緋弾のアリア~裏方にいきたい男の物語~   作:蒼海空河

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武偵高校の入学式

 春。古来日本より愛され続けてきた桜の花びらが舞う季節。

 空は記念すべき日を祝福するかのように晴天に恵まれた。

 俺は武偵高校の男子寮で、鼻歌交じりで準備をしていた。

 

「ふふふ~んふーふーふ~んふふふ~んふーふーふ~んー……っと。よし装備完了」

 

 ゴムスタン弾をマガジンに入れて拳銃に装着。

 腰のホルスターに拳銃を差しこむ。

 拳銃持つなんて銃刀法はどうなってるのと最初思ったが、校則で決まっているらしい。

 治外法権だよな、ほんと。刀剣も装備しなくちゃいけないとかね。

 

 合格してから二ヶ月弱。学生時代の華とも言える高校入学。

 その最大の山場で難所であろう受験さえ切りぬければ、あとは卒業のみ…………のはずなのだが。

 俺だけはその前にもう一つと試練、いや地獄を突破しなければならなかった。

 

 グランド百周、腹筋背筋腕立てスクワット百回×三セット、室内射撃場で速射、片手、レフトハンド射撃等々――初日にあの不良教師から言い渡された内容だ。

 休みは中学の卒業式と昨日の一日だけって、労働基準法的ななにかに引っかかんないすかね? もう過ぎたことだからいいけどさ。

 おかげで無意識に拳銃を持っていく習慣さえ生まれたんだから泣けてくる。

 ピンポ~ン!

 呼び鈴が鳴る。たぶんご近所さんだろう。

 俺は鞄をひっつかみ玄関の方へと小走りで向かう。

 ドアを開けると黒髪に目はキレ長なイケメンさん。

 

「よっ、おはようケイ」

「おっすキンジ。わり、装備に手間取ったわ」

 

 遠山キンジ――試験の最後で戦った(逃走が正しい気もするが)アイツが隣だった。

 入寮したときにバッタリ出会ったときは誰か判らなかった。

 雰囲気がまったく違う。山猫と家猫レベルぐらいだ。

 「良く似た双子さんがいたりする?」って真面目に聞いてしまったからな。

 そうしたら慌てて「あのときは気分が高揚してておかしくなってたんだ!!」とか必死に弁解してた。

 良く判らないが、トリガーハッピーな人なのかもしれない。

 バイクに乗ると人が変わる白バイ隊員さんもいるし突っ込まないでおこう。あれはフィクションだが。

 兎にも角にも、同年代で試験前に話した仲。中学から武偵を志しているから細かいことも色々知っているし、自然と話すようになっていた。

 

 合流したあとはのんびり登校だ。

 男子寮を出て高校を目指す。本来はバスに乗れば楽だが、折角の入学初日。

 キンジの提案で少し早目に出ようということになった。

 歩いていると俺の背中にひときわ異彩を放つブツがある。

 キンジが指さしながら言う。

 

「やっぱり気になるんだが……十手(じって)、だよなそれ」

「祖父に相談したら勝手に送ってきたんだよ。母の形見っつって」

 

 ああ……とそこでキンジが言葉を濁す。

 キンジも親は他界しており、肉親は兄一人らしい。話題にしていいか迷ったようだ。

 お互い様だから気にすんなと言うと言葉を続けてきた。

 

「……母親が武偵だったんだっけ?」

「Dランク武偵だとさ。初めて知ったからマジで驚いたっつーの。しかも知ってたとばかり思ってたとさ」

「ああ……でもあるかもな。俺の兄さんなんかは秘密保護に該当するものじゃなきゃ割とぺらぺらしゃべるけど」

「マイペースな人だったからなぁ。仲間内じゃ昼行燈(ひるあんどん)ってあだ名から『昼子ちゃん』って言われてたらしいし」

 

 そう俺の母、大石杏子は武偵だったらしい。Dランクらしいので腕はまあ普通レベルだったのだろう。

 そのとき使っていたのが十手。

 長さ五〇cm幅一・五cmの特注デカ十手。カーボンナノファイバーだかなにか知らんが、凄まじく硬い。

 でも丁度いいっちゃ丁度良かった。

 ナイフで切った張ったは苦手だし、十手なら道場で練習した突きも問題なく行える。

 武偵なんて……って思ってたが、母さんがやってたらな少しは頑張ろうかなと思えるようになった。

 ……できればカメラマンになりたい気持ちは当然あるけどな。

 

