

「……?」

「は、ははは。凄いなあ、女優かっての……つつ」

「あぁ……?」

 

 顔に手を当てながらおかしくて堪らないといった風で、格好を崩す虎マスクの男。

 突如として雰囲気が様変わりした相手に怪訝そうに眉を顰める理子。

 男がどこの誰かがいまいち判らない。しかし場にそぐわない明るい口調と軽い仕草に、脳裏の片隅でひっかかりを覚えた。

 だが彼女の脳が答えを弾き出す直前。

 キンジの言葉が答えに至ろうとした理子の思考を霧散させる。

 

「そう大笑いすることもないんじゃないかな――――公安警察(・・・・)さま?」

「……はい?」

「公安警察!?」

 

 虎マスクの男の疑問そうな声が上がるも、同時に口に出した理子の大声でかき消される。

 若干動揺した理子にキンジが追いうちをかける。

 

「そうだ、理子。お前は騒ぎを大きくし過ぎたんだよ。東京は皇居を初め、国会議事堂、羽田空港と日本の重要施設が盛りだくさんだ。公安警察が動かない訳がない」

 

 驚愕する理子をしり目に、キンジはさりげなくアリアの前に陣取り、腹芸が苦手な彼女の表情が理子から直接見えないような位置取りをする。

 

「キンジ!? 公安って……ッ! まさか!」

「そのまさかだアリア(頼む、今は俺に合わせてくれ)」

「――! なるほどね……(判ったわ。後でちゃんと訳を聞くからね!)」

 

 後ろ手で手信号(ハンドサイン)を行う。先ほど話したばかりの話題で、今の公安警察。虎マスクが誰なのかをアリアは理解した。

 だが理子だけは判らない。

 彼女だけはそれに至るだけの根拠が僅かばかり足りなかった。

 そして件の虎マスクはと言うと、

 

「えと、だな」

「マスクの変態さんは公安警察なのかなぁ~?」

「き、キラーパス過ぎる……」

「……(どう、出る? 俺の考えが正しければ、おそらく――)」

「え、と? ん…………あ、ああ~、俺、そういう……。……うわ、頭抱えてぇ…………」

 

 正体を見破られたせいか、それとも別の要因があるのか男はすぐには答えない。

 ぶつぶつとマスクの奥で思案気に呟いているが、周囲に聞こえるほどの声量ではなかった。

 数瞬したあと、彼は頷くと話し出す。

 

「そう俺は公安警察、だ。しがない公務員だが」

「……へぇ~日本政府って意外と行動早いんだねぇ」

 

 笑顔でいるが理子の目はまったく笑っていない。愛用のワルサーP99をくるくるりと回して遊ぶ。

 機内が少し傾く。

 するとマスクの男はなぜかしゃがみ込む。目の前に敵がいるとは思えない行動だった。

 隙だらけで、ふざけている様にしかみえない。

 だが、マスクの男の右手は理子から見えない。右足も見えない。

 “見えない”――さりげない動作で死角を作り出すこの男に、理子の視線は鋭さを増した。

(へぇ……。隙だらけに見えるけど理子の背後を取った奴だし、いつでも転がって避ける体勢ではあるのかな。それに右手右足もなんか仕込みがあるかの様な動作だし、かといって必ずしもギミックがあるとは限らない。“考える人”っぽい姿勢は、さてどうゆう未来を悩んでいるのっかなー。…………嫌な気配がする。アリア以上に負けたくないカンジ。こういう勘はけっこー当たるんだよね)

 彼女の警戒度がさらに一段階あがる。

 公安警察なんて与太話は本気で信じていない。敵の言葉など信じたフリして話半分だ。

 だが同時に彼女の嗅覚が告げている。この男は注意した方がいい、と。

 しかし理子の中で変な感情が芽生える。それは親近感と苛立ち。初めて出会った人間とは思えない。

 

 戦場でも無害を装いながら周囲を騙していく狡猾な人間と同種の気配を感じていた。

 重々しく話す癖に真剣さが足りないのだ。遠足にでもやってきたかのように気軽で薄っぺらい。

 理子が複雑な感情をもてあましている最中。キンジが虎マスクに対し話を切り出した。

 

「それで公安警察さまはこんなところまで出張ってどうする? 武偵の俺たちに協力してくれるのか?」

 

 突然介入してきた政府の人間。キンジは言葉を選びながら慎重に問う。

 キンジの言葉にマスクの男は拳銃を弄びながら端的に答える。

 

「駄目だ」

「ッ!」

 

 いっそ清々しいまでの拒絶。

 キンジは驚きのあまり両目を見開く。

 協力し合うことが最善手のはずなのに断る。相手の意図が読めない。

 だが表情には出さず、相手の出方を慎重に窺いながら問う。

 

「……なんでだ?」

「見せ場が必要だ」

「見せ場……?」

 

 キンジは虎マスクの言葉に疑問符を浮かべる。やけに態度が軽いのだ。

 会話の流れから相手が誰かはほぼ判明している。

 ならばキンジと同様に『武偵殺し』のせいで手酷い目に遭っているはず。なのに恨み辛みなどの負の感情がまったく見せない。学校帰りに買い食いでも誘うかのような気軽さだった。

(女には弱い奴だからな、手心を加えるつもりか? だが――)

 残念ながらキンジにそのつもりはない。

 個人的な感情はさておき、峰・理子・リュパン四世が兄の仇ならばその実力も計り知れない。

 手心を加える余裕は、彼にもないはずなのだ。なのに……。

 緊張感のキの字も感じられないことに、キンジは自然と厳しい口調になる。

 

「お前は本当に判っているのか? チャンスは一回きりの正真正銘のガチ本番なんだ。ここで逃したら今度はいつできるか判らない。真剣にやってくれ!」

 

 ここで犯人を逃したら、また捕まえるチャンスが訪れるとは限らない。兄の無念の晴らすために何度も姿の判らぬ犯罪者相手にシミュレーションを重ねてきた。

 アリアと結託してからも同様に。だからこそ、どこかおどけた様子が少し癇に障った。

 キンジの真剣さが伝わったのだろうか?

