あれ? 勇者ってこういうのだっけ 作:みども
申し訳ありませんでした。
こちらが第1章の11話になります。
リングル王国が魔王軍の大規模な侵略を受けるのは、今回が初めてではない。
2年前にも魔王軍第1軍団が襲来し、両軍の間に大きな戦闘が繰り広げられたことがある。
本来人間側が団結して立ち向かうべき強大な相手である魔王軍に対し、一個軍団であったとはいえ当時は勇者もいなかったリングル王国が単独で撃退に成功したのはなぜか。
その大きな力となっていたのが、戦場の負傷兵を迅速に治療し即座に戦線復帰させることで魔王軍に唯一勝っていた数的優勢の戦況を維持させ続ける『救命団』と言われる、戦場における人命救助のエキスパートたちの存在である。
救命団は主に後方にて負傷兵の治療を専門に行う『灰服』、戦場にて負傷兵を確保し後方に届ける『黒服』、そして戦場に自ら赴きその場で負傷兵の治療を行う『白服』の3つに役割ごとに分かれている。
灰服と白服は人間のみに素質の現れる治癒系統の魔法を使用する人員であり、彼らは回復魔法とは比べ物にならない高い治癒効果と即効性を持つ治癒魔法を駆使して負傷兵の治療を行う。
黒服は回復魔法による延命措置を施し、並外れた身体能力で戦場を駆け抜け乱戦の中からすら負傷兵を確保して迅速に後方に届ける。
言うのは簡単だが、実際これほどの人材を育成するのは生半可なことではない。
というか、普通はやらない。
どれほどの乱戦の中でも負傷者を迅速に救助して即座に戦線に復帰させることを可能とするリングル王国の『救命団』という組織は、とある女傑による頭のイカれた常識はずれなやり方によって作り上げられた存在なのだ。
しかし、魔王軍もかつての侵攻の失敗から何も学ばなかったわけではない。
今回の侵攻に際し、魔王軍第3軍団は秘密兵器である魔族モンスター『バルジナク』を投入。
精強な王国軍ですら手も足も出ないこの怪物は最前線で猛威をふるい、王国軍の戦力を大いに削り取っていた。
加えて、最前線で猛威を振るう存在がもう1人。
今回の侵攻に際して第2軍団から一時的に出向してきた希少な闇系統の魔法を使う『黒騎士』である。
自らは決して傷つかず、対峙した敵を一方的に殺戮する正体不明の魔法を駆使し、こちらも同じく王国軍の戦力をそぎ落とし魔王軍の士気を上げる起爆剤として活躍していた。
中央でバルジナクと黒騎士が暴れるのが目立つが、両翼にも魔王軍には優れた将が存在している。
左翼では氷系統の魔法を駆使しする青眼の魔族『トライ・ヴェルデ』が救命団の治癒魔法では対処のしようがない凍結させた死体を量産し着実にその戦力を削る活躍を見せている。治療させることができずに兵力を削られる王国軍右翼は押し込まれつつあった。
そして右翼では戦車を爆走させる魔族が本陣に迫り、騎士団長シグルスが迎撃のために出陣するほどに押し込まれてしまっている。
さらにこの戦車兵を隠れ蓑として、手薄な本陣を狙い王国軍の後背を突く部隊があった。
率いる部隊長の紫髪の魔族『ハンナ・ローミア』は、黒騎士やヴェインら他の将ほどの派手な個の強さはないが、優れた戦略眼で魔王軍の勝機となる手を打ってくる知将として活躍している。
右翼は本陣が肉薄される危機的状況であり、予備兵力の大半がこちらの対応に回される厳しい戦況を招いている。
左翼は兵力が削られ劣勢となっている。
中央は黒騎士とバルジナクの猛威により大いに押し込まれている。
仮にリングル王国が前回の侵攻を撃退したことに胡座をかきまともな対策をしていなかったとすれば、救命団の活躍があったとしてもこの侵略を防ぐことは難しかっただろう。
だが、2年前の侵攻を辛くも退けたリングル王国は、来るべき魔王軍の侵攻を迎撃するべく新たな手を打っていたのである。
それが勇者の加護により桁外れの戦闘力を手にしてこの世界に降り立った異世界より召喚された2人の勇者、『犬上 鈴音』と『龍泉 一樹』であった。
彼らの活躍により崩壊しかけた中央の戦線は、逆に魔王軍の攻撃を跳ね返すほどの勢いを見せる。