 余談だがシグも母親のお古だったりする。

 試験で使ったシグP-220ではなく、その先代のシグP-210-6という旧式銃。

 旧式といって侮ることなかれ。

 数々の名銃を生み出してきたスイス謹製の一品。鍛錬に研かれたボディは妖しい光を放つブルー・フィニッシュが施され、スマートなグリップは使いやすさも抜群。

 一点物の高性能拳銃で当時ではかなりの命中精度を誇っていたらしい。

 装弾数8+1の9mm弾使用。シングルアクション。トリガーは軽くなめらかでそれでいて滑らない。コルトガバメントのシングルトリガーですらその域に達していないという人もいる。

 味のある木製グリップが非常に美しい。

 その分、お値段が高過ぎたらしく、当時1500ドル。現在は生産中止もあって4000ドルはくだらない激レア拳銃だと。

 絶対壊すなよお前、壊したらファンにハチの巣にされるかもな――――byキンジ。

 

 等々銃マニアなのかなと思いつつ、実家から送られたときに延々と説明されました。

 拳銃や弾薬も基本的に自分で用意しなくてはいけない。諭吉さんが羽を生やして飛んでいく。

 節約のためにもこの拳銃はありがたく使わせてもらっている。

 ただし、シングルアクションは一度スライドを引いて撃鉄を上げないと撃てないので急な事態に対応しずらい。お金が溜まったらP-220も買おうと思ってる。諭吉が小隊を編成できるぐらいになったら。

 

 周囲に制服を着た素敵な女子たちが見え始めた頃。

 遅刻時間にはまだ早いのにダダダダダッ!! とダッシュで近づく足音が聞こえた。

 なんとなく後ろを振りむくと、目に映るのは白と赤のコントラスト。

 

「んなっ、巫女服!? いつからここは参道になったんだ!? そして胸でけぇっ!!」

 

 黒のロングヘアーを白リボンで結び、巫女服に身を包んだ純和風の美少女が登場。

 ゆっさゆっさとけしからん暴れん坊を身体に飼っていらっしゃる。

 俺に限らず周囲の男子の目線を釘づけだ。

 そんな彼女は何故かこちらへ一直線へ突進している。

 

「キンちゃーーーーーーーーんっっっ!! 白雪もご一緒させてくださーーーーーーーーい!!」

「げっ……し、白雪……」

「お前知り合いなのか?」

「ま、まあ……」 

 

 歯切れの悪いキンジ。

 すぐに逃げたいけど逃げれないという風にそわそわしていた。

 よく判らないが一言言っておこう――グッジョブ! 便乗して知り合いになっちまえ! 女っ気のない今までの人生サヨウナラ。ようこそバラ色夢色の学生生活。友達の友達は友達だよな?

 胸を抑えながら目の前で止まる美少女様。絹のようになめらかな黒髪が顔を撫でる。

 キンジに誰? と目線で訴えかける。

 

「あ~~星伽白雪(ほとぎ しらゆき)。幼馴染みたいなもん」

「あ……すみません、勝手に盛り上がっちゃって。キンちゃんばかり見てたから……。星伽白雪です。星伽神社の武装巫女(ぶそうみこ)やってます」

 

 ぶ、武装巫女!? 最近の巫女さんは(ぬさ)(木の棒に白い四角い紙が付けられた道具)じゃなくてポン刀を引っさげるのが通なのか?

 いやっ、そこはいいじゃないか! 可愛いは正義! 良い男はさらっと受けとめるべきだ!

 両手を重ねてゆっくりお辞儀をする姿は素人目に見ても洗練されてて美しい。礼儀作法を知っていなければできない所作はまさに大和撫子。

 太陽が雲を遮っても艶のある黒髪がまた独特の雰囲気を出している。

 どう見ても美少女ですありがとうございました。

 

「ど、どもです。大石啓っていいます」

 

 自分でも情けないなと思いつつ、どもり気味に返事をする。

 下手なアイドルより貴重な日本美人だ。黒髪ロングなんて現代日本じゃ絶滅保護指定人物だぞ。

 緊張しない方がおかしい。

 そんな俺の対応にも、にこっと白百合の花が咲くように返す星伽さん。

 

「大石さんですか。これから三年間よろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくっす!」

「ところで」

「はい?」

「……キンちゃんとは、どういった関係なのかな……?」

 

 …………雲行きが怪しくなってきたぞ。

 なんか例えようのないプレッシャーが……気のせい、だよな?

