あれ? 勇者ってこういうのだっけ 作:みども
第2章『邪竜再臨』です。
第1話
リングル王国侵攻戦から暫く。
魔王軍に属している間住処にしている、魔族の首都ともいうべき魔王都市ベルハザルの地下のスラム街の一角にて、アーミラ軍団長の解任と新軍団長に陰険なあのローミア隊長が就任したという話を聞きました。
どうも皆さんこんにちは。
地下なので現在の正確な時刻はわかりませんが、とりあえず『こんにちは』の時間帯だと仮定しました。前回の戦では開戦早々に戦車を壊された、というか自らの手で壊した『戦車兵』こと、無名の魔族です。
名前ないんで『
ここは魔王領の首都と言える魔王の居城のある都市ベルハザルの地下にある、貧民街の一角です。
魔族は貧しい土地に縛られている種族なので。貧乏人とか捨て子だったとか犯罪者のような表に出れない輩だとか、そういった真っ当から踏み外れたような者たちが集まる場所です。
なんでこんなところで寝泊まりしているかって?
魔王軍に参加したのだけど兵舎の借賃が高すぎたこと、それ以前に信用できないものを都市に入れられないということでしたので、魔王軍に属している間は持ち主を殺せば好きな穴倉で眠ることができるし借賃も必要ないこっちで寝泊まりすることにしていたからです。
ちなみに普段は森で好きに過ごしてもらっている家族たちの為に、この地下の拠点とは別に都市の外の貧民街にももう一個拠点を作っています。
前回の戦いでシグルスという大物の首を狙える機会を得たけど、結局討ち取れませんでした。
末端の雇われ兵士なので薄給なんだよなぁ。
ちなみに敵将の首とればボーナス出るのは本当のことだった。敗北したとはいえ、大活躍したローミア隊長とヴェルデ隊長には褒賞が授与されたらしい。
ローミア隊長が受け取ったのには文句垂れたかったですけど。
まあ、あの人が何しようが何言おうが、私に危害が及ばなければ勝手にすればいい。
それよりもこの褒賞だけど、たとえ私のような募兵に集った非正規兵でも手柄を上げれば受け取れるそうだ。
受け取った傭兵もいたし、本当なんでしょう。
羨ましいな〜。
でもまあ、兵舎の借賃抜いた上でだけど日雇い分の給料でも家族たちに久しぶりに腹いっぱい食べられる食料を買い込み、都市の外の住処の建物を建て直して快適なものにするくらいの収入はありました。
命かけて戦場に立った分くらいの見返りはあったということかな。
魔王軍は当然侵略を諦めていないだろうし、次の侵攻の準備が整う頃にはまた募兵がかかるだろうから、そうしたらまた参加するつもりです。
危うく死にかけたし、次は部隊長の命令があっても無謀な突撃には参加しないようにしよう。
あの件について私は許すつもりはないです。腹いせに故グレッド隊長の家に強盗で押し入ろうかとも思ったけど、溜飲下げるだけで労力に見合わないし収入もどれくらいになるかわからないし、何より犯罪者ともなれば次の募兵に参加できない可能性が高くなるので止めた。
スラムはまあ、治安は無い。治安最悪というか、そもそも無い。
文字どおりの無法地帯。
当たり前といえば当たり前かな。
上層の都市の住民からは『ゴミ溜め』とか呼ばれており、そこで生きる私たちはゴミを漁っているという意味で『寄生虫』とか言われている。
ここの住人が蔑まれてもゴミ漁り止められないのは生きるためだから。他人の評価と自分の命、どっちを取るかなんて生物なら迷うまでもない。
ゴミ漁りは無法地帯の弱者、すなわち子供とかがしていることで、大人たちはそういった弱者が飢えに苦しみながら必死に集めたものを力で分捕って生活している。
どっちにしろカツカツだけどね。
そして私は大人から見ればまだその搾取される側の子供だから、それも珍しい住処持ちで服も靴も所有しているからスラムではよく絡まれる。
むしろそういう輩こそ訳ありで手を出すべきではないっていう危険を嗅ぎ分ける力がこのスラムでは必要な能力の1つなんだけど、無学な貧民らしくまともな判断能力も無いアホも多いのでやっぱり絡まれることは多い。
まあ、魔物相手がほとんどだけど私もそういうアホをしでかした経験ありますから。一回や二回で片付けられない回数だし、返り討ちにされて命からがら逃げたこともある。1番記憶に残っているものだと、腹が減りすぎたせいで明らかに喧嘩売っちゃいけない巨大ムカデに立ち向かった事かな。
そして今日も、やっぱりというか歩いていただけで絡まれた。
いきなり乱暴に肩を掴まれて、強制的にその場に止められる。
「おい、おま──ギャアッ!?」
シカトしてもしつこいだろうし、危険があるような感じもしなかったから、電撃を肩から流して即死させた。
魔族といえど、対策無しに電撃を食らえば死ぬ。
それに私の場合、自分の魔法だから当然その流れ方とかも制御できるし、人体の構造くらいは把握しているから対象を見ることなく脳髄狙い撃ちするのはわけない。最小限の魔力で殺すことが可能。
だから見た目は電気の音がしたと思ったら肩つかんだ奴がいきなり倒れて死んだっていう、正しく事象を認識できなければ混乱するだろう出来事となる。
「なっ、何しやがったテメエ!」
「チッ! 魔法か!」
今回は徒党を組んでいたらしい。
これもスラムじゃよく見かける。徒党を組むのは得られる収益を独り占めできなくなるけど、多くの収益を略奪という手段で集めるのには効率的だからね。裏切って後ろから刺してしまえば独り占めも可能だし。
私はあまり徒党を組むことしなかったけど。裏切られるリスクもあるし、徒党を組んでも盾の役目も果たせない雑魚じゃ足引っ張られるだけだし。
振り向くと、粗末な服と粗末な刃物で武装した魔族たちが立っていた。
こちらが魔法を使ったことに驚いている様子を見るに、魔法は知っているが戦闘に使えるほどに鍛えていないようだ。ナイフで武装していることからも推測できる。
まあ、魔法頼みで戦うスラムの住人って、無駄な持ち物はさっさと金や食べ物に変えて身軽にしておくからね。どうせ魔法使ったほうが強いなら、お荷物をわざわざ携帯する必要ないし。粗末でも不足しているなら魔法は使えないのだろう。
魔法使う相手から逃げないってことは、対応できる手段を把握しているかそもそも魔法で人を殺せる輩とやりあった経験が少ないかのどちらか。
大抵の無力な連中は魔法を見せれば逃げ出す。
もしくは敵わないと知っていても襲う必要があるとか、かな? 腹が減って限界とか。
でもそこまで飢えるくらいなら仲間内で殺し合いして死体を貪るとかすると思うけど。そういう輩って大抵単独行動しているしね。
魔族の肉とか臓器とかって、魔物よりもまだマシなもの食っているおかげがずっとまともな味だったし。共食いに抵抗はないでしょ。
……ん?共食いする発想に至るのって私だけ?