 マスクの男はきょとんとすると、持っていた拳銃――シグをスライドさせながら答える。

 

「……判ってるよ、本番だってのは。カット無しのノー編集でやりきって見せるさ」

 

 声のトーンを下げながら、気障な言い回しでキンジの言葉に答えた。

 無粋なことを言わせるなとばかりの言葉だ。いつもの彼にしては(・・・・・・・・・)どこか態度が違う。

 

 存外、真剣だったのかもしれない。

 キンジは焦りすぎたかと自省し、軽く頭を下げた。

 

「すまない、少し焦っていたみたいだ。……健闘を祈る」

「ああ」

 

 相変わらず聞き取りづらいぼそぼそとした口調で喋る。

 もう会話は終わったとばかりに理子と向き合っていた。

 

 俺には俺の流儀がある。手出し無用とばかりに、己の我を通そうとする姿は実に武偵らしい。

 キンジは苦笑いする。

(……やっぱり、お前は武偵に向いているよ。そんな自分勝手はお役所勤務じゃ自由にやれないだろう? なあ…………ケイ(・・)

 頭の中で親友である男に語りかける。

 拳銃を降ろす。キンジに迷いはなかった。

 兄の仇である『武偵殺し』。自分が手錠を掛けたい気持ちは少なからずある。だが自分を立ち直らせてくれたのも同じくケイだ。

 

 だったら見届けてやろうじゃないか。

 他人に手柄を渡そうとする自称“裏方”の男の生き様を。

 キンジはアリアの方を向いて頷く。アリアは肩をすくめながら、勝手にしろとばかりに首を振った。

 初めてパートナーらしい、意思疎通ができた瞬間だった。

 理子が目を細めながら拳銃を握りなおす。

 

「ふぅ~ん? じゃあ一人で戦うんだ~。まあいいけどね。同時に攻めてきても手段はあるから♪」

 

 理子はポケットから手のひらに収まる小さな棒状の機械を取り出す。てっぺんには赤いボタンがついていた。

 

「メインディッシュのオルメスとキー君は動いちゃいけないよ?」

「……何だそれは」

「起爆スイッチ♪ 押せばドッカ~ンッ! ヒコーキのエンジンが爆発しちゃうから。そこのマスクの男との決着がつくまではおとなしくしててねッ♪」

 

 爆破されたら乗客の命が危ない。なのにケラケラと自分のいたずらを誇るように喋る理子に、アリアは苛立ちを隠せず、犬歯を剥きながら拳銃を向けた。

 

「アンタは、どれだけおちょくれば……ッ!」

「よせアリア。他にも乗客がいる! ここは抑えろ。戦うべきは今じゃない」

「判ってるわよッ」

「くふッ♪ そ~いうこと。オルメスもキー君も黙って観戦しててね」

 

 リコの言葉が本当かは判らない。

 しかし数々の爆破事件を起してきた『武偵殺し』がキンジたちを待ち受けていたいう事実。一年以上も武偵高校に潜伏し続けた理子が何の準備もしていないとは考えられない。

 数の有利を差し引いても、余裕そうに微笑むリコは未だこの場においてもアドバンテージを握っている。

 

「さあ、これで邪魔者は手出しできない。さっさと前座君は斃れてね♪」

「…………」

「なに? 一人だと怖くて戦えないってわけじゃないよね?」

「いや……すげーなと思って、な」

「……? どういう意味?」

「ハリウッド並みの演技力だと思ってさ」

「くふ♪ お世辞でもうれしいね。でも女優レベルの演技なんて朝飯前。あったりまえのこと言われてもねー?」

「ああ……すっかり騙されてた。だから――あの時と同じ言葉。言わせてもらう」

「あの、とき?」

 

 理子は眉をひそめる。そもそも初対面のはずだ。だが、どうしてだろうか、誰かに似ていると感じていた。

 違和感。それも見過ごしてはいけない危険なもの。

 怪盗としての勘が目聡く原因を探り出す。

(待て……奴の持っている拳銃、グリップの色が通常と違う……自衛隊の士官用のものじゃない! かなり古いタイプのもの――)

 マスクの男が持っている拳銃が違和感の正体だった。

 伊達に怪盗の一族じゃない。それが高級なものか、価値あるものかの審美眼には自信がある。

 そして相手の持っている拳銃は年代を感じさせる逸品。遠目でも一流の職人が手掛けたものだと見抜けるレベルの代物だ。

(でも重要なのは――)

 奴の正体はもしや――。

 

 相手の正体。真実を手繰り寄せる直前。機外では風の唸る音が遠く、近くと交互に響く。

 一瞬風が止んで静寂が室内を満たす。

 真実へと至る道筋をマスクの男が遮る。

 

 間隙を縫って、マスクの男は陽気なほど軽い調子で理子を称賛した。

 純粋に、無邪気に、友を祝福するかのように。

 

「『四世』いいじゃないか――ってな」

「………………あ゛っ?」

 

 濁音混じりの一文字。年齢相応の可愛らしい笑顔も、思案気にしていた様子も、すべて吹き飛んだ。

 彼女の状態を的確に表現できる言葉がある。

 

 ――無――

 

 貼り付けていた仮面が砕ける。表に出てきたのは無表情。

 理子の双眸は機内の暗闇とは比較にならないほどの漆黒を想起させた。

 憎悪、憤怒、激情――この世の黒い感情をない交ぜにしたような表情。

 豊かに育った彼女の胸の奥底でぐつぐつと粘り気のある熱がこみ上げ始めていた。

 傍目から見ても、マスクの男の発言は慇懃無礼も良いところ。

 彼女の明らかな変化に気付いたキンジとアリアは警戒心を強めるも、マスクの男の軽口は止まらない。

 

「ルパンは昔から好きだけど、理子さんはそれを真面目に演技するって、なかなかできない。努力型な四世を十分名乗れると思ってるよ」

「…………黙れよ」

「……ん? どうしたんだルパン四世?」

「黙れってんだよ。四世、四世、四世、四世、四世!!! ……アタシは数字じゃない! アタシは理子。アタシは峰理子だッ! 『リュパンの曾孫』じゃない! イ・ウーで手に入れた新しい力で持って、アタシは曾お爺さまを越えた自分に生まれ変わるんだ! …………もういい、もういいよ。お前はさっさと退場させる。アタシが新たに手に入れたこの力を使ってねッ!」

 