だが、その活躍が無敵の闇魔法を駆使する『黒騎士』の目を引いてしまった。
両軍の中央の戦線を支える将が相対する。
勃発する2人の勇者たちと黒騎士の戦い。
だが、その決着はあっけないものであった。
「ば、バカな……!?」
「カズキ君、今だ!」
「うおおおオォォォ!」
受けた傷をそっくりそのまま相手に返す魔法。
当初勇者たちは黒騎士のこの魔法に苦戦していたが、
黒騎士の無敵の鎧のカラクリに気づいた犬上が『意識外の攻撃なら影響を受けない』という弱点に気づきついに黒騎士の背中に剣を突き立てることに成功したのである。
無敵の魔法を破られ驚愕する黒騎士に、龍泉がトドメを刺そうと剣を振り上げる。
勇者が黒騎士を倒す。
リングル王国の騎士たちがその光景に勝利を確信したその時。
「──なーんて、『反転』」
まるで背中から突き刺されている犬上の剣などないかのように、それまでの驚愕が一転して平然とした黒騎士の声が発せられる。
直後、『意識外からの攻撃』で突き刺したはずの犬上の剣がつけた傷が、そっくり彼女自身の胸に突き刺さった。
「なん、で……?」
膝をつく犬上。
穴の開いた胸からは絶え間なく血が流れ、今までの戦いの熱が嘘のように引いて行き体から力が抜けて行く。
そして、もう1人の勇者。
龍泉もまた、彼女の目の前で黒騎士の腕にその身を貫かれていた。
勝利目前だったのが一転、瀕死の重傷を負った2人の勇者。
戦いは、あっけなく黒騎士の勝利で決着がついた。
困惑する2人に、黒騎士が諭すというよりも小馬鹿にするような態度で説明する。
「『意識外からの攻撃』、とかさ……そもそも攻撃そのものがボクに通ると思っているその認識が間違っている。
この鎧は、ボクの魔力でできたものなんだよ。
本体であるボクには一切攻撃を通さない障壁のようなもので、反撃だって任意でやっているから不意打ちとか意味ないんだよね」
「そんなの……」
──反則じゃないか。
犬上の言葉は、最後まで紡がれることがなかった。
黒騎士が龍泉を降ろすとともに、犬上も地面に倒れる。
たやすく自分たちの希望を打ち砕かれた周囲の王国軍の兵士たちは驚愕し、敵の勇者を見事打ち倒した黒騎士の勝利に魔王軍の士気は大いに盛り上がった。
中央の戦いはもはや決したと言っても過言ではない。
魔王軍の猛攻に、王国軍が崩れる。
もはや頼みの綱の勇者を倒された王国軍の中央には、戦線を維持する力も残されていない。
「…………」
盛り上がる魔王軍に対し、その勝利を導く存在となる黒騎士は反面全くと言っていいほど盛り上がっていない。
静かに戦場を見据えている。
まるで、期待はずれの敵に寂しさを感じているかのように。
この重傷では勇者も立ち上がれないだろう。
まだかろうじて息はあるようだが、胸を貫かれたのだ。致命傷である。
「……終わらせるか」
黒騎士は犬上にとどめを刺そうと、剣を振り上げた。
深手を負った勇者は立ち上がれない。
救命団の黒服が駆けつけたとしても、持たないだろう。
仮にこの危機から勇者を救い出すとすれば、その場で重傷すらも癒す魔法を駆使する『白服』の団員しかいない。
だが、白服を着用する救命団の団長は王国軍の左翼にいる。全力で駆けようとも、黒騎士がトドメを刺すどころか勇者が傷で命を落とすまでのリミットにも間に合う距離ではない。
「楽しかったよ。少しだけ、ね」
死の間際。
犬上が、か細い声で言葉を出す。
それは、2人の勇者以外にももう1人。
事故で召喚に巻き込んでしまい、この世界にともにきてしまった大事な後輩への謝罪であった。
「……すま、ない……う、さと……くん」
「させるかあああぁぁぁっ!」
黒騎士が剣を振り下ろすその時。
喧騒の中から飛んできたひときわ大きな声。
その主が、『救命団の白服』を靡かせて黒騎士を思いっきり殴り飛ばした。
それは、この戦場にもう1人存在する救命団の『白服』を纏う少年。
犬上がか細い声でその名を呼んだ、召喚に不幸にも巻き込まれた上にさらなる不幸として救命団に入れさせられた白オーガ2号少年、『兎里 健』であった。