いやいやまさかそんな──
「クソ!」「死ねえ!」
1人でチンピラどもを考察していたら、ナイフで切りかかってきた。
栄養失調しているがたいじゃない。飢えではないか。
相手の魔法も詳しく見極めようとせずに様子見ではなくガチで襲いかかってくるあたり、魔法を使う相手の対抗手段に精通しているとかいうわけでもなさそう。
あ、こいつら正真正銘の無知なアホか。
結論に達した以上、こっちの対応も決まる。
シグルスのとは月とスッポンな雑に振り回される刃物を躱し、その手に触れて脳髄を焼く電撃を流す。
これで1人死亡。
一瞬のことで断末魔すら上がらなかった。
そしてその死体を仲間の振り回すナイフの盾にする。
「なっ!? てめえ、ふざけんじゃ──グギャッ!?」
そして死体の盾からナイフを抜こうと悪態つきながらその死体に触ったところを狙ってもう一発電撃を流して、死体の盾を経由しもう1人のチンピラの脳髄に電撃を届かせて焼き殺した。
体が痙攣し一瞬硬直してから、力が抜けた死体が崩れる。
チンピラが死ぬと、周囲のハイエナの目をした連中も手を出すのはまずいと判断したらしく、変なのが出てくることはなかった。
さて、チンピラの死体だけど、こいつらには収入源があったのか服を着て粗末だけど靴も履いている。
刃こぼれしたナイフはいらないけど、布と皮は使えるので、服と靴は貰います。
ナイフを捨てると、貴重な金属を手に入れようと目を凝らしていた魔族たちがナイフに集った。
別に私はナイフいらないし、あれは放置する。
次に死体だが、これは食料になるし狩りの材料にもなるので持ち帰りたいところ。
ただし、ガタイのいい男3人は重いし、戦の給金ももらっているので今すぐ魔物狩りしなきゃならないほどはカツカツというわけじゃない。どうせ腐るだけだしなぁ……。
喉乾いたところだし、
というわけで、3人分の服と靴と死体一つという収入を持って、地下を後にしました。
魔物をおびき寄せる餌も手に入ったので、森に行くか。
その光景を見ていた者たちは、戦慄していた。
男たちに絡まれた見た目は年端もいかぬ魔族。
まともな服を着ていたので鼻の効く者からすればカモどころか藪に潜む蛇だと感じるその者に、無知な男たちが絡んだ。その結果魔法で返り討ちにされ全員殺されたという、スラムでは珍しくもない抗争の光景の一つだった。
勝者であるその者は死体を盾に使ったり、何をしたのかもわからない魔法で全員をほぼ出血もさせずに殺すというスラムの住人たちにも驚く光景を見せつけたが。
しかし、そこまでは驚くような光景ではあるが、この界隈ではありえないことではないから別にいい。男たちが死んだのも自業自得だ。
だが、勝者が去ってから残った男の死体よりいろいろと奪おうと画策していた者たちは、そいつの行動が見せた次の光景に戦慄することとなる。
金属には興味がないらしく、ナイフは捨てられる。
そして服と靴は剥ぎ取り、さらに何に使うのか盾にしていた死体を担ぎあげる。
ここまでは別にいい。戦利品を選別するのは勝者の特権だ。
だが、次の光景は彼らも今まで見たこともないものだった。
空いている方の手で最初に殺した死体を持ち上げると、その首に噛みつき残っている血を飲み始めたのだ。
日夜生きることに必死で犯罪の蔓延るスラムの住民たちですら、その猟奇的な光景には腰を抜かして恐怖している。
当人は周囲からどんな目を向けられているのかにも気づかずに、単なる水分補給をするような気楽な表情で死体から血をあらかた飲むと、それを道端に捨てて死体一つを担いで去って行った。
死体でも、髪の毛などの売れるのもはある。
だが、血を吸い尽くされた死体が転がるそれに群がるハイエナは、少なくとも今の光景を目にした者たちの中にはいなかった。
どれほど治安の悪い世界であっても、流石に共食いなどというおぞましい行為をする魔族はいない。
同胞の亡骸を辱める行いをすることはあっても、どれほど飢えがひどくても、それを貪るような真似はしない。しないはずだ。普通はできない。普通でなくてもできないだろう。
だから、狂人でもやらないような所業を平然と行なったその魔族に、スラムの住民たちですら恐怖した。
その日を境に、その狂者に絡もうとする猛者の姿はいなくなるのであった。