 瞳孔を開き、感情を爆発させる理子。叫びながら両手に拳銃を持ち、彼女の金髪がわさわさと蠢き始める。

 キンジは思わず「化け物か……!?」と声を漏らすのも仕方がない。

 理子の髪は風で動いていない。明らかに意思を持って動いている。

 まるで蛇の髪の毛を持つメデューサのようだった。

 左右の髪先にはナイフが結びつけられ、不気味に揺らぎながら切っ先を男に向ける。

 だが男は苦笑しながら、マスクの結び目を解き始めた。

 

「やっぱ去年と同じか。こういう流れと……ほんと金の掛った舞台だ。だったら俺も一つ、格好つけなきゃいけねーよなぁ……」

「あぁ?」

 

 マスクの男はするりと背中に右手を入れる。

 取り出されたのは鈍色に輝く鉄の棒――かつての武士が刀を差していた時代。日本で治安を維持してきた防人たちの武器、十手。

 左手にはヨーロッパの職人たちが一から手掛けた芸術的古銃、SIG P210-6。

 理子が動揺する。そんな一時代前の装備を好んで扱う男は一人しかいない。

 だが彼女が名前を口にする前に、虎のマスクはぽさりと音を立てて床に落ちていた。

 

「第一六代大石家当主、大石啓。狙うは咎人、峰・理子・リュパンただ一人、ってか」

「~~~~ッ!!!」

 

 現れたのは、黒髪の少年。どこにでもいる普通の顔つきの学生。

 ただし普段の陽気さは影をひそめ、眉間にシワを寄せていた。

 マスクを長時間被っていたせいか、髪の毛がペタンと潰れたり、ぐしゃぐしゃになっている。お世辞にもカッコイイとは程遠い。

 だが重要なのはそこではない。

 彼は理子にとって一番出会いたくない人間であり、計画を完遂させる上で一番の邪魔者になるであろう人物、大石啓。

 理子は歯ぎしりをしていた。動揺よりも別の感情が心の奥底から湧いてくる。

 

 なぜ素顔をわざわざ晒し、不敵な笑みを浮かべている?

 正体を現わさなければいくらでも戦いを優位に進められるはずなのに何がしたい?

 峰理子という少女は、並々ならぬ決意を胸に、今日という日を迎えるための努力してきた。

 だが目の前に人物はまったく別。

 今までの出来事が思い起こされ、さしもの彼女も堪忍袋の緒が切れた。

 

 頭のどこかで理性を支えていたはずの糸が千切れる音が聞こえた気がした。

 彼の行動はまさに“おちょくる”という文字が似つかわしい。

 

 正体を隠したいのか、目立ちたいのか。

 捕まえる気があるのか、どうでもいいのか。

 チャリジャックでは挨拶代わりと姿を現し、バスでは盗聴器を逆に利用した爆音攻撃。かと思えば、無様に入院してのんきに日々を過ごす。

 バカにしているとしか思えない称賛に、理子が不機嫌な表情を見せているのに更に『四世』と連呼してくる。

 

 一貫性がない。統一性がない。なのに神経だけは的確に逆撫でていく。

 常人の理解を超えるハチャメチャ具合は、ある意味初代リュパンにも通じるものがある。

 それがまた彼女の怒りを増幅させた。

 親近感? それはそうだ。幾度となく出会っていたのだから当たり前。

 苛立ち? それも当然だ。自分よりリュパンらしいと僅かでも思ってしまった自分を殴りつけたい。

 コケされた理子は自身を抑えることはできなかった。

 

「ふ、ざ……けるなあぁぁぁぁぁぁぁ!」

「おおぅっと?」

 

 乱暴な男言葉で大声を発する。

 理子の怒りに任せ、繰り出した二本のナイフがX字を描く。しかし逆上した彼女の攻撃は些か精細さに欠いていた。

 ケイは上半身を大げさなまでに仰け反らせ、銀色の刃はむなしく空を切る。

 同時に理子の鼻は異臭を捉えていた。むせるようなアルコールの匂い。むしろなぜ今まで感じなかったのかを疑うほどの異臭だ。

 

 最初に胸をショルダーアタックで攻撃されたときは意識する余裕がなかった。

 しかし、再度接近したときに、理子はケイから発せられる匂いを嗅ぎ取っていた。

 まるで酒に酔った千鳥足のサラリーマンに近い。

 ふらりふらりと左右に揺らめく大石啓。

 怒りに血液が沸騰しそうになりながらも、相手の動きを呼んでナイフを振るうが当たらない。

 

「こんの、死に晒せ!」

「はげ、しいな……ッ!」

 

 一閃、二閃、三閃――照らす白刃はケイを捉えきれない。黒服と薄闇が同化して目の前にいるのかさえ判らなくなっていく。

 理子は一度迷いながら両手の拳銃を握り締める。

(あまり撃ちたくないけど、拳銃も使わないと厳しいかも……でもそれより気になるのは、ケー君が不必要なまでにふらふらしてること。この動きは見覚えがある)

 中国拳法に近い独特の足運び。理子はその手の武術も嗜んでいる故に、ケイの不規則な動きに見覚えがあった。

 だが結論を付ける前にケイの銃口を理子に向けられる。

 

「……くッ!」

 

 咄嗟に横っ跳びで回避を試みる理子。

 ケイの銃口が瞬き、数発の閃光(マズルフラッシュ)が彼らを照らす。

 狙いなど定めていない。薙ぎ払うような射撃。しかし一発たりとも命中していない。

 だがおかしなところがあった。

 外したのに背後の壁を穿つ、着弾音が聞こえない。

 

 薙いだ動作のせいか、ケイがよろめき、理子に背中を見せる。

 明らかに隙だらけだ。

 チャンスとみて理子が迫ろうとするも、今度は彼女の足がふらついた。

(耳に響いて痛い! くそッ、バスジャックのときに鼓膜がやられてなければこんな奴! しかもケー君通常弾じゃないしッ!)

