あれ? 勇者ってこういうのだっけ 作:みども
「油断するな! 三方から取り囲め!」
「「「ハッ!」」」
先に動いたのはシグルスたちの方だ。
3人の騎士を先頭に、両側面と正面の三方向から取り囲むように足並みをそろえて切りかかってくる。
その後ろからシグルスたちも続いており、前の騎士たちの剣を躱そうが受け止めようがあの強烈な剣戟を叩きつけて勝負を決めるつもりなのだろう。
真っ当な相手ならそれで詰みにできるし、軍団長級でも対応に困るいい攻め方だと思うよ。
アーミラ軍団長なら炎の魔法で騎士たちを追い払うけど、シグルスが突破して強烈な一撃をかましてその隙に周囲の騎士が殺到する、なんて連携につながると思うし。
けど……さ。
悪いけど、私は真っ当な輩じゃない。
戦闘のいろはとかまともに習わずに、魔物相手に生存競争していたから。
お行儀よく戦うのは無理なんだよね。
両手の剣を上げて、両側から攻めてきた騎士の剣を止める。
とはいえ正面からも同じタイミングで騎士が剣を振り下ろしてきているし、シグルス配下の騎士たちもまたシグルスほど強烈でないとはいえ武器にまで強化魔法を波及させて魔力を纏わせたガツン! とくる剣を振るってくる。
私の片腕じゃそれはまともに当たっても止められない。
おまけに後ろからはシグルスがきているときた。正面の騎士の剣を対応しようにも、直後にこの本命の攻撃が来て真っ二つになるだろう。
普通なら、ね。
私は普通じゃない。お利口さんでもない。さっきぶっ殺した騎士に蛮族呼ばわりされたけど、まさに知的生命体らしからぬ野蛮な戦い方をするのが私だ。
両腕が押し込まれる前に自ら正面の騎士の間合いに飛び込むと、歯に雷魔法を帯びた魔力を纏わせ、両手ふさがれ無防備に見えた私の首を狙ってきた騎士の剣に噛み付いた。
「なっ!?」
顎に途端にガツンと強い衝撃と激痛が走るが、我慢する。
そして予想外の行動に出てきたことで怯んだ隙に、噛み付いた剣を強引に押し込んで騎士の体勢を崩し、後ろから来るシグルスにぶつけた。
「ぬっ!?」「何ッ!?」
「こいつ!」
それに意表を突かれたのは、剣に噛み付かれた騎士だけじゃない。
想定外の行動をとった私に、両側の騎士たちも驚いて押し込む力が弱まる。
そしてシグルスはそういう人間らしく、邪魔になった部下を物理的に切り捨てることができず思わず剣を下ろしてしまった。
痛え……手、めっちゃ痺れてる。
顎なんか目の前に星が走りそうだったよ。
けど、予想通り。
魔力をまとった剣は顎の力だけじゃ噛み砕けないけど、雷の魔法で熱を与え溶かすことで私は騎士の剣を食いちぎった。
「ばっ馬鹿な──グアッ!?」
動揺する騎士。
その声がすぐさま悲鳴に変わる。
常識的に絶対やらない予想外の行動に出て来た私に戸惑った騎士たちの連携は、完全に乱れた。
その隙をつき、右の騎士の腹を蹴りつけて離すと、シグルスと私に挟まれて動けなくなった正面に騎士の腹を空いた右手の剣でブッ刺したのだ。
「ッ!?」
シグルスが冷血な人間だったとして邪魔な部下とともに私を串刺しにしていたらポックリ逝っちゃっていたところだけど、仲間思いな騎士団長のことだからそんなことはしないと思ったのでこうしました。
結果は大成功。
初っ端の連携を完全に乱し、早速1人倒すことができた。
しかも1番おっかない相手であるシグルスは、一騎討ち状態だった時と違い部下を傷つけることをためらったせいで私を殺せる機会を見事に振ってしまった。
こっちも両手痛めたし顎が外れそうな激痛に見舞われたけど、拾った勝機に比べればどうってことないさ。
すかさず左の騎士の顔に向けてまだまだ熱々な食いちぎった剣のかけらを飛ばす。
「熱ッ!?」
思わず剣を手放して顔を抑える騎士。
すかさずその腹を蹴りつけて手放した剣をパクると、正面の騎士を盾にしてシグルスの死角から盾にしている騎士ごと剣を腹に向けて突き刺した。
「ゴフッ!?」
「おのれ!」
シグルスはすんでのところで防いだが、騎士が肉の盾にされているため反撃ができない。
そしてその内臓をブッ刺された騎士は、もう悲鳴の代わりに血を吐いちゃった。
剣を突き刺した状態で蹴りつける。
シグルスは剣が二本が突き刺さった騎士を弾き飛ばすこともできず、傷を気遣い庇ってしまった。
まるで命を弄ぶように人間を容赦なく障害物に使う私に怒りの目を向けるが、重傷を負った騎士をかばったせいで剣を振ることができなかった。
一方、私はその隙に熱々の剣のかけらを顔にかけて視界を奪った騎士の喉に手を伸ばす。
そしてその喉をつかんで、そこから雷魔法を通して電気ショックを加えて殺害した。
「カハッ……!?」
声にならない悲鳴をあげて、電撃により絶命する騎士。
とはいえ外傷はないので生きていると勘違いさせられるかもしれない。
死体だとしても向こうの騎士たちは切りつけられなさそうだし、今度はこっちを盾にしよう。
「貴様、よくも!」
「よせ、むやみに斬りかかるな!」
というわけで、怒りで団長の命令を無視して斬りかかってきた騎士たちに、新しい盾を突き出す。
「うっ──ギャァ!?」
仲間がやられて怒る相手には、やられた仲間を盾にするのが1番効くのだ。
突きつけられた盾に動揺して動きが止まった騎士。その隙ができた顔の急所である目に死角から伸ばした人差し指を突き刺して、網膜から脳髄に向けて雷魔法を流して焼き殺した。
「ひっ!?」
いくら精鋭の騎士たちでも、こうも野蛮な戦い方されると怯む人はいるらしい。
すかさず脳髄焼き殺した死体から剣をパクり、怯んだ騎士の投げつけた。
「させるか!」
その剣を叩き落し、シグルスが騎士をかばう。
……いや、投げつけた剣を叩き落とすとか人間業じゃねえだろ。
私もビックリしたけど、野生で培った勘はシグルスが私から思わず目をそらしてしまうという隙ができたことをすかさず嗅ぎ取ってくれた。
野生に染まりすぎでしょ?
