あれ? 勇者ってこういうのだっけ   作:みども

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第3話

「ここに来ると聞いたので。あなたと話したいことがあってきました」

 

 

 私はこの方と話すことなど何もない。

 何もないから会うこともないと思っていた。

 だいたい、一時的に指揮下に入ったとはいえ私が配属されていたのはグレッド隊長の部隊。彼が戦死したせいで指揮官不在となり暫定的に彼女の指揮下に入って戦ったに過ぎず、むしろ単なる雇われ末端兵士の私と今や軍団長へ出世を果たしたローミア軍団長との接点はそれしかない。

 

 そもそも貧民街を住処にしている『寄生虫』と呼ばれている立場の私に、わざわざこんな場所まで自らで歩いてきて顔をあわせるような理由はないでしょ、ローミア軍団長。

 だから帰ってください。

 ごみ捨て場ですよ、ここ。表の陽の当たる世界に住まう魔族が来る場所じゃないですよ。

 

 そんな私の心の叫び声は当然届かず、ローミア軍団長はここに私に会いにきたという旨を伝えた。

 どこから私がここに来ること聞いたのかな? 

 ……陰険だし、闇ルートの魔族たちと顔見知りだとしてもおかしくないなローミア軍団長は。

 

 ここは逃げたかったけど、ベルハザルの拠点は過ごしやすいし次の戦にも参加したいと思っているので、魔王軍の軍団長殿から逃げるという選択はとれなかった。

 闇商人さんはこの話し合いの場を提供しただけであり、こちらはローミア軍団長に話はなさそう。

 そこは提供しないでよ、追い返してよ……。

 

 逃げ道をふさがれた私は、致し方なく闇商人さんに虎の死体を運んでもらうよう頼んでから、用意されたローミア軍団長の対面の椅子に座る。

 すかさず逃すまいと周囲を兵士が囲んできました。

 家族たちが心配そうに見ているけど、いきなり殺されたりすることはないと思うので安心するようにハンドサインを送る。

 私のハンドサインが家族たちに向けられていたことに兵士たちが警戒するけど、しぶしぶおとなしくなった家族たちの姿に危害を加える意図はなかったことを察して、剣の柄にかけた手を離して警戒を解いた。

 

 さて、ひとまず一触即発の雰囲気はなくなったわけだけど……本当にこの軍団長何しにきたの? 

 会いたくないというのは私の本心だけど、それ以前にこの状況にわからないことがあります。

 そもそも、この方が私に会いに来る理由というのにも心当たりがなかった。

 ……あと、『戦車兵』と呼ばれても問題ないけど、さすがに長いと思いますので。略称の中でも気に入っているのを伝えます。

 

 

「『チャラいだー』でいいですよ。長いでしょうから」

「……どういう意味かはわかりませんけど、なんとなくその呼び方は抵抗があるので『ライダー』と呼ぶことにします」

 

 

 何故に? 

 まあ、別にライダー呼ばわりでも構いませんけど。

 名前教えろとか言われても……親に捨てられたしなぁ。名前なくても森なら生きてこられたし、戦車兵っていう呼称もついたから今更いらないです。

 けど、こういうときに名乗れとか言われたら不便ですね。前世のならあるけどこっちで名乗ったことないし、正確には今世の私のものではないし、魔族の名前としては不自然すぎるから名乗ってもいいものとは思えないし、今世では名前が無いから答えられないので。

 

 闇商人さんの護衛が入れてくれた茶を優雅に一口飲んでから、ローミア軍団長がまじまじとこっちを見てきた。

 ……なに、その珍獣を見るような目は? おかしなところあるのだろうか? 

 野生育ち故にあってもおかしくないですね。戦の時にはどうせ汚くなるし、装備の支給品だったしで、身だしなみについて突っ込まれるようなことはなかった。結局ベルハザルきてもスラムに住処構えたから文明人とまともに接触してないし、こっちの世界のまともな装飾文化を知らないです。

 おかしな点があって珍獣を見るような目を向けられてもおかしくはない。

 

 するとカップを置いたローミア軍団長が、今までの仮面の上から語るような口調ではなく何となくだけど本心から出てきたように聞こえる声で、こう言ってきた。

 

 

「そういえば、兜で隠れていたので気づかなかったですが……あなた、女性なのですね」

「?」

 

 

 あれ? 言ってなかったか……言ってなかったね。

 日雇い兵士だし。兜も口しか見えないタイプのものだったし。長身で寸胴だから支給された男用の鎧を着れたし。というか男用の方じゃなければ着れなかったし。魔物乗りこなしている姿を見れば、男性と誤認されていたとしもおかしくはない。

 でも、それを言うならローミア軍団長も側近たちも女性じゃないですか。

 それにこのご時世、女性兵士なんて魔王軍じゃ珍しくもない。

 

 

「驚くようなことですか?」

「男用の鎧を着ていたはずなのに実は女性だったと知れば驚きます」

「小さすぎて着れなかったからです」

「それに、魔物は基本的に己より劣るものには従わないことが多いですから」

「……飛竜乗りにも女性兵士がいたと記憶しているのですが」

「あれは長い時間を共に過ごして信頼関係を築くことにより乗り手として認められているのです。単純な強さで繋がれている関係ではありません」

「意外と知能が高いんですね、ワイバーンって」

 

 

 私の家族たちも似たようなものだけど。

 思わぬところでローミア軍団長から他の魔物に騎乗するものたちの事情を聞くことができた。

 ……どうでもいいけど。

 

 私が女の身で魔王軍に参加していたことよりも、単純に魔物を乗りこなして戦っていた私が女だったことに驚いたというだけらしい。

 特に深く追求したりせず、ローミア軍団長はすぐに仮面をかぶりなおして元の声色に戻った。

 

 

「さて、前置きはこのくらいでいいですね」

あなたには関わりたくないのですが……

「何か言いましたか?」

「いえ何も」

 

 

 つぶやき溢れちゃったよ。そして拾われちゃったよ。

 内容までは聞き取られなかったようだけど。

 ……陰険な上に地獄耳ときましたか。

 

 でも、本当にこの軍団長は何の用で私を訪ねてきたのか。

 本題に入るみたいだけど、私にはやはりわからない。

 

 ローミア軍団長の方はまたひとくちお茶を飲み込むと、陰険な方にしては遠回りとか抜きにここを──というか私を訪ねてきた理由を口にした。

 

 

「単刀直入に言います。あなた、魔王軍に正式加入するつもりはありませんか?」

「……え?」

 

 

 まさかの正規軍へのスカウトである。

 ……あれ? でも募集する兵士と違って魔王軍の正規兵ってちゃんとした身分とか必要な役職だったのでは? 

 少なくとも『寄生虫』呼ばわりされているスラムの住民にはなれないもののはず。

 

 疑問を頭に浮かべる私に対して、ローミア軍団長が陰険ぶりも見えるとってつけたような微笑みを浮かべた。

 その笑顔むしろ怖いのですが。

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