 

「キンジとは受験のときに知り合って。な?」

「お、おう。入試のときに話してな……」

「そうそう」

「……じゃあ、ナニカトクベツなカンケイじゃない――ってこと? 」

「特別ってなんだよ。友達だから普通じゃないのか?」

 

 質問の意味が判らず、首を傾げていると、星伽さんからの謎プレッシャーがふしゅ~と消えていった。

 ただその後は「キンちゃんの隣を歩くなんてとんでもない!」と言いだし、キンジの三歩後ろを歩いていた。どこの妻だ。

 

「そうなんだ……よかった。…………キンちゃんが私をおいて二人っきりで行くなんてなにかあると思ったけど勘違いよねそうよね私が一番キンちゃんに近いんだしぶつぶつぶつぶつ――」

「な、なんか呟いてるんだけど」

「あ~~白雪って昔からああなることが多いんだよ。だからちょっとなぁ」

 

 するとキンジが「ここだけの話な」と前置きをして耳打ちする。

 

「こいつ、俺が他の女の子と仲良くしていると拗ねたり怒ったりするんだよ」

 

 ここまで来るとさすがの俺も判る。思えば最初から俺ってそこらの背景扱いされてた気がする……。

 

「お前……どうしてか判る?」

「判らないからめんどくさいんだよ。たまに男にもいちゃもんつけるし、意味判んねぇ」

「……あ、そっすか。まあ、頑張れ……」

「あ? ああ……」

 

 はい終了~~~! どう見ても幼馴染が好きな女の子と鈍感な主人公の図ですふざけんなっ!!

 誰か……助けてください! リア充を爆発させる方法ってなにかないか?

 

 今もとぼけた表情のキンジ。

 さりげに星伽さんを見ると、頬をリンゴのように染めてチラチラとキンジを見ては顔を伏せていた。どう見ても恋する乙女だった。いじらしすぎる。

 入学式の前からこんなラブコメシーンを見せられて恋人居ない歴、前世含め四十年余り。心が荒むのは仕方ないことだろう。

 ピリピリしてると自覚しながらも武偵高校を目指す。キンジは俺の変化気付いたのか静かに歩いている。

 ……ごめんよ若者。でもお兄さん器狭いからダメなんだよ。ちょっとだけ心の中で泣かせてくれ。

 周りを歩く新入生らしき人達が俺を見て道を空けていく。でも気にしない。今だけはそっとしてくれ……。

 

 後ろから風が吹く。さりげに星伽さんの呟きが聞こえてきた。

 

「……これから、毎日お弁当作って……お早うもして……そしてそして、キンちゃん様と私は月夜の晩に身体を重ねて…………きゃっ! ダメだよ! お淑やかにしないと嫌われちゃう。で、でも朝のちゅーくらいなら……」

 

 死体蹴りとか鬼ですか星伽さぁん!!

 心で号泣しながら俺+カップルもどきたちは歩くのだった。

 

 

 

 東京武偵高校。

 レインボーブリッジ南方に浮かぶ人工浮島。南北約二km&東西五百mというとんでもない場所にある。ていうか日本はいつこの場所に浮島を作った。もう別世界だよな、ここ。来た以上どうしようもないのだけどさ。

 高校が目前の状態で俺は考えた。

 星伽さんは仕方ない。誰だって知り合いの一人や二人いるし、彼女は純粋にキンジを想っているのだ。俺がどうこう考えてもしょーがない。

 だからこそ前を向こう。

 武偵を目指しているからか、女の子たちは総じて健康的で活力に溢れている。これでも観察眼には自信があるからな! 

 不摂生という言葉など彼女らの辞書にはないのだろう。

 俺は事情に詳しいであろうキンジに聞くことにした。ただその前に、

 

「なあキンジ。悪いなぴりぴりしちまって。どうしても抑えれなかったんだ」

「……別に仕方ないさ。それでどうしたんだ?」

 

 大人げないことをしていたのにあっさり流してくれるキンジ。こういうイケメン力が星伽さんのような子の心を捕らえるのかもしれない。参考にしよう。

 俺は本題に入ることにした。

 

「東京武偵高校ってどの程度のレベルかと思ってさ。周囲の奴もなかなか高かったけど、先輩は判らないからな。キンジは多少知ってるんだろ?」

「なるほど、途中から気配が鋭くなってたのはそのためか……。東京武偵高校はレベル高いからな」

「おっ、やっぱり? くっくっくっ、楽しくなってきたな!」

「お前は楽しめるのかよ……」

 

 うるさいリア充。楽しまなくちゃ損だろうが。

 女の子のレベルが高いのはいいことだ。

 やっぱり高校恋愛は憧れだろ!

 甘酸っぱい青春の日々。楽しまなくちゃな!