一騎討ちだったら魔族相手にする種族の壁を無視して正面から切り結べるシグルスに押されていた可能性もあるけど、仲間と連携して攻めようとしたのがむしろこっちが有利になり向こうにとっては障害になったね。
負けたら死ぬからどんな卑怯な手を使っても、相手の弱点を徹底的について殺しにかかる。
私の戦い方は魔物と森で生存競争により鍛えられたものだから、こういう野蛮なものなんです。
誇りと名誉で剣術を駆使した騎士どのには納得いかないと思うけど、私は負けて死ぬくらいならありもしない名誉はドブに捨てますから。
魔王軍の評価に関わったとしても、所詮末端のヒラ兵士だし全然気にしませんね。
雷魔法で体の機能を無理やり強化し、シグルスとの距離を一瞬で詰める。
シグルスの方もさすがというべきかすぐさま己に迫る敵に反応しこちらを向いたが、さすがにもう彼の剣でも間に合わない。
今度こそ、その目に指突っ込んで脳髄焼いてあげるよ。
シグルスの目を狙い手を伸ばす。
彼の振り回す剣より、私の方が速い。
──だけど、私の手は届かなかった。
シグルスの目を貫く直前に、野生の勘が危険信号を発してきた。
理由はわからないけど、シグルスにとどめを刺したら私の身に致命的な何かが起こる。そんな予感。
「──ッ!?」
野生で生きてきた私は、身の危険を感じたら獲物を討ち取る絶好の機会だろうと己の命の保全に全力を尽くす。
そうしないと生き残れなかったから、もう反射みたいなことになっているんだよね。
結果、私はシグルスへの攻撃を中止して全力でその場から飛び退いた。
直後、私がさっきまで立っていた場所に謎の爆発が発生した。
「いや、何事!?」
突然の事態に、騎士の1人が驚きの声を上げる。
いやそれ私のセリフでしょ!?
突っ込みそうになったけど、私はそれどころじゃなかった。
「えっ──ベヴッ!?」
だって、爆発地点の土けむりの中から緑色の髪に丈の長い白い服を着込んだ長身のオーガ(実際はれっきとした人間)が飛び出してきて、私を殴りつけてきたのだ。
何で魔族と人間の戦場にオーガが出てくるの!?
思わずそう突っ込みたくなった。
けど、その殴られた衝撃が凄まじく私は吹っ飛ばされた。
家族たちの悲鳴が聞こえる。
多分、予想外の乱入者に私が一撃でやられたことに戸惑い、急いで助けようとしてくれたのだろう。
もう訳わかりません……。
いきなり乱入してきた白オーガに殴られた私は、即座に拾って戦場から逃げ出してくれた家族たちの背中の上で、目に星を光らせて意識を手放してしまうのであった。
……この時何が起きたのか、シグルスにとどめを刺そうとしたところまでは明確に覚えていたけどそのあとは記憶が混乱して覚えていない。
ただし、私が意識を取り戻した時にはすでにこの戦いの決着がついてしまっていたのである。
リングル王国騎士団長の首を取り損ねるとは……変なのに乱入されてからの急展開で気絶させられたとはいえ、大きな手柄を逃してしまったね。残念。
独自設定です。
①原作では出陣していないシグルス軍団長に出ていただきました。
②ローミアを気絶させたのはローズにしてもらいました。その前哨としてオリ主が治癒パンチにより退場させられたことにしています。
ローズが勇者の危機に駆けつけられなかったのは2人の戦う最前線から遠い場所にいた為。そして本陣が危機に瀕しているという『正体不明の敵と交戦している勇者』よりも優先させなければならない事態が発生しているという独自設定にしました。
ベルハザルまでの大まかな展開は原作通りにしたいと考えています。