 片耳には耳栓も仕込んでいたが、それでも至近距離の射撃音は空気を伝わり、理子の鼓膜を的確に揺さぶる。連射したことでダメージは倍加されていた。

 そんな理子にケイは、背中を見せた勢いをそのままに、十手を横なぎに一閃。

 

「おっと、すまん……ねぇッ!」

「つッ、当ったらないよ!」

 

 しかし理子は小柄な体格を生かしてしゃがみながら転がって距離を取った。

 よろよろと左右に揺れながらしかめっ面を浮かべているケイ。

 戦いは膠着状態に入り始めていた。

 

 

 

 

 キンジとアリアは理子の爆弾により動けない。ケイと戦っている間も、髪の毛の一部が懐に入っており、いつでも起爆装置を押せる状態にしているのが見て取れる。今まで尻尾を掴ませなかった『武偵殺し』らしい警戒心だ。

 

 しかしキンジたちは注意深く戦況を見つめ、隙あらば理子を制圧するタイミングを見計らっていた。

 そしてすぐに気付く。理子も気付いただろう。

 何せケイの拳銃は外したのに、着弾音が聞こえないのだから。発砲音が軽い(・・)。普段から射撃練習をしている彼らはすぐ理解できた。

 ケイが何の弾丸を使っているのか。

 それに気付いた二人――特にアリアは驚愕していた。

 

「信じらんないッ。ケイってばなんで“空砲”(たまなし)を使ってるのよ。運動会でも始めるつもりなの!?」

 

 空砲。つまり弾頭が無いので発砲しても火を吹くだけのオモチャ。スターティングピストルを振り回しているようなものだ。

 ただし空砲とはいえ、火薬量は実弾と大差はない。拳銃内で炸裂した空気が銃口から一気に飛び出すので空気砲に近い効果が望めるのも確かだ。

 至近距離から撃てばスチール缶を貫通する程度の威力はある。

 殺人を犯せない武偵なら選択肢の一つとしてはアリなのかもしれない、が。

 アリアの言葉にさすがのキンジもケイを弁護できない。

 

「判らない。現場で空砲を使う武偵なんて前代未聞だ。非殺傷弾(ゴムスタン)ですらないんだからな」

「弾丸もだけど……アイツ、あっさり正体をバラしたわよ。正直、あそこでマスクを取るなんて思ってもみなかったわ」

「ああ。それに公安警察を認めた後での行動だ。アイツにとって、公安警察という情報はさほど重要ではないのか、それとも俺たちが考え違いをしていたのか……。一年以上の付き合いだが、ハチャメチャ具合に拍車が掛かってるかもしれん」

「先が読めないっていう意味では、悔しいけど同感。でも大切なのは結果よ。ケイがこのまま理子を逮捕するには決定打が足りない。そこが肝になりそうな予感はするけど」

「おそらくな。しかし狙いか……(何を狙っているんだケイ? 考えろ遠山金治。ヒストリアモードの俺なら本当の答えを導き出せるはずだ)」

 

 一瞬とはいえアリアとのキスは今までの人生ではなかったほどに強烈で甘美だった。

 未だ継続している脳の思考回路をフル回転させるキンジ。

 

 ケイはスタンドプレーが多い。しかし過程には問題が多々見受けられるが、最終的にはチームプレイに収束する傾向が強い。

 麻薬組織と双子の件なら、単独で突っ走ったのがスタンドプレー。不知火やキンジに逮捕を任せたのがチームプレイ。

 

 今回なら理子の名前を言い当てたことといい『武偵殺し』の正体を初めから見抜いていたように感じられる。

 それを周囲には告げずに行動――政府の指示によるものかもしれないが他のイ・ウーのメンバーを撃破。ここまではスタンドプレー。

 そこから理子の背後に回り、攻撃を開始。理子が持つ起爆装置さえどうにかしてしまえば、三人で逮捕できる段階まで来ている。

 キンジは今までのケイの行動と会話内容から真意を探っていく。

(ケイがチームプレイで締めるつもりなら……俺たちの行動を待っている? いやならば協力を申し出たとき『見せ場が必要』と拒絶する必要もないだろう。つまり――)

 万が一でも理子に悟られないように指信号(タッピング)で結論をアリアに伝える。

 

『ケイが俺たちに任せる瞬間がくる。行動はその時に』

『判ったわ』

 

 アリアが無言で頷くとカメリアの瞳は理子たちの戦いの方へとシフトした。

 この話題は終了。あとは静かに状況を静観するだけだ。

 怒りのあまり理子が両手のワルサーの引き金に力を込め、弾丸が撃ち出される。だが射撃の瞬間に顔を顰め、標準がブレてしまい当たらない。

 頭に血が昇っているせいと不規則なケイの動き、理子の不調。すべてが『武偵殺し』に悪い作用を及ぼしていた。

 ケイが次々と攻撃を避けていく様に思わずキンジが呟く。

 

「まるで幽霊(ゴースト)だな。目の前にいるのか判らなくなる」

死霊の舞踏(デモニアバイラール)。たぶんケイのやっていることかも」

「デモニア…… ? なんだそれは。スペイン語みたいだが」

「直訳で死霊の舞踏。ケイの母親、大石杏子の十八番だったらしいわ。目の前にいるのに攻撃がまったく当たらない。さながら死霊を相手にしているかのようだって恐れられていたらしいわね。ケイの母親の情報を探っていたときに知ったのだけど……『絶対回避できる状況を作り出す』って話していたらしいわよ。だからケイも同じことをしているのかもしれない」

「……仕込みは万全ってことか」

 

 そのとき機内が激しく傾き始める。戦いは佳境を迎えようとしていた。

 

 

 

「はぁっ!」

「おうっと……うえ」

「むぅ~っ、当たらない!(酔拳がここまでやり辛いなんて初めて知ったよ! もうっ、冷静に、冷静にならなくちゃいけないのに顔を見るだけでイライラするっ)」

 

 理子が手に入れたという髪を操る力。それは考えるだけではだめだ。精神を安定させなければうまく操れない。

 判っているのに先ほどの『四世』発言といい、今までケイから受けてきた出来事の数々を思い出す度に思考がブレ(・・)ていく。

 その原因の一つがケイの不規則な動きだ。体から発せられる強烈なアルコール臭。ふらふらした歩行。理子が結論付けるのは早かった。

 大石啓は酔拳の使い手だ。少なくともかなり度数の高い酒を摂取している。

 時折、吐きそうなどと声を漏らしているのがその証拠だ。

 理子の攻撃を全力で避けていく。

 ならばと理子は考えた。

(だったら、避けられない状況を作ってあげるっ!)

