あれ? 勇者ってこういうのだっけ   作:みども

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第9話

 両腕もまとめて両脚で相手の体を挟んで馬乗りになり、シグルスを完全に抑え込んだ。

 悪いけど、こんな化け物に手を抜くことなんかできない。

 所詮末端の兵士なので、名誉を重んじる事も遺言を聞くこともしない。

 降伏勧告など無し、問答無用だと喉を握る手に一層力を込めもう一方の手をシグルスの目に狙いを定めて人差し指を伸ばした状態で突きさす。

 これで目を潰し、直後に指先から雷系統の魔法を出して脳髄を焼き尽くす。

 野生の世界で生き残るために獰猛で強大な数多くの魔物相手にその命を奪ってきた、私の必勝の殺害方法である。

 

 獲物に対してとどめを刺さる機会が巡ってきたら、本能でこの命を狩るまでの一連の流れを行ってしまう。

 だから、ここまでの動きはほとんど体の覚えた流れ作業のようにためらいなく進めた。

 まあ、明確にこの騎士団長を殺すことは意識していたけど。

 

 

「シグルス様ッ!」

 

 

 ところがどっこい。

 あと一歩で殺せるはずだったのに、まさかの横槍が入った。

 シグルスに当たるかもしれないから騎士からの攻撃はなかったと思っていたのだが、その予想に反して騎士たちが私の家族たちの妨害を突破してきたのである。

 

 そして、ここでも野生生活の弊害が。

 野生は危険と隣り合わせ。獲物を狩ったとしても一瞬の油断が背後からの横槍を許すこともありふれていたので、どんな時でも迫り来る脅威に警戒心が張り巡らさらせていた。

 その警戒が迫り来る王国騎士の精鋭部隊たちの脅威を敏感に感じ取り、思わずシグルスにトドメを刺す手を止めてしまったのである。

 

 そして危険を感じた本能に従いシグルスの目を貫こうとしていた手を振り払う。

 それは間一髪でシグルスを道連れに剣で串刺しにされて死骸になってしまうところだった危機を、騎士の剣を弾くことで回避した。

 

 

「痛っ!?」

 

 

 だが、まさかの騎士たちも剣も魔力が浸透していた。

 シグルスほどではないが、槍ではなく素手で弾いてしまったことで剣とぶつかった衝撃がもろに伝わり激痛が走る。

 

 しかも弾けたのは最初の1人だけ。

 直後には、さらなる騎士たちの剣が突き出されてきた。

 

 

「チッ!」

 

 

 これはさすがにたまらない。

 命懸けで作ったシグルスを討つ絶好の機会を逃してしまうのはもったいないが、死んでしまっては元も子もないので、急いでシグルスの上から跳びのき騎士たちの剣から逃げた。

 

 シグルスを助ける騎士と、こちらを追撃してくる騎士。

 介入してきた騎士たちは最初に弾いたやつも含め、それぞれ咄嗟の判断ですぐに動く。

 

 

「待てこの蛮族──グアッ!?」

 

 

 飛び退いて着地した場所にたまたま落ちていた剣を拾い上げ、シグルスに比べればまだまだ遅い追撃してきた騎士の剣を紙一重で躱し、カウンターで相手の鎧の上から胸に剣を突き刺した。

 癖になっている雷の魔法を剣を通して相手の体に流し込み、確実にその息の根を止める。

 

 力が抜けて凭れ掛かってきた騎士から剣を奪い、用のなくなった死体を邪魔なので蹴り倒す。

 その頃にはすでにシグルスは騎士たちに支えられて起き上がり、呼吸も体勢も立て直されていた。

 

 騎士の剣をパクって二刀流になってみたけど、ぶっちゃけ双剣術なんて知らない。

 というか、前世は中学からバイト三昧で部活している暇なかったし、剣道部に入ったこともない。今世も前半生は野生で生きていたので、槍を手作りして使ってきたから槍なら使えるけど、剣術は全く知らん。

 格好つけて二刀流になってみたけど、剣は素人だ。構えも適当。

 手数を多くできそうだからいいかな、という思いつきでやってみただけである。どうせ敵からパクった代物なので、使いにくければぶん投げるつもりだし。

 

 さて、仕切り直しになったっぽい。

 しかし先ほどと違い、敵はシグルスだけでなくかなりの人数のリングル王国の騎士も追加されている。

 家族たちの方もどっから湧いてきたのか鎧に血が付いているのにやけに元気なかなりの数の騎士たちに取り囲まれて、こっちの援護どころじゃなさそう。

 

 一騎討ちするぞ! とか明確に言ったわけじゃないし、そもそも私は一騎討ちなどという酔狂なことに興味はない。

 先ほどまでは私の家族が他の騎士が近寄らないように援護してくれていただけなので、それを突破してきたなら横槍を入れようがこうして1人相手に数で襲う状況を作ろうが、それは自由だと思う。

 だって戦場だし。勝つために、生き残るためにどんな手も使うっていうのは至極当たり前でしょ。

 さっきは「その首貰い受ける!」なんで調子に乗って言っていたけど、私は騎士の誇りだとか名誉だとかいうことには頓着しないし割とどうでもいいことだと思っている。

 だって武人の誇りとかいう何の形もないものでリスク犯すとか、アホじゃん。

 

 第一、人間は魔族に対してただでさえいろいろ劣っているんだから、群れて挑んでも卑怯じゃないと思う。

 ……あの騎士団長さんの剣はちょっと人間離れしてると思うけども。

 だから、別に数に任せて向かって来ていただいても全然OKだ。

 

 

「全員でかかるぞ。この場に時間はかけられん」

「「「ハッ!」」」

 

 

 シグルスの方もいつまでも本陣から離れているわけにもいかないのか、己1人の名誉よりも王国軍の勝利のために部下と共に戦うことにしたらしい。

 一介の騎士ならともかく、団長勤める人ならこのくらいの決断はできなきゃダメだよね。

 

 

「行くぞ!」

「「「応ッ!」」」

 

 

 そしてシグルスの号令とともに、騎士たちが一斉にこちらへと向かってきた。

 家族たちが不安そうな唸り声を上げる。

 待った待った、君らは包囲されているからむやみに突撃しないように。下手に怪我するよりも、雷で自分の身を守ることに集中して。

 以心伝心の家族たちにハンドサインで身を守ることに専念するように伝える。

 そして、同時に安心させるように笑顔を向けた。

 

 

「大丈夫だって。一騎討ちより、私はこっちの方が戦いやすいから」

 

 

 ……いや兜で口元しか向こうからは見えないと思うけど。

 まあ、言いたいことは伝わったらしい。

 家族たちは落ち着きを取り戻し、自分の身を守ることに集中する。

 

 よしよし。これで私も十全に戦える。

 数の力は偉大だけど、相手を選ぶべきだったね。

 足並みをそろえて向かってくる騎士たちに、私は都合がいいと口元に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 ……そういえば、シグルスたちが出てきたということは王国軍の本陣は守る戦力が残ってないはずだよね? 

 私を囮にしているローミア隊長が、この絶好の機会を逃すとは思えない。

 やっぱりあの紫髪魔族、陰険だわ。

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