 

 校門が見えてきた。

 嬉しいのだろう、皆笑顔で武偵高校の門をくぐっている。これから新しい舞台の幕開け。心が沸き立つのは当然だろう。

 一人の少女が俺たちを抜きさり走っていく。

 一瞬だが金髪のゆるふわ巨乳さんだ!

 はらりと舞うスカート。まさかの僥倖に内心で歓喜する。

 なんか黒いぞ! エロティックだな! っても思ってみたら黒光りした拳銃でした。

 ……うん、武偵高だもんね。スカートの中に拳銃仕込む子もいるよねそりゃ。

 

 若干テンションが下がりつつ、俺たちも校門を通り過ぎると、

 

「ようこそ武偵高校へ!」

「来たか新入生っ、強襲科はいつでも死ねるから楽しみにしておけよ!」

「新入生の皆さんは体育館にお集まりくださ~~~い!」

「あ、そこ子たち困ったら装備科へ来てね。重火器のメンテから魔改造まで受けてるから! これ値段表」

「黒魔術研究会にこないかね諸君。我ら闇魔法結社の真髄をお見せしようではないか、はーはっはっは!」

「俺たちのチームはいつでも才能のある人材を求めている! Aランク武偵のいるから安心だぞ!」

 

 凄い熱気だった。

 両サイドに先輩であろう方々が熱心に勧誘をしている。一部おかしいのもあったが。

 ただ俺たちがやってくると一瞬静かになった。

 え、どうしたの?

 賑やかなのには変わらないけど、微妙に注目されているような……。

 

「……おい、あれか?」

「ああ写真と同じだ。キレ長のスラっとした男に、背中に十手を装備した眠たそうな男」

「Sランク認定された奴らか。教官まで倒したらしいな……」

「教官ってAやSランクの化け物ぞろいなのに……」

 

 い、居心地が悪い。

 噂してるようだけど何を言っているかよく聞こえない。

 俺は気を紛らわすためにキンジに話しかけた。

 

「し、しっかしアレだな! やっぱりレベル高いな。こりゃ腕が鳴るってもんだよな!」

「……さっきから思ってたんだが、もしかして上勝ち狙いか? 一年の差は想像以上にきついぞ」

 

 上勝ち……? ……上……上って年上のことか? ……ああ、つまり年上狙いかっていいたいのか。先輩のハートを射止めることができるかっていいたいんだろう。たまにキンジは変な言葉を使うから一瞬判らなかったぞ。

 まあ先に卒業しちゃうから、学生時代の一年ってけっこうでかいもんな。

 でも大丈夫だろう。

 

「一年の差なんて気にしたってしょーがないだろ? むしろ障害がある方が燃えるってもんだ。いまから学生生活が楽しみで仕方ないぜ俺は」

 

 ザワッ。

 気持ち大きめの声でいっちゃったけど、まあいいだろ。

 いつでも恋人募集してますんで!

 キンジは何故かあんぐり口を開けたあと、苦笑していた。

 

「こりゃ新学期早々、いろいろ大変なことになりそうだな」

「よう判らんけど……ま、なるようになるだろ?」

「はは、違いない」

「キンちゃーん、あと大石さん、そろそろ時間だってー!」

「ああ、じゃあ行きますか!

「おう」

 

 ようやく自分の世界から脱せたらしい星伽さんに施されながら体育館へといく。

 キンジは白雪さんに手を引かれて、連れられて行った

 突き刺さるような視線が浴びせられていたが、きっとリア充のキンジのせいだろうなきっと。

 

 晴れやかな天気。鼻につく火薬のにおい。硝煙やら弾丸が飛び交うとんでもない三年間が始まる――

 

 

 

 




※補足
※修正→シングルアクションでもオートマティックは撃ちきるまではスライドしなくてもいいそうです

拳銃のシングルアクションとダブルアクション……平たくもの凄く適当にいうと、引き金を引いたとき弾がでるかでないかの違い。シングルは撃鉄を起こす、スライドを引くなどの動作を行わないとトリガーを引いても弾が出ない。安全装置の一つみたいなもの。種類にもよるがスライドを引けば撃ち切るまで撃てるらしい。

 ダブルアクションは引き金を引くと勝手に撃鉄を起こして弾を撃てる。詳細はもっと細かいけど、銃マニアじゃない作者ではここまでが限界でした。

コルトガバメント……アリアの愛銃でもあったりする。シングルアクション。ただアリアの拳銃は改造で三点バーストやらしてあるのでバンバン連射する。ただこの拳銃で連射機構をつけるのは現実的には無理らしいです。アニメ凄い。

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