 グラリと室内が大きく傾く。ここは地面じゃない。飛行機の機内だ。

 まるで理子の意思に反応したかのように室内は斜めになっていく。

 ケイは驚いたように体勢を崩した。理子から見て左に傾いていく。つまり攻撃を当てる絶好のタイミング。

 

「これで――――終わり!」

 

 これで体が左に泳ぐはず。理子は先回りするようにナイフと銃口を向け、発射しようとした。

 だが。

 

「おおぅ、傾く!?」

「――な!?」

 

 ケイの体がスライド(・・・・)した。

 例えではなく、文字通り氷の上を滑るかのように床の上を体全体がスライドする。

(っ! 靴に何か仕込んでる!?)

 一瞬の動揺。ハッキリ言えばあまりにも普段の理子らしくないほどに身体が硬直してしまった。

 大石啓という人間が今の今まで彼女に見せ続けてきた行動、策。

 思考の毒とでも言うべきそれは、度重なる挑発行為も相まって逡巡してしまう。

 その隙を突いて相手が行動する。

 

「うわっとぉ!?」

「ッく!?」

 

 ケイの足が床から離れる。

 そのまま彼は空中で円を描くように回転し、ケイのつま先が理子の側頭部へと襲いかかる。

 こめかみを狙ったサマーソルトキック。鈍い風音とともに凶蹴が迫りくる。

 中肉中背の一般的な男子生徒の身長を持つ彼だが、遠心力と全体重が足先の一点に集中し、直撃すれば小柄な彼女の意識など一瞬で刈り取ることができるだろう。

 

 だがここに来て理子もまた超人的な反応を発揮する。混乱していた頭が己の危機という冷水を掛けられて、半ば反射的に行動できた。

 自らの髪を操作し、拳銃もナイフも手持ちの重量物に結び付けて正面に素振りする。ケイ目がけてではない。

 反作用。髪先の道具を振ることで、己の身体を後ろに仰け反らそうとしたのだ。そして理子の行動は成功する。

 ケイの一撃は彼女の顎先を掠るに留まり、蹴りはむなしく空を切った。

 

 外すとは思っていなかったのかもしれない。彼は空中で姿勢を崩し、そのまま背中から床に落ちてしまう。

 

「ぐはッ、いった!」

「……今の一撃は、本当に危なかった。けど勝利を目前にして、ちょーっと油断したみたいだねケー君。これで終わり……バイバイ」

 

 拳銃とナイフを構え、理子は勝利の笑みを浮かべる。キンジたちにも起爆装置を見せつけ、警戒することも怠らない。

 だがチェックメイトを宣告されたはずのケイは悔しそうにするどころか、

 

「く、ははッ。そうだな。ジ・エンドだ」

「……?」

 

 彼は笑っていた。

 憎しみの一遍もない清々しい笑顔。まるで楽しい祭が終わったと言いたげに、少しつまらなそうな表情をしている。

 体が宙を舞ったときにケイは十手も銃の手放してしまっていた。

 十手は部屋の片隅に。そして拳銃は――――今まさに空中から床に落下しようとしていた。

 ケイは理子を見ていない。キンジたちを見つめていた。

 

 ――後は任せた――

 

 そう言いたげな表情と共に両目を瞑る。

 理子は怪訝そうな表情を見せるも、引き金に指を掛ける。

 

 キンジはその様子を冷静に見つめていた。アリアは飛び出そうとしたが彼は咄嗟に腕を前に出して制する。

 射抜くような瞳がキンジを貫く。

 その目は「仲間を見捨てるのか!」と言っていた。

 だが床に落下する拳銃――そして目を瞑ったことの意味。脳裏に閃いたのは一年前の出来事だった。

 突如、アリアの前に飛び出し、キンジは大声で叫ぶ。

 

「耳を塞げアリアッ!」

「――ッ!?」

「何を――!?」

 

 ――――――ッ!!!

 音と光の暴力。

 金属の落下音と共に、室内を真っ白な光の海がすべてを押し流す。

 閃光と爆音――スタングレネードにも似た効果。

 発光元はケイの拳銃だ。

(拳銃の暴発を利用した無意識の弾丸(アンコンビレ)。しかも音響弾(カノン)閃光弾(フラッシュ)の両方を備えたハイブリット武偵弾とは恐れ入ったよケイ!)

 耳と目を塞いだのは賭けだった。

 薄暗い室内。発砲する度に顔を歪める理子。何より空砲を撃つという行為そのものがヒントとなっていた。

 武偵は決して犯人を殺してはいけない。ならば傷つけないためにどうするか?

 大石啓という男がどういう行動に出るか。

 仲間を信頼したキンジの選択は正しかった。

 

 キンジは笑いながら光の海を駆けていく。友が示した勝利への道筋。掴まなければ武偵じゃない。

 アリアもまた背中から二本の小太刀を抜き放つ。光が収まり、少女は犯人に捕えんと疾走していく。その姿は独唱曲(アリア)などと揶揄(やゆ)されていた少女の姿ではない。

 開幕はケイによる大音量の武偵弾(おんがく)

 それに続けとキンジとアリアがそれぞれの持ち味を生かして『武偵殺し』へと迫る。 武偵たちの三重奏(せんとう)が飛行機内で奏で始めていた。

 

「う、あ、ぁぁぁぁぁ!!」

 

 理子が奇声を上げながら両手の銃を撃ち始める。

 武偵弾は一発数百万もする高級な弾丸だ。その効果は折り紙付き。

 閃光で網膜を焼かれ、視界が白に染められていた。

 だが何よりダメージを負ったのは右耳。

 ただでさえ先日の爆音攻撃で右耳をやられていたのだ。発砲音でさえ四苦八苦していたのに一番最悪な攻撃を受けてしまった。

 耳をつんざく暴音が彼女の鼓膜と脳を掻き乱す。

 

 理子は錯乱したかのように、両手のワルサーでめちゃくちゃに乱射し始めた。

 その一部がキンジたちに迫るが、今の彼はただの武偵ではない。

 彼の瞳には弾丸一発一発が緩やかに見えた。弾丸の軌道を的確にとらえ、最善手を打つ。

 

「――うちの姫様には当たらせないぜ?」

 

 ダダダダダン!

