あれ? 勇者ってこういうのだっけ   作:みども

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第14話

 魔王軍の主力を担う将。

 今回の侵攻のために第2軍団から出向してきた『黒騎士』が撃破されしかも捕縛されたという報告は、魔王軍の本陣をはじめとした各所に渡ることとなった。

 

 

「何!? 奴が……黒騎士が捕まっただと!?」

 

 

 配下の報告を聞いた直後、絶対に負けるはずがないと思っていた黒騎士の敗北が信じられなかったアーミラの上げた驚愕の声が本陣に響き渡った。

 その上、勇者でもなくローズでもない、よりにもよってローズと同じようなことをする白い救命団服を着込んだ黒髪の少年によるものであるという報告に、もはや開いた口が塞がらなくなった。

 

 

「あんなのが、もう1人……だと!? くそッ!」

 

 

 想定外の白オーガ2号爆誕!新たな救命団員の登場は、アーミラにこの戦いの趨勢が決してしまったことを察知させる材料となった。

 勇者の復帰に加え、士気の起爆剤である黒騎士の捕縛。

 中央の戦線はもうくつがえせる状況ではなくなり、魔王軍の敗走が始まっている。

 

 そして王国軍にあと一歩まで迫っていたローミア率いる部隊も特攻要員であった戦車兵をシグルスに足止めされた上に、本陣の窮地を察知して駆けつけたローズにコテンパンに蹴散らされてしまい多くが戦闘不能に追い込まれた。部隊の再建ももはや不可能な段階となっている。

 王国軍の片翼を壊滅させたヴェルデの部隊が王国軍の中央と本陣の側面をつくことで撤退を支援し損耗は抑えられているが、彼1人の奮戦に頼れる状況ではない。

 ここは軍団長である自らが出るという手もあったが、勇者、ローズ、シグルス、そして黒騎士をとらえたという白服の救命団員。敵の脅威となる大きな個の戦力が軒並み健在である。

 この状況で本陣を開けてしまえば、間違えなくいずれかの刃が届くこととなり陥落するだろう。

 そうなれば今度こそ決定的な敗北につながる。

 残された最善の道は、ヴェルデの撤退支援を利用しこちらの戦力を温存したまま相手に追撃を許さない()退()だった。

 

 敬愛する主君、魔王に先鋒を任されながらの敗北。

 自らの失態ぶりに悔しさから歯噛みするものの、冷静さは見失うことなくアーミラは撤退の選択をすることとなる。

 

 兵士はヴェルデがうまく下げるだろう。

 残るはバルジナクだ。

 この兵器は魔物博士であるヒュルルクが操作を担当している。

 本陣で黒騎士捕縛の報告を聞きながらもバルジナクを暴れさせているヒュルルクに、撤退を命令する。

 

 

「ヒュルルク、バルジナクを下げろ。撤退だ」

「本気かな?」

 

 

 バルジナクの強さに信頼を置いているヒュルルクはまだペットに殺戮さ(あそば)せたいのか、敗北を宣言するアーミラに問いかける。

 だが、アーミラのシグルスもいるという言葉に、戦がもう詰みかけていることを知る。

 学者肌のヒュルルクといえど、王国最強の剣士の名は聞いている。それをまだ温存している王国軍相手にこれ以上の戦いは無謀だということくらいは、素人でも察することができた。

 

 このまま戦場に取り残されれば、いくらバルジナクといえど討伐されるだろう。

 それはヒュルルクの本意ではない。

 だが、中央の魔王軍が黒騎士捕縛の報により戦線の崩壊が早かったことと、ヴェルデが兵器の撤退支援までは勤めなかったこと、そして何より勇者が健在であることが災いし、バルジナクは逃げ遅れた。

 

 

「あ──勇者だ」

 

 

 バルジナクの目を通して、巨大な蛇の魔造モンスターに立ち向かってくる2人の勇者の勇姿を目撃する。

 それが最後。

 バルジナクは2人の勇者に見事に討伐され、ここに魔王軍は主戦力の将と兵器を失い敗北を喫することとなった。

 

 そしてリングル王国軍だが、救命団の活躍により被害を抑えることはできたとはいえその損害は決して小さいものではない。

 いざ戦闘が終わってみると、戦闘可能な兵力はいつの間にか逆転しており、とてもじゃないが余力の不足する王国軍に魔王軍を追撃する力は残っていなかった。

 

 派手に損害を受けたとはいえ救命団の活躍で死傷者の数は戦の規模と苦戦ぶりの割りに少なくて済んだ中央部隊は満身創痍だが、それ以上の損害を地味に被っていたのが王国軍の右翼であった。

 氷系統の魔法を駆使する『青眼』の率いる部隊と戦ったこの王国軍は、何より青眼自身の仕掛けてきた氷魔法の攻撃によって治癒魔法による治療ができない氷の棺に閉じ込められる死体を量産させられたことにより、戦死者の数が他の部隊に比べ桁違いに多かった。

 またこの青眼の率いる部隊は戦線の崩れた他の魔王軍の撤退も相対する王国軍の側面を付く形で支援し、魔王軍の被害を抑える役割も担った。

 リングル王国軍は勝利こそしたものの、それもかろうじて撃退が成功したという状況であった。

 

 だが、勝利には違いない。

 魔王軍を見事退けた英雄たちは、各々この戦いを通じて多くのものを学び、一皮むけた存在となって凱旋を果たすこととなる。

 

 そして、今回の侵攻に敗北した魔王軍第3軍団だが。

 軍団長のアーミラは敗戦の責任を取り自害も覚悟していたが、魔王は軍団長の地位を剥奪し第2軍団長補佐の任に与えることで降格処分だけという寛大な処置を与えた。

 第3軍団の生き残った各部隊長たちも罰が与えられたのはアーミラだけとなり、多くのものが現状維持の温情ある処置となる。

 そして、アーミラの降格に伴い空席となった第3軍団長の席を継ぐ者を選定することとなった。

 

 今回の戦いで敗北したとはいえ功績を挙げる活躍をした者、その中で最も大きな活躍をした者が第3軍団長候補となる。

 推挙されたのは、敵本陣への奇襲を成功させ勝利にあと一歩のところまで至った『ハンナ・ローミア』と、敵に大損害を与え魔王軍の撤退を支援した『トライ・ヴェルデ』の2名である。

 しかし、ヴェルデの方は軍団長候補を辞退。

 結果、魔王軍第3軍団長にはローミアがつくこととなった。

 

 以上が、魔王軍側の戦いの顛末である。

 しかし、この侵攻戦はあくまで前哨戦。

 これから魔王軍は今度こそリングル王国を攻め滅ぼすべく、二年前、そして今回とは比べ物にならない大規模な侵略戦争をするための準備に取り掛かることとなる。




これにて第1章『第二次リングル王国侵攻戦』は終了となります。
拙作を読んでいただき、ありがとうございました。

第2章『邪竜の再臨〜救命団副長ウサト・ケン』は11月から投稿予定です。
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