 キンジのベレッタが火を吹く。無秩序に迫りくる理子の弾丸をすべて撃ち落とした(・・・・・・・・・)

 さしずめ銃弾撃ち(ビリヤード)。弾かれた弾丸はポケットではなく、虚空へと堕ちていく。

 

「これはオマケだ、受け取れよ! そして――」

「アタシの出番ってわけねッ!」

 

 追加で放ったキンジの弾丸が、理子のワルサーを撃ち抜き、無効化させた。

 そしてキンジの背後からアリアが飛び出す。

 

「一人じゃないアタシが、アンタなんかに負ける道理はないのよ!」

 

 理子に飛びかかりざま、目にもとまらぬ速度で刀を二閃。理子の髪と起爆装置を正確に切り裂いた。

 アリアは刀を納め、拳銃を取り出す。

 二人は銃口を理子に向けた。

 

「勝利の目前で油断したのはお前の方だったみたいだな理子ッ! お前を――」

「――殺人未遂の現行犯で逮捕するわ!」

 

 両手の武器が破壊され、髪を切り裂かれたことで理子には攻撃の手段が残されていない。

 チェックメイト。幾分冷静になれたのか、理子は暴れなかった。

 手錠を掛けようとキンジが近づく。

 そのときハラリと蜂蜜色(ハニーゴールド)の髪が床に落ちた。

 理子が呟く。

 

「――ハチには針があるんだよ? 知ってたキー君?」

「何を言って……お前――ッ!」

「ぶぁ~~~か!」

 

 床に落ちた髪の毛。ある部分から落ちていったものだ。

 それは両耳。耳を塞いでいた。

 先ほどの狂乱が嘘だったかのように、ニヤリと顔を歪めた理子。

 キンジたちが動く前に飛行機が大きく揺れ、理子以外は動けない。

 アリアが叫ぶ。

 

「ちょっとこの飛行機の揺れ!? もしかしなくても――」

「おそらくアリアの思った通りだ! 遠隔操作している。そうだろう理子!」

「あったりー! 気付くのが遅かったね、二人とも。ケー君は判っていたのかな?」

「…………ん」

 

 ケイは無言で起き上がる。頭を左右に振って厳しい表情だ。

 不安定な足場でも傾くと判っていれば姿勢を崩さない。

 理子はキンジたちの銃口から逃れ、壁に背中を預けた。

 良く見ると壁には理子を中心に導線が張り巡らされ、爆弾が仕掛けられていることが判る。

 キンジとアリアは理子の数歩手前で立ち止まった。

 不敵な笑みを浮かべながら、三人に話しかける理子。

 

「まんまとやられちゃったよ。もう少しうまくいくかと思ったんだけど、オルメス、キー君にケー君も。あんな連携(コンビネーション)をやってくるとはさすが想定できなかったよ。まだ目はチカチカするし、頭もガンガンしてるんだから」

「……理子、確認だ。お前を兄を――シージャックで戦った武偵を殺したのか?」

 

 兄、金一が行方不明になったのは『武偵殺し』――つまり理子が原因だ。

 キンジはどうしてもそれを確認したかった。

 

「くふっ♪ 気になる? だったら来なよ、この世の天国イ・ウーに。キー君のために入団チケットをタダで手に入れてあげる。お兄さんもそこにいるよ?」

「……例えそれが真実だろうが無かろうがイ・ウーに付くことはあり得ない。俺は武偵を目指すと決めたんだからな。憧れでも惰性でもない、俺自身の意思でだ!」

「ふぅ~ん……少しつまらない瞳をしてるね、キー君。学校ではもうちょっと野性的な瞳だったのに。それも後ろの友達のおかげなのかな? ねえケー君?」

「…………」

 

 ケイは答えない。ただじっと理子を見返すだけだ。

 アリアが理子に銃口を向けながら話す。

 

「アンタ、逃げるつもり? 決着を付けるなんて息巻いておいて」

 

 今すぐにでも捕まえたい。しかし爆弾使いの理子の背後には、これみよがしに爆弾が仕掛けてある。

 下手に撃つと誘爆の恐れがあった。

 アリアの問いに理子は乱暴な男言葉で返す。

 

「うるさいなぁ~オルメス。そんなにキャンキャン吠えなくても決着は付けてやるよ。必ずな。それとケー君…………ううん(シルクロ)、お前もな」

 

 今までのような愛らしくも蠱惑的な笑みではない。

 キンジとアリアで比べるなら、アリアを見るような瞳を理子は向けていた。

 

「今回でハッキリ判った。お前はアタシを徹頭徹尾(てっとうてつび)挑発して揺さぶりを掛けてきた。すんご~くムカついてるけど、でもその対処方法はイヤんなるくらい適切だったよ。一年前からアタシを騙して騙して騙し抜き、お前は多くの人脈を築き上げながら作戦を練った。だから改めて言わせてもらう。……お前は武偵より怪盗や犯罪者寄りだ。悪いことしてるアタシでもケー君ほど相手をおちょくるなんてそうそうできないよ。本来なら二人と一緒にイ・ウーに誘うべきだけど、アタシはケー君を誘わない。絶対迎えさせない」

 

 ケイは答えない。

 ただ静かに理子の言葉に耳を傾けていた。

 

「曾お爺さまにはオルメスという好敵手(ライバル)がいた。だけどホームズレベルの敵は少なかった。(シルクロ)――凡庸に振舞い、射撃や運動で目立った成績を出さず、ホームズ家のような華はない。だが犯人を確実に追いつめる技術は超一流――お前はさしずめ現代の『フランク・コロンボ』だ。だからこそいつかお前も、ホームズと一緒に斃す。多くの難敵を排して、あたしは曾お爺さまを越えたリコになってみせる。首を洗って待ってろよ?」

「…………ああ」

 

 たった一言、ケイは言葉を返した。

 それに満足したのか、理子は真面目な顔からいつもの天真爛漫な表情に戻る。

 だが納得いかないのがアリアだ。そもそも母の冤罪を晴らすために理子を捕まえなくちゃいけない。

 

「言いたい放題言ってくれるじゃない! さっさと捕まりなさいよ!」

「はい、喜んで! ――なぁ~ん言う訳ないじゃん。二人がイ・ウーに来たいなら歓迎してあげる♪ A bientot(またね)!」

「待て!」

 

 理子の背後の壁が爆弾で壊れる。

 そのまま彼女は空中へと身を投じる。あわてて近寄ったキンジたちだが、最後に目をしたのはパラシュートを開いて降りていく理子の姿だった。

 否――もう一つ見えるものがあった。それは、巨大な円筒形の金属。火を吹きながら飛行機へと迫る。

 

「ミサイル!? どこから発射したんだ!?」

「壁から離れなさいキンジ。揺れるわよ!」

 

 一回、二回と機内が大きく振動した。

 付近から悲鳴が上がる。おそらく起きていた乗客たちのものだろう。

 最悪の事態が起きてしまった。

 アリアは即座に立ち上がり「早く来なさい」と言いながら機長室へと向かう。

 キンジも追いかけようとしたところで一度立ち止まった。

 振り返る。ケイは理子が消えた壁をじっと見つめていた。

(ケイ……)

 もともとケイは犯罪者に肩入れするタイプの男だ。

 理子は一人の女の子であり、同級生。ケイの心情は計り知れない。

 リュパンの曾孫とはいえ、犯罪者に身を堕とす必要性はない。前向きに武偵を目指したっていいはずなのだ。

 ただキンジはそれとは別に聞きたいことがあった。おそらくこのタイミングでしか聞けない。

 キンジはおもむろに切り出した。

 

「ケイ……お前は本当に、公安警察なのか?」

「…………」

 

 キンジの方に視線をやるケイ。その表情は読み取れない。ただ何かを堪えているようにも思えた。

 そしてぼそりと呟いた。

 

「……お前らが何を言っているのか判らないっての」

「そうか。そうだよな。変なことを聞いた。まだ大丈夫そうなら機長室に来てくれ。先に行ってるぞ」

 

 あの場面での言葉は戯言とばかりにすっとぼけた。

 つまり公安警察、大石啓はいないんだと否定した。本当か否かは関係ない。

 その言葉にキンジはどこかホッとした気分になる。

 本当だったらいつかケイは武偵高校を離れることになるだろう。

 ハッキリしない分、気持ち的には楽だったのだ。

 キンジはそのままアリアの後を追うために部屋を離れていったのだった。

 

 誰もいないバーで、一人残されたケイ。

 

「だからさ――――ッ」

 

 シリアスな顔のまま吐き捨てるように何かを呟くと、ケイはそのままキンジたちとは逆方向へと走って行ったのだった。

 

 

 

 結局、ケイはキンジたちの元へはこなかった。

 飛行機のメインエンジンが二基破壊され、燃料漏れの発生。政府の介入による羽田空港の着陸拒否。

 命運はキンジとアリアに託された。

 不知火は武偵高校の仲間たちをかき集め、神経毒で緊急搬送された武藤は治療もそこそこに強心剤(ラッツォ)を自身に打ちこみ怪我を押して病院を脱走。武偵高校へと舞い戻る。

 仲間たちの惜しみない協力にキンジたちが答え、飛行機は開発が中断されていた人工浮島に緊急着陸を果たす。

 その後ケイはトイレの近くで頭から血を流している状態で発見された。

 

 彼は何を思っていたかは判らない。だが無駄なことをする男でもない。

 きっと彼は彼なりに裏方としてキンジたちの助けになる行動をしていたのだろう。

 結局、ケイは退院翌日に出戻り入院となり、事件の詳細はキンジとアリアが作成することとなる。

 武偵高校の生徒は未成年であり、犯罪を犯した場合は少年法に基づいて極一部の関係者以外秘匿される。

 

 峰理子は長期の海外留学という名目で姿を消し、不知火や武藤にも『武偵殺し』が誰であるかは知らせれていない。

 真実を知るのは、現場にいたキンジ、アリア、ケイ。それと警察の一部関係者にのみ知らされこの事件は終結することとなった。

 

 そして毒や怪我で入院していた武藤やケイが退院した数日後。

 放課後の教室にキンジたちはいた。

 武藤が使われなくなった理子の机を見てため息を吐く。

 

「しっかし俺たちが入院している間に海外留学とはなぁ~。クラスの花が一人減っちまって寂しいぜ……」

「仕方ないよ武藤君。きっと彼女は彼女なりの考えがあって留学を選んだんだろうし。ね、遠山君?」

「あ、ああ、そうだな」

 

 どこか言葉の端に含みを持たせながら不知火はキンジに話を振る。

 察しの良い不知火のこと。理子がいなくなったタイミングから薄々感づいているのだろう。

 だが緘口令が敷かれている以上、キンジが答えるわけにはいかない。

 最後の一人、ケイはというと、

 

「ああ、わり。俺、ちょっと先行くわ」

 

 一人立ち上がり、かばんを持ったまま入口へと歩き出す。

 そんなケイに武藤があわてて話しかけた。

 

「おいおい、どうしたんだよケイ。久しぶりに四人集まったんだし、飯でもいこーぜ」

「なんかいつも飯喰ってんな俺ら……まあそれはいいとしてだ。悪いんだけど、用事あるからちょい無理なんだわ。今度飯喰うときはおススメの店紹介すっから今日んところは、な?」

 

 そう言いながらケイは急ぎ足で教室を出ていく。キンジたちがそれを見送ると、武藤が振り返った。

 

「まあ、用事あるならしゃーねえか。お前らはどうする?」

「僕はいいけど、遠山君はどうするんだい?」

「スマン! 先行っててくれ!」

「お、おいキンジ!?」

 

 キンジは教室を飛び出し、ケイを追いかける。夕焼け色に染まった廊下を進むと、ケイはすぐに見つかった。

 

「ケイ!」

「んあ? どうしたんだよキンジ。そんなに慌てて」

「少し言いたいことがあってな、理子のことなんだが……」

 

 ケイは関係者なので話しても問題ない。

 アリアは実家や裁判で立てこんでいたり、キンジは事件や兄の件の再調査などで忙しく、見舞いも碌にいけなかった。なので今更ではあるが理子についてのことを改めて話そうと考えたいた。だが、

 

「なんだ、そのことか。いいよ」

「いいって……」

「言いたいことは判ってるってことだ」

「そう、か。それもそうだよな」

 

 存外明るい調子で返された。そもそも現場にいた以上のことは判明していない。

 峰理子という少女が何を思って今回の事件を企てたのか。

 どういう経緯で『武偵殺し』を名乗ったのか。

 イ・ウーという組織になぜ辿り着いたのか。すべては謎のまま。

 判っていることは、彼女はいずれまた決着を付けに来るであろうことでしかない。

 何も考えずに来たがキンジが話す内容はなかった。

 

「理子のことはショックだったけど、別に気ぃ使わんでもいいぞ。武藤とかに話すとうるさそうだから言わんかったけど、旅行の準備があってな。早く帰りたかったんだ」

「旅行?」

「おう、お一人様海辺の旅館にご招待。ガラガラの抽選で当たってな。明日は金曜日だろ? 学校が終わったら電車乗り継いで泊まる予定なんだ。気分転換には持って来いってやつだな。だから、まあ気にしないでくれ」

「……まったく、お前は気楽だな」

「気楽にやらなきゃ、やってられないっての。こちとらいろいろ忙しくてオーバーワーク気味なんだ。心の洗濯にでもしゃれこまんと。ついでに綺麗な人がいたら最高だな!」

「ははは、本当にいつも通りだなケイは」

 

 ニヤリと笑いながら下心全開の軽口。さすがのキンジも苦笑いする。

 オレンジ色の廊下がノスタルジックな雰囲気を醸し出しているが、当の本人たちはどこ吹く風だ。

 そのままケイは背中を向けると「じゃあな」と言って、ヒラヒラと手を振りながら階段を降りていく姿をキンジは見送った。

 

「俺が気にしすぎたか。とりあえずカバンを取りに行って――」

「キンジ!」

 

 ちょこちょこと駆け寄る小さなピンク髪の少女アリア。

 その顔には満面の笑み。キンジは少し驚きながら返す。

 

「どうしたんだアリア。とても良いことがあったように見えるが……」

「どうしたもこうしたもないわ! 『武偵殺し』の冤罪を晴らすことができたことでママの公判が伸びたの! だからとりあえずは一安心ってわけ」

「よかったじゃないか」

「ええ! でもまだまだこれからよ。結局理子には逃げられちゃったし、他にもメンバーがいる。だから……その……キンジ」

「ん? どうした?」

 

 アリアが言い淀む。白磁の頬を朱に染めながら、トントントンとつま先は床を叩く。

 小さな彼女を自然と見下ろす形となる。

 そしておもむろにキンジを上目づかいに見つめると、

 

「そ、その……これからも、アタシのパートナーを努めて欲しい。今回の件で判ったわ。アタシ一人じゃ理子の良いように翻弄されてた。ママの言ってたパートナーが必要っていうのを痛感したわ。だからこれはお願い」

「……命令じゃないのか?」

「パートナーは命じてなるものじゃない。キンジ――アンタの意思で決めて。だめなら……ちょっと風穴したくなるけど、諦めるわ」

「風穴は勘弁だ。……そうだな」

 

 一度言葉を切る。だがキンジの答えは決まっていた。

 

「受ける」

「え?」

「いいさ、パートナーの件。受けるよ。理子の言っていたことも気になるし、どうせ俺もターゲットにされてるだろうしな。とことん付き合ってやる」

 

 兄がイ・ウーにいる。嘘か真かは判らない。どの道キンジがここで引き返す理由はなかった。

 キンジの言葉にアリアは嬉しそうな笑みを浮かべるが、慌てて引っ込める。

 

「ふ、ふんっ、当然ね! アンタは武偵しか能がないもの! だったら早速特訓ね!」

 

 真面目な表情を浮かべているつもりだが、アリアは全身から喜びの感情が溢れていた。

 ぴょんぴょんと跳ねる度に桃色のツインテールが元気に揺れる。

 楽しそうにキンジの手を強引に掴み、走り出す。

 

「特訓!? いや、なんの特訓をするつもりだ!?」

「決まってるじゃない。体育館や飛行機で見せたアンタの超人的な潜在能力を恒常的に引き出す練習よ! そうすればイ・ウーなんてけちょんけちょんよ。さあ行くわよ!」

「待て待て! ちょっとな――」

「待たないわよ! アンタは今日からアタシのJ・H・ワトソンになるんだから。きっちり調教してあげる! 逃げたら風穴だからね!」

「そこは変わらないのかよ!?」

 

 ぎゃあぎゃあと騒ぎながらキンジとアリアは駆けだしていく。

 イ・ウー、理子の意味深な言葉、そしてアリア。

 見えない大きな流れの中に身を投じたような錯覚を覚えながらキンジは強引なお姫さまに手をひかれていく。

 キンジ、アリア――この場にいないケイ。

 三人を中心にこれから始まる物語はまだ始まったばかり――――

 

 

 

 

 

 学校内で騒ぐキンジたちを余所に、一人先に生徒玄関を抜けたケイ。

 今週の授業は残り一日とあってか、帰っていく生徒たちの雰囲気はどこか楽しげだ。

 もちろん中には真剣な表情で射撃場へ足を向ける者や、携帯を片手に連絡を取り合っている真面目な生徒もいる。

 しかしほとんどの者が二人以上のグループを作っていた。

 その中を歩いていくケイの背中はどこか寂しげだ。

 

「――――――」

 

 何かを呟いたあとケイは空を見上げた。

 綺麗な夕焼けとふっくらとした綿雲が流れていくのが判る。白い綿が千切れて、雪みたく振ってきそうなほど大きい。

 ふと足元に生温かい感触を感じ、視線を下げる。

 

「ニャーン」

「白猫かあ、可愛いなあ。よしよし」

「大石先輩、お疲れさまっす!」

「おう、お疲れー」

 

 後輩の男子生徒が親しげに挨拶しながら帰っていく。

 そんな大声に驚いたのか、足元の猫はいつの間にかいなくなっていた。

 

「あ、猫逃げちまってる。……ん、あれは――」

 

 少し先に女子の集団がいた。

 黒髪、金髪、茶髪……ライカやいつぞやのライカがあかりと呼んでいた少女などがいた。「アリア先輩が~」などと茶髪の女子、あかりが身振り手振りも交えて先輩の武勇伝の語っているようだった。彼女たちはそのまま談笑しつつ、学校の校門を抜けて姿を消す。その様子にケイは見えない重しを吹き飛ばすかのように長く息を吐いた。

 

「……俺の悩みも勘違いだって判ったし、戦徒も選べるっちゃ選べるんだよな。旅行から帰ったら、誰にするか決めるかね」

 

 ケイはそのまま誰と話すでもなく、ゆっくりと歩きながら男子寮へと向かうのだった。

 まもなく五月。祭りの時期が近づいていた。

 




けいは といれで うずくまる

※次回6/27更新予定

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